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4月SS 12

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 厨房へ行くと片付け始めておられた調理台や折り畳みテーブルを使い、食事を再開した。

 皆さん歓迎して下さり、おねだりしなくても料理長が幻の地酒を開けて下さる。

「俺、宴会場じゃなくてよかったっす。これ…この町の外に出ない酒って」
「あははっ、小笹さん飲む前に感激しちゃった?飲んだらどうなるんだろうね」

 小笹さんは湯飲みに溢れそうな酒を入れてもらって感激中だ。そして料理長は小ぶりの丼を伊東さんの前に置いた。

「下戸の伊東さんには、これ」
「マグロですか?」
「マグロの中落ち、すきみとも言うが…刺身にするため、マグロを包丁でおろした時に骨に、ついている身をそぎ落とす。お客様には出せないが通にはたまらん部分だ」
 
 小さな丼の中身はマグロのすきみ丼らしい。

「料理長…俺もあれ食いたいっす」
「料理長…私も食べたいです、その‘たまらん部分’を」

 こうしてお膳の料理とマグロのすきみ、美味しいお酒をいただきながら話も弾む。宴会場の料理の進み具合を見計らって動いていた料理長も、しばらくするとおつまみとコップを持って小笹さんの隣に座った。

「あら~私もここに入りたいわぁ」
 
 仲居さんが口々に言いながら忙しく出入りされる度に

「お邪魔してます。ぜひ後でご一緒に」

 と、返事をしながら料理長に

「お膳のお刺身よりこのマグロ美味しい」
「だろ?」
「料理長に一度田嶋さんのお寿司を食べて欲しいです」

 そう言い田嶋さんのお店の説明をする。

「お店の名前って何?伊東さんたち知ってる」
「「田嶋」」
「ふふっ…そのままなのね?今まで知らなかった…あははっ」
「綸、楽しそうだな。料理長、俺も邪魔する」

 正宗がゆっくりと入ってきて私の頭を一撫でした。
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