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第10章 ホレック公国
第1話 狂乱の暴食竜
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ホレック公国の国境の村に入り、宿を見つけて普通に泊まることにした。
珍しくバルドーさんも普通に宿に入り、部屋は違うが同じ階に泊まることになった。宿でみんな揃って食事をする。
女性陣は目立たない服にするようにお願いしたのだが、綺麗だから目立っている気がする。
「ちょっと味が濃いです。塩が豊富にあるせいですかねぇ。魚も前の燻製とは少し違います」
ジジは相変わらず料理を研究して楽しそうだ。
「これは干物だね。まだ海が遠いのか塩を多めにしたものだろう。だから味が濃いというか、塩辛い感じなんだね」
俺は説明しながら料理を楽しむ。前にダンジョンで魚を確保した時は、普通に焼いたり燻製にしたりして食べていた。干物は作っていない。
リディアはすでに自分の分を食べてしまい、アンナから分けて貰っている。
アンナにも餌付けされている感じだぁ。
バルドーさんは従業員に色々と追加注文している。従業員がテーブルから離れると、小さな声で話しかけてきた。
「我々を監視している者がいるようです」
それは俺も気付いていた。門を通過してから宿までずっと後を追うようについてきたし、今も離れたテーブルで食事しながら2人でこちらを窺っている。
「なぜですかね?」
バルドーさんに監視されている理由を聞いてみた。
「別に何というわけでないでしょう。初めて見る商人で、商人としては珍しい一行ですからねぇ。念のために様子を窺っているのでしょう」
確かに成人して間もない俺が商人で、執事と2名のメイドを連れていて、A級冒険者が護衛している。明らかに変な商人一行である。
「なら、気にする必要はありませんよね?」
「はい、ですが騒ぎは起こさないようにしてください」
それはリディアぐらいじゃないか?
ジジやアンナは騒ぎを自分から起こすことはないし、俺も基本的に自分から騒ぎを起こした覚えはない。
そんなことを考えていると、騒ぎが向こうからやってきた。少し酔っぱらった冒険者風の男3人がこちらに向かってくる。
「よお、坊ちゃん、綺麗な女の子を独り占めはいけないなぁ」
今回は少し宿の質を落としたことで、面倒な連中もいるようだ。
「食事の邪魔をするんじゃない!」
リディアは俺達を守るためではなく、食事を邪魔されたことを怒っているようだ。
「へへへ、お姉ちゃんが俺達の相手をしてくれるのか?」
確かに今のリディアは冒険者装備を付けていないが、素手でもあのリディアである。彼らの運命は決まったようなものだ。
「リディアさん、A級冒険者のあなたがここで暴れるのは遠慮してください。やるなら外でお願いします」
さすがバルドーさん!
注意するように話しながら、A級冒険者だと相手に分からせている。
「A級!? そ、そんなハッタリをするんじゃねぇ!」
A級冒険者と聞いて動揺したが、リディアが普通の格好だから彼らは信じられないのだろう。
監視者の1人が彼らに近づいて話しかけた。
「おい、止めておけ! 彼女は狂乱の暴食竜と呼ばれる有名なA級冒険者だ。食事中に彼女に絡むと命を落とすぞ!」
え~と、食いしん坊竜として有名なのぉ!?
「きょ、狂乱の暴食竜!!!」
絡んできた冒険者たちは、顔色が悪くなっている。そして、すぐに逃げるように自分達のテーブルに戻っていった。
そして助けてくれた監視の1人が話しかけてきた。
「我々はこの領地の役人です。彼女の事は知っていますが、珍しく同行者がいるので驚いていました。
あなた達が彼女を護衛で雇っていることは確認済みです。できれば先程のような場合は彼女を止めるか、もう少し穏便に済ませてはもらえないでしょうか?」
もしかして、監視されたのはリディアのせいなのぉ~?
俺はバルドーさんに目を向ける。バルドーさんも困った顔をしている。
「リディアさん、久しぶりに私と会う前に、何か問題を起こしていたのですか?」
「お、俺は悪くない! お前と別れてから何かと絡まれることが多くて困ったのは俺の方だ! たまに食事をするために町に来ると、馬鹿が絡んでくるんだ。仕方ないから叩きのめしただけで、別に俺は捕まったこともないぞ!」
リディアは必死に説明した。
「私もそのように聞いています。彼女が自分から問題を起こしている訳ではないと報告はあるのですが、どの町でも彼女が絡む騒ぎが起きているので、念のために警戒していたのです。
今の事も彼女が悪いわけではないと分かっています。ですが、もしあなた達が雇い主や仲間なら、なんとか穏便に済ませるようにして頂けないでしょうか?」
うん、何となくリディアの行動が目に浮かぶ。
腹が減ると、料理の味を知っているリディアは町や村に行ったんだろう。しかし、その度に絡まれて、相手を叩きのめす。特に食事中に絡んだ相手は悲惨な目に遭ったのだろう。そして狂乱の暴食竜という二つ名が付けられたのでは……。
「私も穏便に済まそうと、A級冒険者だと彼らにそれとなく教えたのですが、彼らが信じないとなると実力で排除するしかないと思いますが?」
バルドーさんが説明すると、お役人さんも頷いている。テーブルに戻った冒険者たちは話を聞いていたようで、逃げるように立ち上がると食堂から出ていった。
「そうですか……、できればA級冒険者だけでなく、狂乱の暴食竜と言ってください。そうすればこの辺で絡むものは居ないはずです。赤毛の女性冒険者と知られていますから、相手も気付くと思います」
「わかりました。親切に教えて頂いて助かります。我々も揉め事は望んでいませんので注意します」
バルドーさんがそう答えると、役人だと名乗った監視者は自分のテーブルに戻っていった。
「俺は悪くないんだ。バルドーやドロテアと別れてからは、昔みたいに変な奴に絡まれるようになったんだよ。でもバルドーのように、うまく付き合える奴は居ないし、1人だと絡まれるし……。だから仕方なくあそこに戻っていたんだ!」
確かに可哀想ではある。しかし、ドラゴン種はマイペースな所があるから、人間社会では上手く馴染めないのかもしれないなぁ。
なんとなく性格を変えることは難しいと思う。ハル衛門の事を考えると間違いないだろう。
「リディアさん可哀想……」
優しいジジはリディアに同情しているようだ。
これからはみんなでフォローすれば何とかなるだろう。
それよりも目立たない作戦はすでに崩壊したとみて間違いない。監視も俺達ではなく、リディアが監視対象だったようだ。
テイムしたからこれがずっと続くのかぁ……。
それに狂乱の暴食竜は誰が付けたのだろうか。よく揉めて暴れるから狂乱で、竜のように非常識な食欲を見て誰かが付けたのだろう。
まさか、本当の竜だとは気付かれていないよな!?
不安を感じるホレック公国の1日目だった。
珍しくバルドーさんも普通に宿に入り、部屋は違うが同じ階に泊まることになった。宿でみんな揃って食事をする。
女性陣は目立たない服にするようにお願いしたのだが、綺麗だから目立っている気がする。
「ちょっと味が濃いです。塩が豊富にあるせいですかねぇ。魚も前の燻製とは少し違います」
ジジは相変わらず料理を研究して楽しそうだ。
「これは干物だね。まだ海が遠いのか塩を多めにしたものだろう。だから味が濃いというか、塩辛い感じなんだね」
俺は説明しながら料理を楽しむ。前にダンジョンで魚を確保した時は、普通に焼いたり燻製にしたりして食べていた。干物は作っていない。
リディアはすでに自分の分を食べてしまい、アンナから分けて貰っている。
アンナにも餌付けされている感じだぁ。
バルドーさんは従業員に色々と追加注文している。従業員がテーブルから離れると、小さな声で話しかけてきた。
「我々を監視している者がいるようです」
それは俺も気付いていた。門を通過してから宿までずっと後を追うようについてきたし、今も離れたテーブルで食事しながら2人でこちらを窺っている。
「なぜですかね?」
バルドーさんに監視されている理由を聞いてみた。
「別に何というわけでないでしょう。初めて見る商人で、商人としては珍しい一行ですからねぇ。念のために様子を窺っているのでしょう」
確かに成人して間もない俺が商人で、執事と2名のメイドを連れていて、A級冒険者が護衛している。明らかに変な商人一行である。
「なら、気にする必要はありませんよね?」
「はい、ですが騒ぎは起こさないようにしてください」
それはリディアぐらいじゃないか?
ジジやアンナは騒ぎを自分から起こすことはないし、俺も基本的に自分から騒ぎを起こした覚えはない。
そんなことを考えていると、騒ぎが向こうからやってきた。少し酔っぱらった冒険者風の男3人がこちらに向かってくる。
「よお、坊ちゃん、綺麗な女の子を独り占めはいけないなぁ」
今回は少し宿の質を落としたことで、面倒な連中もいるようだ。
「食事の邪魔をするんじゃない!」
リディアは俺達を守るためではなく、食事を邪魔されたことを怒っているようだ。
「へへへ、お姉ちゃんが俺達の相手をしてくれるのか?」
確かに今のリディアは冒険者装備を付けていないが、素手でもあのリディアである。彼らの運命は決まったようなものだ。
「リディアさん、A級冒険者のあなたがここで暴れるのは遠慮してください。やるなら外でお願いします」
さすがバルドーさん!
注意するように話しながら、A級冒険者だと相手に分からせている。
「A級!? そ、そんなハッタリをするんじゃねぇ!」
A級冒険者と聞いて動揺したが、リディアが普通の格好だから彼らは信じられないのだろう。
監視者の1人が彼らに近づいて話しかけた。
「おい、止めておけ! 彼女は狂乱の暴食竜と呼ばれる有名なA級冒険者だ。食事中に彼女に絡むと命を落とすぞ!」
え~と、食いしん坊竜として有名なのぉ!?
「きょ、狂乱の暴食竜!!!」
絡んできた冒険者たちは、顔色が悪くなっている。そして、すぐに逃げるように自分達のテーブルに戻っていった。
そして助けてくれた監視の1人が話しかけてきた。
「我々はこの領地の役人です。彼女の事は知っていますが、珍しく同行者がいるので驚いていました。
あなた達が彼女を護衛で雇っていることは確認済みです。できれば先程のような場合は彼女を止めるか、もう少し穏便に済ませてはもらえないでしょうか?」
もしかして、監視されたのはリディアのせいなのぉ~?
俺はバルドーさんに目を向ける。バルドーさんも困った顔をしている。
「リディアさん、久しぶりに私と会う前に、何か問題を起こしていたのですか?」
「お、俺は悪くない! お前と別れてから何かと絡まれることが多くて困ったのは俺の方だ! たまに食事をするために町に来ると、馬鹿が絡んでくるんだ。仕方ないから叩きのめしただけで、別に俺は捕まったこともないぞ!」
リディアは必死に説明した。
「私もそのように聞いています。彼女が自分から問題を起こしている訳ではないと報告はあるのですが、どの町でも彼女が絡む騒ぎが起きているので、念のために警戒していたのです。
今の事も彼女が悪いわけではないと分かっています。ですが、もしあなた達が雇い主や仲間なら、なんとか穏便に済ませるようにして頂けないでしょうか?」
うん、何となくリディアの行動が目に浮かぶ。
腹が減ると、料理の味を知っているリディアは町や村に行ったんだろう。しかし、その度に絡まれて、相手を叩きのめす。特に食事中に絡んだ相手は悲惨な目に遭ったのだろう。そして狂乱の暴食竜という二つ名が付けられたのでは……。
「私も穏便に済まそうと、A級冒険者だと彼らにそれとなく教えたのですが、彼らが信じないとなると実力で排除するしかないと思いますが?」
バルドーさんが説明すると、お役人さんも頷いている。テーブルに戻った冒険者たちは話を聞いていたようで、逃げるように立ち上がると食堂から出ていった。
「そうですか……、できればA級冒険者だけでなく、狂乱の暴食竜と言ってください。そうすればこの辺で絡むものは居ないはずです。赤毛の女性冒険者と知られていますから、相手も気付くと思います」
「わかりました。親切に教えて頂いて助かります。我々も揉め事は望んでいませんので注意します」
バルドーさんがそう答えると、役人だと名乗った監視者は自分のテーブルに戻っていった。
「俺は悪くないんだ。バルドーやドロテアと別れてからは、昔みたいに変な奴に絡まれるようになったんだよ。でもバルドーのように、うまく付き合える奴は居ないし、1人だと絡まれるし……。だから仕方なくあそこに戻っていたんだ!」
確かに可哀想ではある。しかし、ドラゴン種はマイペースな所があるから、人間社会では上手く馴染めないのかもしれないなぁ。
なんとなく性格を変えることは難しいと思う。ハル衛門の事を考えると間違いないだろう。
「リディアさん可哀想……」
優しいジジはリディアに同情しているようだ。
これからはみんなでフォローすれば何とかなるだろう。
それよりも目立たない作戦はすでに崩壊したとみて間違いない。監視も俺達ではなく、リディアが監視対象だったようだ。
テイムしたからこれがずっと続くのかぁ……。
それに狂乱の暴食竜は誰が付けたのだろうか。よく揉めて暴れるから狂乱で、竜のように非常識な食欲を見て誰かが付けたのだろう。
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