10 / 203
chapter※02※※※※
しおりを挟む
「ただいま。今日は酢豚定食でーす」
食欲をそそるいい匂いだ。
デスクではなくソファーの前のテーブルにワゴンから酢豚やご飯、味噌汁…
「これ何かな?サラダ?」
小鉢の中身はブロッコリーとゆで玉子のようだった。
1食分を手早く写真に撮ると冴子さんに送る。
メッセージはなくただ写真だけだが
「美鳥様、ありがとうございます」
「いえ、西田さんの健康は私にとっても朱鷺にとっても大切ですから」
西田さんと一緒にお昼を食べる時には、西田さんが何を食べたか冴子さんに知らせるのがこの半年の日課だ。
私の帰国時に蜷川の仕事を辞めた冴子さんとは定期的に連絡を取り、会うこともある。
そして前回の健康診断結果で西田さんのコレステロール値が少し上がったことを気にしているとおっしゃったので写真を送ることにした。
まだ何も制限はないのだが、今年60歳の西田さんの健康を気づかい、冴子さんは昼食を見てから夕食を作っている。
「今夜はあっさり和食でしょうね…いただきます」
西田さんの言葉に
「私もあっさり和食にすべきですね、ふふっ…いただきます」
私も手を合わせてから箸を持つ。
朱鷺はキリが悪いのかまだデスクにいるが気にしない。
私たちも私たちのペースで仕事をするだけだ。
「美味しい」
「美鳥様は豚肉がお好きですからね」
「牛肉も好きだけど…基本、豚好き。帰国して良かったことは食よね?」
「そうですね。美鳥様は12年間一度も日本に帰っておられないので、まだまだ食べていらっしゃらない美味しいものがあると思いますよ?」
「ほんと…帰国してたった2年ですもの」
「朱鷺様、遠藤支配人の引き上げをお急ぎになって下さい」
「ああ」
遅れてソファーに座った朱鷺に西田さんがすかさず言う。
食事中も仕事の話が多いのは仕方のないことだ。
西田さんがあと5年で引退すると決めておられるので、朱鷺付きの育成をしたいというのが西田さんの意向だ。
私は秘書ということで働いてはいるが、あくまでもCEOの秘書であり、蜷川当主付きは西田さんだ。
「あと3ヶ月」
「それなら許容範囲内です」
遠藤さんは蜷川の使用人として2年働いたあとホテルに移り、40歳で総支配人になった人物だ。
その遠藤さんが西田さんのお眼鏡にかなったわけだ。
現在42歳…朱鷺より一回り上で、私も総支配人の彼とやり取りをすることがあるが非常に頼りになる人である。
こうして常に先々を考えておかなければ大企業の未来はない。
朱鷺もおじい様からそう聞いていたらしい。
「あっ…朱鷺、食事中にごめんなさい」
「いい、何?」
一足先に業務に戻った私は1通のメールを受け取った。
「オークワイナリーからもうメールが来たの」
「何て?」
「Ninagawa Queen's Hotelの宴会場1室を予約したいって…そこでホテル直営の料飲部門や宴会部門の担当者と全国のNinagawa Queen's Hotelに入っているレストランの担当者に試飲会を開きたい。そういう目的での予約は可能かという問い合わせです」
「やるな、オークワイナリーの販路拡大担当者は…日時をこちらが指定してもいいなら、その提案をそのまま受ける」
「そうお伝えします」
「美鳥様、差出人の名前はどなたになってましたか?」
「えっと…柏木龍之介さんです」
「ああ、柏木ということはご当主のご子息でしょうね。柏木家も蜷川と同じく長く続くお家柄です。朱鷺様、メールの返信をされたのは賢明なご判断でした」
なるほど…企業同士としての付き合いも、社交的な場に立つ者としての付き合いも必要な相手だということか。
私もちゃんと覚えなくちゃ…柏木龍之介。
食欲をそそるいい匂いだ。
デスクではなくソファーの前のテーブルにワゴンから酢豚やご飯、味噌汁…
「これ何かな?サラダ?」
小鉢の中身はブロッコリーとゆで玉子のようだった。
1食分を手早く写真に撮ると冴子さんに送る。
メッセージはなくただ写真だけだが
「美鳥様、ありがとうございます」
「いえ、西田さんの健康は私にとっても朱鷺にとっても大切ですから」
西田さんと一緒にお昼を食べる時には、西田さんが何を食べたか冴子さんに知らせるのがこの半年の日課だ。
私の帰国時に蜷川の仕事を辞めた冴子さんとは定期的に連絡を取り、会うこともある。
そして前回の健康診断結果で西田さんのコレステロール値が少し上がったことを気にしているとおっしゃったので写真を送ることにした。
まだ何も制限はないのだが、今年60歳の西田さんの健康を気づかい、冴子さんは昼食を見てから夕食を作っている。
「今夜はあっさり和食でしょうね…いただきます」
西田さんの言葉に
「私もあっさり和食にすべきですね、ふふっ…いただきます」
私も手を合わせてから箸を持つ。
朱鷺はキリが悪いのかまだデスクにいるが気にしない。
私たちも私たちのペースで仕事をするだけだ。
「美味しい」
「美鳥様は豚肉がお好きですからね」
「牛肉も好きだけど…基本、豚好き。帰国して良かったことは食よね?」
「そうですね。美鳥様は12年間一度も日本に帰っておられないので、まだまだ食べていらっしゃらない美味しいものがあると思いますよ?」
「ほんと…帰国してたった2年ですもの」
「朱鷺様、遠藤支配人の引き上げをお急ぎになって下さい」
「ああ」
遅れてソファーに座った朱鷺に西田さんがすかさず言う。
食事中も仕事の話が多いのは仕方のないことだ。
西田さんがあと5年で引退すると決めておられるので、朱鷺付きの育成をしたいというのが西田さんの意向だ。
私は秘書ということで働いてはいるが、あくまでもCEOの秘書であり、蜷川当主付きは西田さんだ。
「あと3ヶ月」
「それなら許容範囲内です」
遠藤さんは蜷川の使用人として2年働いたあとホテルに移り、40歳で総支配人になった人物だ。
その遠藤さんが西田さんのお眼鏡にかなったわけだ。
現在42歳…朱鷺より一回り上で、私も総支配人の彼とやり取りをすることがあるが非常に頼りになる人である。
こうして常に先々を考えておかなければ大企業の未来はない。
朱鷺もおじい様からそう聞いていたらしい。
「あっ…朱鷺、食事中にごめんなさい」
「いい、何?」
一足先に業務に戻った私は1通のメールを受け取った。
「オークワイナリーからもうメールが来たの」
「何て?」
「Ninagawa Queen's Hotelの宴会場1室を予約したいって…そこでホテル直営の料飲部門や宴会部門の担当者と全国のNinagawa Queen's Hotelに入っているレストランの担当者に試飲会を開きたい。そういう目的での予約は可能かという問い合わせです」
「やるな、オークワイナリーの販路拡大担当者は…日時をこちらが指定してもいいなら、その提案をそのまま受ける」
「そうお伝えします」
「美鳥様、差出人の名前はどなたになってましたか?」
「えっと…柏木龍之介さんです」
「ああ、柏木ということはご当主のご子息でしょうね。柏木家も蜷川と同じく長く続くお家柄です。朱鷺様、メールの返信をされたのは賢明なご判断でした」
なるほど…企業同士としての付き合いも、社交的な場に立つ者としての付き合いも必要な相手だということか。
私もちゃんと覚えなくちゃ…柏木龍之介。
37
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
冷たい外科医の心を溶かしたのは
みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。
《あらすじ》
都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。
アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。
ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。
元々ベリカに掲載していました。
昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる