上 下
302 / 315
番外編① アーリンの残念なチート物語 学園入学?

第39話 魔物の巣?

しおりを挟む
D研の入口のある部屋は2階の最奥にあった。D研の入口を見ると、辛かったロンダでの研修が懐かしく思えてくる。

もう二度と同じことはしたくないわね……。

D研はテンマ先生の空間魔術の魔法の一つ、ディメンションエリアの魔法で作った亜空間である。ロンダ領にあった滝の周辺を複製して作った空間で、先生がいつでも入口を開いたり閉めたりできる。

先生はどこに行っても研修ができるということで、略してD研と呼んでいるのだ。

D研に入ると中は見覚えのある景色が広がっていた。滝の上にはテンマ先生の実質的な自宅である『どこでも自宅』がある。
テンマ先生はロンダや他の場所にも拠点といえる家を建てているようだけど、そこは来客用ともいえ、先生は『どこでも自宅』でほとんど生活しているはず。

先生は凄い人だけど、どこか人付き合いが苦手なようで、私が勝手にお母様達や使用人を『どこでも自宅』に招き入れたら、想像以上に怒られたことがある。

あれから地獄の研修が始まったのよねぇ~。

地獄の研修が過ぎ去ってしまうと、今では懐かしい思い出だと話せるけど……。

二度と地獄の研修をしたくないわ!

今でもたまに夢に出てきて、汗びっしょりで目を覚ますときがある。

ピピちゃんは嬉しそうにスキップしながら壁に囲まれた訓練場に向かっていく。中からは誰かが訓練しているのか音が聞こえている。

中に入ると私に気付いたのか懐かしい声が聞こえる。

「あっ、アーリン!」

声の主はミーシャさんであった。
彼女はロンダの開拓村に住んでいた冒険者を目指していた村娘で、私より早くテンマ先生の研修に参加していた二つ年上の狐獣人の少女である。

テンマ先生の代わりに色々と研修について教えてくれたこともあったけど、強くなることが大好きで、どこかテンマ先生みたいに突き抜けた考えをしている。

だからこそ最初からまったく歯が立たなかったのだけど、彼女はテンマ先生より容赦ない感じもするくらいだ。

ま、待ってぇ~!

「久しぶり!」

よ、よがっだぁ~!

彼女はピピちゃんと比べられないくらいの勢いで走り寄ってきた。思わず死を覚悟して目を瞑ってしまったけど、彼女は私の目の前で止まって普通に挨拶をしてきた。

「お、お久しぶりですわ……」

涙目になりながらも挨拶をする。
ミーシャさんの見た目は変わっていなかったけど、強者のオーラみたいなものを纏っている感じがした。

また強くなってるぅ~。

王都に来てから私は強くなっていると思っていたけど、ピピちゃんやミーシャさんを見ると、自分が訓練の手を抜いていたのかと疑いたくなる。

私は普通の乙女だから仕方いないのよぉ!

最近ではシャル王女達や国王陛下まで、私を非常識な存在のような扱いをしてきた。でもテンマ先生の周りにはもっと非常識な連中がいて、自分が普通だと思えるから不思議だ。

「訓練しよ!」

ミーシャさんもピピちゃんと同じだぁ……。

「ミーシャお姉ちゃんダメだよぉ~。ピピが先に訓練するの!」

まるで魔物の巣に投げ入れた獲物わたしを二人が奪い合っているような気がしてくる。

「おいおい、先に俺達に紹介してくれないのか?」

ま、まともな人がいるのね!

声をかけてきたのは訓練場に入ってきたときに、ミーシャさんが戦っていた女性ではなく、審判役をしていた男性だ。見上げるほど大きな体で武骨な感じがしていたけど、常識的な人のようだ。

「んっ、忘れていた」

ミーシャさんは強くなったみたいだけど、性格は全く変わらないみたい……。自分の興味ある事以外はすぐに忘れてしまう。

興味あるのは強くなる事だけよねぇ。

半ば呆れながらも私は自己紹介を始める。

「私はテンマ先生の生徒でアーリンですわ」

「おお、話は聞いているぞ。俺は王都を拠点にして冒険者をしているバルガスだ。そこにいるのは俺の冒険者パーティーのメンバーだ」

バルガスさんは丁寧に仲間を紹介してくれた。
バルガスさんは私でも聞いたことのある王都でナンバーワンの冒険者パーティー妖精の守り人ピクシーガーディアンのリーダーで、なんとマリアさんの旦那さんでもある。さらに二人は大叔母様ドロテアと一緒に冒険者をしていたらしい。

マリアさんのことだけは何となく聞いていたかも……。

あと二人の子供である私と同じ年のミイさんや、ミーシャさんと訓練していたリリアさん、他にも少し年上のジュビロとタクトを紹介してくれた。

あれっ、ピョン吉がまた大きくなっているわ!

ピョン吉は元々訓練のために連れてこられたホーンラビットであった。この訓練場で飼われながら、訓練の時に群れで私達と戦っていた。そのうちいつの間にか種族進化していて、クイーンホーンラビットになったのである。

種族進化して体が大きくなったのだけど、触るとプニプニで気持ちいい。でもいつも顔をしかめっ面にしているので可愛げがない。微妙な立場だったけど、脅迫するように大叔母様ドロテアの従魔にさせられて、気の毒な存在でもある。

ピョン吉は見た目と違い動きは機敏で、あのプニプニの体にほとんどの攻撃は吸収されたようになり、油断できない訓練相手でもあった。

久しぶりにあのプニプニを触りたいけど、ピピちゃんが訓練場の真ん中で短剣を振りながら待っている。

バルガスさん達も気の毒そうに私を見つめてきたので、久しぶりにピピちゃんとの訓練を先にすることにした。


しおりを挟む
感想 437

あなたにおすすめの小説

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。