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chapter※02※※※※

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「ただいま。今日は酢豚定食でーす」

食欲をそそるいい匂いだ。
デスクではなくソファーの前のテーブルにワゴンから酢豚やご飯、味噌汁…

「これ何かな?サラダ?」

小鉢の中身はブロッコリーとゆで玉子のようだった。
1食分を手早く写真に撮ると冴子さんに送る。
メッセージはなくただ写真だけだが

「美鳥様、ありがとうございます」
「いえ、西田さんの健康は私にとっても朱鷺にとっても大切ですから」

西田さんと一緒にお昼を食べる時には、西田さんが何を食べたか冴子さんに知らせるのがこの半年の日課だ。

私の帰国時に蜷川の仕事を辞めた冴子さんとは定期的に連絡を取り、会うこともある。
そして前回の健康診断結果で西田さんのコレステロール値が少し上がったことを気にしているとおっしゃったので写真を送ることにした。
まだ何も制限はないのだが、今年60歳の西田さんの健康を気づかい、冴子さんは昼食を見てから夕食を作っている。

「今夜はあっさり和食でしょうね…いただきます」

西田さんの言葉に

「私もあっさり和食にすべきですね、ふふっ…いただきます」

私も手を合わせてから箸を持つ。
朱鷺はキリが悪いのかまだデスクにいるが気にしない。
私たちも私たちのペースで仕事をするだけだ。

「美味しい」
「美鳥様は豚肉がお好きですからね」
「牛肉も好きだけど…基本、豚好き。帰国して良かったことは食よね?」
「そうですね。美鳥様は12年間一度も日本に帰っておられないので、まだまだ食べていらっしゃらない美味しいものがあると思いますよ?」
「ほんと…帰国してたった2年ですもの」



「朱鷺様、遠藤支配人の引き上げをお急ぎになって下さい」
「ああ」

遅れてソファーに座った朱鷺に西田さんがすかさず言う。
食事中も仕事の話が多いのは仕方のないことだ。

西田さんがあと5年で引退すると決めておられるので、朱鷺付きの育成をしたいというのが西田さんの意向だ。
私は秘書ということで働いてはいるが、あくまでもCEOの秘書であり、蜷川当主付きは西田さんだ。

「あと3ヶ月」
「それなら許容範囲内です」

遠藤さんは蜷川の使用人として2年働いたあとホテルに移り、40歳で総支配人になった人物だ。
その遠藤さんが西田さんのお眼鏡にかなったわけだ。
現在42歳…朱鷺より一回り上で、私も総支配人の彼とやり取りをすることがあるが非常に頼りになる人である。

こうして常に先々を考えておかなければ大企業の未来はない。
朱鷺もおじい様からそう聞いていたらしい。

「あっ…朱鷺、食事中にごめんなさい」
「いい、何?」

一足先に業務に戻った私は1通のメールを受け取った。

「オークワイナリーからもうメールが来たの」
「何て?」
「Ninagawa Queen's Hotelの宴会場1室を予約したいって…そこでホテル直営の料飲部門や宴会部門の担当者と全国のNinagawa Queen's Hotelに入っているレストランの担当者に試飲会を開きたい。そういう目的での予約は可能かという問い合わせです」
「やるな、オークワイナリーの販路拡大担当者は…日時をこちらが指定してもいいなら、その提案をそのまま受ける」
「そうお伝えします」
「美鳥様、差出人の名前はどなたになってましたか?」
「えっと…柏木龍之介さんです」
「ああ、柏木ということはご当主のご子息でしょうね。柏木家も蜷川と同じく長く続くお家柄です。朱鷺様、メールの返信をされたのは賢明なご判断でした」

なるほど…企業同士としての付き合いも、社交的な場に立つ者としての付き合いも必要な相手だということか。

私もちゃんと覚えなくちゃ…柏木龍之介。

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