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eruption
The invader is in the night ⑨
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「さて、これからどうする?」
俺が安堵したからか、魔法 (?)の籠手が薄っすらと消えたのを見つつ、俺はレイラに訊いた。
「このまま家に帰れるのがベストなのだけれど、すんなり帰してはもらえないでしょうね。なお悪いことに、キースはいま大規模な魔術を構築しているみたいね」
「時間がないってことか……」
キースが何をしようとしているのかは不明だが、少なくとも俺たちにとって害を為すことだろうとは想像に難くない。
すぐに止めさせないといけない。
「作戦を練る暇はないわ。その子も連れて行きましょう。キースが何を仕掛けているかわからないもの。目に見えるところにいてくれた方が、逆にリスクヘッジになるわ」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ふむ。存外に早かったなレイラ。それに、パートナーの坊や」
展開についていけていない聖の手を引いて、校門前にたどり着いた俺とレイラを待ち受けていたのは、当然ながらキースだった。
「……っ‼︎」
絶句するとは、正にこの事だろう。
俺たちの目の前には今までで最大の異様な光景が広がっていたからだ。
キースは確かに校門の前にいた。だが声は十メートルほど上空から聞こえてきた。
風船のごとく浮遊しているわけではなく、かと言ってキースが巨大化しているわけでもない。
単純に彼は、十メートルほどの足場に立っているだけだ。
ただ、その足場が巨大な蛇だった。
白く艶かしく光る鱗は、照明を反射して妖しく輝き、爬虫類独特の縦長の瞳は、明らかに俺たちをロックオンしていた。
頭部だけでも大型のワゴンくらいはあるだろう。そこから伸びる胴回りは、大人五人が手をつないで輪を作るほどに太い。とぐろを巻いているので全長が何メートルになるのかは計り知れないが、この胴体で軽く一巻きされただけでも、樫の木など脆く折れてしまうだろう。
チロチロと口から覗く舌が、青白い鱗と相俟って血のように赤く見えた。
「……驚いたわ。まさかこんな短時間で召喚魔術を発動させるなんて」
どうやらレイラは、俺と聖とは別の理由で言葉を失っていたようだ。
「人は成長するものだよ、レイラ。人類は創意工夫を繰り返して繁栄し、様々な道具を生み出してきた。文明の利器とは素晴らしいものだ」
言葉とは裏腹にどこか憂いを滲ませた表情で、キースはコートのポケットから小型の端末を取り出す。
「あれは……スマートフォン?」
胡乱げに眉根を寄せてレイラは呟いた。
齧られたリンゴのマークでおなじみの、あのスマホだ。
「いまや魔術もデジラルの時代だよ。とはいえ、利点が生かせるのは今のところ召喚魔術だけだが」
小馬鹿にしたようにスマホをひらひらと振り、キースは再びスマホをポケットに仕舞った。
「時に坊や、取引をしないか?」
「んぁ?」
まさかここで俺に、しかもキースから話を振られようとは予想していなかった為、間抜けな声を出してしまった。
「理由はわからないが、どうやら君はレイラを手伝っているだけだろう? どうだ、俺たちと組まないか? 金ならば倍は出そう。それに俺たちと組めば、世界中の錚々たるプレイヤー、プロデューサーを紹介してやることもできるぞ?」
「キース、馬鹿なことを言わないで。ゲンキ、話を聞いてはダメよ」
レイラが割り込んでくるが、それには構わずキースは勧誘を続ける。
「何より君の才能は魅力的だ。魔術の素養もあるし、ギターのテクニック、トーンはとてもティーンエイジャーとは思えない。どうだろう、悪い条件ではないと思うが」
大仰に両腕を広げ、芝居じみた仕草で語るキース。
だが俺はどんなに良い条件を提示されても乗るつもりは無い。
何故なら───
「何あいつ。アタシのことは無理やり拉致ろうとしたのに」
そうだ。あいつは聖や学校のみんなに危害を加えた人間なのだから。自称プロディーサーで魔法使いのレイラも胡散臭さではどっこいだが、危険度ではキースの方が格段に上だ。
何より俺はキースを許せなかった。
こいつはここで何としても止めなければ、禍を広げることになるだろう。。
「あんた、分かりやすい悪役だな。悪いけど、今時の高校生は、悪ぶって格好つける奴は少ないんだ」
上空にいるキースを睨めつけ、遠回しに断る。
「ふむ。まぁ仕方ないか」
話は終わりとばかりにキースはスネアを連打させた。
俺の視界の端で、何かが動いた。
白蛇の尾だ。
巨大な鞭、いや巨木がしなって迫ってきたと思った。
「危ない!」
俺とレイラは全く反応できなかったが、すんでのところで聖が俺とレイラの襟首を掴んで弾き倒した。
俺のスニーカーのつま先十センチ先の地面を、白蛇の尾が打ち据えた。
学園のメインストリート。そのコンクリートが窪み、小さくはないクレーターを作った。
もし当たっていれば、全身骨折。即死は免れないだろう。
尾は往路とは打って変わり、ずるずると勿体振るように戻っていく。
またやるつもりだ。直感的に俺は確信した。
回避するために立ち上がらなければならない。
だが、情けないことに俺の身体は恐怖ですくみ上がり、微動だにすることができなかった。
白蛇が尾を振り上げる。
もう終わりだ。
そう覚悟した時、鱗の白とは別の、白い何かが俺の視界を遮った。
無垢な純白のワンピース。
レイラが俺と聖をかばうように立っていた。
俺が安堵したからか、魔法 (?)の籠手が薄っすらと消えたのを見つつ、俺はレイラに訊いた。
「このまま家に帰れるのがベストなのだけれど、すんなり帰してはもらえないでしょうね。なお悪いことに、キースはいま大規模な魔術を構築しているみたいね」
「時間がないってことか……」
キースが何をしようとしているのかは不明だが、少なくとも俺たちにとって害を為すことだろうとは想像に難くない。
すぐに止めさせないといけない。
「作戦を練る暇はないわ。その子も連れて行きましょう。キースが何を仕掛けているかわからないもの。目に見えるところにいてくれた方が、逆にリスクヘッジになるわ」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ふむ。存外に早かったなレイラ。それに、パートナーの坊や」
展開についていけていない聖の手を引いて、校門前にたどり着いた俺とレイラを待ち受けていたのは、当然ながらキースだった。
「……っ‼︎」
絶句するとは、正にこの事だろう。
俺たちの目の前には今までで最大の異様な光景が広がっていたからだ。
キースは確かに校門の前にいた。だが声は十メートルほど上空から聞こえてきた。
風船のごとく浮遊しているわけではなく、かと言ってキースが巨大化しているわけでもない。
単純に彼は、十メートルほどの足場に立っているだけだ。
ただ、その足場が巨大な蛇だった。
白く艶かしく光る鱗は、照明を反射して妖しく輝き、爬虫類独特の縦長の瞳は、明らかに俺たちをロックオンしていた。
頭部だけでも大型のワゴンくらいはあるだろう。そこから伸びる胴回りは、大人五人が手をつないで輪を作るほどに太い。とぐろを巻いているので全長が何メートルになるのかは計り知れないが、この胴体で軽く一巻きされただけでも、樫の木など脆く折れてしまうだろう。
チロチロと口から覗く舌が、青白い鱗と相俟って血のように赤く見えた。
「……驚いたわ。まさかこんな短時間で召喚魔術を発動させるなんて」
どうやらレイラは、俺と聖とは別の理由で言葉を失っていたようだ。
「人は成長するものだよ、レイラ。人類は創意工夫を繰り返して繁栄し、様々な道具を生み出してきた。文明の利器とは素晴らしいものだ」
言葉とは裏腹にどこか憂いを滲ませた表情で、キースはコートのポケットから小型の端末を取り出す。
「あれは……スマートフォン?」
胡乱げに眉根を寄せてレイラは呟いた。
齧られたリンゴのマークでおなじみの、あのスマホだ。
「いまや魔術もデジラルの時代だよ。とはいえ、利点が生かせるのは今のところ召喚魔術だけだが」
小馬鹿にしたようにスマホをひらひらと振り、キースは再びスマホをポケットに仕舞った。
「時に坊や、取引をしないか?」
「んぁ?」
まさかここで俺に、しかもキースから話を振られようとは予想していなかった為、間抜けな声を出してしまった。
「理由はわからないが、どうやら君はレイラを手伝っているだけだろう? どうだ、俺たちと組まないか? 金ならば倍は出そう。それに俺たちと組めば、世界中の錚々たるプレイヤー、プロデューサーを紹介してやることもできるぞ?」
「キース、馬鹿なことを言わないで。ゲンキ、話を聞いてはダメよ」
レイラが割り込んでくるが、それには構わずキースは勧誘を続ける。
「何より君の才能は魅力的だ。魔術の素養もあるし、ギターのテクニック、トーンはとてもティーンエイジャーとは思えない。どうだろう、悪い条件ではないと思うが」
大仰に両腕を広げ、芝居じみた仕草で語るキース。
だが俺はどんなに良い条件を提示されても乗るつもりは無い。
何故なら───
「何あいつ。アタシのことは無理やり拉致ろうとしたのに」
そうだ。あいつは聖や学校のみんなに危害を加えた人間なのだから。自称プロディーサーで魔法使いのレイラも胡散臭さではどっこいだが、危険度ではキースの方が格段に上だ。
何より俺はキースを許せなかった。
こいつはここで何としても止めなければ、禍を広げることになるだろう。。
「あんた、分かりやすい悪役だな。悪いけど、今時の高校生は、悪ぶって格好つける奴は少ないんだ」
上空にいるキースを睨めつけ、遠回しに断る。
「ふむ。まぁ仕方ないか」
話は終わりとばかりにキースはスネアを連打させた。
俺の視界の端で、何かが動いた。
白蛇の尾だ。
巨大な鞭、いや巨木がしなって迫ってきたと思った。
「危ない!」
俺とレイラは全く反応できなかったが、すんでのところで聖が俺とレイラの襟首を掴んで弾き倒した。
俺のスニーカーのつま先十センチ先の地面を、白蛇の尾が打ち据えた。
学園のメインストリート。そのコンクリートが窪み、小さくはないクレーターを作った。
もし当たっていれば、全身骨折。即死は免れないだろう。
尾は往路とは打って変わり、ずるずると勿体振るように戻っていく。
またやるつもりだ。直感的に俺は確信した。
回避するために立ち上がらなければならない。
だが、情けないことに俺の身体は恐怖ですくみ上がり、微動だにすることができなかった。
白蛇が尾を振り上げる。
もう終わりだ。
そう覚悟した時、鱗の白とは別の、白い何かが俺の視界を遮った。
無垢な純白のワンピース。
レイラが俺と聖をかばうように立っていた。
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