上 下
52 / 224
第3章 大賢者の遺産

第20話 冒険者ギルドへの制裁①

しおりを挟む
突然ノックもせずに受付のギルド職員がギルドマスター室に入って来て、ギルドマスターのアラゴとサブマスターのエウスコは飛び上がりそうなくらい驚いた。

「何事だぁ! ノックもせず部屋に入ってくるなど無礼にも程があるかぁ!」

2人は内心で『ドラゴンの咆哮』の報告を待ちながら、内心ではビクついていた。アラゴは無事にことが進んで、薬草が納品されるようになるのか気にしており、エウスコは彼らがとんでもない失敗をして騎士などに捕まったらどうしようと思っていた。

「し、失礼しました! ですが、領主様が騎士団を連れて1階にお越しです。すぐにギルドマスターを呼べと言ってます!」

それを聞いてエウスコはすぐに窓から外を確認する。アラゴはエウスコが驚くほど機敏に動いたことで、自分が何を言おうとしたのか忘れてしまった。

エウスコは冒険者ギルドの建物が、騎士達に囲まれていることを見て、『ドラゴンの咆哮』が自分の予想通り取り返しのつかない失敗をしたことを悟った。

実はエウスコがすぐに外の確認をしたのは、逃げ出せないか確認をしたのだった。昨日から不安で、いざとなったら逃亡するしかないと考えていたのだ。

真っ青な顔色になったエウスコを見て、アラゴも不安になり問いかける。

「な、なにがあった!?」

エウスコは問い掛けられても、振り返らずに震える声で答える

「ギルドの建物を騎士達が取り囲んでいます」

「なにっ!」

アラゴは予想外の事態になぜそうなったのか理解できなかった。

「『ドラゴンの咆哮』が大失敗をしたのだと思います」

このような事態になっても、全く状況を理解できないアラゴを見て、なぜこんな男をギルドマスターにしたのか、ギルド本部の愚かさを心の中で罵倒していた。

「そうだとしても、こんなことをすれば冒険者ギルド全体が黙っていないぞ!」

「取り敢えず、領主のハロルド様がなぜこんなことをしたのか、話を聞きに行きましょう」

アラゴは不満そうにしながらも、それしか方法がないことも分かったので、急いで1階に向かうのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


ギルドマスターのアラゴとサブマスターのエウスコが姿を見せると、首を刎ねられた死体を見て、エウスコの顔は真っ青になり震えだし、アラゴは顔を真っ赤にして怒り出した。

「何事ですか! うちの冒険者を殺すなんて、冒険者ギルド全体を敵にする行為だぞ!」

アラゴは自分の子飼いの冒険者が殺されているのを見て、頭に血が上り冷静な判断ができなかった。

「こいつは、領主のハロルド様に近づいて来たので制止したら、剣を抜いたから首を刎ねましたよ」

アランがそう説明するが、怒りで状況の把握ができないアラゴは、薄ら笑いを浮かべながら首を刎ねたというアランにさらに腹を立てる。

「こんなことしてタダで済むと思っているのかぁ。絶対に許さんからなぁ!」

「ほう、許さんとはどういうことじゃ。領主の私に剣を向けた奴を、冒険者ギルドは庇い立てするということかのぅ」

ニコニコ笑いながらハロルドがそう話すと、アラゴは相手が領主のハロルドで、その領主に剣を向けたと言われ、さすがに不味いと思ったが、もう引き下がれなかった。

「そ、そうではない、…ですが、冒険者ギルド内で冒険者を殺すなど、騎士団長のアラン殿でもやり過ぎだといっているのです!」

少し勢いが無くなったアラゴだが、簡単に引き下がれなかった。

「ふむふむ、ではギルドマスターとサブマスターが冒険者に命じて、孤児院の子供たちを脅して、切り殺そうとするのはやり過ぎではないというのか?」

こういわれてアラゴはやっと領主や騎士達が来たのか理解した。エウスコはやはりそれが理由だったのだと思った。

「な、なにを証拠に、」

ボゴォ! ギィン!

アラゴが答え始めると、ハロルドが突然前蹴りをしてきた。アラゴも元A級の冒険者だけあって、何とか腕を前に出して防御したが、出した腕の骨にヒビが入り、勢いのまま壁に背中から叩きつけられた。

ハロルドは追い打ちをかけるように、背中の大剣を抜くと、アラゴを切り殺そうと袈裟懸けに切りつけたが、後ろの石壁に剣がめり込み、肩を少し切られる程度で済んだ。

「閣下!」

アランが鋭く声を掛ける。

「なんじゃい!」

ハロルドは不満そうに返す。

「殺してはダメと言ったではないですかぁ」

さらにアランが少し軽く注意する。

「おぉ、そうじゃった。こやつが下らぬことをぬかすから、ついのぅ」

アランを見ながらハロルドが話す。それを聞いたアランは溜息を付く。

「お前たちも良く考えて答えてくれよ。ハロルド様と私の目の前で犯行が行われたんだぞ。すでに奴らの尋問を済ましてここに来ているんだからな」

アランはアラゴ達にそう話す。

ようやく下手な言い訳が命取りになるということをアラゴは理解したが、本当の話をしても危険だと思った。

「おい、水筒を貸してくれ」

ハロルドは一緒に来ていた騎士にそう言うと、差し出された水筒を受け取ると、アラゴに掛けてやる。

「こいつを掛ければ、すぐに怪我は回復するから安心すると良い。何度でも尋問はできるから安心しろよ」

ハロルドはそう話しながら笑顔を見せる。先程までの笑顔と変わらないはずだが、アラゴはその笑顔を見て『クレイジーオーガ』と心の中で呟いた。

「領主様、その者たちは確かに孤児院の子供たちに、薬草の納品をお願いに行かせましたが、決して乱暴をするような指示は出しておりません!」

エウスコは必死に少しでも罪が軽くなるように説明する。

「んっ、お前は誰じゃったかな?」

実はこの町の冒険者ギルドに着任した時に、エウスコはハロルドに挨拶していたが、随分前の話でハロルドはまったく覚えていなかった。

「わ、私はサブマスターのエウスコです」

バコッ、ボゴッ、バキィ!

エウスコが言い終わると同時に、ハロルドは殴りつけ、倒れた所に蹴りを入れた。

「なんじゃ、サブマスターというからもう少し行けると思ったのに、死んでしまいそうじゃ」

「閣下ぁ」

そういうとハロルドは水筒からポーションをエウスコに掛けてやる。

エウスコは突然殴られて、半分意識が無くなりかけたところに、腹と胸を連続で蹴られ、折れた肋骨が胸に刺さったようで、口から血を流して死ぬ寸前だった。

何か体に水のようなものが掛けられ、徐々に痛みが引いていくのを感じると同時に、口から血を流していることに気が付いた。

「おお、死ななかったようじゃぞ。ほれ、これを飲め」

そういって口に無理やり水筒を押し付けられ、エウスコは何とかそれを飲み込むと、一気に痛みが引いていく。

「もう大丈夫そうじゃな。お主は体が弱そうじゃから、今度嘘を付いたら目を抉るぞ」

ニコニコしながら話すハロルドを見て、エウスコも『クレイジーオーガ』と心の中で呟いた。

「閣下、目を抉るなら片方だけにしてくださいよ。家族を目の前でごうも、尋問する様子を見てもらわないとダメですからね」

「そうじゃった、そうじゃった。お前はギルド職員の家族を攫ってこい」

ハロルドは近くにいた騎士にそう指示を出した。

「閣下ぁ、それでは我々が悪人みたいではありませんか。攫うはないでしょ、連れて来いとか招待しろとか言い方を考えてくださいよぉ」

アランは笑いながらそう話す。

「そうかのぅ、やることは一緒なんじゃが、……まあ適当に頼むぞ」

「はい!」

騎士がそういって走り出そうとすると、ランベルトがハロルドに話しかけるのであった。
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

人類最強は農家だ。異世界へ行って嫁さんを見つけよう。

久遠 れんり
ファンタジー
気がつけば10万ポイント。ありがとうございます。 ゴブリン?そんなもの草と一緒に刈っちまえ。 世の中では、ダンジョンができたと騒いでいる。 見つけたら警察に通報? やってもいいなら、草刈りついでだ。 狩っておくよ。 そして、ダンジョンの奥へと潜り異世界へ。 強力無比な力をもつ、俺たちを見て村人は望む。 魔王を倒してください? そんな事、知らん。 俺は、いや俺達は嫁さんを見つける。それが至上の目的だ。 そう。この物語は、何の因果か繋がった異世界で、嫁さんをゲットする物語。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

処理中です...