上 下
60 / 224

part 7-3

しおりを挟む
「若、いくつかご報告を伊坂からさせます。今、よろしいですか?」

そして芦田さんは自分よりずいぶんと若い龍之介に腰を折って聞く。

「ん」

私は全てのマグカップをトレイに乗せてから、今来た3人に珈琲を淹れた方がいいのかと思ったけれど、皆が出来ると聞いていることだし、しゃしゃり出るようなことは避けた方がいいと思い直してキッチンへ向かおうと…うん…?Tシャツの裾を龍之介が摘んだので立ち止まる。

「紗栄子、ん」
「…どうしたの…?」
「考えて飲み込んだことを言ってみろ」
「……ぁっと…芦田さんたちに…珈琲を淹れようか…どうしようとちょっと…」
「そうか、聞けなかったか?」
「…シャシャるなって…感じかなって」
「ぁーっ、それってあの家で家事を押し付けられ、シャシャるなとも言われ、ってこと?やっぱりあの時に仕留めたら良かったんだよ、龍」

空雅さんが唸るとパコッ…芦田さんが空雅さんの後頭部を叩いた。

「申し訳ありません」

ぐっと握りしめた両手を真っ直ぐ体の横に下ろした空雅さんは、さっきの芦田さんと比べ物にならないくらい深く腰を折ってから

「紗栄子さん、それキッチンに行く?オレも一緒に行くよ。珈琲も淹れたらいいし、昼飯一緒に考えませんか?仕事の話はつまらないでしょ?オレも関係ない話みたいなんで」

と私を見る。

「うん…そうするけど…空雅さん、混じってるのは返事が難しいので、丁寧に話すのを止めて欲しいです」
「あ、今わざと言葉混ぜた?頭いい子だね、了解」

空雅さんから龍之介に視線を移すと、彼はほんの僅かに頷いた。そして私と空雅さんがキッチンへ向かう後ろから

「紗栄ちゃん、考えてよ?」

と舞生さんの声がして

「何の話?」

隣を歩く空雅さんが私を見る。ここにいる人の中でダントツに細い空雅さんだけど、龍之介と空雅さんの2人が高身長だ。

「私が外出する時に誰とって話」
「そうなんだ。紗栄子さんはどこに行きたい?ってか、この口調に紗栄子さんは硬いよね?舞生式でいく?紗栄ちゃん?」
「大丈夫」
「やりたいことは?」

私はコーヒーメーカーに豆を準備して、彼は炊飯器を覗きながら話す。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

お嬢様は地味活中につき恋愛はご遠慮します

縁 遊
恋愛
幼い頃から可愛いあまりに知らない人に誘拐されるということを何回も経験してきた主人公。 大人になった今ではいかに地味に目立たず生活するかに命をかけているという変わり者。 だけど、そんな彼女を気にかける男性が出てきて…。 そんなマイペースお嬢様とそのお嬢様に振り回される男性達とのラブコメディーです。 ☆最初の方は恋愛要素が少なめです。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...