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第三章 恋するエルフ

13組目は不穏な数字 

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「ほら、タオル」

 俺はタクシーを捕まえて屋敷まで戻ってきた。出迎えのレイが二人にタオルを渡し、着替えをさせにミリアルの妹の方を別室へと連れて行った。顔が違うことを確認したレイはなんとなくすべてを察したようだ。こちらを見て頷いてから『お任せください』と去っていった。

「――カミル」

 落ち込んだ様子の彼に俺は声を掛ける。

「――困ったことになったな。戻れば――はぁ、望まぬ相手との結婚を彼女に強いることになるだろうか?」

「真実を話せば、駄目か?」

「偽物との旅行など……仮に我が氏族がそれを耳にしても不利益を被るのは彼女と、その一族だろう? そんなことを私は望まぬ」

「なら、これからどうするんだ?」

「――ミリアル殿を説得し、正式な婚約を結ぶ、もしくは――」

「何だ?」

「――妹殿と最初から婚約したことにする、くらいか」

「でもそれは、お前が望んだ未来じゃないだろう?」

「――そうなるな。しかし、上手くことを収めるには他に方法はないだろう」

 ――駄目だな。

「やめとけ。どっちもな」

「伸介、しかしな……」

「……俺も、お前に言ってないことがある」

 ――フェアじゃない。カミルには、伝えないといけないことがもう一つある。それを伝えないで行動させるなんて、絶対にあってはならない。少なくとも、こいつの友達でいるつもりがあるなら。

「――ミリアルがこの世界に初めて来たときからの話だ」

 俺は覚悟を決めて――長い話を始めた。

     ◆

「――以上だ」

 ミリアルが此処へ来てから、それまでの話をカミルに伝え終わる。カミルは無言で俺の告白を聞いていた。長い、長い沈黙が二人の間に降りる。

「――嘘はない、か」

 カミルはようやく、それだけを口にした。
 カミルはゆっくりと立ち上がり、俺の前に立つ。

「――他に言うべきことは、残っているか?」

「……ない、すべて真実だ」

 カミルは悲しそうな瞳で俺を見つめる。

「正直、何をされても文句は言えない。だから、気が済むなら――」

「命を貰う、と言ってもか?」

 カミルは俺の胸倉を掴んだ。

「――カミルそれは」

 嘘は――意味がない。

「無理だ」

「そうだな、彼女が悲しむ」

 カミルはその手を放す。

「俺も、友を失いたくはない」

「……カミル」

「長々と言い訳を聞く気はない。そんなものは族長筋でいやというほど経験してきた。だから、単刀直入に聞くぞ?」

 ――彼女を愛しているか?

 カミルは泣き笑いのような表情で、俺に訊ねた。

「ああ」

 迷いなく、返さなければ失礼だ。それが、男同士の――。

「――ならば、よい」

 カミルのその返事と重なるように、俺の携帯が振動した。

「すまん。これは――」

 カミルは気にしない、とでもいうように手を振って出るように促す。俺が電話に出ると――。

「ああ繋がった」

「ドリスコル?」

「ええ、そうです。貴方の愛しい――」

「愛しくない。それでこれは――」

「ああ状況は掴んでます。彼女は今まだエルフの里に居ます。帰ったら――婚儀が始まるようですね」

 ドリスコルが伝えたことは以下の2点だ。カミルが帰宅するのに合わせてミリアルとの婚儀が始まる。もう一つは、ミリアルが未だ幽閉され、幽閉されたまま婚儀も含めすべてを終えてしまうことになる、ということだった。

「――どうすればいい?」

「問題が二つあります。まず、私が動けません。エルフの里の結界が私を弾く指定になってます。結界内に入れなければ何も出来ないのと同義です」

「つまり?」

「それが二つ目の問題です。協力者も同じく侵入できなくなりました。ですから、新たに誰かに協力を仰ぐか、もしくは――」

「俺が行く」

 自然とその答えが俺の口から出た。

「――勝手知ったる場所じゃありませんよ? 捕まれば――死罪は免れないかと」

「知ったことか。そう言う問題じゃない」

 ここで待っていても、死んでいるのと変わらない。動かないならそれはゾンビと何ら差はないのだ。

「――分かりました。ではカミルとどうにかして一緒にこちら戻って下さい。決行は二日後、それでそうなるとカミル君の――」

「もう、全部話した」

「え?」

 俺はとっくに会話の内容をスピーカーホンにしてカミルにも聞かせていた。

「――と、言うわけだ」

 俺は、畳の上に土下座した。

「頼む、俺を客人でも何でもいいから、連れて行ってくれ。不躾で、無様なことだっていうことは分かっている。それでも――俺は」

「――顔を上げろ」

 顔を上げると、カミルが膝をついて俺の肩に手をやり――。

「やっぱり、少し許せん」

 ぼごっ。

「ぶっ!?」

 一発、鼻頭に喰らった。つーんと抜ける痛みが俺の鼻に――。

「これで、おあいこだ。勿論協力するさ、友よ。愛する――いや愛した人の相手だからな」

 そう言って、カミルは俺を強く抱きしめたのだった。


「さて、行くか」

 俺にとって初めての異世界への旅である。同行者はカミル、そして――。

「レイ、大丈夫か?」

「問題ありません」

 レイは異相の仮面を被り、ミリアルに変装している。黒髪は染めて金髪に、問題は――。

「ミリアルの妹、か」

 彼女には悪いが、今はカミルの魔法で彼女を拘束している。『風霊の戒め』というらしい。彼女の周囲にシルフが集い、その風域から逃れようとすると押し戻される仕組みだそうだ。

「風霊は君が移動すればそれについてくる。勝手に逃げようと試みなければこの術は君を傷つけることはない」

 カミルは彼女にそう説明する。

「そういえば、君の名前は?」

 三葉か四葉って名前だったらシチュエーション的にドンピシャなんだが。

「――シンディ、です」

 全然違った。ちょっとだけ期待したんだが。

「シンディ、君はえーと、エルフの里の近くで君は置いとくことになるけど……あとでまあ、全部終わったらちゃんと解放するから」

「――わかってます」

 シンディは大人しく俺の言葉に従う。従っている振りかと一瞬疑ってもみたが、それはカミルに見破られてしまうだろうから、一応信じて問題ないだろう。
 で、問題の俺の装備なのだが――。
 
「お似合いです。ご主人様」

「そ、そお?」

 カミルの持ってきた緑色の衣装を借りた。頭も一応カミルのつば広の帽子を被り誤魔化している。問題は面構えがエルフでも何でもないからよく見られたらすぐばれることだが。

「まず私がミリアルさんの居場所を特定しますので、そうしたらすぐにご主人様かカミル様が救出、里を出てすぐに門へ、これで問題ないですか?」

「いいけど――ばれないでいける?」

「九尾族の本領を見せて差し上げます」

 一応前回吸血鬼に一蹴されていたレイだったが、今回は汚名返上の機会をうかがっているようだ。

「時間はかけてられないからな。サッと行って、気付かれないうちに離脱。電撃戦(ブリッツ)以外の道はないしな」

 時間は掛ければかけただけバレる公算が大きくなる。とっととミリアルを見つけてあばよとっつぁ~んを決め込むのがルパンの流儀である。

「さ、コードネーム『奴は大事なものを盗んでいきました』を始めるぞ」

「――意味が分からん」「商業作家としてパクリはどうかと思われますが」

 そこ、二人同時に否定されるとちょっと傷つくぞ? 

「――じゃあ『平成嫁取合戦・ぽんぽこ腹の藤間伸介with E』でいこうか」

 しらけ顔のレイをしり目に俺は異界の門を開いた。さあ、行こう。ミリアルの元へ――。

―――

なんか色々恋が動いていきますが、お店紹介は普通にします(笑)

中野坂上の「フランキーアンドトリニティー」

ふわとろオムライスのランチタイムは行列店です。というか中野坂上自体がオフィス街なのでそりゃ混みます。

このあたりの地域全体がそういう層に特化していると思うので、平日に訪れる際は注意しましょう。

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