上 下
189 / 315
第10章 ホレック公国

第34話 人の話を聞けぇ!

しおりを挟む
ウオォォォォーーーーー!

魂の叫び声を上げ終わると、不思議とスッキリとした。そして別の人格とか、そんなものは存在しないことに気が付いた。

この世界ではチートと言える力を持ちながら、俺はその力を隠そうとしてきた。
最初は自分がこの世界でどれくらいの強さか分からなかった。だから、自分の能力を隠して調査しようと考えた。

しかし、すぐに自分がチートと呼べる存在なのは分かった。それでも、自分以上のチート野郎がいる可能性を考えて、自分の力を見せないようにしてきた。

いや、それはただの言い訳だな……。

過剰とも言える力を隠したフリをして、人を傷つけることを避けていたのだ……。

研修施設で一生懸命に力をつけ、本当は堂々と自分の力を使いたかった。それを必死に誤魔化してきた反動で、自分の隠していた感情や気持ちが溢れ、それが暴走した人格のように感じていたのだ。

結局は俺の願望のような人格だったんだ……。

自分の手で直接人を殺めたことで、何か吹っ切れたような気がした。

今でも人を殺したいと思わない。

でも……、必要なら力を見せつけるのを我慢するのは止めよう!

最初からそうすれば、彼らは愚かな戦いを選択しなかっただろう……。

俺は甲板の上で怯える彼らを見て、本来の自分で話をしようと決心する。

不思議なことに気持ちが落ち着いて、冷静に話ができると確信していた。


   ◇   ◇   ◇   ◇


俺の魂の叫びは声になっていたのか、きちんと威圧スキルが仕事をしたようだ。

ペニーワースは兄のゴダールと同じように盛大にお漏らしをしている。ゴダールと違うのは本人が気絶していることだろう。

他の兵士は青い顔でガタガタと震えている。

「な、何者だ!?」

他の兵士より身分の高そうな男が声を尋ねてきた。

「んっ、お前達が戦いを挑んだ相手だよ」

普通に相手の質問に答えた。

尋ねてきた男は驚いた顔を見せた。そして、兵士たちに目配せしているのに気付く。
兵士たちは恐怖を必死に抑え込み、剣を抜いて構えている。震えながらも俺を囲むように位置に移動している。

そして包囲できたことで少し落ち着いたのか、先ほどの男がまた尋ねてくる。

「敵中に1人でくるとは、覚悟はできているのか?」

いやいや、お前達こそ覚悟できているのかなぁ。

「別に」

ガキンッ!

俺が話し始めた瞬間に、背後から兵士の1人が俺の首に目掛けて、剣で斬りつけてきた。地図スキルと気配察知で、攻撃していることは分かっていた。しかし、彼らの攻撃では俺を傷つけることはできないと思い、無視していたのだ。

ふむ、やはり実力を分からせないと、こいつら勘違いしていて面倒だなぁ。

攻撃が通じないと分かった筈なのに、他の兵士がまた切りつけようと近づいてくる。

それを躱すようにフライで飛び上がる。そしてマッスル弾を放った。

「マッスルゥーーーーーーーーーーーー、ハアッ!」

ダガード子爵領で放ったようなマッスル弾を放つ。そして前回と同様に着弾まで時間が掛かった。

ドゴォーーーーーーン!

「たぁーまやぁーーー!」

着弾と同時に俺は叫んだ。

だいぶ離れた場所でマッスル弾は爆発した。
前回と同じように、まるで海底火山が噴火でもしたように、海水が巻き上げられ、噴煙のように真っ白な煙を上げている。

船の上にいる兵士たちが呆然としているのが見えた。そして、呆然と爆発を眺めていた兵士の1人が突然叫んだ。

「つ、津波だぁーーーーー!」

爆発の余波で、また津波が発生していた。

いや、これって津波じゃないのかなぁ?

前世で確か海底火山が爆発したことがあった。その時に潮位が上がったのを、津波と違うとかニュースで騒ぎになった記憶がある。

甲板では何とか逃げようと、船を動かそうと必死に準備する人もいたが、半分以上が諦めているのか呆然と津波を眺めている。

「マッスルゥーーー、ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!」

連続でマッスル弾を放った。マッスル弾は次々と津波に当たり、衝撃で津波を消していく。見える範囲の津波が消えると、甲板は静寂に包まれた。

なんかこの前と同じ感じだぁ。でも今度は敵だから、喜びはしないだろう!

「「「ウオォォォォォ!」」」

喜んでいるじゃん!

一瞬の静寂の後、兵士達は喜びの声を上げ、仲間同士で抱き合って喜んでいる。

俺はそんな状況を確認すると、ゆっくりと船に降りて行くのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


「ダンダンダン、ダッダダン、ダッダダン……」

俺はメロディーを口ずさみながら甲板に降り立った。

「黙って人の話を聞く気になった?」

身分の高そうな男に尋ねた。すると彼だけでなく甲板にいる全員が何度も頷いている。

「ねえ、そこの君!」

残っていたペニーワースの最後の取り巻きの男に声を掛ける。男は涙目になりながら必死に首を左右に振っている。

いやいや、何もしないからぁ。

「え~と……、総司令官を踏んづけているよ!」

俺は親切に教えてあげた。彼はペニーワースの腕を踏んづけていたのだが、跳び上がって後ろに下る。踏んづけられていても、ペニーワースは目を覚ましていなかった。

再び身分の高そうな男を見て尋ねる。

「あなたは指揮官か船長なのかな? あなたが一番偉いの?」

「わ、私はこの船の船長でこの船団の指揮官でもあります。一番偉いのはそこの総司令官であるペニーワース殿下で、私はその次になります」

「じゃあ船長さん、今の状況を説明するからよく聞いてね」

船長さんは黙って頷いてくれる。

俺は公都で起きていることを説明して、いまさら誤魔化そうとしても無駄だと教えてあげる。船長は驚いていたが、先ほどのデモンストレーションの効果か、疑うようなことはなかった。

「そういうことで、そこのペニーワースを拘束して、至急公都に向かってくれる?」

「はい、すぐに向かいます!」

気絶したペニーワースを兵士たちが拘束を始めた。過剰に力が入ったのか体に縄が食い込んでいるのがわかる。

拘束した痛みでペニーワースが目を覚ました。彼は何か訴えようとしているが、すでに猿ぐつわをされているので、何を言っているのか分からない。

「それじゃあ、俺は先に公都に戻るからよろしくねぇ」

俺はそう話すと、またフライで飛び上がって公都に向かうのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


公都に近づくとあることに気が付く。港の船の大半が沈み、港に打ち上げられた船もあった。

そうかぁ~、こちら側の津波は消し切れていなかったのかぁ。

ちょっとだけ反省して仮拠点の建物に行く。テラスにはムーチョさんと宰相、レイモンドが居るのが見えた。

テラスに降りると同時に公都に声が届くように魔法を使う。

「マッスル様、お疲れ様です」

「ああ、あいつらの船は昼までに公都に着くはずだよ」

ムーチョさんが声を掛けてきたので、本来の目的の報告をする。そして何があったのか詳しく話そうとすると、宰相が興奮した様子で会話に割って入ってきた。

「おい、あれは本当にお前がやったのか!? 大変な被害が出たのだぞ。どうしてくれるのだ!」

それを話そうとしたところだ!

少しムッとしたが、被害が出たのは見てきたので我慢して説明する。

「ああ、実は」

「これでは領地の割譲はできん! 先に損害を弁償しなければ許さんぞ!」

おいおい、人の話を。

「悪いのはそちらだ! きちんと責任を」

パァン!

「人の話を聞けぇ!」

きちんと手加減スキルを使って、力を抜いて宰相の頬を叩いた。それでもテラスの端まで宰相は吹き飛び、気を失っている。

鑑定で宰相のHPが1になっていることを確認する。

まあ、死んでも知らんけど……。

アイテムボックスからポーションを出し、青い顔をしているレイモンドに渡す。

「中級ポーションだ。そこのクズならそれで回復するだろう」

回復魔法で治療できるが、こんな奴のために魔法を使いたくはないと思った。
しおりを挟む
感想 437

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。