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〜気が付かなかった死角?

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 「こんにちは、オジさん!」

 「やぁ、シンちゃんじゃないか!

 久しぶりだね?」

 「オジさんもお元気そうでしました。」


 ココはカオルの家、

 【柏木鉄工】

 カオルのお爺さんの代から続く、小さな町工場だ。

 長年、細かい金属製の部品を、大きな工場から注文されて作っている。

 取引先に自動車会社や医療機器の会社など、複数の会社と契約している、下町によくある町工場だ。

 「ちょっと近くまで来たので、覗きに来てしまいました。」

 嘘だけど。


 「まだ爺さんが生きていた頃は良く工場にも遊びに来てくれていたのに、最近はサッパリ来てくれないから、寂しかったよ。」


 …そうなんだ?

 カオルと知り合いったのは俺の記憶では小学校に入学してからだけど、その頃にはもうお祖父さんは亡くなっていた様な…


 やはり若干、前の世界とは違うのかな?


 「…えっと、工場とはいえ女の子の家に遊びに来るのはちょっと恥ずかしくて、

 でも、コレからはちょくちょく来ます!」


 そう、ある事が心配だから。


 「ん、そうか…

 まぁ男の子ならそんなモンだな?

 いや、聞いてるよ、

 その、薫と付き合う事になったんだって… 嬉しいね!

 って、事はだ、

 シンちゃんはもう、ウチの息子みたいなモンだろ!」



 ……えっ?



 「えっ、えっと、ソレってつまり?」


 「なんだい、薫を嫁にもらってくれるんじゃないのかい?」
 
 「き、気が早いですよ⁈」


 「ハハハ、半分冗談だから、そうビックリしなさんな!」


 半分本気だろ、ソレ⁈


 まぁ、そうなったら良いけど。


 その為にも、確認しないと!


 「お邪魔で無かったら、中を覗いても?」


 「シンちゃんなら大歓迎だ、どうぞ見てってくれよ!」
 


 

 なんの部品だろう、

 ボルトだっけ、ナットだっけ?

 出来上がったばかりの小さな銀色の部品がピッカピカに光って、本物の銀製品の様だ?

 つい一つ手に取って、しみじみ眺めている。

 「ピッカピカで綺麗だ、何の部品か、サッパリわからないけど?」



 「ソレはね、医療機器の部品なんですよ。」


 「あ、すいません、綺麗だったんでつい手にしてしまって!」


 声をかけてきたのは、この工場こうばで主任を任されている人だ。


 「こういうのって、何か特許とか有るんですか?

 加工方法とか?」

 「産業財産権の事かな?

 ウチの社長はそういうのあまり気にしないみたいで…」


 「オイオイ、俺の悪口か?

 未来の社長に告げ口とは、感心しないなぁ?」


 やっぱり本気だな?


 「ち、違いますよ!

 実は最近読んだ本で、大きな会社に実用権だか、商標権を横取りされた町工場が新しい技術を開発して、苦労の末に宇宙船の部品を作った話しが有って…」

 「何だいそれ?」


 「ほら社長!

 若社長もこうして心配しているんですよ!

 今からでも遅くありません!

 申請するべきです!」


 「あ、あの俺、何か余計な事、言いましたか?」

 勿論、ワザと言ったんだ。


 今回の「ミッション」だから。

 今言った事が本当に起こるかも知れない、特に前半がだ!

 前の世界では、その事でこの工場はある企業から無理難題をふっかけられる、

 結果、子会社いや、もっと酷いことになる…かも知れない?

 その所為でカオルは…


 「…そうだな、未来の社長殿の意見は聞かないとな!」

 「お、オジさん!」


 やっぱり本気か?


 とにかく、オジさんがその気になってくれた、今日はこのくらいで良い。

 変にせっついて不審がられてはいけないしな。




 「君がシン君だね、僕はココで主任をしている伊東いとうです。

 カオルちゃんと付き合ってるんだよね?」


 帰ろうしたら先程の人に呼び止められた。

 「まさかソレ、工場のヒト、みんな知ってるんですか?」


 「ちょっと前にカオルちゃん、メガネからコンタクトにしたでしょ?

 社長がアレで勘付いたみたいでね、問い詰めたみたいだよ?

 相手が君だって聞いて安心したみたいだけどね!」

 

 「お兄ちゃん、お姉ちゃんをよろしくネ!」


 「えっ、誰?」


 「おや、珍しい?

 コッチ工場に来ると危ないよ、ミヤちゃん。」


 「えっ、ミヤ?」


 俺の足元に近づいてきたのは、綺麗な三毛猫だった!


 「本当珍しいな、ココは油臭くて今までほとんど来た事が無いのに?」


 「あ、じゃ俺がアッチ母屋に連れて行きますよ、

 おいで、ミヤちゃん。」

 「うんにゃぁお兄ちゃんにゃあ~ん!」






 やはり他の猫の言葉も分かる様になっていたんだ!


 「あのねお兄ちゃん、さっきミナコちゃんに会ったよ!

 今日も抱っこしてもらったよ!」


 「そうなんだ、仲良くしてあげてよ。」


 「あのね、町中の猫たちがお兄ちゃんの味方だからね、ミナコちゃんの事は任せてよ!」

 マロンと違って、ふわっとして柔らかくて軽い。

 ネコって普段マロンをいじっていたから、柔らかいのは知っていたけど、
 ミヤちゃんを抱っこして分かった事が有る!

 ネコも女の子の方がスゲー柔らかいのな⁈
 

 「うん、ありがとう。」


 どうやら、化け猫爺さんは約束を守ってくれてる様だ。

 妹の通学路に子分の猫が常に見守ってくれている様だ。

 まぁベビーラーメ〇、ワンカートン買ってみたんだ?

 妹にあげたら喜んでくれたが、まさかソレが自分のボディーガード代の返礼品とは思うまい?

 ん、返礼品とは違うかな?



 
 家に帰る途中で、妹の通学路を確認してみた。

 正直、ココに来るのは辛い。


 ココで美名子は事故に遭ったのだから…


 あの日、学校からの帰りに妹は赤信号で横断歩道に飛び出してしまい、車にぶつかって重症を負った。

 その翌日、入院先の病院で意識が戻る事なく亡くなったのだ。


 その時、何かあったのだ⁈

 一緒にいた友達の話しでは、何かに驚いて元来た道を駆け戻ったと言っていた?

 その場所、元の世界と変わらない様に見えるが…

一体妹は何を見てそんなに驚いたのだ?


 近くに公園が有るな、ココも元の世界と同じだが…?



 入って見るか?


 公園と言っても、公衆トイレとベンチが一つあるだけの何にも無い、寂しい場所だ。

 地域の「緊急避難場所」として使われていて、早朝はお年寄りがラジオ体操とかの会場にも使っているハズだけど…

 「ココも、確か…」


 そう、元の世界では殺された猫の遺体が無惨な姿で放置されていた場所の一つだった?


 もしかして…


 
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