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第10章 ホレック公国

第17話 夢のドラゴンライダー

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「ヒャッホーーーイ!」

俺はドラ美ちゃんの上で跳び跳ねて大声を上げていた。

自分で空を飛ぶのとは違い、ドラ美ちゃんに乗って空を飛ぶのは、なんか凄く強くなった気がする。

俺はドラゴンライダーにクラスチェンジしたぞぉーーー! 

もちろんそんなクラスチェンジなどしていないが、何となく舞い上がって心の中で叫んでいた。

「グギャァーーー!『ご主人様ぁ! 約束は守ってくださいよぉ!』」

ドラ美ちゃんが俺に念話で伝えてきた。

『大丈夫だよぉ。膝枕ぐらい喜んでぇーーー!』

ドラ美ちゃんに乗って移動すると話すと、ご褒美が欲しいとリディアから初膝枕を要求された。俺を乗せて飛ぶことを嫌がった訳ではなく、オークカツ貯金ができないことに不満を漏らしたから、交換条件として要求をのんだのである。

「マ、マッスル殿ぉ~、あ、暴れないでくださーい!」

ダガード子爵がドラ美ちゃんの背中にしがみついて涙目で訴えてきた。

ルームやD研の事はダガード子爵達にはまだ秘密にしている。捕虜を気絶させてD研を使って運んだことはあるが、基本的に彼らには秘密のままである。

だから今回の移動も、ダガード子爵と他に5人が同行しているが、全員がドラ美ちゃんに乗って移動しているのだ。

「ドラゴンに乗って移動するなんて、望んでも叶わない夢のような事だろ? 楽しまなくてどうするぅ~」

ドラ美ちゃんは凄い速さで空を飛んでいる。俺達が乗っている背中は速さほどの風の影響は受けてはいない。それでも強風程度の風が吹き荒れていた。

「お、落ちたら死んでしまいますぅ~」

ダガード子爵だけでなく、他の5人も涙目で、あっ、泣いている人もいる……。

「大丈夫だよ! 落ちたら俺が助けてやるからぁ~。ほら、こんな風に落ちてもぉぉぉ……」

「ギャァーーー!」

俺は風に任せてドラ美ちゃんの背中から転がり落ちて見せる。彼らの叫び声が聞こえた気がしたが、すぐにフライの魔法で飛んで戻ってくる。

「マッスル様ぁーーー!」

戻ったのは落ちた場所とは反対の場所だった。ダガード子爵が俺の名を叫んでいるのが見えた。

「んっ、どうしたの?」

「うわぁあぁぁぁぁ……」

おいおい、勘弁してくれぇ!

声を掛けるとダガード子爵がパニクって手を離した。そして風に煽られドラ美ちゃんの背中から落ちていった。

すぐに落ちていくダガード子爵をフライで追いかけ助ける。

ダガード子爵を空中でキャッチしてドラ美ちゃんの背中に戻ってくると、残りの5人は背中にしがみついて泣きながら叫んでいる。

「こんなところで……、グスッ」
「ダ、ダガードさまぁ~」
「後はおまかせをぉ~」
「奥さんは私がぁ~」
「娘さんは私がぁ~」

「む、娘はみゃだ8歳だひょ!?」

うん、収拾できそうにない……。


   ◇   ◇   ◇   ◇


黒耳長族の島に向かった時に飛び立った崖の上に到着した。この付近はダガード子爵の領地だったようだ。

ダガード子爵達は普通に立ち上がることもできず、ドラ美ちゃんの背中から滑り落ちていく。痛そうだが、痛みではなく地面の感触を確かめるように嬉しそうに微笑んでいる。

「じ、地面だぁ……」
「うん、間違いなく地面だ!」
「こんな石っころが愛しいなんて……」
「い、生きて帰ってきたぁ!」
「タンターン!」

えっ、それなに? 名前?

「みんな! 辛い時間は終わった。そして我々は伝説のドラ美様の背中に乗ったのだ。それぞれの家族や一族の誇りとなり、子々孫々まで語られる偉業となろう! 情けない姿を見せるな! 胸を張れ!」

「「「おうっ!」」」

うんうん、ドラゴンライダーになったのは、確かに偉業と言えるだろう!

俺は同じようにドラゴンライダーになったことを喜ぶ彼らが、仲間のように思えてくる。

「ここからどうやって移動すると思う。もう一度ドラ美ちゃんに乗ることになるよ!」

もう一度ドラ美ちゃんに乗れる喜びを見たくて、楽しそうに彼らに伝える。

あれっ、なんでそんな悲しそうな顔を!?

喜んでくれるのかと思ったが、どう見ても絶望の淵に追いやられた人間の表情をしていた。

それから涙を流して懇願してくる彼らを、俺が一人ずつ最寄りの街道まで送っていった。更には馬車まで彼らに貸し与える。

最後にダガード子爵を送り届けると、全員が安心したように抱き合って喜んでいる。

解せぬ!?

「馬車は貸すだけだから返してもらうぞ!」

「もちろんです!」

「それと馬は絶対に傷つけるな。もしなんかあったらピピが悲しむ。何かあったらお前達を許さないからな!」

そこまで話すとフライで飛び上がる。地上で彼らが馬車を返すと叫んでいた気もするが、面倒なのでそのままドラ美ちゃんの所に戻るのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


戻ってくると既にドラ美ちゃんではなくリディアになって待ち構えていた。目をキラキラ輝かせ、期待するような表情で話しかけてきた。

「ご主人様、は、早く膝枕を! ここでしますか!?」

え~と、不穏な感じがするんですけどぉ……。

膝枕ぐらいで、リディアはオークカツを見ている時と同じような欲望の籠った目で俺を見つめてくる。

リディア(初膝枕!? そして二人っきり!)

「そ、外はさすがに……。ルームの中でお願いするよ」

「は、はい、喜んでぇ~!」

う~ん、少し恐いなぁ……。

ルームを開き、手を繋いでリディアと中に入る。握ったリディアの手が熱かった。

ファイアードラゴンだから体温が高いのかな? いや、熱すぎだろう!

握ったリディアの手は、普通の人なら火傷するぐらい熱かった。熱耐性のある俺だから平気な顔をして手を繋げるのである。

ルームに入るとすぐに握った手を離した。リディアは寂しそうな表情をしていたが、これ以上は熱耐性スキルの限界が気になって俺が落ち着かない。

黙ってリビングに向かうとリディアもついてくる。俺がソファに座っても、リディアはモジモジと恥ずかしそうにしている。

リディア(いざとなると恥ずかしい……)

熱湯水枕のような足で膝枕するのかぁ~。

どう考えても拷問のような膝枕になりそうだと悲しくなる。

「あら、思ったより早く戻ってきたのね」

そこにダイニングからアンナが来て声を掛けてきた。

リディア(なんで!?)

「ああ、ドラ美ちゃんが頑張ってくれたからな」

おれは普通に答えたが、リディアは両眼を見開いてアンナを見つめて固まっている。

「良かったわね。リディアはこの後初体験でしょ。さあ、ボーっとしないで、テンマ様に初めてを捧げるのだから、お風呂に入りなさい。それにそんな服装では失礼よ!」

リディア(待って、待って、待ってぇぇぇ!?)

アンナが固まっていたリディアを引きずってお風呂に連れて行った。

う~ん、相変わらずアンナの表現は誤解を受けそうだ……。

そう言えばリディアはあんな体温で風呂は大丈夫なのか?

あれっ、そういえばこれまでもリディアは普通に風呂に入っていた。それに前にリディアに触れた時はどちらかと言うと冷たかった記憶もある。

どゆこと?

あとで判明するのだが、リディアは油断していると感情の起伏で体温が上下に変動するようだ。普段はそれほど意識しなくても自動で調整されているということだ。

2人が風呂に行ってからあることが頭に過る。

ア、アンナが着替えを!?

アンナがリディアの着替えを監修するとなると……。

あ、あの、過激な下着姿かぁ!

思わずソファから立ち上がってキョロキョロ、ウロウロしてしまう。テーブルの周りを意味もなく歩き回ったり、爪を噛んだり、動揺して落ち着きのない行動を始めてしまった。

い、いや、俺っ女《こ》のリディアなら拒絶するだろう!
本当か? あの欲望に満ちた目はアンナに通じるものがある!
ドロテアさんやエリカにも通じるものがあった!
俺は冷静に居られるのか!?

「テンマ様、どうされましたか?」

「ひゃい、なんでもありましぇん!」

動揺して噛みまくる。色々想像している間に時間が経ったのだろう。アンナがリビングに入ってきて声を掛けてきたようだ。

そして、後ろにはメイド服に着替えたリディアがいた。

動揺していたが、期待もしていたようだ……。

がっかりしている自分に驚くのであった。
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