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私とメイドと王女

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あの日を境に私達姉弟の仲はそれなりに良くなった。

今までのように出会い頭に睨まれたり、無視されたりはしない。

寧ろ顔を合わせればお互いに笑顔で挨拶をしたり、一緒に外でお茶を飲んだり、勉強をしたりと本当に楽しい日々が続いてる。

ただ唯一、少しヴォルフに対して不思議に思うことがある。

それは何故エルリック様を異様に警戒しているのかということだ。

ヴォルフと仲直りした数日後、一度屋敷にエルリック様が来るという手紙が屋敷に届いたのだけど、ヴォルフはそれを知るなり私に対して「姉上、あの人には気を付けてください。信用してはいけない」なんて言ってきた。

何だかんだで私が私になる以前からエルリック様を知ってはいるがそこまで警戒すべき人物だったであろうか?

私は自身の目の前にリジーを座らせながら一緒に紅茶を飲みながら頭を傾ける。

すると、そんな私を不思議に思ったのか今では私とお茶をすることも慣れたリジーが笑顔でこちらにマカロンを差し出してこう言ってくれた。

「お嬢さま、そんな難しい顔をしないでください。貴女は笑顔が似合います。何かあるのならば私にでも相談してください」

もうこれには内心でリジーに対して感動しながら、私は思っていたことをリジーに尋ねた。

「なら、相談というか質問ね。リジーから見たエルリック様ってどんな方?」 

途端に困った顔で頬を掻くリジー。

彼女は「うーん、そうですね……」と唸りながらもこう言う。

「私から見たエルリック様はこうは言ってはなんですが少し王子らしくない王子、ですかね。しかし、噂では自身の兄であるカイト様を次期国王とするためにそのような態度を取っていて本当はとても頭の良い策略家な方だと」

「……そう」

私は彼女の意見に頬に手を当てながらヴォルフは噂の方を信じて私にそう忠告しているのかと思いながら目を瞑る。

その時だ、何故かこの場に居ないはずのリリー様がやって来たのは。

「リナ・クレソフィア!!」

ズンズンと胸を張りながらこちらに近寄ってくるこの国の第一王女。

私はそんな彼を不思議に思いながら首を傾けつつ、リジーと共にその場から立ち上がって彼女に向けて頭を下げる。

「御機嫌よう、リリー様」

「あら、御機嫌よう。じゃないわよ!何兄上が他の女に取られそうになってるにも関わらずのんびりとメイドと一緒にお茶なんて飲んでるの!?」

「ふふっ、リジーはメイドであり私の友人ですから。というかそれは一体どういうことでしょうか?」

「……前も思ったけど、頭が可笑しくなったのは本当なのね。取り敢えず私の話を聞いなさい」

「ええ、勿論です」

そこから始まったのは何だかよく分からないが、最近カイト様やエルリック様やリリー様達の通う私立の学校のような場所にとある一人の女の子が入学して来たらしい。

そして、その入学して来た女の子がエルリック様に恋をして物凄い勢いでアタックしていると。

リリー様はそれを私にブツクサと言いながら「もうこの際だけど虫除けとして婚約者の貴女も私達の通う学園に貴女も通いなさい」なんて言ってくる始末。

ぶっちゃけうちはヴォルフ共々、家庭教師で済ませているのでそれは断固拒否したい。

学園なんて日本で過ごしていた時みたいにどうせドロドロとした人間関係で溢れてるんでしょ?

しかも今世は金持ちであり王子の婚約者っていう周りからしたら仲良くしてたらうちにも何か得があるかも思考な人が集まってきそうだし。

私は目の前でヒステリックに頭を振り回すリリー様を見ながら苦笑いを浮かべ、それを拒絶しようと薄く口を開く。

途端にギロリとこちらを見た彼女は先程までのヒステリックな様を一変、物凄く可愛らしい笑顔を浮かべると私の両手を握り目元を潤ませてこう口を動かした。

「お願い、リナ姉様しか頼れる人がいないの。このままじゃ私頭が可笑しくなりそう……」

この際に「いや、もう頭も可笑しくなってると思うし何より怖い」と言いたくなった私は悪くない筈だ。

だけどまあここまでリリー様が追い込まれてるならば手を貸すぐらいならしてもいいかも。

それに何だかんだで王家も通う学園ならばそれなりに家庭教師よりも為になる知識が得られるかも知れない。

尚且つ、平民も極わずかたがけど通っているという話も耳にしたしいい人を探したり人脈を作りにはいい。

私はそう考えると、小さく溜息を吐いて彼女の言葉に頷いた。

「分かりました。父に少し話してみます」

「本当に!分かってるわね、学園に通ったらエルリック兄様の周りに近寄る虫を排除するのよ?」

「んーまあ出来る限り頑張ります」

と言いつつやる気はないけど。

「そう、ならいいわ!待ってるからね!!」

「はい」

そして、そこから私は暫くリリー様にとって学園に関しての話を色々と聞いた。

というか王子であるカイト様とエルリック様がモテるのはまあ分かるとしてあの目付きの悪くて口数も少ないコウガもモテてるなんて割と驚きだ。

あれか、一匹狼かっこいいっていうのとその目付きと口数の少なさにそそられる!って感じか。

その後、丁度その場を通りかかったヴォルフに学園に通うと言ったら迷いなく「なら僕も通います」と言ってくるまであと数十分。



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