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第4章 ロンダ騒乱

閑話7 それぞれの思い④

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【アーリン視点】

私は辺境にあるロンダ准男爵家の長女12歳で、あと1ヶ月ほどで13歳になります。今年の11月には王都の貴族学校に行くことが決まっています。

長男の兄は18歳で王都の文官として働いていて、領主になる勉強をしております。そして次男の兄は14歳でロンダ准男爵家の寄親であるシントデン伯爵家で従者をしています。

これからドロテア大伯母様に魔術の勉強と訓練を始めて頂ける事になっています。

幼い頃より、ドロテア大伯母様に魔術の才能があると言われていた私は、早く魔術の勉強や訓練をしたかったのですが、両親は私がドロテア大伯母様と同じように、冒険者になりたがっているのを知り、ギリギリまで魔術の訓練や勉強をさせてくれませんでした。

両親もこれ以上、魔術の勉強や訓練を遅らせると、まともな嫁ぎ先が見つけられなくなるので、迷っているようです。


そんな時にドロテア大伯母様のお屋敷で、ホロホロ鳥を大量に料理して食べるという話が、ザンベルト大叔父様よりお話がありました。

辺境の准男爵家では高価なホロホロ鳥を食べる機会など、お祝いか行事でも無ければありませんし、いただけるとしてもほんの一口ぐらいでしょう。

両親と私は急いで準備して、大伯母様のお屋敷に訪ねると、既にザンベルト大叔父様だけでなく、バロール叔父様まで既に大伯母様と談笑していました。

なぜ大伯母様はウサ耳を?

大伯母様は頭に兎獣人のようなウサ耳を着けているのだが、そのウサ耳は不思議な事に大伯母の表情と連動してピクピクと動いている。

本当のウサ耳みたいで可愛い♪

大伯母様は自慢気に、ホロホロ鳥の料理を知り合いが作っていると話している。

料理をしているのは大伯母様とザンベルト大叔父様の知り合いの冒険者らしい。
そう言えば獣人の見たことのない女の子が3人と、モフモフの白い狼の従魔が一緒に居るのを不思議に思っていました。

時折メイドさんがキッチンに様子を伺いに行って、料理の具合を確認しては報告しに戻って来ます。

ホロホロ鳥が十羽以上!?
初めて見る調理法?
見たこともない料理?
非常に美味しそう!!!

聞いているだけでお腹が空いてきます。料理人?の知り合いの狐獣人の女の子が何か思い出すように呟きました。

「あれは至高の食べ物」

涎を垂らしそうにしながら、思い返しているようでした。

全員の期待が最高潮になると、一人の少年が食堂に入って来ます。

黒髪、黒目の冒険者には見えない少年を見て、正直落胆してしまいました。大伯母様やザンベルト大叔父様が凄いと話していましたが、どう見ても凄いとは思えませんでした。

その少年は食堂の中を見まわすと戸惑った表情をしています。

大伯母様が皆にも食べさせくれと言うと、少し考えてから話をはじめました。
この食事会がそこにいる兎獣人の姉妹の歓迎会と、お世話になる大叔母様の使用人を労うための食事会であり、それを後で来た我々が理解しているのか、それにより食事を減らされる使用人の合意を取っているのか、冷静に聞いてきました。

怒るでもなく、文句をいう訳でもなく、ただ冷静に問い質してきたのです。

大叔母様はすぐに自分が間違いをしていると気が付いて、我々に帰るように話をしました。ザンベルト大叔父様も同じように謝罪しています。

メイドは領主である父に気を使って、チロチロと父の表情を伺っていましたが、父もそれに気が付くとテンマと呼ばれた少年に謝罪して、大叔母様を許すようにお願いをしました。

「それはダメですね。ドロテアさんには罰を受けて貰おうと思っています。どうせ調子に乗って自慢しまくって、引っ込みがつかなくなっただけですよね」

それを聞いて私はムッとしてしまいます。
たしかに大叔母様のしたことは間違いだったのでしょう。でも大叔母様もザンベルト大叔父様も領主である父も謝罪して許しを願い出たのですよ。

なんと心の狭い男なの!

テンマさんは落ち込む大叔母様を見ながら、手元に白いフワフワする物を取り出しました。

収納スキル! あ、あれは何?

「ウサ耳だけではなく、これも付けてください」

そう言って大叔母様に手渡しました。
大叔母様はすぐにその白いフワフワする物を、自分のお尻に付けると、お尻を突き出してピクピク動くのを確認しています。

ウサ尻尾!? お、大叔母様、その姿勢は恥ずかしいです!?

テンマさんは嬉しそうに大叔母様を見て、すぐにメイド達に料理を渡し始めました。

なにも我々の目の前でそんな事……。

大叔母様の罰に少し彼の事を見直しかけたのに……。

「たくさん作ったので、皆さんにもご馳走しますよ」

彼は素敵な人だと思います!

それからは驚きの連続でした。
料理を並べ始めると大叔母様の分だけサラダにして意地悪したり、食べたことのない料理の美味しさに全員が無言で食べ続けたり、無くなったと思うとすぐに収納から次々と料理を出したりと、私の想像もしなかったことが目の前で起こり続けました。

食事が終わると皆で応接室に移動してお茶を飲むことになりました。

私は大叔母様のウサ耳を欲しいとテンマさんにお願いすると。私に似合う耳を特別に作ってくれる約束をして下さいました。

大叔母様は私の魔術の訓練を、テンマさんにお願いするように両親を説得して、お許しを頂いたようです。

私は森の中の拠点と聞いて少し怖いと思いましたが、あの大叔母様を子ども扱いするテンマさんに興味が引かれたので決意を固めます。

すぐに出立する準備を用意すると、テンマさんは用意した荷物をすべて収納してしまいました。

収納の容量も驚異的ね♪

大叔母様が出立には時間が遅いので、翌日にするように提案しましたが、テンマさんは笑顔で問題ないと簡単に答えていました。

不安になりながらも大叔母様もいると思いついて行くと、町から15分ほどの誰も居ない場所に着くと、テンマさんは突然目の前に扉を魔法で出しました。

移動中に仲良くなったミーシャさんは、当たり前のように従魔のシルと中に入って行く。大叔母様も驚きに混乱していましたが、テンマさんに促されて中に入っていきました。

そこには石造りの家が建っており、テンマさんは我々の混乱を気にすることなく、ミーシャさんに私達を部屋へ案内させました。

テンマさんは凄い人のようだ♪

大叔母様やザンベルト大叔父様が話していた以上に凄い人だと感じていました。

ただ夕食を食べている時に、仲良くなったミーシャさんのお話を聞くと少し不安になる。

「訓練の時のテンマは人じゃない! オーガだと思って!」

その晩は久しぶりに大叔母様と同じベッドで就寝しました。


翌朝は5時前にミーシャさんが起こしに来ると、

「D研唯一の癒しの風呂に入る」

と宣言されました。
風呂など我が家でも1月に1回か2回しか入ることは出来ないのに、こんな朝早く入れるのかと心配になりましたが、テンマさんはさらに驚きのルームに案内してくれました。

中に入ると今度は訓練用の指輪の魔道具を渡してくれ、その中には約束したケモミミと着替えが入っているというお話です。

風呂は驚くほどの広さと魔道具で溢れていて、リンスを使うと信じられないほど髪の毛が艶やかになりました。

着替えを指輪から取り出すと、少しサイズが大きいと思いましたが、さすがに仕方ないと思いました。しかし着るとサイズが自動でちょうど良い大きさに変化して、肌触りも良く、デザインも好きな感じだったので最高です。

私はテンマ先生を素晴らしい、想像を超越した人と感動していました。

しかし、大叔母様が遅れて着替えて出て来ると、テンマ先生は大叔母様の胸をだらしない顔で見ていたので大減点です。

大叔母様がお帰りになると、ミーシャさんの言っていたオーガが顔を出しました。

テンマ先生は涼しい顔で毒薬や麻痺薬を飲めと言い、その状態で魔力枯渇をさせろと言うのです。後はよろしくとミーシャさんに笑顔で話すと、どこかに行ってしまいました。

ミーシャさんの言った通り、テンマ先生はオーガそのものだったようです。


【異世界転生局 案内嬢視点】

私は査問部屋の被査問人として部屋の中央に立たされている。

なんで、また呼び出されるのよ~!

それもこの前は会議室で、最近転生させて直ぐに亡くなった8人の事を説明したが、もっと丁寧に案内するように注意を受けたが、問題は無いと結論が出たはずでしょ。

さ、査問なんてありえない!

思わず頭の中で不満を爆発させる。

「ほ~お、査問を受けるなど「ありえない」と思っているのか?」

正面の少し高い所から、私を見下ろしている人が声を掛けてきた。

「ああっ!」

そう言われて、この査問部屋の事を思い出す。
被査問人は考えている事がすべて査問官に伝わることを……。

「その通りだよ。それに先日話を聞いた、8人の転生者の事は関係ないので安心してくれ」

それなら、なんで呼び出すのよぉ!

「最後に案内した転生者の事だよ」

最後? あっ、不味いかも!

「不味いと認識はあるようだな」

考えるな! 考えるな! かんが…、いや、どうせ隠せない!

「確かに不味いと思ってましたわ! でも、一方的に私が責められるのは納得できません!
まず責められるのは上司だと思います。
転生者の案内中に何度も連絡をしてきて。上司にも直接言いましたが、規則では転生候補者への説明が最優先のはずです!
それで説明が不十分だと言われても困ります」

どうせ誤魔化せないなら、私の文句も言わせてもらおう!

「根本的に転生候補者の選定の方法や、研修システムに問題があるんじゃないですか?
それを、案内をするだけの私達に、責任を押し付けているのは、上司やその上の方たちではないですか!」

これまで我慢してきた不満をぶちまけて、少しだけ気持ちが晴れる。

「ふむ、その意見は面白いと思うが、今回はそのことは関係ない」

ええっ! だったら何よ!

「研修施設は異世界転生局が用意して、転生先の管理者(神)が構築した仮想空間であることは知っているな?」

そんなの、当然知っているわよ!

「仮想空間を管理しやすいように、設定で異世界転生局と仮想空間の時間な流れを調整できることは知っているな?」

もちろん、知っているはよ! 知らないはずないでしょ! あっ!

「研修候補者が研修中は、異世界転生局の時間を1時間にして、仮想空間内の時間を1ヶ月に設定することが普通だと聞いている。
そうすることで、研修候補者が3ヶ月研修しても、異世界転生局では3時間しか時間が経過しないので管理がしやすく、沢山の転生候補者の処理が早くできる」

そんな事は理解してる。でもあの時は……。

「もちろん知っています。確かに最後の転生候補者の時に15時間ほど放置してしまいました。
でも、それって、私が悪いんですか!?
規則では転生候補者への対応が最優先のはずなのに、説明と言う名の拷問をしてきた、あの人たちが悪いんじゃないですかぁ!
なんでも下っ端の私達のせいにして、文句だけ言うのは卑怯じゃないですか!」

どうせ罰を受けるのだから、徹底的に不満をぶつけてやるわよ!

「たしかに15時間放置した経緯については、我々も把握はしている。しかし、問題はそれを報告していない事だ!
それに、転生候補者の適性の審査はしたのか?
研修終了後に転生して問題がないか検証して、問題があれば報告することになっているはずだな」

確かに15時間放置したことは報告していない。

でもあの会議の後に報告などできるわけないじゃない!

「転生候補者の適性については、確かに適性は低かったと思います。レベル10になるまでに10ヶ月も掛かったようなので、でも結果的に15ヶ月も研修したことで、転生候補者として問題ない能力を確保できたと判断しました。
能力的に問題があった場合に、研修期間を延長して対処したことは、これまでにもやってきたことじゃないですか!?
たしかに上司の確認はしていないし、報告はしていませんが、一方的に私が責められるのは納得できません!」

言ってやったわ! もうどうにでもなれ!

「本当に自分がしたことを理解していないようだな」

どういうこと? 他になんかしたのかしら?

「お前は異世界転生局の時間を1時間にして、仮想空間内の時間を1年に設定していたのだ」

ええっ、1ヶ月でなく1年……。

「だから転生候補者は15年も研修施設内で過ごしたのだ。それに転生候補者は自分の意志で10年間レベルアップをしなかったのだ」

な、なんで!

「転生候補者はレベルアップしないで、研修施設を破壊できるほどの実力をつけていたのだ!
警告が出ていなかったか? 研修施設が大きく破壊されると警告が出ていたはずだ。
転生前に転生候補者の能力を確認しなかったのか?
確認していれば、転生先の世界を破滅に追い込むほどの、能力があることもわかったはずだ」

えっ、えええええーーーーー!

私は取り返しのつかないミスをしたのを、この時に初めて認識したのであった。
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