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第12章 マムーチョ辺境侯爵領

第3話 曲がりくねっている

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式典のお祭りのために新しい服を作って用意していた。魔道具で即座に着替えられるが、事前にみんなに渡して問題がないか確認しに家に向かう。

砂浜から家に戻る途中、背後で体を揺さぶるような爆発音が聞こえた。

全員で振り向くと、隣の黒耳長族の村のある島のその随分先のほうで、きのこ雲が見えた。

「またあの婆共が、何かしやがったな!」

バルガスが呆れたように言った。

最近では一ヶ月に一度は同じ光景を見ている。犯人は間違いなくドロテアさんとエアル3姉妹だろう。

ドロテアさんがこの島に来てから、近くの島で彼女たちは魔術訓練を始めた。その島は一ヶ月も経たないで、植物のない土と岩だけの島にしてしまった。
それだけなら研修島を破壊つくした俺としては仕方ないと諦めただろう。だが魔法の余波で周辺の島々にも影響がでたので、エクス群島の一番端の島をドロテア島と名付け、彼女たちの訓練所兼研究所にしたのである。

「ちょっと様子を見てくるよ」

心配になり、様子を見に行くとみんなに話した。

「放っておけばいいぞ。また本人たちはケロッとしているだろう」

これまでも何度も同じことがあった。そして心配になって何度も様子を見に行ったのだが、そのたびに本人達はケロッとしていたのも事実である。

「でも、昨日の夕食の時に何も言ってなかったよね。何か事故の可能性もあるから、様子だけでも見てくるよ」

他に心配を掛けないように、今では上級魔法を使う場合は前日に話をすることになっているのだ。

彼女達も上級魔法を使うと半月は魔力が完全に回復しない。その間、いつも魔道具の研究をしていた。自分達が作った魔道具を試して、爆発を起こしたこともよくあった。

実は最初に爆発事故を起こしたとき、彼女達は大怪我をした。ほんの少しでも俺が行くのが遅れたら死んでいたかもしれないほどの怪我をしていた。腕や足の欠損もあり、エリクサーを使って4人を治療したのである。

そんな大事故を起こしたのに、彼女達は懲りることなく同じようなことを繰り返しているのだ。
バルガスはともかく、他のみんなは心配そうな表情をしている。

フライで飛び上がると、きのこ雲のほうに飛んでいくのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


飛び上がると黒耳長族の住む島をすぐに飛び超えた。

黒耳長族の村は二年前とほとんど変わっていない。それはエクス群島全体も同じことだ。黒耳長族の生活を大きく変えないように、そしてエクス群島の自然をできるだけ変えないようにしたのだ。

特にレイモンドがエクス群島を出てからは、全く変わっていなかった。ダンジョンは黒耳長族の訓練施設になり、ダンジョン素材は冒険者ギルドの出張所と商業ギルドの出張所が処理していた。だから素材を運ぶ船が一ヶ月に一度、エクス群島に来るだけであった。

エクス群島の港の代官はレイモンドの祖父に任されている。たいしてやることのない彼は、月の半分は釣りをして過ごしているくらいだ。


きのこ雲の発生地点は海ではなくドロテア島内であった。島の外側の一部が消滅しているが、そこには外海に上級魔法を放つときの台があったはずだ。

削れて崖のようになっている場所付近に、ドロテアさんとエアル三姉妹が揃っていた。
俺はすぐ近くに飛び降りて様子を窺う。彼女達は砂ぼこりだらけで真っ白になりながらも、真剣に何か話していた。

「大丈夫ですか?」

心配になり声を掛ける。

彼女達は俺に声を掛けられて、ようやく俺に気付いたようだ。真っ白い顔をそろえて嬉しそうに笑顔を見せてきたが、その顔が面白過ぎて笑いそうになる。

「心配させたようじゃな。このとおりテンマの服と魔道具で怪我ひとつないのじゃ」

ドロテアさんは砂ぼこりで真っ白になった体を見せながら、嬉しそうに答えてくれた。

彼女達に自重するように話しても無駄だと思った俺は、随分前に防御力の高い服と、身を守るための結界を張る魔道具を渡してあった。

まあ、そのせいで全く自重しないとも考えられるが……。

「無事ならいいのだけど……。今度は何をしたの?」

俺が尋ねるとエアルが答える。

「火魔術の魔法を創造しようとしたのじゃが、失敗したみたいなのじゃ……」

話を聞いて納得した。

ドロテアさんは火魔術のレベルが上がり、火魔術の初級魔法なら創造できるようになっていた。そしてエアルは風魔術なら創造できるようになっていた。
しかし、何故か魔法の創造はうまくできないみたいだった。俺は簡単に魔法を創造してきたし、危険な目にあうことはなかったので不思議で仕方なかった。

ドロテアさん達が魔法をうまく創造できない原因は、まだ明確には特定できていない。

たぶんだが具体的なイメージが必要とするか、最低限の科学的な知識が必要なのかもしれないと考えている。
何故なら俺は前世のゲームから具体的な魔法イメージを持っているし、多少の科学知識もある。だから具体的にそのイメージを考えながら、分子構造や燃焼などの科学知識を含めながら魔法を創っているからだ。

ただ不思議なことに俺が魔法を創って名称を付けた創造魔法なら、彼女達は問題なく使える。一度使って見せて名称を教えればすぐに使えるようになる。

それはともかく彼女達を責めるように質問する。

「魔法を創造するときは、俺も一緒にやると言ったでしょ?」

ただでさえ危険なことなのだ。この暴走姉妹だけでは今回のような失敗が起きると思っていたので、話し合ってそう決めたのだ。

「で、でも、今回の式典で使うと言っていた花火《ファイアーワーク》を見たら、私達も創ってみたくなって……」

エリカが涙目で訴えてきた。

普段なら涙目の姿が可愛らしくて引き下がってしまうが、今は真っ白な顔で笑えるだけだ。

「あんなのをバッサンで使ったら街が吹き飛ぶよね。約束を破るなら、式典には一緒に行かないよ!」

俺は空に残っているきのこ雲を指しながら話した。真っ白な顔で彼女たちは露骨に動揺していた。

「分かったのじゃ。こ、今回は諦めるが、戻ったら一緒に創りたいのじゃ」

ドロテアさんが代表してそう答えた。

「うん、分かったよ。とりあえず今日は街に行く準備をしようよ。祭りのために新しい服も用意したから、一度着替えて問題ないか確認してほしい」

高年齢姉妹たちだが、新しい服は嬉しいのか目を輝かしている。

それならと家にみんなと戻ろうとしたが、ドロテアさんが真剣な表情で尋ねてきた。

「テンマ、ジジはまだ赤子はできないのか?」

こ、この人は何を言いだすのかなぁ~。

子供ができることはないと断言できるのが悲しい……。

「お、俺達は若いから、い、急いでいない……よ」

周りからはジジとすでにそういう関係だと思勘違いしているのは知っている。そして否定するのも面倒で、否定しないほうが丸く収まるから否定はしていない。

「二人は若いから問題ないかもしれぬが、私達は若くはなのじゃ。早く正妻に子ができねば、妾《めかけ》の私達も子種がもらえないのじゃ!」

え~と、妾にした覚えも、許可もしていないよ!

「どうじゃ、経験者の私達が手ほどきをしても良いのじゃ!」

エアルさん、見た目幼女のあなたが、恐ろしいことを言わないでよぉ。

「何でしたら立ち会って間違いがないか確認しましょうか?」

エリスさん、それはおせっかいというか……、考えるだけでも、恐ろしい!

「し、知っているから大丈夫です……」

前世ではそっち方面の勉強はしっかりとしました……、実戦はありませんが……。

「私とエリカは経験がないから何とも言えぬが、マリアもテンマは間違ったことをしているのではと心配しておったのじゃ」

マリアさ~ん、余計なお世話で~す!

間違いはありません。そこまでの道のりが遥か彼方に続いているだけですぅ。

「ま、間違ってはいないので、だ、大丈夫です……」

くっ、ジュビロ達の話を聞くかぎり、俺の前世予習は間違っていないはずだ!

それどころか前世の知識を全て実践したら……軽蔑される気がするぅ。

そっち方面の前世の文明度は、この世界よりとんでもなく先を行っている……、いや、曲がりくねっていると思うのであった。
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