上 下
174 / 315
第10章 ホレック公国

第19話 エクス門?

しおりを挟む
ホレック公国の公都を近くから見て、それからエクス群島に戻った。途中で総司令官のペニーワースが乗る3隻の船団を見つけたことを、ムーチョさんに報告する。

「ふむ、彼らは公都に直接向かっているのですね。マッスル殿が見つけた位置を考えると、それほど急いで戻っている感じでもありませんなぁ」

ペニーワースは船内で内部工作をする時間を考えて、ゆっくり戻るように指示をしていることを俺達は知らなかった。

「ムーチョさんの計画もあるだろうから調査をしたんだ。俺は出番までのんびりするかなぁ」

計画の修正や調整はムーチョさんに任せて、俺は自分の出番まで何をしようか考える。

「ああ、その事なんですが、マッスル様にはマッスル様にしかできないお願いしごとがいくつかございます」

「そ、そうなの……」

なんか嫌な予感を感じながら、ムーチョさんを見る。

待ってぇ~、悪魔王の眷属ムーチョの笑顔を、俺に向けないでくれぇ!

また社畜に戻るようなお願いをされるのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


島に戻ってから6日ほど過ぎた。

「よし、これで大丈夫じゃないかな?」

俺はエクス群島に残ったダガード子爵の30人ほどの部下たちにそう話した。

「はい、大丈夫です! いや、大丈夫ではなく、素晴らしいです!」

彼らの中で一番年配の男性がそう答えてくれた。他の連中の様子を見るかぎり、お世辞で言っている雰囲気ではないだろう。出来上がった港を見て驚きと感動をしているのがよく分かる。

ムーチョさんからまず頼まれたのは、港の建設である。
エクス自治領が実現して、エクス群島が盟主となるなら、今後は人族との交流が必要になるだろう。それには港が必須だから、ムーチョさんには最優先で作って欲しいとお願いされたのである。

そして最後に岩で作った桟橋を完成させて、彼らに作業が終わったことを伝えたのである。

ムーチョさんに頼まれて渋々お願いという仕事を引き受けた。
しかし、ボッチ経験が前世や研修時代も含めて長かったので、何となく1人でコツコツと作業しているほうが俺は落ち着く。気付けば5日ほどで港を完成させてしまった。

いやぁ~、物造りをしていると、ホレック公国のこととか、ドラゴン姉妹のこととか、エアル姉妹こととか、……余計なことを考えずに無心になれるなぁ。

岩で作った桟橋は2本あり、30隻ほどの船も係留させられると思う。比較的大きな船も係留できるように桟橋の横は、海底を削って船底が海底につかないようにもしている。

陸地には倉庫となる建物や、ちょっとした商店街、住人用の長屋住宅まで作ってあった。

岩礁を避けて入ってこられる航路から、一番近い島に港を造った。黒耳長族の普段の生活から切り離し、トラブルを減らすために、彼らの住む島ではなく、この場所に港を造るようにムーチョさんが決めたのだ。

「ほほう、さすがマッスル様、仕事が早いですなぁ」

いやいや、ホレック公国を脅す、ゲフン……、交渉する前に完成させて欲しいと言ったのはアンタだよ!

いつの間にかムーチョさんも彼らと混じって完成した港を確認にきていたようだ。

「この港は凄いです! 安全性や効率を考えてもダガードの港よりも立派かもしれません!」

年配の男性が興奮するようにムーチョさんに話している。

「はははは、エクス自治領の盟主の港として恥ずかしくないようですなぁ」

俺はそんなことは深く考えていなかった。海岸沿いを公都まで空を移動しながら、幾つかの港を見た。そして木の桟橋ばかりで危険じゃないかなぁとか、朽ちた桟橋も多かったなぁとか感じたから石で造ったのである。

「間違いありません! 船を係留しやすくするために、海底の形まで変えるなど、そのような発想はありませんでした!」

おうふ、そうなのぉ~、ただ船を係留しやすく、桟橋を無駄に長くしないようにしただけなのにぃ~。

「ふふふっ、まあ、我が主であるマッスル様にかかれば、これぐらい簡単ですからなぁ。やはりマッスル自治領とした方が良いかもしれませんなぁ」

「はい、響きも良く、我々も賛成であります!」

「却下!」

それはすでに話し合って決めたじゃないかぁ。

ムーチョさんはからかうように俺に視線を送っているいる。しかし、話を聞いていた他の連中は期待するように俺を見てきたので、即座に却下する。

「まあ、仕方ありませんねぇ。ですが、さらに従属する領が出てくれば、マッスル王国のエクス自治領となるかもしれませんねぇ」

「「「おおっ!」」」

「却下! 却下! 却下!」

なんでコード名が国名になるんだ!

それに王国ということはマッスル王とかに俺をするつもりか!?

「まあ、そういうことは成り行きでしかありませんなぁ。自然にそうなるかもしれませんし、国名や王の名前も違う名になるかもしれなせんがねぇ。クククク」

ま、まさか、コード名ではなく本当の名前で!?

そんな事されたら、俺は姿を消してやるぅ~!

俺は信じられないと、ムーチョさんを驚きの表情で見つめる。ムーチョさんはそんな俺にウインクをしてきた。

そ、それは、どういう意味ぃーーー!?

冗談だという意味なのか、楽しみにしての意味なのか、それ以外の意味なのか全く分からない。逆に混乱するだけであった。

しかし、そんな俺の混乱を無視して、ムーチョさんは更に話を続ける。

「ですが、あの岩礁を避ける航路は微妙ですなぁ」

「はい、熟練の船乗りが船にいないと危険です。それでも注意して進まないと座礁する危険があります。大きな船が座礁でもしたら、船の出入りができなくなる可能性もありますから……」

年配の男は心配そうに話した。

この群島は岩礁に周りが囲まれている。所々岩が海面から突き出しているのも見えるし、突き出していなくても白波を起こしている場所もある。そして船が通れる場所のように普通の波が見える場所もある。

正確な場所が分からなければ小舟でも危険な岩礁地帯だと言えるだろう。だが岩礁地帯があるからこれまで他からの船が近づいてこなかったのだろうし、外海の荒い波も岩礁地帯で消され、内海は穏やかな状態になっているのだ。

俺は先程のマッスル王国関係の話で動揺して、深く考えず話してしまう。

「それなら、航路の部分を挟むように塔みたいなものを造ったら? 左右は岩礁があるからそれほど深くないし、塔を造るのもそれほど難しくないでしょ。このエクス群島に入るにはその塔の間を通るようにすれば分かりやすいと思うなぁ。何ならその塔から監視するようにすれば、不穏な連中は排除できるんじゃないですか?」

「ふむ、それは素晴らしい案ですねぇ。その塔はこのエクス群島に入るための門のような役割になるのですな。その門で不審者は排除すると……。その門をマッスル門と」

「却下! エクス門でいいじゃん!」

ムーチョさんの発言をぶった切り、エクス門と提案する。

「そうですかぁ、少し残念ですが仕方ありませんねぇ。ではマッスル様、エクス門で決定とします」

「うん……」

俺はホッとして気が抜ける。その隙をみてムーチョさんが頼んできた。

「ではエクス門を早めにお願いしますね。ホレック公国との交渉に向かうまでに完成してください」

「えっ、うん、わかった……」

不意を突かれて了承してしまった。

「あと交渉についての準備も忘れないで下さいね?」

「……わかった」

気付くとまた社畜生活に戻っている気がするぅ。

まあ、でも、それほど大変じゃないかなと思っていた。ロンダから王都に行く途中で橋を造った時とそれほど変わらないか、それよりも簡単だからだ。
しおりを挟む
感想 437

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。