29 / 340
第五話 4
しおりを挟む
航平が昨日の夕方、ぽつんと浜辺に座る私を見かけたそうだ。夕食時の旅館の忙しい合間に、コートも着ていなかった私のことがどうしても気になり浜辺を見に出ると私が頭まで波に飲まれる瞬間だった。あと数秒でも遅かったら見つけられなかった。そう言って航平は
「何か訳があるんだろうけど…数秒の差で助かったということは‘まだ生きろ’って言われてるんじゃないか?」
私の様子を伺いながら語り掛ける。
「全くの身ひとつだったし、病院も嫌がるし…帰るところある?」
「…」
「もちろん成人してるよね?」
私が小さく頷くと彼は母親に向かって確かめる。
「未成年でなければ、ここに居てもらっていいね?」
「…へっ?」
「ははっ、初めて聞いた声が‘へっ’って、ははっ…名前は?」
「…」
「呼べないと困るな。俺は航平って呼んで」
「…綸」
上手くいったと思った計画は航平が私を助けるという想定外の結末で、微熱と喉の痛みを感じながらその後2日間はふかふかの布団の上で今後のことを考えた。
鞠子さんは昨年旦那さんを亡くしたばかりだと悲しそうに言っていた。そしてこんなふかふかの布団に寝かせてくれる母子の前では死ねないな。加えて、人間は簡単に死ねないこともわかったから熟考が必要だ。お言葉に甘えて少し様子をみることにしよう。
この家の中は自由にしてと言われたので4日目に初めてお風呂とトイレ以外に行く。旅館の朝食時間なのだろう、二人ともいないようだ。キッチンへ行くと彼女たちが朝使ったままのカップが流しに置いてあり、何となく洗う。そしてキッチンへ入る前の廊下の隅に置いてあった掃除機を持って寝ていた部屋へ戻ると、部屋の窓を大きく開け外の空気を吸い込んだ。この窓から海は見えないが、空気にはたっぷりと潮が含まれているようだ。鞠子さんから借りている部屋着に包まれた体を大きく伸ばし深呼吸すると、畳に丁寧に掃除機をかけ始めた。
♪~~~♪
「綸、おはよう。その曲好き?」
知らず知らず歌いながら掃除機をかけていたようだ…突然航平に声を掛けられ驚いた。
「何か訳があるんだろうけど…数秒の差で助かったということは‘まだ生きろ’って言われてるんじゃないか?」
私の様子を伺いながら語り掛ける。
「全くの身ひとつだったし、病院も嫌がるし…帰るところある?」
「…」
「もちろん成人してるよね?」
私が小さく頷くと彼は母親に向かって確かめる。
「未成年でなければ、ここに居てもらっていいね?」
「…へっ?」
「ははっ、初めて聞いた声が‘へっ’って、ははっ…名前は?」
「…」
「呼べないと困るな。俺は航平って呼んで」
「…綸」
上手くいったと思った計画は航平が私を助けるという想定外の結末で、微熱と喉の痛みを感じながらその後2日間はふかふかの布団の上で今後のことを考えた。
鞠子さんは昨年旦那さんを亡くしたばかりだと悲しそうに言っていた。そしてこんなふかふかの布団に寝かせてくれる母子の前では死ねないな。加えて、人間は簡単に死ねないこともわかったから熟考が必要だ。お言葉に甘えて少し様子をみることにしよう。
この家の中は自由にしてと言われたので4日目に初めてお風呂とトイレ以外に行く。旅館の朝食時間なのだろう、二人ともいないようだ。キッチンへ行くと彼女たちが朝使ったままのカップが流しに置いてあり、何となく洗う。そしてキッチンへ入る前の廊下の隅に置いてあった掃除機を持って寝ていた部屋へ戻ると、部屋の窓を大きく開け外の空気を吸い込んだ。この窓から海は見えないが、空気にはたっぷりと潮が含まれているようだ。鞠子さんから借りている部屋着に包まれた体を大きく伸ばし深呼吸すると、畳に丁寧に掃除機をかけ始めた。
♪~~~♪
「綸、おはよう。その曲好き?」
知らず知らず歌いながら掃除機をかけていたようだ…突然航平に声を掛けられ驚いた。
116
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
お客様はヤの付くご職業・裏
古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。
もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。
今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。
分岐は
若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺)
美香による救出が失敗した場合
ヒーロー?はただのヤンデレ。
作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる