13 / 203
chapter※02※※※※※※※
しおりを挟む
「別の者から返信させていただいたのは業務を分担しているためで他意はございません」
「では、あのメールで私の基礎化粧品を置いていただける可能性はないと?」
「…現時点では、そういうことになります」
「すべての部屋ではなくラグジュアリーなお部屋の少し高価なアメニティグッズとして置いていただけるかと考えているのですが」
「もう世界共通の物を配置しておりますので…」
「どこのブランドですか?」
勢いよく聞かれた言葉に蜷川さん…ややこしいので美鳥さんと言おう…が口を閉じた。そして
「私は商談する立場にありませんので控えさせて頂きます」
とても静かに言うと美しく腰を折って見せた。完璧だ。
言葉も仕草も今の状況で最善だろう。
「控えさせてって、ブランド名を言うだけがダメなの?」
「…申し訳ございません。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?出来ればお名刺をいただけるとありがたいです。今日のご訪問を報告致しますので」
「…っ………」
佐井という女性はハッと小さく息を飲んでから俺たちにも名刺を配った。
渡されると交換することになる。
「佐井さん、私の妻が佐井さんを見ていることがあるので私は存じ上げておりますが…ビジネスの手法としてはまずくありませんか?今のお話ですと、あなたはこのホテルのアメニティのリサーチなしでメールだけを送りつけ、思うような返事でないとアポ無しで押し掛ける。強引過ぎると思いますよ?もちろんこれは蜷川様ではなく私個人の考えですが」
谷川がイライラを隠して言うと
「ありがとうございます、谷川さん。このあとお食事でもいかがですか?もう少しビジネスのご指導をいただけると嬉しいです」
佐井が谷川と俺を交互に見る。
綺麗だが、満面の笑みでシワがないのは不自然だと佐井の目元を見ながら
「いえ、私どもはもう少し蜷川さんと仕事の話がありますので。それにビジネスの指導なんてできませんよ。コンサルティング会社を探された方がいいと思います」
そう言い美鳥さんに視線を送ると、意図がわかったらしい彼女が
「では、佐井さん失礼致します。柏木さん谷川さん、こちらへ」
と歩き始めた。
俺たち二人も佐井へ一礼すると美鳥さんについて歩き始める。
客室へ上がるエレベーターを素通りして突き当たりまで行くと、staff onlyと書かれた扉に美鳥さんはカードをかざした。
「いえ、ここでいいです。私どももアポ無しでご挨拶だけのつもりでしたから部屋に通して頂くほどのこともないんです」
「助かりました。ありがとうございます」
「イギリスにおられたんですか?」
「ええ、24年の人生で12年ずつ、イギリスと日本です」
「だからあの言葉ですか…日本人は察することで会話が進んで会話が終了すると聞いていた、と」
「ええ…ますます精進します…使い方合ってますか?」
「「合ってます」」
「ふふっ、息ぴったりですね。今日のご挨拶の報告は助けて頂いたことと合わせて報告します。わざわざお立ち寄り下さりありがとうございました」
「いえ、こちらこそ夕刻に失礼致しました。では試飲会で」
「また何かあればメールさせて頂きます」
「よろしくお願いいたします」
メールだけのやり取りで当日を迎えるよりも絶対にいい。
宴会場の予約をした時点で長いテーブルの数だけ指定している。
もちろんグラスの準備も頼んである。
あとは、イベント会場のように白いクロスを敷いてワインを提供するだけだ。
見込んでいた人数には今日もらった連絡で達している。
「頭のいい子だね、蜷川さん。ややこしいな、美鳥さん」
「谷川もそう思うか?」
「思うね。年齢からしてせいぜい秘書2年だろ?それであの場面でブランド名を言わなかった…やるなと思ったよ」
「それで加勢した?」
「そう、秘書仲間を助けた」
運転席のシートベルトを装着しながら笑う谷川に
「チャーミングな女性だと思ったよ」
と言うと、谷川はシートベルトをグーっと最長に伸ばす勢いで俺を振り返り
「佐井さん?」
と悪い顔で言う。
「数分前に人を助けた奴と思えない顔だ」
「冗談のわからない奴はモテないぞ」
「ふっ…彼女…美鳥さん、俺を睨んでた」
「お前が意地悪な質問をした時な」
「あの時の彼女はとても魅力的だった」
「ああして‘素’が出るんだろうね。考えながら日本語でビジネスの会話をしているようだったから」
「大人の日本語を理解する前に英語ですべてをマスターすると、言葉も考え方も日本人のものとは違ってくるかもしれないな」
「惚れた?」
「いや」
「これから?」
「いや…未確定です」
「ははっ…未確定の言葉通りですか?」
「そうだ」
そう答えながら美鳥さんの俺を睨んでいた顔を思い出していた。
「では、あのメールで私の基礎化粧品を置いていただける可能性はないと?」
「…現時点では、そういうことになります」
「すべての部屋ではなくラグジュアリーなお部屋の少し高価なアメニティグッズとして置いていただけるかと考えているのですが」
「もう世界共通の物を配置しておりますので…」
「どこのブランドですか?」
勢いよく聞かれた言葉に蜷川さん…ややこしいので美鳥さんと言おう…が口を閉じた。そして
「私は商談する立場にありませんので控えさせて頂きます」
とても静かに言うと美しく腰を折って見せた。完璧だ。
言葉も仕草も今の状況で最善だろう。
「控えさせてって、ブランド名を言うだけがダメなの?」
「…申し訳ございません。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?出来ればお名刺をいただけるとありがたいです。今日のご訪問を報告致しますので」
「…っ………」
佐井という女性はハッと小さく息を飲んでから俺たちにも名刺を配った。
渡されると交換することになる。
「佐井さん、私の妻が佐井さんを見ていることがあるので私は存じ上げておりますが…ビジネスの手法としてはまずくありませんか?今のお話ですと、あなたはこのホテルのアメニティのリサーチなしでメールだけを送りつけ、思うような返事でないとアポ無しで押し掛ける。強引過ぎると思いますよ?もちろんこれは蜷川様ではなく私個人の考えですが」
谷川がイライラを隠して言うと
「ありがとうございます、谷川さん。このあとお食事でもいかがですか?もう少しビジネスのご指導をいただけると嬉しいです」
佐井が谷川と俺を交互に見る。
綺麗だが、満面の笑みでシワがないのは不自然だと佐井の目元を見ながら
「いえ、私どもはもう少し蜷川さんと仕事の話がありますので。それにビジネスの指導なんてできませんよ。コンサルティング会社を探された方がいいと思います」
そう言い美鳥さんに視線を送ると、意図がわかったらしい彼女が
「では、佐井さん失礼致します。柏木さん谷川さん、こちらへ」
と歩き始めた。
俺たち二人も佐井へ一礼すると美鳥さんについて歩き始める。
客室へ上がるエレベーターを素通りして突き当たりまで行くと、staff onlyと書かれた扉に美鳥さんはカードをかざした。
「いえ、ここでいいです。私どももアポ無しでご挨拶だけのつもりでしたから部屋に通して頂くほどのこともないんです」
「助かりました。ありがとうございます」
「イギリスにおられたんですか?」
「ええ、24年の人生で12年ずつ、イギリスと日本です」
「だからあの言葉ですか…日本人は察することで会話が進んで会話が終了すると聞いていた、と」
「ええ…ますます精進します…使い方合ってますか?」
「「合ってます」」
「ふふっ、息ぴったりですね。今日のご挨拶の報告は助けて頂いたことと合わせて報告します。わざわざお立ち寄り下さりありがとうございました」
「いえ、こちらこそ夕刻に失礼致しました。では試飲会で」
「また何かあればメールさせて頂きます」
「よろしくお願いいたします」
メールだけのやり取りで当日を迎えるよりも絶対にいい。
宴会場の予約をした時点で長いテーブルの数だけ指定している。
もちろんグラスの準備も頼んである。
あとは、イベント会場のように白いクロスを敷いてワインを提供するだけだ。
見込んでいた人数には今日もらった連絡で達している。
「頭のいい子だね、蜷川さん。ややこしいな、美鳥さん」
「谷川もそう思うか?」
「思うね。年齢からしてせいぜい秘書2年だろ?それであの場面でブランド名を言わなかった…やるなと思ったよ」
「それで加勢した?」
「そう、秘書仲間を助けた」
運転席のシートベルトを装着しながら笑う谷川に
「チャーミングな女性だと思ったよ」
と言うと、谷川はシートベルトをグーっと最長に伸ばす勢いで俺を振り返り
「佐井さん?」
と悪い顔で言う。
「数分前に人を助けた奴と思えない顔だ」
「冗談のわからない奴はモテないぞ」
「ふっ…彼女…美鳥さん、俺を睨んでた」
「お前が意地悪な質問をした時な」
「あの時の彼女はとても魅力的だった」
「ああして‘素’が出るんだろうね。考えながら日本語でビジネスの会話をしているようだったから」
「大人の日本語を理解する前に英語ですべてをマスターすると、言葉も考え方も日本人のものとは違ってくるかもしれないな」
「惚れた?」
「いや」
「これから?」
「いや…未確定です」
「ははっ…未確定の言葉通りですか?」
「そうだ」
そう答えながら美鳥さんの俺を睨んでいた顔を思い出していた。
50
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜
湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」
「はっ?」
突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。
しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。
モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!?
素性がバレる訳にはいかない。絶対に……
自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。
果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる