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第三章 恋するエルフ

エルフの里 3

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「おい! まだ見つからないのか!」

 屋敷前は喧騒に包まれていた。そう、花嫁の行方が分からなくなっていたからだ。それはグラノラ氏族だけでなく、カミルの親族にも知れてしまっていた。なぜなら、カミルが騒ぎ立てたからである。

「どういうことだ! 結婚式前だというのに我が嫁が行方知れずということは!」

「い、いえ! これはちょっとした手違いでして……すぐにお戻りになるかと」

 グラノラ氏族の従者の一人がそう彼を取りなすが、カミルの声は屋敷の外にも当然聞こえている。何が起きているのか――それは急速に周囲に拡散しつつあった。

「いや、我が一族の者が他の男と逢引きしているというのを見たともいうぞ? 逃げ出したのではあるまいな!?」
 
 カミルは殊更大仰にそうまくし立てる。勿論『その予定』だったからだ。

「ご、誤解でございます! ミリアル様は貴方様のことを――」

 その従者の声に、外のざわめきが重なった。何事かと屋敷の中の者も外へ出る。そして、その喧騒の中心には――。

「ミリアル!」

 屋敷から出てきたミリアルの父が彼女の姿を見つけ、声を上げる。しかし――その傍にはもう一人、黒髪の男がその身を守るように、立ちはだかっていた。

「貴様、ミリアルから離れろ! この人族の――」

 騒動を聞きつけたグラノラ氏族が次々とその周囲を固め始める。

「――あの豚、気でも狂ったの?」

 その様子をミリアルの妹シンディが屋敷の窓から眺めていた。逃げ出そうと思えば逃げ出せたはずの二人が、どうしてここに戻ってきたのか、彼女もその真意をつかみかねていた。

「――お集まりいただき、感謝いたします。私は異世界――東京から来た、藤間伸介と申します」

 注目の的となっている人族の男――藤間伸介は周囲の殺気など意に介していないかのように堂々と名乗りを上げた。グラノラ氏族は罵倒を――さらに石を投げつけようとしたが……。

「ほう、我が嫁を前にして、何を言うつもりか!」

 それをカミルが遮った。あたりは静まり返り、その場に伸介の声がよく通るようになる。

「私は、こちらのミリアル殿を――娶りたいと思っています」

 ざわめきが大きくなる。一体、この男は何を言い出すのか、と。

「馬鹿を言うな! そんなことが異種族の――しかも異世界の者に務まるわけがないであろうが!」

「務まりませんか?」

 ミリアルの父の言葉に伸介は疑問を投げかける。

「当然だ! いいか! 古来より、異種族の男がエルフを娶るとなればそれ相応の者、勇者や、覇王と呼ばれたもの以外はありえん! いいか、勇者の試練を受けないような者には――」

 くくく、と彼は笑い声を上げた。

「き、貴様何を笑って……」

「そうですか、ならばなりましょう。『勇者』に」

「……は?」

「だから、なろうと言ったんですよ、勇者の試練を、私にお与えください。ミリアル殿を娶るにふさわしい男かどうか、それで判断して頂きたい」

「――あっはははははは!」

 その様子を見ていたシンディは大声で笑いだした。その声に弾かれたように、ミリアルの父は声を荒げた。

「ふ、ふざけるな! そんな世迷言を言って……大方、その試練の隙にここから逃げおおせるための方便だろうが!」

「伸介はそんなことしないわ!」

「黙れこの馬鹿娘! いいからお前はこっちに来なさい!」

「絶対、い~や!」

 もはや見守るエルフたちは苦笑いである。いきなり現れた人族――しかも異界から来た者が、己を勇者であることを示すと言い出したのだから。
 
「ならば、やってみせるがいい」

「な!?」

 割って入ったのはカミルだった。挑戦的な瞳で伸介を見つめている(演技だが)。

「お前がミリアル殿に相応しい男だと言うのならその身をもって証明して見せるがいい! その時は私もきっぱりと身を引いてやろう」

 一部のエルフはシンディの情報からこれが茶番である、と見抜いていた。しかし、見抜いていたからといってこの大立ち回りをしている現状で、それを言い咎めることなどできはしなかった。

「カミル殿、しかしそれは――」

 ようやく、振り絞るようにミリアルの父が声を上げたが、カミルは涼しい顔で答えた。

「ふん、出来るわけがないだろう? その代わり、成しえなかったときは素直にミリアル殿を引き渡せ。それが、男の道だろう?」

「――ああ、そのつもりだ」

 伸介も不敵な笑みを浮かべそれに応えた。

「聞いたか皆の衆よ!」

 カミルが張り裂けんばかりの大声で周囲にそう問うた。

「これよりこの者が稀代の愚か者か、真の勇者か見定めようと思う! 異論のある者は!?」

 誰も声は上げない。と、いうか当事者であるカミルが良いと言っているものに口など挟めるものではない。それに――とも皆思っていた。そう、『達成できるわけがない』と。

「――分かりました。そこまで言うのでしたら認めましょう。ただし――試練の課題は私どもで決めさせていただきます」

「それは構わんが――候補などいくつもないだろう?」

 カミルの疑問にミリアルの父は答える。

「ええ、確かに。帝国はいま魔王と休戦協定を引いておりますし。勝手に我がエルフ氏族が破っては何を言われるかわかりません。しかし――そうですな。我がエルフの仇敵は未だに健在でしょう?」

「ま、まさか――」

 カミルの瞳が驚愕の為に見開かれる。

「待って、お父様、それは!」

「ふん、今頃焦っても遅いわ! 帝国とは休戦したらしいが、あやつは千年に渡るエルフ族の敵。幸いにして中立を保っている今でも来るものは拒まずに打倒しているというではないか。ならば――その首を持ってきて貰おうか」

「いやあああああ! 待って! それだけは!」

 ミリアルの悲鳴が里に木霊する。

「ふん、それでは見事挑んでみせよ! 『吸血大公 リカルデント』を打倒してな!」

     ◆

 話は少しだけ、遡る。まだ、異世界に来る前の、藤間家の屋敷での話である。

「本気で勇者の試練を受けようと?」

 電話口のドリスコルがその疑問を俺に投げかける。

「ああ、ミリアルに確認が取れたら、そっちで行こうと思う。逃げてもいいが、それよりも俺は、ちゃんと祝福して貰える道を選びたい」

「いやあ、男ですねえ。でも、難しいっすよ?」

「そこはそれだ。でも、それを何とかするのが、藤間家の血筋だと思わんか?」

「――思いますね。いやあ、ガッツリ実行しましょうか、ペテンを」

「くくく、よくわかっているじゃないか大叔父様」

     ◆

(しめしめ、情報通りだ)

 俺はリカルデントを指定されたことでホッと胸をなでおろした。
 ドリスコル情報によれば恐らく指定される討伐対象は『魔王 パティキュラー』もしくは『吸血大公 リカルデント』の二択だと思われた。魔王は今休戦協定が結ばれているし、エルフの里から若干遠い。しかしリカルデントは未だ交戦を厭わず、協定があろうが挑まれればやって来るという。と、言うわけで……。

%%%%%%%%%

「――あの、エリザ様お聞きですか?」

『聞こえているぞ。眷属の動向などすべて把握できるしな』

 俺は捕まっていた牢から出た時に彼女に連絡を取っていた。リカルデントは彼女の父である。

「実はですね、かくかくしかじか」

『ああ、そういうことか……。それで、我に見返りは?』

「……辣油一年分、じゃ駄目ですかねえ?」

『――足りぬな。三年は用意せい』

 これで手を打ってもらった。リカルデント大公にはあとでドリスコルが礼を持っていくことで手を打ってもらった。中身が異世界のエロ本だとは口が裂けてもエリザさんには言えないが。

%%%%%%%%%

「ぐわははは! 我に挑もうという酔狂な奴がいると聞いたぞ! 貴様か!」

 勇者の試練を決めた直後、エルフの里の天が淀み、曇り、大きな黒い翼を広げた吸血鬼がその上空に現れた。皆が一様に驚く。てか手回しいいな、おい。

「我は吸血大公リカルデント! さあ勇者たらんとする者よ、前に出よ!」

 皆があっけにとられている中、俺は前に進み出る。さて――じゃあ少し本気出しちゃうぞ?(注・借り物です)

 俺は魔力を開放すると(注・エリザさんからの借り物です)地面を蹴りアッという間にリカルデント大公に肉薄する。


「む!?」

「どりゃああああああああ!」

 感謝の正拳突きを繰り出すが、その拳を難なくリカルデント大公はキャッチ、しかしその威力に耐えきれぬように後ずさる。

「むむ、やりおるな!?」

「ああ、これが俺の力だ!」(注・借り物以下略)

 そこからはもう茶番だから省略する。ドラゴンボールも真っ青な大技の打ち合いもあり最終的に――。

「ぐあああああああああああああああああ!」

 吸血大公リカルデントの放った火炎を喰らい俺は地に倒れ伏す。

「ふふ、頑張ったようだが、これまでのようだな」

「くっ……」

「伸介!」

 その時、ミリアルが衆人環視の中、飛び出した。

「ま、待てミリアル! お、お前たち! どうしてミリアルを見張っていない!?」「い、いえ確かに屋敷の中に隔離しているはずですが……」

「あなた一人ではやらせないわ! 私も貴方の力に!」

「……遅いぞレイ」

 そう、彼女は変装したレイである。捕まる前に消えていたのでいままでどこにいたのかと思っていた。

「ドリスコル様に会っておりました。こちらを」

 そう言って彼女は俺に頬寄せて包みを手渡してきた。

「ほう、これを使えと?」

「ええ、九尾族の皆にも協力して貰いました。我々のもつ、幻影の力を最大限に閉じ込めてありますので」

 そう言うと彼女の周りに煌く光が散りばめられる。

「このように、演出力が上がります」

 それはまるで――ハートのような……ピンク色の精霊が俺たちの周りに展開している。

「ラブリーパワーアタックですね」

「――うん、その名称だけは却下で」

 昭和アニメでももうちょっとマシなネーミングするだろ? という突っ込みはやめておく。そういやレイって猫として飼われていた頃から数えると実年齢だけでいうなら四十か五十そこらだよな。もしや、爺さん案外女児向けアニメとか見ていたのだろうか?

「てか、これ九尾族の持ってる精霊なの?」

「そうですね、不定形で、色々変化できますから便利ですよ?」

 スライムかよ。まあその辺で突っ込みは止めとこう。とっとと締めよう。

「……これが、私たちの愛の力よ!」

 レイ、ノリノリすぎ。
 ピンクの精霊が俺の腕に纏わりつき、そして渡された包みに入っていた――てかどこまで行っても魔法少女趣味だなこれ……。変身魔法少女みたいなステッキが出てきたので俺は苦笑いを浮かべる。ええい、もうままよ!

「喰らえ! ……えーと」

「ラブリームーンパワーメイクアップで」

「かめ〇め波ー!」

 五月蠅い、俺はジャンプっ子だい。
俺の叫びと共に魔法ステッキから放たれた一撃はリカルデント大公に吸い込まれ――。

「あっぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 リカルデント大公は吹き飛んだ。きたねえ花火だ。まるで本物の花火のように打ち上げられ、ドーンという音と共に弾け飛んだ。弾け飛んだ身体はきらきらと、まるでナイアガラのように流れ落ちていく。それはとても――幻想的な光景だった。

「ミリアル――」

「ごしゅ――伸介様!」

 俺達はひっし、と抱きつき合う。
 周囲はしんと静まり返り、一体どういう状況なのかちょっとわからないが――。

「素晴らしい、私の負けだ」

 カミルが大きな拍手を俺達に向けた。

「勇者の誕生だ! 皆、彼を称えよ!」

 その呼びかけに怒号のような歓声が重なった。そう、俺達の戦い(茶番)は終わったのだ。


―――――

このお話はもうちょっと続くけど先にお店紹介。

「上州屋」

 食い物屋的に若干不毛の地(何)な中野新橋にあるお弁当屋さん。
 不毛の地なのでこのお弁当屋さんには結構列ができます。
 品目が多いので好みに合わせやすいのも魅力、一回ニュースで紹介されてるのは見ました。

 こっち方面はあと奥にあるラーメン屋さんと、meet meetというお肉屋さんが美味しいなと思っているんですが、紹介する話を書けてません(笑)
 meet良い店だと思う反面、若干高いのと多人数を捌ける店ではないのが紹介を躊躇うんでしょうかね・・・。行く機会があれば是非。
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