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文目も分かず 3
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どこからかスッと現れた男性が
「上?下?」
と私に聞く。ああ、この人がカフェで注文する担当の人だ。
「…どうでもいい…」
そう応えながら、手にあるサングラスを彼に差し出すと
「ははっ、ありがとう」
と受け取ってくれた。
「緑川さんとも知り合いなのね?キングとも親しそうだし…才花さん、付き合ってるの?」
キングって男の名前にしてはおかしいよね…注文の彼のことは緑川さんと呼ぶのに、髭の彼をキングって…
「…それ…キングって…大人の男性の呼び名にしてはちょっと失礼だと思うけど…いいの?」
「俺たちは絶対に言わないね。本人がKingなんて名乗ったこともないし、俺たち内側の人間が言ったこともない。外側の人間が勝手に言ってるだけ。相手にしてないから‘どうでもいい’ははっ」
緑川さんと言う人が私の真似をしたのだと思うけど、妙な雰囲気が出来上がってしまったように感じる。
はぁ…
「戻る」
仕方なくそう言うと
「なんで?病室が嫌で足引き摺って出て来たんじゃないのか?外の空気を吸いに出るぞ」
男はとっくに行ってしまったエレベーターのボタンを押した。
「ちょっと待って。才花ちゃん、彼らと知り合いなんだね?」
「「はい」」
洋輔さんに即答したのは二人の男性だ。
「今日、食事は?」
「……」
「ずっと食べてないのか?」
「……」
洋輔さんのあとに男が聞いたけれど、ずっとって言うほどでもない。
私がいつから入院しているか知らない男がそう言うのは仕方ないか。初日は夕方から遅くまで検査が続いて、昨日一日食べてないだけだもの。今日もか…痛みはマシと言っても全身鈍痛はある。倦怠感と言えるような感じだ。
ケガの状態から冷静に考え直してみると、目の前に迫っていたと感じた大きなスーツケースは実際にはもっと下で、時折階段でバウンドするように落ちて来たのかもしれない。右肩に当たったと思っていたけれど、打撲の変色や痛みから肘の辺りも衝撃を受けたことが分かる。体の半分ほどの大きな物が当たって弾き飛ばされたのだ。
重さで加速しながら落下してくるすごい勢いの巨大物体への恐怖から、目の前に感じたのだろう。
どうでもいい、と言いながら勝手にいろいろと考えてしまって寝るのも食事も無理だ。
「才花ちゃん、手術のこともあるし話せる?みんな心配してる」
「10分後に病室に戻ります」
男は洋輔さんにそう言うとエレベーターに乗り込み
「失礼します」
続いて乗り込んだ緑川さんが洋輔さんに頭を下げて扉を閉めた。
「緑川拓史。タクってみんな呼ぶ。よろしく」
時間がないと言わんばかりに、動くエレベーターの中で自己紹介され
「…大島才花です」
仕方なく名乗る。
「さいかってどう書くの?」
「才能の花…」
自分で言ってから落ち込む…もうダンスは無理だ。
「いい名前だ、才花。藤堂羅依。羅依と呼べ」
「ライ…?」
「上?下?」
と私に聞く。ああ、この人がカフェで注文する担当の人だ。
「…どうでもいい…」
そう応えながら、手にあるサングラスを彼に差し出すと
「ははっ、ありがとう」
と受け取ってくれた。
「緑川さんとも知り合いなのね?キングとも親しそうだし…才花さん、付き合ってるの?」
キングって男の名前にしてはおかしいよね…注文の彼のことは緑川さんと呼ぶのに、髭の彼をキングって…
「…それ…キングって…大人の男性の呼び名にしてはちょっと失礼だと思うけど…いいの?」
「俺たちは絶対に言わないね。本人がKingなんて名乗ったこともないし、俺たち内側の人間が言ったこともない。外側の人間が勝手に言ってるだけ。相手にしてないから‘どうでもいい’ははっ」
緑川さんと言う人が私の真似をしたのだと思うけど、妙な雰囲気が出来上がってしまったように感じる。
はぁ…
「戻る」
仕方なくそう言うと
「なんで?病室が嫌で足引き摺って出て来たんじゃないのか?外の空気を吸いに出るぞ」
男はとっくに行ってしまったエレベーターのボタンを押した。
「ちょっと待って。才花ちゃん、彼らと知り合いなんだね?」
「「はい」」
洋輔さんに即答したのは二人の男性だ。
「今日、食事は?」
「……」
「ずっと食べてないのか?」
「……」
洋輔さんのあとに男が聞いたけれど、ずっとって言うほどでもない。
私がいつから入院しているか知らない男がそう言うのは仕方ないか。初日は夕方から遅くまで検査が続いて、昨日一日食べてないだけだもの。今日もか…痛みはマシと言っても全身鈍痛はある。倦怠感と言えるような感じだ。
ケガの状態から冷静に考え直してみると、目の前に迫っていたと感じた大きなスーツケースは実際にはもっと下で、時折階段でバウンドするように落ちて来たのかもしれない。右肩に当たったと思っていたけれど、打撲の変色や痛みから肘の辺りも衝撃を受けたことが分かる。体の半分ほどの大きな物が当たって弾き飛ばされたのだ。
重さで加速しながら落下してくるすごい勢いの巨大物体への恐怖から、目の前に感じたのだろう。
どうでもいい、と言いながら勝手にいろいろと考えてしまって寝るのも食事も無理だ。
「才花ちゃん、手術のこともあるし話せる?みんな心配してる」
「10分後に病室に戻ります」
男は洋輔さんにそう言うとエレベーターに乗り込み
「失礼します」
続いて乗り込んだ緑川さんが洋輔さんに頭を下げて扉を閉めた。
「緑川拓史。タクってみんな呼ぶ。よろしく」
時間がないと言わんばかりに、動くエレベーターの中で自己紹介され
「…大島才花です」
仕方なく名乗る。
「さいかってどう書くの?」
「才能の花…」
自分で言ってから落ち込む…もうダンスは無理だ。
「いい名前だ、才花。藤堂羅依。羅依と呼べ」
「ライ…?」
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