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成長期と成長痛 7

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「玖未、友達に連絡するんだろ?」

夕方になって野沢さんと右京が、須藤の屋敷で野菜まで切って用意してもらったという鍋を持って来てくれたのでノロノロとお箸などを運んで手伝っていると悠仁に座らされた。体がふわふわしてゴロゴロしていたから忘れてたよ。

「玖未ちゃん、友達と会うの?」

グラスを置きながら右京が聞くので

「明日の午後の予定だけどどうしようなって」

と固定してある手を見せる。

「ああ…もう少しあとなら指の固定だけでいいだろうけど、右は手首の内出血がひどかったからな」

そうなんだ。普通はもう少し自由な指が出ていそうなのに大きく包帯が巻かれている。灰谷兄先生に大袈裟じゃないかと聞いたけれど

「指も手首も骨と皮下細胞を動かさないで治すのは同じです」

と言われ、内出血を診てくれる奈保先生も

「最初が肝心。少なくとも1週間から10日はこの形よ」

と言った。今日で1週間だけど‘あと2日で小さくしてあげる’と言われて帰って来たばかりだ。顎の絆創膏は大きなサイズから普通サイズになったんだけど。

「玖未の好きにすればいい。いつ、どこへ出掛けるのも自由に決めていい」

悠仁の言葉を聞きながら

‘転けて右手をケガしてるからナイフが使えないの。予定変更の相談出来るかな?’

と舞花にメッセージを送った。


「失敗しましたね。すみません、玖未さん。この1週間で一番食べづらそうですね」
「大丈夫」

野沢さんが申し訳なさそうに言ってくれるけれど、それは仕方ないことだよ。フォークとスプーンを忙しなく持ちかえる私の口に、隣の悠仁が時々お肉や豆腐を入れてくれる。

「大丈夫だよね、玖未ちゃん。悠仁との息ぴったりだから‘よきよき’」

右京の意味深な‘よきよき’とにやけた顔にぴきっと固まると

「無視していい」

悠仁が私の頭を撫でた。

「うん…ガセキラースマイル…だからね」
「はっ?ちょっと玖未ちゃんさん?今のガセキラースマイルって何ですかぁ?」

もうさ…その話し方が胡散臭いよね…

「でも…人気あるらしいよ…良かったね、右京」
「何の‘でも’?分かるように話してよ」
「面倒くさい…今、食べるのに忙しいの」
「ガーン…面倒くさい…」
「繁華街を歩いてくれば分かるって…おいし」

向かいの野沢さんと目が合うと…この人も人気あるんだよね、と思い出す。

「私にも…何かございましたか?玖未さん?」

ブンブンとおもいっきり横に首を振っておく。みんなは野沢さんのねちょ、を知らないんだよね…と思っていると、何故か野沢さんの近くにあった私のスマホが鳴った。
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