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第五章 過行く日々の・・・
藤間伸介 裁判員裁判に行く 1
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「ここか……」
良く晴れた午後、地下鉄丸ノ内線霞が関駅を降りてA1出口を上がるとすぐ、目の前に大きな灰色の建物が現れる。庁舎に入ろうと歩き出すと、そのすぐ横の道にでかでかとプラカードが立てかけられ『植木をはみ出すな。法律違反だ! 裁判所がそんなことしていいのか?!』などと書いてある。そもそも勝手に庁舎の壁にこういった物を括り付けていること自体が法律違反じゃないのかと思うのだが、何かこれをしたい人たちには言い分があるのかもしれないので俺は華麗にスルーする。
歩き出して数秒ですぐに入口が見えてくる。敷地内に入り、そこから建物の自動扉を目指すのだが、そこを通ると待っているのは手荷物検査だ。当然銃刀類の持ち込みは厳しく制限されている。しかしつい先日、気に入らない判決を下したと恨みに思った当事者が杖を持ち込んで裁判官をそれで殴った、という事件があった。何事も穴というものはあるものである。
俺は特に裁判所から渡された資料以外は持ってこなかったのでほぼ手ぶらである。問題なく検査を通過し、中に入ると正面の受付でパネルをいじっている人たちの群れが見える。あれで当日行われている裁判を調べ、見たい裁判を傍聴しているのだ。しかし、俺の目的は裁判の傍聴ではない。
――裁判員。そう、裁く側になる可能性があるのだ。
右の階段付近を見ると『裁判員候補者の方はこちらへ』という案内看板があった。2Fに上がる階段を昇り、案内通りに歩くと一つの部屋が見えてきた。
部屋の入り口には2人の職員らしき人物が立っている。
「裁判員候補者の方ですね? 紙はお持ちでしょうか?」
「ああ、はい」
候補者に選ばれたという証明の紙を俺は渡す。忘れても問題ないらしいが、手続きに時間がかかるらしいので俺は忘れずに持ってきた。それを渡すと代わりに首から下げるネックストラップのようなものを渡される。
「候補者という証明になりますが、部屋の外に出る際は外してあまり見せないで下さい」
確かに見せびらかすような物でもない。事件の審理側である、と喧伝することは逆に不利益しか生まないような気がする。俺はそれを受け取り中に入ると、既に10人程度の人間が集まっている。
さて、ここで簡単に裁判員がどうやって選ばれるのかという話をしよう。当然ながら、俺の嫁(入籍はまだだが)のミリアルにも訊ねられたのだ。どういうシステムなの? と。俺は昨日の夕食の食卓で彼女に説明したことを思い出す。
「まず、候補者リストに載せていいか、って確認が来るんだ」
「へえ、そこで、断ったりするの?」
「そう、仕事が忙しかったり、介護だったり、まあ理由を付けて断るわけだ。でも大した理由がないなら一応俺みたいにリストに載せたままにしておく」
「でも、呼ばれない可能性もあるわけね?」
「だろうね。でもこうして呼ばれることもある。そうすると、裁判員『候補者』として裁判所に出向くことになるわけだ」
「候補者、ってことはならない可能性もあるっていうこと?」
「そうだよ。候補者として選ばれた後に、さらに当日抽選されるんだ。6名の裁判員と、2名の補充裁判員、かな。今回の場合」
日数の長くなりそうな裁判の時はこの補充裁判員がガツっと増えるらしい。補充裁判員ももちろん裁判に参加できるが、最後の評定という、量刑を決める投票に参加できないなど、色々制限がある。まあ、基本的にはこの8名を決めるのだ。
「……それって随分面倒ね。折角行ったのに無駄足になることもあるんでしょう?」
「まあねえ……。でも一応それでも日当と交通費は出るから無駄でもないよ。選ばれた義務として参加して、粛々と帰ってきて日常生活に戻るだけさ」
「選ばれた場合は、このスケジュールの予定分は出かける、ってことね?」
彼女が指し示したのは同封されていた裁判の予定だ。決まった場合は今週はまるまる潰れることになる。
「そうなるな。ちょっとだけ面倒掛けることになると思う」
「そう、じゃあ選ばれるといいわね」
「え」
「わかるわよ、出たいんでしょう?」
ミリアルは俺の顔を見て、にやり、と笑う。お見通しか、流石俺の嫁である。
「まあ、やってみたい気持ちがあるのは認めるよ。だって、望んだってこんな経験出来ないからね」
金を出しても裏側なんて覗けない経験はこの世にある。その一つがこれである。どうせ生きているのなら、こういうことをするのも悪くない、と思っていた。
「それでは候補者の皆さま、ビデオをご覧ください」
ふと気が付くともう指定の時間になっていた。目の前のモニタには候補者選任の流れが映し出される。昨日俺がミリアルに説明したものと同様だ。他の席を見ると大体20人前後が集まっている。ここから――半分以上が落ちるのか。
くじ運は良い方だったかには自信がない。ソシャゲのガチャのように天井まで回せば出る、という類のものでもない。まあ、落ちたら何処かで美味しいお茶でもして帰ろう。そもそも選ばれなくてもこの時点でそれなりによい経験だった――と思い込むようにしていた。
「え~お手元にあるのが今回の事件の概要になります」
手元におかれたファイルが、今回の事件概要らしい。さらっと俺はこれに目を通す。内容は【禁則事項です】か、ふむふむ。何とひどい事件だ! しかしまあ、殺人事件でないのはよかった。流石に飯時に帰って人殺しの話を家族にするのはちときつい。
「持ち出しは厳禁ですので、後程回収いたします」
至極当然の注意をされる。まあ、そりゃそうだな。後は覚えて帰ってね、ってことか。早速容疑者の名前をググってみたところ、報道されている事件であった。目にしたことはなかったが、ニュースになるような事件に僅かでも関わり合いになるというのは奇妙な感覚だった。
「お待たせしました」
時間だ、ということは候補者全員わかっていた。部屋の前の方に、ズラズラと人が出てきたからだ。眼鏡の人の良さそうな人物が口を開く。
「え~、にょほん。私が、今回の事件の裁判長を務める『弁吾』と申します」
初手からちょっと挨拶の変な人が来たな、と思った。しかも裁判官なのに『べんご』とか、なんの冗談だろうか。
「それじゃですにゃ。こちらが今回の事件を担当なさる検事さんと弁護士さんになります」
紹介された事件の担当検事と弁護士が順番に頭を下げる。検事は三人組で、壮年の男性、黒縁眼鏡の中年、若い黒髪の女性だった。俺の勝手な印象だが、検事のほうがスーツがよれ気味のような気がした。弁護人のほうは、小綺麗な二人組のスーツの老人と若い男である。
そこからは事件の説明である。もう資料としては読み込んでしまったので特に目新しいことはない。追って読み込むだけの話だ。
「えーそれでは問題がにゃければお手元の資料にある用紙にご記入をお願いします」
手元にある用紙にこのまま裁判員を辞退しないならその旨を、そうじゃないなら辞退するように書き込む。まあ、単なる〇×みたいなもんだ。
「それでは我々はお書き頂いたものを元に別室で協議しますにゃで、しばらくお待ちください」
裁判長の宣言で、暫く待ちの時間になる。モニタには裁判とは全く関係のないにゃんこの映像が垂れ流されている。萌えろ、とでもいうつもりだろうか? にゃんにゃん。
時間までたっぷりあるので俺はトイレに立つ、すると左にいた若い――恐らくこの中で最年少であろう長髪ロン毛の金髪眼鏡くんも一緒に席を立った。なんか知らないが、お互い歩調が合う。リズムも同じで、そのまま二人は連れしょんになる。用を足しながら気まずくてそっぽを向くと向こうも顔を赤らめて横を向く。こんなところで妙なロマンス要素などいらない。いつからこの裁判員編はBLになったのか? いや、勝手に俺が盛り上がっているだけである。単に、そう、単にこの慣れない事態に落ち着かないだけなのだ。
時間になったので俺は席に戻る。すると先ほどの弁護士……じゃなかった弁吾氏達が隣室のドアから出てきた。
「お待たせしました。それではこれから発表される番号の方は荷物を持って付いてきてくださいにゃ」
場に緊張が走る。まあ、半分以下の確率だ。そうそう当たるものではない。
「えー1番、4番、5番、7番……」
――11番。
俺は思わず自分の番号を二度見する。呼ばれた、のだ。
「……以上です。それではどうぞ。残りの方は残念ですがこの後の説明をしますので……」
俺はキョどりながら、これがきっと、カイジのエスポワールの別室送りの列だな、と一人勘違いをしつつ並ぶ。いや、この時はそんな冗談が思いつけるぐらいにまだ余裕があったのだが、割とこの後、それなりに大変な思いはしたので言うほど間違ってはいなかったように思う。
ふと、後ろを、見ると金髪ロン毛君が俺のすぐ後ろにいた。え、お前も通ったの? さっきのフラグ立ってたの!?
俺は彼から目を背け、緊張しつつ、その別室に続く白い扉を潜る。するとそこには先ほどの検事、弁護士たちが両翼に待ち構えている。
「お座り下さい」
正面には裁判官だろう人たちが2人座っていて、そのうちの一人、若い、二十代と思しき方が口を開く。
「今あちらで裁判長が落選なされた方に説明しているので、それが終わり次第始めます」
その言葉に俺は席に着くと、そこには宣誓書が置かれている。
「名前を書いて、ハンコを押してください。そして最後に読み上げます」
これから先、この評議を外に漏らさない。その誓い。それをみんなでするわけだ。宣誓なんてこの人生で多分これっきりすることはない……いや、結婚式で、するか、まああまりする機会はない。少なくとも真面目にやらねばな、という気持ちにはなる。
暫く待っていると、裁判長が戻ってきた。
「にゃほ、お待たせしました」
そして俺達は宣誓し、ハンコを押す。もう、ここから先は禁則事項に嵐である。とはいえ、実は裁判中の発言や感想に関しては言ってもいいことになっている。基本的に言っては駄目なのは、評議、つまりどういう量刑になるかなどの話し合いについてである。評議室に入ってからの、審理に関する話し合いは誰にも教えてはならない。と、言うわけでここから先の俺の話もそういうところをあえてぼかすことになる。
「それではついてきてください」
色々の手続きが終わり、俺達は早速評議室に移動することになった。ここからが、本番である。
―――
この話、飯屋どうすんだ? という疑問を持たれそうですが、出てきます。
というかこれを紹介したいから書いたとも言えます。官庁の人たちの飯屋事情ですね。
良く晴れた午後、地下鉄丸ノ内線霞が関駅を降りてA1出口を上がるとすぐ、目の前に大きな灰色の建物が現れる。庁舎に入ろうと歩き出すと、そのすぐ横の道にでかでかとプラカードが立てかけられ『植木をはみ出すな。法律違反だ! 裁判所がそんなことしていいのか?!』などと書いてある。そもそも勝手に庁舎の壁にこういった物を括り付けていること自体が法律違反じゃないのかと思うのだが、何かこれをしたい人たちには言い分があるのかもしれないので俺は華麗にスルーする。
歩き出して数秒ですぐに入口が見えてくる。敷地内に入り、そこから建物の自動扉を目指すのだが、そこを通ると待っているのは手荷物検査だ。当然銃刀類の持ち込みは厳しく制限されている。しかしつい先日、気に入らない判決を下したと恨みに思った当事者が杖を持ち込んで裁判官をそれで殴った、という事件があった。何事も穴というものはあるものである。
俺は特に裁判所から渡された資料以外は持ってこなかったのでほぼ手ぶらである。問題なく検査を通過し、中に入ると正面の受付でパネルをいじっている人たちの群れが見える。あれで当日行われている裁判を調べ、見たい裁判を傍聴しているのだ。しかし、俺の目的は裁判の傍聴ではない。
――裁判員。そう、裁く側になる可能性があるのだ。
右の階段付近を見ると『裁判員候補者の方はこちらへ』という案内看板があった。2Fに上がる階段を昇り、案内通りに歩くと一つの部屋が見えてきた。
部屋の入り口には2人の職員らしき人物が立っている。
「裁判員候補者の方ですね? 紙はお持ちでしょうか?」
「ああ、はい」
候補者に選ばれたという証明の紙を俺は渡す。忘れても問題ないらしいが、手続きに時間がかかるらしいので俺は忘れずに持ってきた。それを渡すと代わりに首から下げるネックストラップのようなものを渡される。
「候補者という証明になりますが、部屋の外に出る際は外してあまり見せないで下さい」
確かに見せびらかすような物でもない。事件の審理側である、と喧伝することは逆に不利益しか生まないような気がする。俺はそれを受け取り中に入ると、既に10人程度の人間が集まっている。
さて、ここで簡単に裁判員がどうやって選ばれるのかという話をしよう。当然ながら、俺の嫁(入籍はまだだが)のミリアルにも訊ねられたのだ。どういうシステムなの? と。俺は昨日の夕食の食卓で彼女に説明したことを思い出す。
「まず、候補者リストに載せていいか、って確認が来るんだ」
「へえ、そこで、断ったりするの?」
「そう、仕事が忙しかったり、介護だったり、まあ理由を付けて断るわけだ。でも大した理由がないなら一応俺みたいにリストに載せたままにしておく」
「でも、呼ばれない可能性もあるわけね?」
「だろうね。でもこうして呼ばれることもある。そうすると、裁判員『候補者』として裁判所に出向くことになるわけだ」
「候補者、ってことはならない可能性もあるっていうこと?」
「そうだよ。候補者として選ばれた後に、さらに当日抽選されるんだ。6名の裁判員と、2名の補充裁判員、かな。今回の場合」
日数の長くなりそうな裁判の時はこの補充裁判員がガツっと増えるらしい。補充裁判員ももちろん裁判に参加できるが、最後の評定という、量刑を決める投票に参加できないなど、色々制限がある。まあ、基本的にはこの8名を決めるのだ。
「……それって随分面倒ね。折角行ったのに無駄足になることもあるんでしょう?」
「まあねえ……。でも一応それでも日当と交通費は出るから無駄でもないよ。選ばれた義務として参加して、粛々と帰ってきて日常生活に戻るだけさ」
「選ばれた場合は、このスケジュールの予定分は出かける、ってことね?」
彼女が指し示したのは同封されていた裁判の予定だ。決まった場合は今週はまるまる潰れることになる。
「そうなるな。ちょっとだけ面倒掛けることになると思う」
「そう、じゃあ選ばれるといいわね」
「え」
「わかるわよ、出たいんでしょう?」
ミリアルは俺の顔を見て、にやり、と笑う。お見通しか、流石俺の嫁である。
「まあ、やってみたい気持ちがあるのは認めるよ。だって、望んだってこんな経験出来ないからね」
金を出しても裏側なんて覗けない経験はこの世にある。その一つがこれである。どうせ生きているのなら、こういうことをするのも悪くない、と思っていた。
「それでは候補者の皆さま、ビデオをご覧ください」
ふと気が付くともう指定の時間になっていた。目の前のモニタには候補者選任の流れが映し出される。昨日俺がミリアルに説明したものと同様だ。他の席を見ると大体20人前後が集まっている。ここから――半分以上が落ちるのか。
くじ運は良い方だったかには自信がない。ソシャゲのガチャのように天井まで回せば出る、という類のものでもない。まあ、落ちたら何処かで美味しいお茶でもして帰ろう。そもそも選ばれなくてもこの時点でそれなりによい経験だった――と思い込むようにしていた。
「え~お手元にあるのが今回の事件の概要になります」
手元におかれたファイルが、今回の事件概要らしい。さらっと俺はこれに目を通す。内容は【禁則事項です】か、ふむふむ。何とひどい事件だ! しかしまあ、殺人事件でないのはよかった。流石に飯時に帰って人殺しの話を家族にするのはちときつい。
「持ち出しは厳禁ですので、後程回収いたします」
至極当然の注意をされる。まあ、そりゃそうだな。後は覚えて帰ってね、ってことか。早速容疑者の名前をググってみたところ、報道されている事件であった。目にしたことはなかったが、ニュースになるような事件に僅かでも関わり合いになるというのは奇妙な感覚だった。
「お待たせしました」
時間だ、ということは候補者全員わかっていた。部屋の前の方に、ズラズラと人が出てきたからだ。眼鏡の人の良さそうな人物が口を開く。
「え~、にょほん。私が、今回の事件の裁判長を務める『弁吾』と申します」
初手からちょっと挨拶の変な人が来たな、と思った。しかも裁判官なのに『べんご』とか、なんの冗談だろうか。
「それじゃですにゃ。こちらが今回の事件を担当なさる検事さんと弁護士さんになります」
紹介された事件の担当検事と弁護士が順番に頭を下げる。検事は三人組で、壮年の男性、黒縁眼鏡の中年、若い黒髪の女性だった。俺の勝手な印象だが、検事のほうがスーツがよれ気味のような気がした。弁護人のほうは、小綺麗な二人組のスーツの老人と若い男である。
そこからは事件の説明である。もう資料としては読み込んでしまったので特に目新しいことはない。追って読み込むだけの話だ。
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手元にある用紙にこのまま裁判員を辞退しないならその旨を、そうじゃないなら辞退するように書き込む。まあ、単なる〇×みたいなもんだ。
「それでは我々はお書き頂いたものを元に別室で協議しますにゃで、しばらくお待ちください」
裁判長の宣言で、暫く待ちの時間になる。モニタには裁判とは全く関係のないにゃんこの映像が垂れ流されている。萌えろ、とでもいうつもりだろうか? にゃんにゃん。
時間までたっぷりあるので俺はトイレに立つ、すると左にいた若い――恐らくこの中で最年少であろう長髪ロン毛の金髪眼鏡くんも一緒に席を立った。なんか知らないが、お互い歩調が合う。リズムも同じで、そのまま二人は連れしょんになる。用を足しながら気まずくてそっぽを向くと向こうも顔を赤らめて横を向く。こんなところで妙なロマンス要素などいらない。いつからこの裁判員編はBLになったのか? いや、勝手に俺が盛り上がっているだけである。単に、そう、単にこの慣れない事態に落ち着かないだけなのだ。
時間になったので俺は席に戻る。すると先ほどの弁護士……じゃなかった弁吾氏達が隣室のドアから出てきた。
「お待たせしました。それではこれから発表される番号の方は荷物を持って付いてきてくださいにゃ」
場に緊張が走る。まあ、半分以下の確率だ。そうそう当たるものではない。
「えー1番、4番、5番、7番……」
――11番。
俺は思わず自分の番号を二度見する。呼ばれた、のだ。
「……以上です。それではどうぞ。残りの方は残念ですがこの後の説明をしますので……」
俺はキョどりながら、これがきっと、カイジのエスポワールの別室送りの列だな、と一人勘違いをしつつ並ぶ。いや、この時はそんな冗談が思いつけるぐらいにまだ余裕があったのだが、割とこの後、それなりに大変な思いはしたので言うほど間違ってはいなかったように思う。
ふと、後ろを、見ると金髪ロン毛君が俺のすぐ後ろにいた。え、お前も通ったの? さっきのフラグ立ってたの!?
俺は彼から目を背け、緊張しつつ、その別室に続く白い扉を潜る。するとそこには先ほどの検事、弁護士たちが両翼に待ち構えている。
「お座り下さい」
正面には裁判官だろう人たちが2人座っていて、そのうちの一人、若い、二十代と思しき方が口を開く。
「今あちらで裁判長が落選なされた方に説明しているので、それが終わり次第始めます」
その言葉に俺は席に着くと、そこには宣誓書が置かれている。
「名前を書いて、ハンコを押してください。そして最後に読み上げます」
これから先、この評議を外に漏らさない。その誓い。それをみんなでするわけだ。宣誓なんてこの人生で多分これっきりすることはない……いや、結婚式で、するか、まああまりする機会はない。少なくとも真面目にやらねばな、という気持ちにはなる。
暫く待っていると、裁判長が戻ってきた。
「にゃほ、お待たせしました」
そして俺達は宣誓し、ハンコを押す。もう、ここから先は禁則事項に嵐である。とはいえ、実は裁判中の発言や感想に関しては言ってもいいことになっている。基本的に言っては駄目なのは、評議、つまりどういう量刑になるかなどの話し合いについてである。評議室に入ってからの、審理に関する話し合いは誰にも教えてはならない。と、言うわけでここから先の俺の話もそういうところをあえてぼかすことになる。
「それではついてきてください」
色々の手続きが終わり、俺達は早速評議室に移動することになった。ここからが、本番である。
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この話、飯屋どうすんだ? という疑問を持たれそうですが、出てきます。
というかこれを紹介したいから書いたとも言えます。官庁の人たちの飯屋事情ですね。
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