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第五話 4

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 航平が昨日の夕方、ぽつんと浜辺に座る私を見かけたそうだ。夕食時の旅館の忙しい合間に、コートも着ていなかった私のことがどうしても気になり浜辺を見に出ると私が頭まで波に飲まれる瞬間だった。あと数秒でも遅かったら見つけられなかった。そう言って航平は

「何か訳があるんだろうけど…数秒の差で助かったということは‘まだ生きろ’って言われてるんじゃないか?」

 私の様子を伺いながら語り掛ける。

「全くの身ひとつだったし、病院も嫌がるし…帰るところある?」
「…」
「もちろん成人してるよね?」

 私が小さく頷くと彼は母親に向かって確かめる。

「未成年でなければ、ここに居てもらっていいね?」
「…へっ?」
「ははっ、初めて聞いた声が‘へっ’って、ははっ…名前は?」
「…」
「呼べないと困るな。俺は航平って呼んで」
「…綸」



 上手くいったと思った計画は航平が私を助けるという想定外の結末で、微熱と喉の痛みを感じながらその後2日間はふかふかの布団の上で今後のことを考えた。

 鞠子さんは昨年旦那さんを亡くしたばかりだと悲しそうに言っていた。そしてこんなふかふかの布団に寝かせてくれる母子の前では死ねないな。加えて、人間は簡単に死ねないこともわかったから熟考が必要だ。お言葉に甘えて少し様子をみることにしよう。

 この家の中は自由にしてと言われたので4日目に初めてお風呂とトイレ以外に行く。旅館の朝食時間なのだろう、二人ともいないようだ。キッチンへ行くと彼女たちが朝使ったままのカップが流しに置いてあり、何となく洗う。そしてキッチンへ入る前の廊下の隅に置いてあった掃除機を持って寝ていた部屋へ戻ると、部屋の窓を大きく開け外の空気を吸い込んだ。この窓から海は見えないが、空気にはたっぷりと潮が含まれているようだ。鞠子さんから借りている部屋着に包まれた体を大きく伸ばし深呼吸すると、畳に丁寧に掃除機をかけ始めた。

♪~~~♪

「綸、おはよう。その曲好き?」

 知らず知らず歌いながら掃除機をかけていたようだ…突然航平に声を掛けられ驚いた。
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