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第3章 大賢者の遺産

第41話 結婚間際

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その日の内に、結婚の食事会は3日後にすることに決まった。

エルマイスター家にラナと一緒に行き、セバスさんに相談すると、大げさにやる訳にいかないので、あっさりとハロルド様とレベッカ夫人も了承してくれたのだ。

それなら、もっと早くても良いと思ったのだが、色々な事がありギリギリ準備が間に合うぐらいになった。

まずは子供たちの住まいについて盛大に揉めることになる。

シア達は仮住居に住むと言い出し、ラナが説得しても納得しなかったようである。

それに同調したのがシャルである。
シャルはこれ以上我が儘を言うのは申し訳ないと言って、頑なにシア達と一緒に住むと言い張った。ミュウとキティは私と住むと言い出したが、結局はシア達と一緒に住むことになった。

ラナの話では、私達夫婦が仲良くする姿を見たくないと言ったらしい。

そして、なんと翌日には仮住居に引っ越しまで済ませてしまったのである。

そうなるとメアベルさんも待機所から引っ越して、結婚するまでラナも使用人宿舎の部屋で過ごすことになった。

すると、空いた待機所に護衛連中が住むと言い出して、それなら女性宿舎に引っ越せば良いと言ったのだが、それはまた揉める原因になると言って、待機所の2階にクレアも引っ越してきたのである。

またメイドが2名と料理人が2名、屋敷の専属として引っ越してきた。

メイドはラナが育てた15歳の二人で、料理人は同じ15歳の女の子と、42歳の女性であった。

結婚の当日の昼に、私はエルマイスター家の人々に見送られて、屋敷に引っ越した。特に荷物があるわけではなかったが、お世話になった人たちに挨拶して、見送って貰うのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


ついに待ちに待った日がやって来たと思い、クレアと護衛の人達と一緒に大賢者区画に移動する。

待機所に到着するとカルアさんが話しかけてくる。

「我々はここで待機しています。クレア隊長、…クレア夫人をよろしくお願いします」

クレアはあたふたと真っ赤になっている。

「本当にみんなは食事会に来ないのかい?」

「はい、さすがにハロルド様と一緒に食事は遠慮させて下さい。それに私達は護衛なので、この区画の巡回をする予定です」

カルアさん達護衛も食事会に誘ったのだが、頑なに遠慮して断られてしまったのだ。

「そうですか。……食事を運ばせますので、夜はゆっくりと休んでくださいよ」

「「「はっ」」」

申し訳ないと思いながら、待機所を後にするのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


仮住居に入るとキティが跳びついて来て、ミュウも抱きついて来る。カティが妹に先にやられたと思ったのか悔しそうにしている。

1階のカウンター周辺で子供たちが何かしていたようだ。

「何をしてたんだい? 夜は一緒に食事するんだろ?」

俺が問いかけるとシアが代表して答える。

「アタルお兄、…アタル様の用意してくれた設備の確認をしていました。夜はもちろんそちらに行きます」

子供たちが仮住居に住むと言い出したので、急遽ホームシステムを仮住居にも完全に伸ばして、ついでに素材買い取り用の設備を用意したのだ。

「アタルお兄ちゃんで良いよ。みんなに様付で呼ばれるのは嫌だからなぁ。それと、昨日から仕事はお休みにしたし、今日と明日から3日間も休みにして良いと言ったんだから、ゆっくり休めば良いよ」

子供たちには、昨日の引っ越しから、私達の結婚から5日間は休みにすると言ったんだが、休みなんかいらないと言い張った。

孤児院では休みと言う感覚は無いし、これほど長期に休むなど戸惑ったようで、結局明日から3日休みにすると話し合った。

「ミュウはお腹いっぱい食べるぅ~」

「キティもぉ~」

ミュウとキティを存分にモフると、クレアと屋敷に向かうのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


屋敷に到着すると何故かたくさんのメイドさん達に迎えられる。

あれれっ? メイドさんは二人だけのはずだよね?

すると正装した綺麗な顔立ちの人が私の前にやって来る。

「アタル様、お帰りなさいませ。クレアさまはお部屋の方で準備を始めますので、メイドの案内でお部屋に移動をお願いします」

「は、はい」

クレアは戸惑いながらも先導するメイドと二階に上がって行く。

それは良いけどこの人は誰?

スッキリとした身体つきに、整った顔、まるで女性のような高い声。

じょ、女性なのか!

「アタル様は応接室へお願いします。すでにお客様が居ますので、お相手をお願いします」

いやいや、アンタ誰なの!?

お客様って、いくら何でも早すぎるでしょ!

しかし、屋敷の事はラナに全てお願いしたし、どう考えてもラナが把握してない訳がない。騒いでも仕方ないので、応接室に移動する。


部屋に入るとハロルド様がどっかりとソファに座ってお茶を飲んでいた。後ろにはセバスさんが控えて立っており、近くに行政のトップのメイベル・アルベイルと息子のルーク・アルベイルが一緒にお茶を飲んでいた。

「アタル、遅かったな?」

遅かったじゃなーーーい!

なんでさっきエルマイスター家の屋敷で、挨拶をして別れたばかりなのに、なんで先にここにいるんだぁ。

まあ、地下通路を通って来たとは思うが、食事会は夜だよね?

「来るのが早すぎませんか?」

「すまんのぉ、ついでに大賢者の屋敷を見たかったのと、少しお願いがあるのじゃ」

勘弁してほしい。今は人の頼みを聞いている余裕はない。

私が渋い顔をしていると、セバスさんが説明してくれる

「実はレベッカ様の事なんですが、今日だけ罰の免除をお願いできないでしょうか?」

えっ、そんな事!?

驚いた顔をしていると理由を説明してくれる。

「実はアタル様の結婚披露で、クレアさんとラナが素敵な衣装を着ると聞いて、レベッカ様も準備されていたのですが、やはりアタル様のインナーが羨ましいと言っておりまして、せめて本日だけでもお許しが貰えないかと」

「儂の罰を延長して貰っても構わん。レベッカは女でまだ若い、羨ましくて落ち込んでおったのじゃ。どうか頼む!」

そんな事なら全然問題ない。
私としては結婚とその夜の事の方が気になって仕方がない。

「では、私達の結婚の恩赦という事で、お二人の罰は全て免除します。しかし、執行猶予付きの免除としますので、また妻たちに迷惑かけたら、さらに重い罰にしますよ」

冗談気味に話したが、ハロルド様は重い罰と聞き青い顔をしたが、罰の免除には嬉しそうにしている。

「それは素晴らしいですな。恩赦とは非常に良い考えだと思います。もし、お二人が同じような事をするようであれば、私が報告しますのでご安心ください」

セバスさんは嬉しそうに話すと、メイドにその事をレベッカ夫人に伝えるように指示する。

「それと、私からのお願いがございます」

セバスさんが姿勢を正して、真剣な表情で私を見て言った。

「なんでしょうか?」

「そこのエマは私の孫なんですが、アタル様の執事として雇って頂けないでしょうか?」

セバスさんがそう言って示したのは、先程から俺の後ろに控えるように立っている、性別不詳の案内してくれた人だ。

名前からは女性だと思うけど……。

セバスさんは更に話を続ける。

「エマは幼い時から私の仕事を見て、執事になりたいと言っていたのですが、女性の執事をエルマイスター家で雇うのも問題がありまして、何とか嫁に出そうとしたのですが、髪まで短く切ってしまい、私と家族は困っていたのです」

「儂は気にしないと言ったのだが、セバスは貴族家が女性執事を雇うと難癖をつけられる可能性もあると言って、どうしても許さないのじゃ」

ふ~ん、まあその辺の事は良く分からん。

「エマを雇う事はエルマイスター家にとって良い事ではありません。執事が雇われる家にとって少しでもマイナスがあってはならないのです」

エマさんは少し悲し気な表情をする。

「ですが、エマは執事の才能は私以上とも思っています。まだ18歳ですが、女性でなければ間違いなく優秀な執事になるでしょう。
エルマイスター家では雇うのは賛成できませんが、アタル様の下ならエマの能力を十分に生かせると思います。どうかお願いします」

エマさんも鑑定してみると、統率や交渉、礼儀や計算など執事として優秀な事はすぐわかった。それどころか軍師でもなれば活躍するかもしれない。

でも、この世界では能力を生かせないかぁ。

エマさんを見ると微笑んでいるだけだが、目で必死に懇願している気がする。

「私は雇っても良いと思いますが、家の事はラナに任せていますし、クレアや他の者の意見を聞いてからでよろしいですか?」

「すでにラナには確認しております。また、ラナが他の者の同意は得ています。ただ、執事ですので、アタル様の許可を頂かないといけませんので、このようなタイミングになってしまいました。申し訳ございません」

セバスさんが謝罪を言う。

それなら、問題ないかなぁ?

彼女からは悪意を感じないし、優秀そうである。

なんとなく大丈夫な気がする……。

「私の家の執事になると、セバスさんと色々交渉して貰う事もありますが大丈夫ですか?」

そう聞くと嬉しそうに答える。

「それこそ望む所です。おじい、セバス様を困らせるような交渉をして見せます」

「ハロルド様やレベッカ夫人が、我が儘な行動をして我が家に迷惑を掛けるかもしれません。その時、あなたはきちんと対処できますか?」

「セバス様の対応を見てきています。あのお二人の対処は出来ると思います。元主家ではありますが、アタル様に雇われれば、この家の利益を最優先します。それが、セバス様から学んだことでございます」

セバスさんは嬉しそうに微笑んでいる。

まあ、大丈夫でしょう!

「それではあなたを雇う事にします!」

「ありがとうございます」

しかし、男性が余っていないと言っても、この家には女性ばかりになるなぁ。

男一人で肩身が狭くなりそうで不安だ。

「アタルさん、ありがとう!」

突然、応接室にレベッカ夫人が入って来て、お礼を言うと抱きついてきた。

暴発寸前の私に、こんな事は止めてぇーーーー!

レベッカ夫人のサキュバス的な香りと、サキュバス的な柔らかさに、頭の回路が焼き切れそうになるのであった。
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