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part 11-4

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“お疲れ、紗栄子。待っている”

それだけだったけど、忙しいはずの龍之介も同じ時間に帰って来てくれるのだと嬉しくなる。

そして返信を送る間もなく

「到着しました」

と車が止まったのは、繁華街近くの雑居ビルの前だった。

「このビルですか?」
「地下一階に隠れ家レストランがあるんです。看板のない店です」

着替えていない、白シャツと黒パンツのままでいいのかなと一瞬思ったけれど、一番シンプルで無難だと思うことにする。

いつも言われるように芦田さんが外からドアを開けてくれるのを待って表に出ると、10月の夜の帰りにシャツ一枚では無理があるかと感じて、最期に母が使っていたストールを思い出した。

車を止めたまま、松居さんが急な階段を下り、私が続くと芦田さんがピタリと後ろから下りてくる。

それから松居さんは扉の隣にあるインターホンを鳴らし、芦田さんはスマホで誰かに

「「紗栄子さん、到着です」」

それぞれ別の人に言った。

「貸し切りなの?」
「はい」

彼らの徹底的な警戒は最初異様に感じたけれど、龍之介のいる世界で万が一を考えて動くことは当然なのだと受け入れ、私もそれに倣う。

「紗栄子さん、おかえりなさい」
「ただいま、福嶋さん」

福嶋さんによって開けられた扉の中に私が入ると

「紗栄子さん、ごゆっくり」

芦田さんと松居さんは階段を戻っていく。きっと階段付近を他の組員さんたちと警備するんだね。いつもありがとうって…いつかちゃんと伝えないと。

「紗栄子」

カウンターだけの店の真ん中の席で、龍之介が自分の隣の椅子を片手で大きく引く。

「ただいま」
「ん、大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」

私が腰を下ろすタイミングで龍之介がうまく椅子を前へ寄せてくれるだけでちょっと嬉しい。

ホントはすごく嬉しい。
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