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第一章 上
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「ふう、とはいったものの……」
「なにをどうするかよね、はあ」
堂々と啖呵を切ったが何かプランがあるわけでもない。ということで早速行き詰まる俺たち。
「そうね、まずは活動日から決めましょうか」
あれ?毎日やるわけじゃないのか。ここ最近は毎日一緒にご飯を食べてた気がするのだが。
「毎日じゃ出る案も出ないかもしれないじゃない。それにわざわざ毎日そんな話をしなくたって、あなたと、友達と普通に話す時間もほしいじゃない」
「お、おう。ちょっと照れるな」
「て、照れないでよ! こっちも恥ずかしくなるでしょ」
「あ、ああ。それにしても活動日に何か行動を起こすわけでもないんだろ?わざわざ日にちを決めなくてもその時のノリでそういうのを話してもいいんじゃないのか?二人の共通の話題なんてたかが知れてるんだし」
「う~んまあそうなんだけどね。そこはこう気分っていうか、わざわざ会だなんて名前付けてるんだもの。そういう形から入ってみたいと思わない?」
妙なところにこだわるな。そういうこだわりは嫌いではないがなんかこう……男みたい?
「今失礼なこと考えなかった?」
急に無表情になる彼女。いつも教室で見る顔だがこの時ばかりは俺には般若のように思えた。
「決してそのようなことは考えておりません! そんなことよりもうそろそろ昼休みも終わる時間なんじゃないかな? そろそろ教室に戻るよ」
「あらほんと。あ、その前に連絡先を交換しておきましょうよ」
「そういえばまだしてなかったっけ」
連絡先を交換してから俺は教室に戻った
「おっ! 戻ってきたか樹!」
俺が教室に戻ってくるといやにニヤニヤした俊之が話しかけてきた。
「なんだよ俊之その顔は」
「今朝のことだけどよ、みんな気になって気になってしょうがないみたいだぜ?」
言われて言葉に詰まる。よくよく考えたら上野さんだけでなく俺も女子と話すのが苦手なのがそれなりに周知されててもおかしくない。そんな俺が急に上野さんに挨拶するなんてどう考えてもおかしいだろう。ここは適当に言って逃げてしまおう。
「いや、やる気を出したって言っただろ?手始めにまず上野さんに挨拶してみようと思って……」
「一体何のやる気なんだよ、それ。まあお前がそういう方向にやる気を出したんなら俺も応援しといてやるよ! はははは!」
クラスの男子が一緒になって笑い始める。女子からはなんか少し変な目で見られている気がするが気のせいだろう。
まあ何とかなったと思ったその時、俊之が俺の耳のそばで弾むようにボソッとつぶやいた。
「後でおもしろい話、聞かせてもらうぜ」
やっぱりバレてますよね。こいつは昔から妙に勘が働くからなぁ。
というわけで放課後。いつも通り二人で帰ってきた俺と俊之は早速俺の部屋で面と向かっていた。
こいつのことは昔からの馴染みで信用している。だから俺は始業式の日からあったことをとりあえず一通り俊之に話した。
「なるほどねぇ」
話しながら少し恥ずかしくなってきたがグッとこらえて今日の昼休みまでの説明を終えると黙って聞いていた俊之が相槌を打った。
「だから二人でカラオケがどうのとか聞いてきたわけね。それにしても互いに友達と認識する前にカラオケに二人で行くって、おまえらほんとに人付き合いが苦手なんだな。順序も何もあったもんじゃねえ」
「ごもっともです」
経験がなかったからしょうがないよね!
「経験云々っていうよりもこれはあれだな。常識がないんじゃねえか?」
「上野さんは抜けてるからね」
俺のせいじゃない俺のせいじゃない。
「それにしてもジャージって、お前男としては見られてないんだな」
「いいんだよっ! 俺と彼女は友達だからな」
「ふうん。男女の間に友情って成立するもんかね?」
「怖いこと言うなよな。現に成立してるんだからいいだろ」
「いやまあそういう意味じゃないんだがな……まあ今はまだよさそうだな」
どういう意味だろうか?
「それにしても想像してたよりも面白いことになってんなお前ら」
いったい何を想像してたんだ
「まっさか上野さんがただのコミュ障でしかもコミュ障のお前と友達になったってんだから世の中わからないことばっかだよな。しかもその二人がコミュ障脱却を目指して協力体制取ってるんだもんな。向上心があるのかないのか」
「なんか失礼な物言いだな」
「それで、何か策はあるのか?」
「痛いところをついてきますね……とりあえずは二人でいろいろ話し合ってみる予定だけど、もしかしたらお前の力を借りるかもしれん」
「ああ別にいいよ。こんなに面白そうなことに首を突っ込まさせてくれるんなら大歓迎だぜ」
「まあその時になったらよろしく頼むよ」
あれから数日が立つがこれといって俺たちが何か行動を起こしたということもなく、今日も今日とて二人で食事会をしていた。
前にも言ったように二人の共通の話題なんて今のところコミュ障関連のことばっかりなんだけどね。コミュ障脱却会なのに普通のコミュニケーションをとっていないのはどうなのか……
「目上の人が相手のほうが緊張しないのってなんでかしらね」
上野さんが話しかけてくる。俺は今までの自分の経験を思い出しながらあまりピンとこないので思わず首を傾げた。
「ほら、あなたは普通に男子と話せるからあんまり気づいてないのかもしれないけれど、年上の女性と話すときとかってあんまり緊張してないんじゃない?」
「う~ん、言われてみれば確かにそんな気がするな」
「でしょう? 私も先生と話すときとか近所の人に挨拶するときとか普通に接することができるのよ」
近所の人に普通にあいさつする上野さん……想像ができないな。
「また何か失礼なこと考えてるんじゃないでしょうね。私にだって挨拶くらいはできるのよ」
言ってドヤっといった顔をする彼女。
「でもその割には今まで人に挨拶してなかったし、この前俺が挨拶した時には言葉に詰まってなかった?」
「くっ......と、とにかく! このことについて考えていきましょ!」
露骨に話を戻したがもうそこには触れないほうがよさそうだ。
とりあえず言われたとおりに考えてみることにする。目上の人に対してあまり緊張しない理由は……
「敬語を使うから、とかじゃないかな? 敬語を使うことによって互いに距離をつかみやすくなって結果的に緊張しなくて済む。みたいな」
「なるほど。一理あるわね。ほとんどの先生はそれなりに上の立場の人って感じの言葉を使ってくるし、私たちみたいなのでもなんとか話せるってわけね。馴れ馴れしい言葉遣いでやたらと距離を詰めてくる先生は苦手だし」
「ああそれ、わかる。ああいう感じの先生のほうが親しみが持てていいっていう人もいるけどなんとなく嫌なんだよ」
「一応先生だから邪険に扱うわけにもいかなくて対応に困るのよね......こっちは話すことなんてないっていうのに」
「わざわざ話すこともないのにやたら話しかけてきてコミュニケーション取ろうとしてくるんだよね、こっちはそんなこと望んでないんだよね」
「でも逆に考えれば彼らはコミュニケーションの鬼、すなわち見習うべき相手ってことよね。どうかしら、彼らを見習ってなりふり構わず話しかけてみるっていうのは」
「いや、それができたらこんなことにはなってないでしょ」
「もっともね……」
二人してため息をつく。最近はずっとこんなのばかりだ。どちらかが問題を提起し、二人で考えて、勝手に落胆する。何がいけないのかよくわからないがどうも前に進んでいかない感じがするんだよな。
「じゃあどうしたら授業中のペアワークができるようになるか。はどう?」
「ちょっと待って。俺はペアワーク普通にやってるから」
「普通っていうとどういう風にすればいいのよ」
心底不思議そうな感じで聞いてくるがそれはおかしい。
「普通は普通だよ。先生に言われたことを隣の人と一緒にこなすだけだろ」
確かにペアワークは煩わしいがそれほど高度なものを求められるものではない。
「互いに英語を覚えて言い合うだとか、簡単な会話だとか、あとは答えの確認か?一言二言で済むことが多いだろ」
「そもそも隣の人と話すことが難しいのよ。日本語でも喋れないのに英語とか意味わかんないから」
「お前の思考が意味わかんなくなってきたよ......考えてみろよ。自分から会話の内容考えなくても喋れるんだからむしろ楽に話せるだろ?」
「そういわれればそうかしら。......次の授業ではできるように頑張ってみるわね。でも、この前まで私ペアワークの時にだんまり決めてたのよね。大丈夫かしら?」
そういえば前そんなこと言ってたな。
「今まで無視してたのに急に話しかけてもびっくりするだろうし、そもそも話しかける勇気もない。......どうすればいいと思う?」
「俺に聞かないでくれよ。う~ん、そろそろ席替えだからそのあとでいいんじゃないかな。それはそれで問題ありな気がするけど」
主に今まで無視されてたやつがめちゃめちゃかわいそうという問題が。
「それで行きましょう」
それでいいのか……
「そういえばあなた、一緒に教室に帰ることって今までなかったわよね」
昼食を少し早く食べ終わった上野さんが今更そんなことを聞いてきた。
「まあそうだね。俺のほうが食べ終わるのも早いことが多いし、二人で行くと目立つでしょ」
彼女と一緒に教室に帰ったらほかの男子から根彫り葉彫り説明を求められるに違いない。
しかし彼女は首をかしげていた。
「目立つ?別に友達と二人で教室に戻っても目立つことなんてないと思うのだけれど、何か問題なの?」
どうやらこの人、周りからの自分の評価を理解していないらしい。
「ちょっと待って。上野さん、自分が周りからどう思われてるか知ってる?」
「そりゃあ根暗で普段から余計なことは喋らないとか、真面目とか、とりあえず、陰キャラ? ……はっ! もしかして嫌われてたりとかするの!?」
本当に自覚がないようだ......。美人が自身を過小評価していることほど嫌味なものはないと思う。
このままではコミュ障脱却に支障が出ると思うので俺は簡単に彼女が周りの人からどんな風にみられているのかを説明した。さすがに本人に向かって美人だのなんだのどうこう言うのは精神的にくるものがあったが仕方ない。
「……まっさか~そんなわけないでしょ? ……ねえ、あなたもそう思ってたの?」
言えるわけないでしょう!と内心で絶叫しながら冷静に誤魔化す。
「いや~最初にここで会ったときイメージがどうのこうの言ってたから自覚はしてるんだと思ってたな」
「最初にここで会ったとき……? そういえばあなた高嶺の花だと思ってたとか言ってたわね……」
そういうと彼女はそのまま俯いてしまった。口元はなんかごにょごにょ言っているが何を言っているかはよくわからない。
こちらも恥ずかしさが限界に近づいて来たのでこの場を立ち去ることにした。
「そ、それじゃあ先に教室戻るよ!」
それから教室に戻ってきた俺の様子を見て、なんだか俊之がにやにやしていたが何か言うわけにもいかないのでそのまま自分の席に座る。
俺が次の授業、日本史の予習をしておこうと資料集をパラパラめくって時間をつぶしていると、いつの間にか上野さんも教室に戻ってきていた。
先ほどの様子とは一変し、いつも通り無表情に何かしらの勉強をしているようだ。切り替えが早いのか、動揺が振り切れて無表情になっているのかはどっちかよくわからない。考えても仕方のないことだが少し気になる。こっちはめちゃくちゃ恥ずかしかったのに相手はノーダメージだったらそれはもうバカらしいからね。
そんなことを考えてるうちに予鈴も鳴り、教室に帰ってきた生徒たちが各々の席に座り、少ししてから先生も教室に到着、授業が始まった。
午後最後の時間は学級会になっていた。やる気のある人がやる気のある人の意見だけ聞いてやるアレである。今日は特にすることがないらしいので最初の学級会から数人ずつ行われている自己紹介の続きをすべて終わらせてしまってから、初めての席替え、残れば自習とのこと。席替えと聞いて少し嫌な予感がしないこともない。席順は男女混合、完全ランダムのくじ引きである。このシステムの恐ろしいところは周りを女子で囲まれてしまう可能性があるところで、ただの授業ではそれほど酷なことはないが、もし授業中にグループを作れと言われたとき、男子一人になってしまうこともあるのだ。
まあそんなことになる可能性はほとんどないのだが、コミュ障を自覚してしまった今の俺には死活問題である。
俺は回ってきたくじの入った箱を凝視し、祈りを込めてくじを引いた―――
嫌な予感がここまで的中したのはいつ以来だろうか。周りは女子で埋め尽くされている。せめてもの救いは窓際の席で隣が一人だけということか。しかし、コミュ障脱却を目指している俺にとってはある意味ではチャンスなのかもしれない。ここはひとつ、隣の人にくらい挨拶をすべきだろう。大丈夫だ、上野さんと話すことによって女子と話すことには慣れ始めているはず、自発的に挨拶をすることがコミュ障脱却のカギになるはず。
決意を固め隣を見ると……そこには上野さんが座っていた。
いやなんでや! 俺の決意を返して! ……いや、女子には変わりないか。俺は努めていつも通りに口を開けた。
「上野さん。これからよろしく」
「ええ。よろしく」
返事はこの前よりも自然に返ってきた。
全員が席について落ち着いたところを見てから委員長が何か言い始めた。
「えー中間テストが終わってから文化祭があるので、クラスの出し物について今度かその次の学級会で決めようと思うから考えといてください。それと文化祭クラス責任者も今度決めます。」
そういえばそうだったな。うちの学校では文化祭が比較的早いこの時期にある。近隣の学校と被らないこの時期に開催するせいで毎年すごい人数の来場者があり、地域の人気イベントの一つになっているようだ。
今年は俊之も同じクラスだし、一緒に見て回ろうかな。
学級会が終わって、クラスのみんなは新しい席に変わったこともあり、教室内はいつもより少し騒がしい放課後となっていた。上野さんは放課後になったとたんに席を立って帰っていった。初めて買える初めの彼女の姿を視認することができた気がする。それにしてもあの速さ、あれが洗練されたぼっち及び帰宅部の本気といったところか。
そんなどうでもいいことを考えていると、前の席の、名前は何といったか、ショートヘアーの女子がが話しかけてきた。
「溝部君だったっけ? 同じ班にもなるし、よろしくね!」
「あ、ええっと......」
「あっ! 私の名前忘れてるでしょ! さっきみんなの前で自己紹介したばかりなのにひどいなあ。私は藤井伊万里よ。あなたもさっき自己紹介してたから普通は名前くらいちゃんと覚えてるわよ」
「ああごめん、藤井さんね。俺は人と話すのが苦手だけど、その、とりあえずよろしく」
どうやらこの人はコミュ力が高いタイプの人のようだな。羨ましい......
「女子と話すのが苦手、の間違いじゃない?この間やる気を出したとか何とか言ってたの溝部君でしょ。そういう方向にやる気を出したっていうなら自分から話しかけるくらいしないと」
「うっ、聞いてたのか。あれは別にそういうことじゃなくて......」
いやああああ誰か助けて! いきなりこういうタイプと話せって言われても無理なんだけど!
「さっきは上野さんに挨拶してたじゃない。そう気張らずともあんな感じでいいんじゃないの?それとも、もしかして上野さん一点狙いのやる気だったりして!」
話の方向がどんどんおかしくなっていってる気がする。俺が上野さん狙いなんてあるわけがない。俺は彼女とただコミュ障の改善をしたいだけなのだ。
「ち、違うよ! あれはそういうんじゃなくて! ただ、女子と話すのが苦手じゃなくなればいいな~くらいのやる気で、俊之がおもしろおかしく言ったからそういう方向にとられたかもしれないけど」
「ふふふ、必死になると余計に怪しいわよ、溝部君?」
「......」
俺、この人苦手です。
そう思っていると俊之が話しかけてきた。
「お~樹と藤井さん、なんだか楽しそうだな! 俺も混ぜてくれよ」
「ぜんっぜん楽しくないよ!」
「あちゃ~私フラれちゃった?」
そう言いながらおどけたような態度をとる藤井さん。コミュ力が高い奴はこんな冗談も言えるのかと感心する。
俊之の助け舟に内心では安堵しながらも、どこか楽し気な奴の様子に俺の中では危険信号が出ていた。
「藤井さん、心配するな。樹はこれまで女子を避けてたけど女の子大好きだぜ」
言って謎のサムズアップをする俊之。なんてことを言ってくれるのか。
「そのムッツリスケベみたいな言い方やめろよ! 退かれるだろ!」
少し不安になり藤井さんのほうを見る。
「男の子が女の子に興味を持つのは自然なことだよ、溝部君」
彼女も謎のサムズアップをしながら訳知り顔でうなずいていた。
「藤井さんもかいっ!」
もうヤダ、この人たち。
「あははははごめんごめん! 溝部君の反応が面白いからついついいじめすぎてちゃったみたいだね。これは癖になってこれからもいじるかもしれないわね」
「勘弁してください......」
「それじゃあそろそろ私、帰るわね。じゃあね~溝部君と渡会君」
「あ、うん」
「じゃあな~」
藤井さんと別れてからはいつも通り、俺は俊之と二人で家までの帰り道を歩いていた。
「早速変化があったみたいじゃないか樹。俺もうれしいぜ」
「なんだよそれ、面白がってるくせにさ。しかも完全に俺が遊ばれてただけじゃないか」
少し腹が立ったのでじとっとにらみつける。
「以前のお前なら遊ばれることもなかったんじゃないのか?この前俺が面白おかしく話を盛り上げておいたおかげだぞ。感謝こそすれ、そんな目で見られてもな」
あの行動にはそんな意図があったのか。確かに教室の空気も元に戻ったし、結果的に女子とも話すことになったけどさ。
「まあたまたまなんだけど」
「意図してやったんじゃないんかい!」
「まあそう怒るなよ。悪いことは何もないだろ?」
言われてみれば確かにそうなんだがなんかこう釈然としない。
「そういえば上野さんとのコミュ障脱却計画はどうなってるんだ? 何か進展はあったか?」
「ああそれなら特に何もないかな」
ひとまずいろいろなことについて二人で話し合ってはいるけど実際的なことはまだ何もしていないことを俊之に簡単に説明する。
「ふうんなるほどね~。それじゃあさ、こんなのはどうだ?」
「文化祭実行委員に二人で立候補するですって!?」
まあそういう反応になりますよね。俺も俊之から提案されたときには驚いたもんだ。
「まあまあひとまず話を聞いてくれ。これは昨日俊之が提案してきたんだが......」
話は昨日にさかのぼる
「文化祭実行委員に上野さんと二人で立候補しろだって!?」
急に何を言い出すかと思えば、俊之はいかにもいいことを思いついたという表情でそんなようなことを提案してきた。
「まあまあここはひとまずおとなしく話を聞いてみろって。まず第一に、お前ら二人はおそらく今まで行事にあまり関わってこなかったんじゃないかと思ってな」
だから何だというのだろうか。
「そこで今度の文化祭だ。とりわけ、文化祭実行委員ともなれば必然的にクラスの人や他クラスの人とも話すことが多くなるだろ? いや、話さざるを得なくなると言ったほうがいいか」
「それとさっきお前がさっき言ったことと何の関係あるんだよ」
「いやなに、文化祭に関わってみれば人との距離感を取れるようになる、もとい取らざるを得なくなるってな。俺の経験上学校の行事で一緒に行動してたやつはそのあとも一緒に行動していることが多いからな」
「あ~確かに。行事が終わった後にできてる謎のコミュニティってのはあるな。特に学年最初の行事の後はいつの間にか周りがやけに仲良くなってて、俺はいろんなグループを渡り歩くってのが今までの流れだわ」
「お前……思ってたよりずいぶんひどいじゃねえか……」
なぜか呆れられてしまったが、もう一度俊之の提案についてよく考えてみる。
少なくとも今までの俺と違うことをするっていう点で、何か変化があることは間違いないだろう。今の俺のクラスでのイメージは俊之のおかげでなんか急にやる気出したやつにまとまっているはずだから何の不自然さもない。そして犠牲にするものは放課後の自由な時間くらいのもので俺には何の問題もない。問題は彼女がよしとするかどうかだがそれは後で聞けばいいだろう。
「なあ、この場合俊之のサポートはありと考えていいんだな?」
「それは別に構わないぜ。言い出しっぺだしな。でもあまり期待されても困るぜ?あくまでお前が実行委員をやるんだからな」
「わかった」
「……という流れで立候補しようと思うんだけどどう思う?」
かなりすっきり伝えられた気がする。我ながら会心の出来だ。と思わずドヤ顔になってしまう。しかし彼女はいつの間にか無表情になっていた。
「ええ、ひとまず私のコミュ障がいつの間にか渡会君の知るところとなっていることがわかったわよ」
あ、しまった! 今の説明じゃそうなっちゃうよな~
「大丈夫! 俊之だから!」
「私は彼のことなんて全然知らないわよ」
無表情なのにこの迫力は一体何なんだ! 俺は恐怖のあまり後ずさる。
「……はあ、まあいいわ。渡会君を信じてるあなたを信じればいいのよね」
緊張感がなくなり俺はゆっくり深呼吸をする。なんだか勝手に謎の論理で納得してくれたのは僥倖だ。
「それで、実行委員に立候補するのよね? 何かメリットはあるのかしら」
「メリットか、う~ん。文化祭で退屈しないで済むとか?」
「なんで疑問形で私が毎年退屈してる前提なのよ……まあ否定はしないけど」
「あとはそうだな、少なくともクラスの人と関わりを持たざるを得ないってのは俺たちにとっては大きいと思うんだけど」
「確かにそれはそうだけど……」
「……これも俊之が言ってたんだけど、最初の行事は最初にして最後のチャンスらしいよ」
「そこまで言われたらやらないという風にも言えないじゃない! あのリア充オーラ野郎が言うといやに説得力があるわね!」
今度はあっさり俊之の言うこと信じちゃったよ……。まああいつは確かにリア充筆頭みたいなオーラまとってるもんな。
とはいえ、ようやく彼女がやる気を出したようで一安心だ。
「はあ~。でもそんなにうまくいくものかしらね?」
「まあ心配いらないんじゃない? ああいうのって仕事自体は結局誰でもできる範疇におさまってるはずだしさ」
「そうよ、普通の人ならね。でも私たちはコミュ障なのよ……普通は誰でもできる仕事ができなかったらどうしましょう」
「やめてよ。不安になるじゃん」
「やると決めたからには今のうちに対策立てるわよ」
と、上野さんが言い出したのでいろいろ考えてみることにした。
「一番肝心なのはまず確実に実行委員になることよね」
言われてみれば確かにそうだ。うちのクラスにそういったことをやりたがるやつがいないとも限らないわけだしな。
「とりあえず募集がかかった瞬間に速攻で手を挙げなきゃいけないってことは確かね。くっ、いきなり私には難易度が高いじゃない!」
自分で言ってダメージを受けている。
「そうは言ってもそれしかないんじゃないかな。実はやりたいけど周りの様子を窺ってるなんてやつはそれだけで蹴落とせるだろ? 少なくとも立候補はしづらくなるんじゃないかな」
「わかってるわよそれくらい。でも考えてもみて? 私とあなたが急に揃って手を挙げたらなんか変じゃない」
そうだろうか。それはなんか考えすぎのような気がするんだけど。そんな考えが顔に出ていたのか、彼女はこう続けてきた。
「あなたが急に私に挨拶してきて変な空気になったの忘れたの? そこで示し合わせたように二人が一気に立候補なんてしたら何かあるって思われるに決まってるでしょ」
「いやいややっぱり考えすぎなんじゃないかな。クラスの中ではあのことは俺が急に挨拶してみただけってことになってるし、俺たちの接点なんて席が隣くらいのもんだよ?」
「溝部君はわかってないのよ……女子の想像力は恐ろしいものなのよ……」
また何か地雷でも踏んだのだろうか……少し気なる。
「じゃ、じゃあまずはどちらかが立候補してから片方が後に続けばいいんじゃないかな」
「う~ん、そうね。それじゃあどっちから立候補しましょうか」
「そりゃあ俺からになるよね」
「どうして私からはダメみたいな言い方なのかしら?」
「基本的に男女一人ずつの実行委員の片方に上野さんみたいのがなったら男子の立候補者がたくさんになっちゃうかもしれないじゃん」
容易に想像できてしまうな。
「……この前も思ったんだけど、本人を目の前にしてそんなことが言えるあなたは本当にコミュ障といっていいのかしら? だんだんわからなくなってきたわよ」
「何言ってるんだよ。上野さんだから大丈夫なんじゃないか」
友達だからこそ言えることだと思うんだが違うんだろうか。
「わざとやってるようにしか思えないわよ……そうじゃないことはわかってるんだけどね」
結局そのあとのことは提案者である俊之に相談してみるということでその場は解散した。
放課後、俺と俊之は俺の家にて二人で話をしていた。
「へ~案外普通に話に乗ってきたんだな。望み薄だと思ってたわ」
「どういうことだよそれ!」
あらかた彼女との会話の内容を説明すると俊之はそんなことを言い出した。
「いやだって、自称コミュ障さんに急にこんなこと言っても普通、断固として拒否するだろうと思ってな。乗せられやすいお前ならまだしも」
「ひどい……」
何がひどいって、何から何まで俺に対するこいつの評価がひどい。
「まあその点ではあれだな。むこうもお前のことを頼りにしてるんだろうな」
どうなんだろうか? 俺が数少ない昔からの仲である俊之を頼りにしているようなものかな。
「まあ自分で言うのもなんだが、今のところ唯一の友達って感じだしな」
「あー……まあそうだな」
「なんだよ。歯切れが悪いな」
「いやいやなんでもないって」
最近こいつはこんな感じの態度をとることがよくあるな。まあむかつく態度でもないし時期に何か教えてくれるだろう。
それにしても彼女と二人で話してもいい案は出ないし、俊之とわざわざ後から話すのも面倒だな。
「なあ俊之、お前も昼休み一緒にご飯食べないか?」
そうだ、この手があった! と言わんばかりに提案してみる。
「やだ。絶対ヤダ。」
しかし返ってきたのは強い拒絶だった。
「え~なんでだよ。俊之が直接いてくれたほうが話すのも楽じゃん」
「いやーまあそうなんだがな、こればっかりはちょっと遠慮させてもらうぜ。理由は自分でしっかり考えてみてくれよ」
俊之が帰ってからしばらくが経つ。
なんだかなあ。最近の俊之の態度は妙に引っかかることが多すぎるんだよな。俺が上野さんと友達になったことを話した辺りからだろうか、妙によそよそしいというか、それも話の途中に急に一歩引いてくる感じがある。
まさか俊之の好きな人が上野さんとか? いや、それはないな。あいつが誰か特定の人を好きになった話なんてまず聞いたこともないし、高嶺の花なんだからやめとけとか言ってた時の態度にも含んでいるものはなかったと思う。一目惚れとかするタイプじゃないしな。
そういえばあいつは他にもなんか言ってたな。男と女の間に友情なんか成立するのかって。今思えばあいつが言いたかったことはなんとなくわからないでもないな。男女の仲と色恋の話は切っても切れないものだろう。男女三人のグループの仲が悪くなる話なんてたくさんあるしな。そう考えると俊之が三人で話そうとしないのも一応納得できるかな? なんかそれとけれとは違うような気もするけど……。この場合俺にその気がある風に俊之には見えているんだろうか。そうだとすると今回ばかりは俊之の考えは外れている。俺は彼女に対して今のところ男女の仲になりたいという風には思っていないのだから。
いや、本当にそうだろうか。俺が彼女に最初に抱いていたのはどんな気持ちだっただろうか。俺が彼女と知り合って感じていた気持ちはどういったものだっただろうか。俺が彼女に対して今思っているものは―――思考が止まった。これ以上は今必要のないことだ。俺は決めたはず、彼女とは友達になると。
それから数日が経過し俺たちの学校はテスト週間を迎えていた。
「ああああああああああやべええええええええええ勉強してねええええ」
「またそれかよ……お前ここ数日毎日それだな」
「真面目な俊之にはわからんのだ。この少しのやる気と怠けたい気持ちが織りなす負の連鎖が」
テスト週間は毎日勉強しようと机についてから、なんとなくいつもとは違うことをしてしまい、いつも以上に勉強できなくなるこの気持ちを誰かに理解してもらいたい。そしてさらにテスト終わりに提出しなければならない課題がそれをより加速させるのだ。課題をしっかりやってれば確かにテストでもなんでも大丈夫なはずなのだが、課題として出されることによってやらなきゃいけない感がより強くなり、課題を先に終わらせようと優先的にやろうとしてしまった結果逆に課題も自分がやっておくべき勉強もなぜか共倒れしていくあの感覚、おそらく俺の頭の処理速度が学校のカリキュラムに適応していないに違いない。なんでみんなあんなにマルチタスクできるの? 一教科ずつのほうがやりやすいのに……まあこんなことを言っても仕方がないので最終的に課題は答え写して出しちゃうんですけどね。
そういえば上野さんの成績ってどうなんだろ? うちの学校は成績の貼り出しなんてものはないし、それこそ誰か人伝にそういったものは広がるわけだが、今までのことを考えると彼女の成績が周りに伝わっている可能性は低い。かといってわざわざ成績を聞き出すのもなんだか変な気がするしなぁ。
「ねえ溝部君、あなたは成績ってどんな感じなの?」
いつも通りの昼休み。彼女の方から聞いてきた。
「う~ん、中の下って感じかな」
嘘をつく必要もないがはっきりと答えるにはちょっとアレな順位なのでこのような表現を用いてしまう。
「へえそう。私は中の上くらいよ」
ちょっとドヤ顔でこちらを見てくる彼女。いやあなたもそんなに良くないですよねそれ......
「それで、提案なんだけど」
「なんか嫌な予感がするから聞きたくないんだけど……何?」
「勉強会してみない?」
勉強会といえばあれだろうか。あの友達同士で集まってワイワイやって結局勉強できなくなるやつ。
「リア充に倣って勉強会をすれば何かが掴めるかもしれないじゃない!」
「いや、勉強会ぐらいやったことあるけど効率悪いよあれ」
いうと彼女が無表情になる。俺また何かやったかな......
「あなたがあっても私はないのよ。わかる?」
ああなるほどね。つまりはそういうことか。
「ただ単に、上野さんが勉強会したいだけか」
「ち、っ違うわよ! 別にそういうわけじゃなくて」
「いやいやわかるわかる。いつも寂しく一人で勉強してたんだもんね~」
「だから、違うってば~!」
こうしてしばらく上野さんが恥ずかしさで悶えた後、今度は俺の方から話を持ち掛けた。
「で、どこでするの?勉強会」
「あなたの家ってこの近くよね?じゃああなたの家でいいじゃない」
……は?
「ちょっと待ってくれ! いきなり俺の家ってのはおかしいだろ!」
いきなり意味不明なことを言ってきた彼女にたまらず突っ込みを入れる。
「そうなの? でも勉強会をするところなんて他にあるかしら。まさか学校の図書室ってわけにもいかないし、勉強するのにわざわざお金を使うような場所に行く必要もないでしょ?」
いや、確かにその通りだろう。だとしても俺の家なんて選択肢はもっての外だ。今更彼女と二人で気まずくなるようなこともないかもしれないが、家には親という存在がある。もしかしなくても勘違いされるしからかわれるに決まっている。
「うちは家族が大体いつも家にいるからそれはちょっと厳しいです……」
「そう、それなら仕方ないわね。でもそしたらどこがいいのかしら? 私の家だとあなたは交通費がかかっちゃうし」
いやその選択肢も最初からなかったから。女子の家にいきなり行くなんてハードル高すぎだから。
「いっそのこと渡会君の家なんてどうかしら」
その手があったか! 普段からいろいろとモノがある俺の家に集まりがちで忘れていたが俊之の家ならば両親はほとんど仕事で不在だし、何の問題もないな!
そこでふと思い出した。俊之が先日何やら言っていたことを。
「そういえば俊之を食事に誘ってみたんだけど、三人で話すようなことになるのは絶対嫌みたいなこと言ってたな……」
「え、なにそれ聞いてないわよ。急に来られたら私のほうがやばいことになってたわ」
あ、そこのほうが心配なんですね。
「でもそうなると、やっぱりファミレスとかカラオケボックスに行くとかになるわよ」
「いや、そうとも限らないんじゃないかな」
そうだ、何も二人や三人に限定して勉強会をする必要などないのだ。
「俊之にも他に何人か誘ってもらえればいいんじゃない? そうすれば今度こそ問題はなくなると思うけど」
「それ本気で言ってるの!? 私たちがそれでまともに勉強会に参加できると思う?」
「いやさ、そこはコミュ障脱却の第一歩ってことでやってみてもいいんじゃないかな。今回は数人で他の人と一緒にいることに慣れることができればそれでいいし、今度いきなり実行委員やるよりもよっぽど現実的だとも思うよ」
それに俊之ならば男女のバランスもうまいこと考えて誘ってくれるだろうし、俊之が上野さんを誘ってみたら来てくれたみたいな形にすれば違和感もそんなにないはずだ。
「言いたいことはわかるけど、ハードル高いわね……」
「確かにハードルは高いかもしれないけど、無理ってわけじゃないんだろ? 俺にとっても他の女子がいると思うと結構キツイものがあるからさ。二人で頑張ってみよう」
「......わかったわよ」
話は纏まったが未だ俊之からの許可を得ていないことに気づいた俺達はひとまず俊之に連絡を取ることにした。
SNSアプリを立ち上げ簡潔に事の顛末を打ち込んでいく。間違いがないかをサラッと確認してからその長文を送り付ける。メッセージを送信してから割と早くに返事は返ってきた。
『別にそれくらいならいいけど
まさか俺のうちに上野さんが来るようなことになるとは思ってなかったぜ』
『それな』
『それなじゃねえよ元凶!
すぐそれなって返信するのもコミュ障の特徴だって知ってたか?』
それは初耳だ。そんなところからも性格ってバレるんですね……。
『まあまあともかく
人数とか誘う人の傾向とかはお前に任せるから頼んだぜ』
『本当にお前は……
やる気があるのかないのかわからんやつだな』
というわけでひとまず俊之の了承を得たわけだが。
「へえ~そのアプリって結構便利なんだ。私、相手がいなかったから入れてなかったのよね」
かなり悲しいことを言っているが、そういえばこの人と交換した連絡先メアドだけだったな。いまどきこういったSNSのアプリを入れていない人のほうが少ないと思うんだが、家族との間でも使ったりしないのか?
「でもこのちょくちょく改行してるのがなんか気に入らないわね。もっと普通に文章打ち込めばいいじゃない。これだから最近の若者は」
「お前はおばあちゃんか……」
「そんなの初めていわれたわよ! 失礼ね」
まあそんなこと言う友達がいなかったもんね
「もう一回確認しとくけど、今度の日曜日に朝から渡会君の家に行くのよね。場所知らないけど」
「ああ、駅に俺が迎えに行くよ」
「助かるわ。じゃあその道中にコンビニで昼ご飯買っていきましょうか」
「俺はいったん食べに帰ることにするよ。家が隣だし」
「妙に仲がいいのにはそんな理由があったのね……そろそろ時間も少なくなってきたし、早めにご飯食べ終えちゃいましょうか」
「あ~もうこんな時間か」
その後終始無言でご飯を食べ終わりその場は解散となった。
いつも通り先に教室に戻ってきた俺は席について窓から遠くを眺めていた。
それにしても勉強会なんてのは久々な気がする。確か中学の時は友達と集まってよくやってたと思う。結局みんなゲームを持ち寄っていてテスト週間なのにたいして勉強できなかったり、そもそも勉強会と親に偽って集まって遊んでいたりした時もあったな。今思えばあの頃も男友達しかいなかった……いや中学生なら普通か?
今回は初めて女子と勉強会をするわけだけど、本当に大丈夫だろうか。俊之はどんな女子を誘ってくるだろうか。クラスの女子の顔と名前がほとんど一致していないからてんで想像もつかないが、結局俊之かほかの男子とだけ話す未来しか見えない。
だが自分も頑張ると上野さんに言った以上、それは流石に許されないだろう。特に決めたわけではないが今回の目標を考えれば俺は他の女子と、彼女はとにかく俺以外と少しでも親睦を深め友達を作ること。といったところか。
上野さんとは友達になれたのだ。やってやれないことはない、と思いたい。最近で言えば藤井さんとは少し話せたと思うし、相手が話しかけてくれれば対応はできると思うんだけどそれでは意味がない。コミュ障を脱却するにはどうにかして自分から話しかけねば。
一方上野さんはと言えば、彼女は多分話しかけられるほうが苦手なタイプだろう。能面のような表情をする彼女の顔が浮かぶ。彼女のことは彼女にしかわからない部分が多いので考えても仕方がないことかもしれないが、俊之の家に入ってから終始無言、無表情になるんじゃないかと思うと気が気でない。
そんな上野さんが勉強会をしたがっていた。というのはなんか意外な気がする。大体人付き合いが苦手な人って、勉強は自分でするものだ。とか、集まってやっても効率下がるだけだ。とか言ってそういうのは否定することが多いんだけど、どこか憧れのようなものでもあるのか、彼女は勉強会に関しては結構積極的になっているように感じる。人数集めるって言ってた時にはさすがに慌てたけど。
そして、俺たちコミュ障にはそのやる気が空回りして変なテンションになるのが一番まずい事なのは俺が彼女と会ったときに証明済みだ。これは少し釘をさしておいたほうがいいのかもしれない。だがせっかくのやる気を挫くのいかがなものか......。
よし! ここは頼れる俊之に丸投げして俺は俺のことに集中しよう!
「なんかまたろくでもないことを思いついた顔してるな」
「わぎゃーーーー!!!」
「変な声出すなよ!」
「なんだ俊之か。急に話しかけるなよな。口からいろいろ飛び出すぞ?」
「現に悲鳴が飛び出してたよ!」
いや~本当にびっくりした。これがなんか別の用事で話しかけてきた別の人とかじゃなくて良かったよ。
「ところでなんか用事か?」
「そっちが頼み事してきたくせに随分な態度だな! ったく、勉強会とやらに参加する人を集めておいたからその報告に来たんだよ」
「えっもう集まったのか」
さすが俊之。仕事が早い、早すぎる。
「まあな。というわけで藤井さんだけ呼んどいた」
だけ? 今、だけって言わなかった? こいつ。
「なんだよその顔は。バランスを考えたらこれが一番だと思ってな」
「というわけでよろしくね~溝部君」
「わあっ! びっくりした」
いつの間にやら後ろに藤井さんが立っていた。心臓に悪い。
「いや~なんだかおもしろそうな匂いがしてたし、上野さんも来るんでしょ? あの子こういうのには絶対参加しないと思ってたから仲良くなるチャンスかな~って思って」
おもしろそうな匂いってなんだよ一体……
「それにしてもどうやって上野さんを誘ったのか気になっちゃったり?」
「ああーそれは俊之が……」
「ここだけの話、樹が誘ったんだぜ」
ちょっと何言っちゃてんのこいつ! 確かに俊之が呼んだことにすれば違和感ないってメッセージにも書いておいたのに! あっ、奴の口元がちょっとにやついてる……
「えっ! ホントに? すごいじゃない溝部君。あの宣言がどこまで本気なのか気になるわね~私もその勢いで誘ってくれてもよかったのよ?」
「いや~それはちょっと……ははは」
「え~なによ、私より上野さんのほうが誘いやすかったの? なんだか変わってるわねあなた」
「そ、そうかな?」
「当り前じゃない。あの上野さんよ? いったい今まで何人の男が泣かされてきたことやら……」
すっかり忘れていたが上野さんの周りからの評判はそんな感じだったことを思い出す。彼女の性格を知っている俺は思わず吹き出しそうになってしまった。そんな俺を見て藤井さんはまた同じことを言った。
「あなた、やっぱり変わってるわね。おもしろいわ」
その顔はさっきとはまた違った、すごくいい笑顔をしていた。
『まあそういうわけで俺と上野さん、俊之に藤井さんが今回のメンバーだよ』
その日の夜、早速SNSアプリをインストールしたという連絡をしてきた上野さんに昼間のことについて報告ををしていた。
『なんか、思ってたよりも少なくて安心しました。』
していたのだけれども、なぜか丁寧語である。
『藤井さんが言ってたんだけど
上野さんと仲良くなれるかもって』
『それはうれしいですね。こちらもなるべくしっかり話せるように頑張らなければいけませんね。当日は気合を入れていきます。』
気合を入れるとなると二回目にあの場所であった時のような感じになるのだろうか。なんだかそれは逆効果になりかねないと思うんだが……。
『あんまり張り切らないほうがいいんじゃないかな
コミュ障特有の変なテンションになるんじゃない?』
『確かに一理ありますね。溝部君みたいに気が動転して相手に対して恥ずかしい言葉をその一時のテンションでスラスラ言ってしまうようなことにはならないと思いますが。』
ここぞとばかりに心の傷をえぐられてしまった。ちょっと怒ったぞ。
『そっちだって二回目にあったときには
こちらの話を聞こうともせず一方的に話してたじゃないか
それになんか敬語なのもキモい』
『キモいってなんですかキモいって。私からすればいちいち改行して話し言葉を打ち込んでる方がなんだか気持ち悪いのですが、他の人たちもそんな風に使っているんですか?』
今まで使ったことないとは言っていたがそんな風に思っていたのか。彼女は手紙のような感覚で今メッセージ打ち込んできているのだろうか。妙なところでやっぱりあれだな。
『おばあちゃんかな?』
『怒りますよ?』
2秒で返ってきた。怖い。
『ごめんごめん
でも、今時そんな風に送ってくる人なんて電子メールでもいないと思うよ
このアプリだって簡単にやり取りできるから流行ってるわけだし』
『そういうものですか。まあ少しずつ慣れていきます。』
全然わかってなさそう。
『ええっと
こんな感じでいいのかしら?
なんかやっぱり変な感じね
こんなのに慣れたら社会に出た時苦労しそうだわ』
前言撤回。意外に慣れるの早いじゃないか。
『そうそうそんな感じ
でも社会に出た時に苦労するのはそこじゃない』
俺たちが一番苦労しそうなのは今のところコミュ障であることだろう。
『?』
わかっていない様子だがあえて言う必要もないな。
『なんでもないよ
まあともかくそういうことなんでおやすみ~』
『ええ、おやすみなさい』
それにしてもなんというか、相手は上野さんとはいえ女子と寝る前に連絡取りあうってのは初めての経験な気がする。それどころか着々と俺の初めては彼女に奪われていってる気がするのは気のせいではない。
まあこんなのは普通の男子高校生ならやっていることなんだろう。それも下心で。
今までの俺が何もなさ過ぎたのだ。女子の友達と呼べる人がゼロだった時点で、自分を普通だと思っていたあの頃の俺をぶん殴りたくなってくる。
そもそも俺が女子を無意識のうちに苦手に思っていたのはいつからだったろうか。自分でも思い出すことができない。きっと理由なんてないのだろう。何か劇的な事件があったわけでもなし、ましてやトラウマの類なんてもってのほかだ。ただなんとなく昔から男子とだけ遊んでいたのだ。そして大きくなってから、女子を相手にしてこないまま、思春期を迎え半端な知識や性欲を持ち今に至る。
下世話な話だが俺にだってそういう劣情はもちろんあるし、女性というものが大好きではある。だけど今まで話をしてこなかった女子たちに苦手な意識があったのは多分こうしたものとのギャップが関係してるのではないかと今は思う。欲求としての対象と人間として、話し相手としての女性とがうまく分けられていなかったというか、言葉にするとよくわからなくなってくるがきっとそれだけのことなんだろう。
だが、今の俺は上野さんと友達になれた。普通に接することができていると思う。きっかけは少し変だったけれども、きっとこのことは自信をもっていいことだ。
もちろん性格が合わなければどうしようもないし、自分の中の苦手意識が完全に払拭できていないことは藤井さんとの会話でもわかっていることだ。だけど確実に、少しでも変わってきている。
そして俺は彼女に感謝すべきだろう。変わるきっかけを与えてくれたことに、俺なんかと友達になってくれたことに、ともにコミュ障を脱却すると言ってくれたことに。
共に頑張るといった彼女、上野朱里は俺の中ではもう、特別な一人なのだから。
「なにをどうするかよね、はあ」
堂々と啖呵を切ったが何かプランがあるわけでもない。ということで早速行き詰まる俺たち。
「そうね、まずは活動日から決めましょうか」
あれ?毎日やるわけじゃないのか。ここ最近は毎日一緒にご飯を食べてた気がするのだが。
「毎日じゃ出る案も出ないかもしれないじゃない。それにわざわざ毎日そんな話をしなくたって、あなたと、友達と普通に話す時間もほしいじゃない」
「お、おう。ちょっと照れるな」
「て、照れないでよ! こっちも恥ずかしくなるでしょ」
「あ、ああ。それにしても活動日に何か行動を起こすわけでもないんだろ?わざわざ日にちを決めなくてもその時のノリでそういうのを話してもいいんじゃないのか?二人の共通の話題なんてたかが知れてるんだし」
「う~んまあそうなんだけどね。そこはこう気分っていうか、わざわざ会だなんて名前付けてるんだもの。そういう形から入ってみたいと思わない?」
妙なところにこだわるな。そういうこだわりは嫌いではないがなんかこう……男みたい?
「今失礼なこと考えなかった?」
急に無表情になる彼女。いつも教室で見る顔だがこの時ばかりは俺には般若のように思えた。
「決してそのようなことは考えておりません! そんなことよりもうそろそろ昼休みも終わる時間なんじゃないかな? そろそろ教室に戻るよ」
「あらほんと。あ、その前に連絡先を交換しておきましょうよ」
「そういえばまだしてなかったっけ」
連絡先を交換してから俺は教室に戻った
「おっ! 戻ってきたか樹!」
俺が教室に戻ってくるといやにニヤニヤした俊之が話しかけてきた。
「なんだよ俊之その顔は」
「今朝のことだけどよ、みんな気になって気になってしょうがないみたいだぜ?」
言われて言葉に詰まる。よくよく考えたら上野さんだけでなく俺も女子と話すのが苦手なのがそれなりに周知されててもおかしくない。そんな俺が急に上野さんに挨拶するなんてどう考えてもおかしいだろう。ここは適当に言って逃げてしまおう。
「いや、やる気を出したって言っただろ?手始めにまず上野さんに挨拶してみようと思って……」
「一体何のやる気なんだよ、それ。まあお前がそういう方向にやる気を出したんなら俺も応援しといてやるよ! はははは!」
クラスの男子が一緒になって笑い始める。女子からはなんか少し変な目で見られている気がするが気のせいだろう。
まあ何とかなったと思ったその時、俊之が俺の耳のそばで弾むようにボソッとつぶやいた。
「後でおもしろい話、聞かせてもらうぜ」
やっぱりバレてますよね。こいつは昔から妙に勘が働くからなぁ。
というわけで放課後。いつも通り二人で帰ってきた俺と俊之は早速俺の部屋で面と向かっていた。
こいつのことは昔からの馴染みで信用している。だから俺は始業式の日からあったことをとりあえず一通り俊之に話した。
「なるほどねぇ」
話しながら少し恥ずかしくなってきたがグッとこらえて今日の昼休みまでの説明を終えると黙って聞いていた俊之が相槌を打った。
「だから二人でカラオケがどうのとか聞いてきたわけね。それにしても互いに友達と認識する前にカラオケに二人で行くって、おまえらほんとに人付き合いが苦手なんだな。順序も何もあったもんじゃねえ」
「ごもっともです」
経験がなかったからしょうがないよね!
「経験云々っていうよりもこれはあれだな。常識がないんじゃねえか?」
「上野さんは抜けてるからね」
俺のせいじゃない俺のせいじゃない。
「それにしてもジャージって、お前男としては見られてないんだな」
「いいんだよっ! 俺と彼女は友達だからな」
「ふうん。男女の間に友情って成立するもんかね?」
「怖いこと言うなよな。現に成立してるんだからいいだろ」
「いやまあそういう意味じゃないんだがな……まあ今はまだよさそうだな」
どういう意味だろうか?
「それにしても想像してたよりも面白いことになってんなお前ら」
いったい何を想像してたんだ
「まっさか上野さんがただのコミュ障でしかもコミュ障のお前と友達になったってんだから世の中わからないことばっかだよな。しかもその二人がコミュ障脱却を目指して協力体制取ってるんだもんな。向上心があるのかないのか」
「なんか失礼な物言いだな」
「それで、何か策はあるのか?」
「痛いところをついてきますね……とりあえずは二人でいろいろ話し合ってみる予定だけど、もしかしたらお前の力を借りるかもしれん」
「ああ別にいいよ。こんなに面白そうなことに首を突っ込まさせてくれるんなら大歓迎だぜ」
「まあその時になったらよろしく頼むよ」
あれから数日が立つがこれといって俺たちが何か行動を起こしたということもなく、今日も今日とて二人で食事会をしていた。
前にも言ったように二人の共通の話題なんて今のところコミュ障関連のことばっかりなんだけどね。コミュ障脱却会なのに普通のコミュニケーションをとっていないのはどうなのか……
「目上の人が相手のほうが緊張しないのってなんでかしらね」
上野さんが話しかけてくる。俺は今までの自分の経験を思い出しながらあまりピンとこないので思わず首を傾げた。
「ほら、あなたは普通に男子と話せるからあんまり気づいてないのかもしれないけれど、年上の女性と話すときとかってあんまり緊張してないんじゃない?」
「う~ん、言われてみれば確かにそんな気がするな」
「でしょう? 私も先生と話すときとか近所の人に挨拶するときとか普通に接することができるのよ」
近所の人に普通にあいさつする上野さん……想像ができないな。
「また何か失礼なこと考えてるんじゃないでしょうね。私にだって挨拶くらいはできるのよ」
言ってドヤっといった顔をする彼女。
「でもその割には今まで人に挨拶してなかったし、この前俺が挨拶した時には言葉に詰まってなかった?」
「くっ......と、とにかく! このことについて考えていきましょ!」
露骨に話を戻したがもうそこには触れないほうがよさそうだ。
とりあえず言われたとおりに考えてみることにする。目上の人に対してあまり緊張しない理由は……
「敬語を使うから、とかじゃないかな? 敬語を使うことによって互いに距離をつかみやすくなって結果的に緊張しなくて済む。みたいな」
「なるほど。一理あるわね。ほとんどの先生はそれなりに上の立場の人って感じの言葉を使ってくるし、私たちみたいなのでもなんとか話せるってわけね。馴れ馴れしい言葉遣いでやたらと距離を詰めてくる先生は苦手だし」
「ああそれ、わかる。ああいう感じの先生のほうが親しみが持てていいっていう人もいるけどなんとなく嫌なんだよ」
「一応先生だから邪険に扱うわけにもいかなくて対応に困るのよね......こっちは話すことなんてないっていうのに」
「わざわざ話すこともないのにやたら話しかけてきてコミュニケーション取ろうとしてくるんだよね、こっちはそんなこと望んでないんだよね」
「でも逆に考えれば彼らはコミュニケーションの鬼、すなわち見習うべき相手ってことよね。どうかしら、彼らを見習ってなりふり構わず話しかけてみるっていうのは」
「いや、それができたらこんなことにはなってないでしょ」
「もっともね……」
二人してため息をつく。最近はずっとこんなのばかりだ。どちらかが問題を提起し、二人で考えて、勝手に落胆する。何がいけないのかよくわからないがどうも前に進んでいかない感じがするんだよな。
「じゃあどうしたら授業中のペアワークができるようになるか。はどう?」
「ちょっと待って。俺はペアワーク普通にやってるから」
「普通っていうとどういう風にすればいいのよ」
心底不思議そうな感じで聞いてくるがそれはおかしい。
「普通は普通だよ。先生に言われたことを隣の人と一緒にこなすだけだろ」
確かにペアワークは煩わしいがそれほど高度なものを求められるものではない。
「互いに英語を覚えて言い合うだとか、簡単な会話だとか、あとは答えの確認か?一言二言で済むことが多いだろ」
「そもそも隣の人と話すことが難しいのよ。日本語でも喋れないのに英語とか意味わかんないから」
「お前の思考が意味わかんなくなってきたよ......考えてみろよ。自分から会話の内容考えなくても喋れるんだからむしろ楽に話せるだろ?」
「そういわれればそうかしら。......次の授業ではできるように頑張ってみるわね。でも、この前まで私ペアワークの時にだんまり決めてたのよね。大丈夫かしら?」
そういえば前そんなこと言ってたな。
「今まで無視してたのに急に話しかけてもびっくりするだろうし、そもそも話しかける勇気もない。......どうすればいいと思う?」
「俺に聞かないでくれよ。う~ん、そろそろ席替えだからそのあとでいいんじゃないかな。それはそれで問題ありな気がするけど」
主に今まで無視されてたやつがめちゃめちゃかわいそうという問題が。
「それで行きましょう」
それでいいのか……
「そういえばあなた、一緒に教室に帰ることって今までなかったわよね」
昼食を少し早く食べ終わった上野さんが今更そんなことを聞いてきた。
「まあそうだね。俺のほうが食べ終わるのも早いことが多いし、二人で行くと目立つでしょ」
彼女と一緒に教室に帰ったらほかの男子から根彫り葉彫り説明を求められるに違いない。
しかし彼女は首をかしげていた。
「目立つ?別に友達と二人で教室に戻っても目立つことなんてないと思うのだけれど、何か問題なの?」
どうやらこの人、周りからの自分の評価を理解していないらしい。
「ちょっと待って。上野さん、自分が周りからどう思われてるか知ってる?」
「そりゃあ根暗で普段から余計なことは喋らないとか、真面目とか、とりあえず、陰キャラ? ……はっ! もしかして嫌われてたりとかするの!?」
本当に自覚がないようだ......。美人が自身を過小評価していることほど嫌味なものはないと思う。
このままではコミュ障脱却に支障が出ると思うので俺は簡単に彼女が周りの人からどんな風にみられているのかを説明した。さすがに本人に向かって美人だのなんだのどうこう言うのは精神的にくるものがあったが仕方ない。
「……まっさか~そんなわけないでしょ? ……ねえ、あなたもそう思ってたの?」
言えるわけないでしょう!と内心で絶叫しながら冷静に誤魔化す。
「いや~最初にここで会ったときイメージがどうのこうの言ってたから自覚はしてるんだと思ってたな」
「最初にここで会ったとき……? そういえばあなた高嶺の花だと思ってたとか言ってたわね……」
そういうと彼女はそのまま俯いてしまった。口元はなんかごにょごにょ言っているが何を言っているかはよくわからない。
こちらも恥ずかしさが限界に近づいて来たのでこの場を立ち去ることにした。
「そ、それじゃあ先に教室戻るよ!」
それから教室に戻ってきた俺の様子を見て、なんだか俊之がにやにやしていたが何か言うわけにもいかないのでそのまま自分の席に座る。
俺が次の授業、日本史の予習をしておこうと資料集をパラパラめくって時間をつぶしていると、いつの間にか上野さんも教室に戻ってきていた。
先ほどの様子とは一変し、いつも通り無表情に何かしらの勉強をしているようだ。切り替えが早いのか、動揺が振り切れて無表情になっているのかはどっちかよくわからない。考えても仕方のないことだが少し気になる。こっちはめちゃくちゃ恥ずかしかったのに相手はノーダメージだったらそれはもうバカらしいからね。
そんなことを考えてるうちに予鈴も鳴り、教室に帰ってきた生徒たちが各々の席に座り、少ししてから先生も教室に到着、授業が始まった。
午後最後の時間は学級会になっていた。やる気のある人がやる気のある人の意見だけ聞いてやるアレである。今日は特にすることがないらしいので最初の学級会から数人ずつ行われている自己紹介の続きをすべて終わらせてしまってから、初めての席替え、残れば自習とのこと。席替えと聞いて少し嫌な予感がしないこともない。席順は男女混合、完全ランダムのくじ引きである。このシステムの恐ろしいところは周りを女子で囲まれてしまう可能性があるところで、ただの授業ではそれほど酷なことはないが、もし授業中にグループを作れと言われたとき、男子一人になってしまうこともあるのだ。
まあそんなことになる可能性はほとんどないのだが、コミュ障を自覚してしまった今の俺には死活問題である。
俺は回ってきたくじの入った箱を凝視し、祈りを込めてくじを引いた―――
嫌な予感がここまで的中したのはいつ以来だろうか。周りは女子で埋め尽くされている。せめてもの救いは窓際の席で隣が一人だけということか。しかし、コミュ障脱却を目指している俺にとってはある意味ではチャンスなのかもしれない。ここはひとつ、隣の人にくらい挨拶をすべきだろう。大丈夫だ、上野さんと話すことによって女子と話すことには慣れ始めているはず、自発的に挨拶をすることがコミュ障脱却のカギになるはず。
決意を固め隣を見ると……そこには上野さんが座っていた。
いやなんでや! 俺の決意を返して! ……いや、女子には変わりないか。俺は努めていつも通りに口を開けた。
「上野さん。これからよろしく」
「ええ。よろしく」
返事はこの前よりも自然に返ってきた。
全員が席について落ち着いたところを見てから委員長が何か言い始めた。
「えー中間テストが終わってから文化祭があるので、クラスの出し物について今度かその次の学級会で決めようと思うから考えといてください。それと文化祭クラス責任者も今度決めます。」
そういえばそうだったな。うちの学校では文化祭が比較的早いこの時期にある。近隣の学校と被らないこの時期に開催するせいで毎年すごい人数の来場者があり、地域の人気イベントの一つになっているようだ。
今年は俊之も同じクラスだし、一緒に見て回ろうかな。
学級会が終わって、クラスのみんなは新しい席に変わったこともあり、教室内はいつもより少し騒がしい放課後となっていた。上野さんは放課後になったとたんに席を立って帰っていった。初めて買える初めの彼女の姿を視認することができた気がする。それにしてもあの速さ、あれが洗練されたぼっち及び帰宅部の本気といったところか。
そんなどうでもいいことを考えていると、前の席の、名前は何といったか、ショートヘアーの女子がが話しかけてきた。
「溝部君だったっけ? 同じ班にもなるし、よろしくね!」
「あ、ええっと......」
「あっ! 私の名前忘れてるでしょ! さっきみんなの前で自己紹介したばかりなのにひどいなあ。私は藤井伊万里よ。あなたもさっき自己紹介してたから普通は名前くらいちゃんと覚えてるわよ」
「ああごめん、藤井さんね。俺は人と話すのが苦手だけど、その、とりあえずよろしく」
どうやらこの人はコミュ力が高いタイプの人のようだな。羨ましい......
「女子と話すのが苦手、の間違いじゃない?この間やる気を出したとか何とか言ってたの溝部君でしょ。そういう方向にやる気を出したっていうなら自分から話しかけるくらいしないと」
「うっ、聞いてたのか。あれは別にそういうことじゃなくて......」
いやああああ誰か助けて! いきなりこういうタイプと話せって言われても無理なんだけど!
「さっきは上野さんに挨拶してたじゃない。そう気張らずともあんな感じでいいんじゃないの?それとも、もしかして上野さん一点狙いのやる気だったりして!」
話の方向がどんどんおかしくなっていってる気がする。俺が上野さん狙いなんてあるわけがない。俺は彼女とただコミュ障の改善をしたいだけなのだ。
「ち、違うよ! あれはそういうんじゃなくて! ただ、女子と話すのが苦手じゃなくなればいいな~くらいのやる気で、俊之がおもしろおかしく言ったからそういう方向にとられたかもしれないけど」
「ふふふ、必死になると余計に怪しいわよ、溝部君?」
「......」
俺、この人苦手です。
そう思っていると俊之が話しかけてきた。
「お~樹と藤井さん、なんだか楽しそうだな! 俺も混ぜてくれよ」
「ぜんっぜん楽しくないよ!」
「あちゃ~私フラれちゃった?」
そう言いながらおどけたような態度をとる藤井さん。コミュ力が高い奴はこんな冗談も言えるのかと感心する。
俊之の助け舟に内心では安堵しながらも、どこか楽し気な奴の様子に俺の中では危険信号が出ていた。
「藤井さん、心配するな。樹はこれまで女子を避けてたけど女の子大好きだぜ」
言って謎のサムズアップをする俊之。なんてことを言ってくれるのか。
「そのムッツリスケベみたいな言い方やめろよ! 退かれるだろ!」
少し不安になり藤井さんのほうを見る。
「男の子が女の子に興味を持つのは自然なことだよ、溝部君」
彼女も謎のサムズアップをしながら訳知り顔でうなずいていた。
「藤井さんもかいっ!」
もうヤダ、この人たち。
「あははははごめんごめん! 溝部君の反応が面白いからついついいじめすぎてちゃったみたいだね。これは癖になってこれからもいじるかもしれないわね」
「勘弁してください......」
「それじゃあそろそろ私、帰るわね。じゃあね~溝部君と渡会君」
「あ、うん」
「じゃあな~」
藤井さんと別れてからはいつも通り、俺は俊之と二人で家までの帰り道を歩いていた。
「早速変化があったみたいじゃないか樹。俺もうれしいぜ」
「なんだよそれ、面白がってるくせにさ。しかも完全に俺が遊ばれてただけじゃないか」
少し腹が立ったのでじとっとにらみつける。
「以前のお前なら遊ばれることもなかったんじゃないのか?この前俺が面白おかしく話を盛り上げておいたおかげだぞ。感謝こそすれ、そんな目で見られてもな」
あの行動にはそんな意図があったのか。確かに教室の空気も元に戻ったし、結果的に女子とも話すことになったけどさ。
「まあたまたまなんだけど」
「意図してやったんじゃないんかい!」
「まあそう怒るなよ。悪いことは何もないだろ?」
言われてみれば確かにそうなんだがなんかこう釈然としない。
「そういえば上野さんとのコミュ障脱却計画はどうなってるんだ? 何か進展はあったか?」
「ああそれなら特に何もないかな」
ひとまずいろいろなことについて二人で話し合ってはいるけど実際的なことはまだ何もしていないことを俊之に簡単に説明する。
「ふうんなるほどね~。それじゃあさ、こんなのはどうだ?」
「文化祭実行委員に二人で立候補するですって!?」
まあそういう反応になりますよね。俺も俊之から提案されたときには驚いたもんだ。
「まあまあひとまず話を聞いてくれ。これは昨日俊之が提案してきたんだが......」
話は昨日にさかのぼる
「文化祭実行委員に上野さんと二人で立候補しろだって!?」
急に何を言い出すかと思えば、俊之はいかにもいいことを思いついたという表情でそんなようなことを提案してきた。
「まあまあここはひとまずおとなしく話を聞いてみろって。まず第一に、お前ら二人はおそらく今まで行事にあまり関わってこなかったんじゃないかと思ってな」
だから何だというのだろうか。
「そこで今度の文化祭だ。とりわけ、文化祭実行委員ともなれば必然的にクラスの人や他クラスの人とも話すことが多くなるだろ? いや、話さざるを得なくなると言ったほうがいいか」
「それとさっきお前がさっき言ったことと何の関係あるんだよ」
「いやなに、文化祭に関わってみれば人との距離感を取れるようになる、もとい取らざるを得なくなるってな。俺の経験上学校の行事で一緒に行動してたやつはそのあとも一緒に行動していることが多いからな」
「あ~確かに。行事が終わった後にできてる謎のコミュニティってのはあるな。特に学年最初の行事の後はいつの間にか周りがやけに仲良くなってて、俺はいろんなグループを渡り歩くってのが今までの流れだわ」
「お前……思ってたよりずいぶんひどいじゃねえか……」
なぜか呆れられてしまったが、もう一度俊之の提案についてよく考えてみる。
少なくとも今までの俺と違うことをするっていう点で、何か変化があることは間違いないだろう。今の俺のクラスでのイメージは俊之のおかげでなんか急にやる気出したやつにまとまっているはずだから何の不自然さもない。そして犠牲にするものは放課後の自由な時間くらいのもので俺には何の問題もない。問題は彼女がよしとするかどうかだがそれは後で聞けばいいだろう。
「なあ、この場合俊之のサポートはありと考えていいんだな?」
「それは別に構わないぜ。言い出しっぺだしな。でもあまり期待されても困るぜ?あくまでお前が実行委員をやるんだからな」
「わかった」
「……という流れで立候補しようと思うんだけどどう思う?」
かなりすっきり伝えられた気がする。我ながら会心の出来だ。と思わずドヤ顔になってしまう。しかし彼女はいつの間にか無表情になっていた。
「ええ、ひとまず私のコミュ障がいつの間にか渡会君の知るところとなっていることがわかったわよ」
あ、しまった! 今の説明じゃそうなっちゃうよな~
「大丈夫! 俊之だから!」
「私は彼のことなんて全然知らないわよ」
無表情なのにこの迫力は一体何なんだ! 俺は恐怖のあまり後ずさる。
「……はあ、まあいいわ。渡会君を信じてるあなたを信じればいいのよね」
緊張感がなくなり俺はゆっくり深呼吸をする。なんだか勝手に謎の論理で納得してくれたのは僥倖だ。
「それで、実行委員に立候補するのよね? 何かメリットはあるのかしら」
「メリットか、う~ん。文化祭で退屈しないで済むとか?」
「なんで疑問形で私が毎年退屈してる前提なのよ……まあ否定はしないけど」
「あとはそうだな、少なくともクラスの人と関わりを持たざるを得ないってのは俺たちにとっては大きいと思うんだけど」
「確かにそれはそうだけど……」
「……これも俊之が言ってたんだけど、最初の行事は最初にして最後のチャンスらしいよ」
「そこまで言われたらやらないという風にも言えないじゃない! あのリア充オーラ野郎が言うといやに説得力があるわね!」
今度はあっさり俊之の言うこと信じちゃったよ……。まああいつは確かにリア充筆頭みたいなオーラまとってるもんな。
とはいえ、ようやく彼女がやる気を出したようで一安心だ。
「はあ~。でもそんなにうまくいくものかしらね?」
「まあ心配いらないんじゃない? ああいうのって仕事自体は結局誰でもできる範疇におさまってるはずだしさ」
「そうよ、普通の人ならね。でも私たちはコミュ障なのよ……普通は誰でもできる仕事ができなかったらどうしましょう」
「やめてよ。不安になるじゃん」
「やると決めたからには今のうちに対策立てるわよ」
と、上野さんが言い出したのでいろいろ考えてみることにした。
「一番肝心なのはまず確実に実行委員になることよね」
言われてみれば確かにそうだ。うちのクラスにそういったことをやりたがるやつがいないとも限らないわけだしな。
「とりあえず募集がかかった瞬間に速攻で手を挙げなきゃいけないってことは確かね。くっ、いきなり私には難易度が高いじゃない!」
自分で言ってダメージを受けている。
「そうは言ってもそれしかないんじゃないかな。実はやりたいけど周りの様子を窺ってるなんてやつはそれだけで蹴落とせるだろ? 少なくとも立候補はしづらくなるんじゃないかな」
「わかってるわよそれくらい。でも考えてもみて? 私とあなたが急に揃って手を挙げたらなんか変じゃない」
そうだろうか。それはなんか考えすぎのような気がするんだけど。そんな考えが顔に出ていたのか、彼女はこう続けてきた。
「あなたが急に私に挨拶してきて変な空気になったの忘れたの? そこで示し合わせたように二人が一気に立候補なんてしたら何かあるって思われるに決まってるでしょ」
「いやいややっぱり考えすぎなんじゃないかな。クラスの中ではあのことは俺が急に挨拶してみただけってことになってるし、俺たちの接点なんて席が隣くらいのもんだよ?」
「溝部君はわかってないのよ……女子の想像力は恐ろしいものなのよ……」
また何か地雷でも踏んだのだろうか……少し気なる。
「じゃ、じゃあまずはどちらかが立候補してから片方が後に続けばいいんじゃないかな」
「う~ん、そうね。それじゃあどっちから立候補しましょうか」
「そりゃあ俺からになるよね」
「どうして私からはダメみたいな言い方なのかしら?」
「基本的に男女一人ずつの実行委員の片方に上野さんみたいのがなったら男子の立候補者がたくさんになっちゃうかもしれないじゃん」
容易に想像できてしまうな。
「……この前も思ったんだけど、本人を目の前にしてそんなことが言えるあなたは本当にコミュ障といっていいのかしら? だんだんわからなくなってきたわよ」
「何言ってるんだよ。上野さんだから大丈夫なんじゃないか」
友達だからこそ言えることだと思うんだが違うんだろうか。
「わざとやってるようにしか思えないわよ……そうじゃないことはわかってるんだけどね」
結局そのあとのことは提案者である俊之に相談してみるということでその場は解散した。
放課後、俺と俊之は俺の家にて二人で話をしていた。
「へ~案外普通に話に乗ってきたんだな。望み薄だと思ってたわ」
「どういうことだよそれ!」
あらかた彼女との会話の内容を説明すると俊之はそんなことを言い出した。
「いやだって、自称コミュ障さんに急にこんなこと言っても普通、断固として拒否するだろうと思ってな。乗せられやすいお前ならまだしも」
「ひどい……」
何がひどいって、何から何まで俺に対するこいつの評価がひどい。
「まあその点ではあれだな。むこうもお前のことを頼りにしてるんだろうな」
どうなんだろうか? 俺が数少ない昔からの仲である俊之を頼りにしているようなものかな。
「まあ自分で言うのもなんだが、今のところ唯一の友達って感じだしな」
「あー……まあそうだな」
「なんだよ。歯切れが悪いな」
「いやいやなんでもないって」
最近こいつはこんな感じの態度をとることがよくあるな。まあむかつく態度でもないし時期に何か教えてくれるだろう。
それにしても彼女と二人で話してもいい案は出ないし、俊之とわざわざ後から話すのも面倒だな。
「なあ俊之、お前も昼休み一緒にご飯食べないか?」
そうだ、この手があった! と言わんばかりに提案してみる。
「やだ。絶対ヤダ。」
しかし返ってきたのは強い拒絶だった。
「え~なんでだよ。俊之が直接いてくれたほうが話すのも楽じゃん」
「いやーまあそうなんだがな、こればっかりはちょっと遠慮させてもらうぜ。理由は自分でしっかり考えてみてくれよ」
俊之が帰ってからしばらくが経つ。
なんだかなあ。最近の俊之の態度は妙に引っかかることが多すぎるんだよな。俺が上野さんと友達になったことを話した辺りからだろうか、妙によそよそしいというか、それも話の途中に急に一歩引いてくる感じがある。
まさか俊之の好きな人が上野さんとか? いや、それはないな。あいつが誰か特定の人を好きになった話なんてまず聞いたこともないし、高嶺の花なんだからやめとけとか言ってた時の態度にも含んでいるものはなかったと思う。一目惚れとかするタイプじゃないしな。
そういえばあいつは他にもなんか言ってたな。男と女の間に友情なんか成立するのかって。今思えばあいつが言いたかったことはなんとなくわからないでもないな。男女の仲と色恋の話は切っても切れないものだろう。男女三人のグループの仲が悪くなる話なんてたくさんあるしな。そう考えると俊之が三人で話そうとしないのも一応納得できるかな? なんかそれとけれとは違うような気もするけど……。この場合俺にその気がある風に俊之には見えているんだろうか。そうだとすると今回ばかりは俊之の考えは外れている。俺は彼女に対して今のところ男女の仲になりたいという風には思っていないのだから。
いや、本当にそうだろうか。俺が彼女に最初に抱いていたのはどんな気持ちだっただろうか。俺が彼女と知り合って感じていた気持ちはどういったものだっただろうか。俺が彼女に対して今思っているものは―――思考が止まった。これ以上は今必要のないことだ。俺は決めたはず、彼女とは友達になると。
それから数日が経過し俺たちの学校はテスト週間を迎えていた。
「ああああああああああやべええええええええええ勉強してねええええ」
「またそれかよ……お前ここ数日毎日それだな」
「真面目な俊之にはわからんのだ。この少しのやる気と怠けたい気持ちが織りなす負の連鎖が」
テスト週間は毎日勉強しようと机についてから、なんとなくいつもとは違うことをしてしまい、いつも以上に勉強できなくなるこの気持ちを誰かに理解してもらいたい。そしてさらにテスト終わりに提出しなければならない課題がそれをより加速させるのだ。課題をしっかりやってれば確かにテストでもなんでも大丈夫なはずなのだが、課題として出されることによってやらなきゃいけない感がより強くなり、課題を先に終わらせようと優先的にやろうとしてしまった結果逆に課題も自分がやっておくべき勉強もなぜか共倒れしていくあの感覚、おそらく俺の頭の処理速度が学校のカリキュラムに適応していないに違いない。なんでみんなあんなにマルチタスクできるの? 一教科ずつのほうがやりやすいのに……まあこんなことを言っても仕方がないので最終的に課題は答え写して出しちゃうんですけどね。
そういえば上野さんの成績ってどうなんだろ? うちの学校は成績の貼り出しなんてものはないし、それこそ誰か人伝にそういったものは広がるわけだが、今までのことを考えると彼女の成績が周りに伝わっている可能性は低い。かといってわざわざ成績を聞き出すのもなんだか変な気がするしなぁ。
「ねえ溝部君、あなたは成績ってどんな感じなの?」
いつも通りの昼休み。彼女の方から聞いてきた。
「う~ん、中の下って感じかな」
嘘をつく必要もないがはっきりと答えるにはちょっとアレな順位なのでこのような表現を用いてしまう。
「へえそう。私は中の上くらいよ」
ちょっとドヤ顔でこちらを見てくる彼女。いやあなたもそんなに良くないですよねそれ......
「それで、提案なんだけど」
「なんか嫌な予感がするから聞きたくないんだけど……何?」
「勉強会してみない?」
勉強会といえばあれだろうか。あの友達同士で集まってワイワイやって結局勉強できなくなるやつ。
「リア充に倣って勉強会をすれば何かが掴めるかもしれないじゃない!」
「いや、勉強会ぐらいやったことあるけど効率悪いよあれ」
いうと彼女が無表情になる。俺また何かやったかな......
「あなたがあっても私はないのよ。わかる?」
ああなるほどね。つまりはそういうことか。
「ただ単に、上野さんが勉強会したいだけか」
「ち、っ違うわよ! 別にそういうわけじゃなくて」
「いやいやわかるわかる。いつも寂しく一人で勉強してたんだもんね~」
「だから、違うってば~!」
こうしてしばらく上野さんが恥ずかしさで悶えた後、今度は俺の方から話を持ち掛けた。
「で、どこでするの?勉強会」
「あなたの家ってこの近くよね?じゃああなたの家でいいじゃない」
……は?
「ちょっと待ってくれ! いきなり俺の家ってのはおかしいだろ!」
いきなり意味不明なことを言ってきた彼女にたまらず突っ込みを入れる。
「そうなの? でも勉強会をするところなんて他にあるかしら。まさか学校の図書室ってわけにもいかないし、勉強するのにわざわざお金を使うような場所に行く必要もないでしょ?」
いや、確かにその通りだろう。だとしても俺の家なんて選択肢はもっての外だ。今更彼女と二人で気まずくなるようなこともないかもしれないが、家には親という存在がある。もしかしなくても勘違いされるしからかわれるに決まっている。
「うちは家族が大体いつも家にいるからそれはちょっと厳しいです……」
「そう、それなら仕方ないわね。でもそしたらどこがいいのかしら? 私の家だとあなたは交通費がかかっちゃうし」
いやその選択肢も最初からなかったから。女子の家にいきなり行くなんてハードル高すぎだから。
「いっそのこと渡会君の家なんてどうかしら」
その手があったか! 普段からいろいろとモノがある俺の家に集まりがちで忘れていたが俊之の家ならば両親はほとんど仕事で不在だし、何の問題もないな!
そこでふと思い出した。俊之が先日何やら言っていたことを。
「そういえば俊之を食事に誘ってみたんだけど、三人で話すようなことになるのは絶対嫌みたいなこと言ってたな……」
「え、なにそれ聞いてないわよ。急に来られたら私のほうがやばいことになってたわ」
あ、そこのほうが心配なんですね。
「でもそうなると、やっぱりファミレスとかカラオケボックスに行くとかになるわよ」
「いや、そうとも限らないんじゃないかな」
そうだ、何も二人や三人に限定して勉強会をする必要などないのだ。
「俊之にも他に何人か誘ってもらえればいいんじゃない? そうすれば今度こそ問題はなくなると思うけど」
「それ本気で言ってるの!? 私たちがそれでまともに勉強会に参加できると思う?」
「いやさ、そこはコミュ障脱却の第一歩ってことでやってみてもいいんじゃないかな。今回は数人で他の人と一緒にいることに慣れることができればそれでいいし、今度いきなり実行委員やるよりもよっぽど現実的だとも思うよ」
それに俊之ならば男女のバランスもうまいこと考えて誘ってくれるだろうし、俊之が上野さんを誘ってみたら来てくれたみたいな形にすれば違和感もそんなにないはずだ。
「言いたいことはわかるけど、ハードル高いわね……」
「確かにハードルは高いかもしれないけど、無理ってわけじゃないんだろ? 俺にとっても他の女子がいると思うと結構キツイものがあるからさ。二人で頑張ってみよう」
「......わかったわよ」
話は纏まったが未だ俊之からの許可を得ていないことに気づいた俺達はひとまず俊之に連絡を取ることにした。
SNSアプリを立ち上げ簡潔に事の顛末を打ち込んでいく。間違いがないかをサラッと確認してからその長文を送り付ける。メッセージを送信してから割と早くに返事は返ってきた。
『別にそれくらいならいいけど
まさか俺のうちに上野さんが来るようなことになるとは思ってなかったぜ』
『それな』
『それなじゃねえよ元凶!
すぐそれなって返信するのもコミュ障の特徴だって知ってたか?』
それは初耳だ。そんなところからも性格ってバレるんですね……。
『まあまあともかく
人数とか誘う人の傾向とかはお前に任せるから頼んだぜ』
『本当にお前は……
やる気があるのかないのかわからんやつだな』
というわけでひとまず俊之の了承を得たわけだが。
「へえ~そのアプリって結構便利なんだ。私、相手がいなかったから入れてなかったのよね」
かなり悲しいことを言っているが、そういえばこの人と交換した連絡先メアドだけだったな。いまどきこういったSNSのアプリを入れていない人のほうが少ないと思うんだが、家族との間でも使ったりしないのか?
「でもこのちょくちょく改行してるのがなんか気に入らないわね。もっと普通に文章打ち込めばいいじゃない。これだから最近の若者は」
「お前はおばあちゃんか……」
「そんなの初めていわれたわよ! 失礼ね」
まあそんなこと言う友達がいなかったもんね
「もう一回確認しとくけど、今度の日曜日に朝から渡会君の家に行くのよね。場所知らないけど」
「ああ、駅に俺が迎えに行くよ」
「助かるわ。じゃあその道中にコンビニで昼ご飯買っていきましょうか」
「俺はいったん食べに帰ることにするよ。家が隣だし」
「妙に仲がいいのにはそんな理由があったのね……そろそろ時間も少なくなってきたし、早めにご飯食べ終えちゃいましょうか」
「あ~もうこんな時間か」
その後終始無言でご飯を食べ終わりその場は解散となった。
いつも通り先に教室に戻ってきた俺は席について窓から遠くを眺めていた。
それにしても勉強会なんてのは久々な気がする。確か中学の時は友達と集まってよくやってたと思う。結局みんなゲームを持ち寄っていてテスト週間なのにたいして勉強できなかったり、そもそも勉強会と親に偽って集まって遊んでいたりした時もあったな。今思えばあの頃も男友達しかいなかった……いや中学生なら普通か?
今回は初めて女子と勉強会をするわけだけど、本当に大丈夫だろうか。俊之はどんな女子を誘ってくるだろうか。クラスの女子の顔と名前がほとんど一致していないからてんで想像もつかないが、結局俊之かほかの男子とだけ話す未来しか見えない。
だが自分も頑張ると上野さんに言った以上、それは流石に許されないだろう。特に決めたわけではないが今回の目標を考えれば俺は他の女子と、彼女はとにかく俺以外と少しでも親睦を深め友達を作ること。といったところか。
上野さんとは友達になれたのだ。やってやれないことはない、と思いたい。最近で言えば藤井さんとは少し話せたと思うし、相手が話しかけてくれれば対応はできると思うんだけどそれでは意味がない。コミュ障を脱却するにはどうにかして自分から話しかけねば。
一方上野さんはと言えば、彼女は多分話しかけられるほうが苦手なタイプだろう。能面のような表情をする彼女の顔が浮かぶ。彼女のことは彼女にしかわからない部分が多いので考えても仕方がないことかもしれないが、俊之の家に入ってから終始無言、無表情になるんじゃないかと思うと気が気でない。
そんな上野さんが勉強会をしたがっていた。というのはなんか意外な気がする。大体人付き合いが苦手な人って、勉強は自分でするものだ。とか、集まってやっても効率下がるだけだ。とか言ってそういうのは否定することが多いんだけど、どこか憧れのようなものでもあるのか、彼女は勉強会に関しては結構積極的になっているように感じる。人数集めるって言ってた時にはさすがに慌てたけど。
そして、俺たちコミュ障にはそのやる気が空回りして変なテンションになるのが一番まずい事なのは俺が彼女と会ったときに証明済みだ。これは少し釘をさしておいたほうがいいのかもしれない。だがせっかくのやる気を挫くのいかがなものか......。
よし! ここは頼れる俊之に丸投げして俺は俺のことに集中しよう!
「なんかまたろくでもないことを思いついた顔してるな」
「わぎゃーーーー!!!」
「変な声出すなよ!」
「なんだ俊之か。急に話しかけるなよな。口からいろいろ飛び出すぞ?」
「現に悲鳴が飛び出してたよ!」
いや~本当にびっくりした。これがなんか別の用事で話しかけてきた別の人とかじゃなくて良かったよ。
「ところでなんか用事か?」
「そっちが頼み事してきたくせに随分な態度だな! ったく、勉強会とやらに参加する人を集めておいたからその報告に来たんだよ」
「えっもう集まったのか」
さすが俊之。仕事が早い、早すぎる。
「まあな。というわけで藤井さんだけ呼んどいた」
だけ? 今、だけって言わなかった? こいつ。
「なんだよその顔は。バランスを考えたらこれが一番だと思ってな」
「というわけでよろしくね~溝部君」
「わあっ! びっくりした」
いつの間にやら後ろに藤井さんが立っていた。心臓に悪い。
「いや~なんだかおもしろそうな匂いがしてたし、上野さんも来るんでしょ? あの子こういうのには絶対参加しないと思ってたから仲良くなるチャンスかな~って思って」
おもしろそうな匂いってなんだよ一体……
「それにしてもどうやって上野さんを誘ったのか気になっちゃったり?」
「ああーそれは俊之が……」
「ここだけの話、樹が誘ったんだぜ」
ちょっと何言っちゃてんのこいつ! 確かに俊之が呼んだことにすれば違和感ないってメッセージにも書いておいたのに! あっ、奴の口元がちょっとにやついてる……
「えっ! ホントに? すごいじゃない溝部君。あの宣言がどこまで本気なのか気になるわね~私もその勢いで誘ってくれてもよかったのよ?」
「いや~それはちょっと……ははは」
「え~なによ、私より上野さんのほうが誘いやすかったの? なんだか変わってるわねあなた」
「そ、そうかな?」
「当り前じゃない。あの上野さんよ? いったい今まで何人の男が泣かされてきたことやら……」
すっかり忘れていたが上野さんの周りからの評判はそんな感じだったことを思い出す。彼女の性格を知っている俺は思わず吹き出しそうになってしまった。そんな俺を見て藤井さんはまた同じことを言った。
「あなた、やっぱり変わってるわね。おもしろいわ」
その顔はさっきとはまた違った、すごくいい笑顔をしていた。
『まあそういうわけで俺と上野さん、俊之に藤井さんが今回のメンバーだよ』
その日の夜、早速SNSアプリをインストールしたという連絡をしてきた上野さんに昼間のことについて報告ををしていた。
『なんか、思ってたよりも少なくて安心しました。』
していたのだけれども、なぜか丁寧語である。
『藤井さんが言ってたんだけど
上野さんと仲良くなれるかもって』
『それはうれしいですね。こちらもなるべくしっかり話せるように頑張らなければいけませんね。当日は気合を入れていきます。』
気合を入れるとなると二回目にあの場所であった時のような感じになるのだろうか。なんだかそれは逆効果になりかねないと思うんだが……。
『あんまり張り切らないほうがいいんじゃないかな
コミュ障特有の変なテンションになるんじゃない?』
『確かに一理ありますね。溝部君みたいに気が動転して相手に対して恥ずかしい言葉をその一時のテンションでスラスラ言ってしまうようなことにはならないと思いますが。』
ここぞとばかりに心の傷をえぐられてしまった。ちょっと怒ったぞ。
『そっちだって二回目にあったときには
こちらの話を聞こうともせず一方的に話してたじゃないか
それになんか敬語なのもキモい』
『キモいってなんですかキモいって。私からすればいちいち改行して話し言葉を打ち込んでる方がなんだか気持ち悪いのですが、他の人たちもそんな風に使っているんですか?』
今まで使ったことないとは言っていたがそんな風に思っていたのか。彼女は手紙のような感覚で今メッセージ打ち込んできているのだろうか。妙なところでやっぱりあれだな。
『おばあちゃんかな?』
『怒りますよ?』
2秒で返ってきた。怖い。
『ごめんごめん
でも、今時そんな風に送ってくる人なんて電子メールでもいないと思うよ
このアプリだって簡単にやり取りできるから流行ってるわけだし』
『そういうものですか。まあ少しずつ慣れていきます。』
全然わかってなさそう。
『ええっと
こんな感じでいいのかしら?
なんかやっぱり変な感じね
こんなのに慣れたら社会に出た時苦労しそうだわ』
前言撤回。意外に慣れるの早いじゃないか。
『そうそうそんな感じ
でも社会に出た時に苦労するのはそこじゃない』
俺たちが一番苦労しそうなのは今のところコミュ障であることだろう。
『?』
わかっていない様子だがあえて言う必要もないな。
『なんでもないよ
まあともかくそういうことなんでおやすみ~』
『ええ、おやすみなさい』
それにしてもなんというか、相手は上野さんとはいえ女子と寝る前に連絡取りあうってのは初めての経験な気がする。それどころか着々と俺の初めては彼女に奪われていってる気がするのは気のせいではない。
まあこんなのは普通の男子高校生ならやっていることなんだろう。それも下心で。
今までの俺が何もなさ過ぎたのだ。女子の友達と呼べる人がゼロだった時点で、自分を普通だと思っていたあの頃の俺をぶん殴りたくなってくる。
そもそも俺が女子を無意識のうちに苦手に思っていたのはいつからだったろうか。自分でも思い出すことができない。きっと理由なんてないのだろう。何か劇的な事件があったわけでもなし、ましてやトラウマの類なんてもってのほかだ。ただなんとなく昔から男子とだけ遊んでいたのだ。そして大きくなってから、女子を相手にしてこないまま、思春期を迎え半端な知識や性欲を持ち今に至る。
下世話な話だが俺にだってそういう劣情はもちろんあるし、女性というものが大好きではある。だけど今まで話をしてこなかった女子たちに苦手な意識があったのは多分こうしたものとのギャップが関係してるのではないかと今は思う。欲求としての対象と人間として、話し相手としての女性とがうまく分けられていなかったというか、言葉にするとよくわからなくなってくるがきっとそれだけのことなんだろう。
だが、今の俺は上野さんと友達になれた。普通に接することができていると思う。きっかけは少し変だったけれども、きっとこのことは自信をもっていいことだ。
もちろん性格が合わなければどうしようもないし、自分の中の苦手意識が完全に払拭できていないことは藤井さんとの会話でもわかっていることだ。だけど確実に、少しでも変わってきている。
そして俺は彼女に感謝すべきだろう。変わるきっかけを与えてくれたことに、俺なんかと友達になってくれたことに、ともにコミュ障を脱却すると言ってくれたことに。
共に頑張るといった彼女、上野朱里は俺の中ではもう、特別な一人なのだから。
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