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番外編① アーリンの残念なチート物語 学園入学?

第5話 テンマ式リンス

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旅の疲れよりも精神的にみんな疲れた表情をしていた。

叔母様ドロテアやテンマさん、それにテックスのことを含めて魔法契約が済むまで極力話題にしないようにしましょう!」

お母様が真剣な表情で話した。

「それがよろしいようね。魔法契約をして詳しく事情を聞かないと、大惨事になる気がしてきましたわね」

祖母様はこれまでの話を聞いただけで、何となく事情がつかめたのだろう。

「レオン、あなたは特に気を付けなさい!」

「も、もちろんです。絶対に陛下のお耳には入れません!」

お兄様はまったく状況が理解できてないのか戸惑った表情をしていた。それを見たお母様が釘を刺したようだ。

お母様は不安そうな表情でお兄様に話をする。

「明日には魔法契約を済ませましょう。それまであなたは外出禁止にします!」

お兄様は不満そうな表情で反論しようとしたけど、お父様や祖母様、私を含めた全員に睨まれて渋々頷いた。

それからは無難な話で盛り上がり、夕食まで過ごした。

夕食が終わり、部屋に移動しようとかと考えていると、自然に愚痴を溢してしまう。

「お風呂でゆっくりと疲れをとりたいなぁ~」

今日まで馬車に揺られて王都まで移動してきた。お風呂に入れば旅の疲れが取れるのにと思って口に出してしまう。
テンマ先生の影響でいつの間にかお風呂が大好きになり、風呂に入れないことがこんなにストレスになると思わなかったのだ。

生活魔術のクリアを使えば体の汚れは落ちる。でも……、疲れまでは癒せないのよ。
それに『テンマ式リンス』も旅に出てから使っていないのよねぇ。

髪の艶がなくなっているわぁ。

手で髪の毛を掴んで見て大きく溜息を付く。テンマ先生の作った『テンマ式リンス』は色々な成分とポーション効果で髪の毛を生き返らせてくれるのだ。

「あら、入ればいいじゃないの。風呂用の部屋がありますよ?」

お母様が驚きの事実を教えてくれた。まさかこの屋敷でお風呂に入れるとは思っていなかったのだ。だってこの国ではお風呂に入る習慣はほとんどない。貴族でもお屋敷にお風呂を作る習慣はないのだ。

「誰も使ったことがないはずですよ。お風呂に入るなんて変わっているわねぇ。使用人も準備したことがないから用意できるのかしら?」

祖母様は戸惑ったように話した。使用人達は驚いた表情で固まっている。

ああ、この感じだとお風呂を準備したことが無さそうね。

「お風呂の準備なら自分でできますわ!」

「でもねぇ、淑女レディーが使用人のようなことをするのはどうなのかしら……」

祖母様は困ったような表情で呟いた。それを聞いた使用人の一人が付け足すように話す。

「お風呂のある部屋はもちろん掃除しています。ですがこれまで使ったことはありません。念のため確認をしたいと思いますので、お風呂は明日以降にお願いできませんでしょうか?」

う~ん、言いたいことは分かるけど、我慢できない!

「私は淑女レディーでもありますが、魔術師でもありますわ。スプーンでスープを飲むより簡単にお風呂の準備くらいできましてよ」

そこまで簡単ではないけど、本当にそれに近いくらい簡単に、掃除やお湯の準備もできる自信はある。
生活魔術のレベル上げと魔力量の増加させるために、毎日同じようなことはしているのだ。

「私も明日から忙しくなりますから、アーリンにお風呂の準備をお願いすることにしましょう。こんな髪では外出するのが恥ずかしいですわ」

お母様も私と同じようにお風呂に入りたいみたいだわぁ。

あの輝く髪艶を体験したら、女性なら絶対に出歩く前には『テンマ式リンス』を使いたいはずよ。

「ロンダでは変なことがはやっているのねぇ~」

祖母様は困ったような表情で話していたけど、お父様は諦めたような表情で何も言わなかった。

すぐに私はお風呂の準備をした。
まずはお母様が風呂に入り、私が生活魔術のブロウで髪の毛を乾かした。艶々の髪になったお母様を見て祖母様は自分もお風呂に入ると言いだした。
祖母様もお風呂に入り、私は『テンマ式リンス』の使い方を説明した。私に髪の毛を乾かしてもらいながら、祖母様は白銀色に輝く自分の髪をうっとりと眺めたのであった。

私は最後にゆっくりとお風呂に入って、その日は久しぶりにゆっくりと眠ることができた。


   ◇   ◇   ◇   ◇


翌日の朝食には艶やかな髪になった私やお母さま、そして祖母様を見てお兄様は驚いたような表情を見せていた。

「もう少し広めの湯船とエステ用の作業台が置きたいですわね」

朝食を食べながらお母様が祖母様に相談していた。

「エステとは昨日聞いた髪だけでなく、全身を艶々にすることよね。それならいっそのこと改築したらどうかしら?」

祖母様も『テンマ式リンス』を体験して、お風呂に対する認識が変わったようである。

「そ、それは、予算のこともあるから慎重に……」

お父様が遠慮がちにお母様達の会話に横槍を入れた。しかし、お母様達の鋭い視線で睨まれて、目を逸らしている。

これならお母様達の計画は実行されるわね。

私も一人しか入れないお風呂は不満だった。排水も遅くてテンマ先生に貰ったシャワーの魔道具を使うと水が溜まり始めてしまったのだ。

「それならテンマ様よりお預かりしているものがあります」

いつの間にか執事姿の男性が私の斜め後ろに立っていて話しかけてきた。

「あら、バルドーさんではありませんか?」

祖母様は突然現れたバルドー様に驚くこともなく声をかけていた。驚いていたのはお兄様と使用人たちだけであった。


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