さまよう綸◆◆若頭からの求愛…迷惑だわ◆◆ 【完結】

第五話 6

「とてもありがたいご予約ね。来週も暇だと思っていたから今から準備をきちんとしましょう」

　鞠子さんは自宅の柔和な顔から、キリッと女将の顔になり言う。

「女将…ご予約の際貸し切りに出来るかと言われ、全室分の支払いもすると言われたのですが、勝手ながら今後も見据えて全室分の支払いはお断りしました。すみません」

　太っ腹な客だなと思いながら二人分のマグカップを洗う。

「構わないわ、マネージャーの判断に任せます。今日が土曜日でまだ他にご予約がなかったのだから間違いのない判断だったと思いますよ。で、どちらの団体様かしら」
「高須不動産様です。慰安旅行だそうで、貸し切りをご希望なのは大浴場の利用について考えられたのかと…」
「ああ…高須組の会社だからね。彫り物背負った方がおられるんでしょうね」

　高須組？手を拭いたタオルを握りしめ動けなくなった私に気づいた鞠子さんが笑う。

「怖がらなくても大丈夫よ。一般人には何もしやしないし義父の代、まだ私が新婚で名ばかりの若女将の時には他の組関係のご予約があったけど、至らない私にも、姉ちゃん落ち着けって笑ってくれる方ばかりだったわよ」
「…はい」

　鞠子さん…そういう事じゃないんだ…偶然？それとも6週間弱で見つかった？いや、もうこだわりないだろう…それに会社の慰安旅行に彼は関係ないだろう。