寝坊少年の悩みの種

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第五章 共犯者

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「あら、遠藤君まだいたんですか」
 制服に着替えて一息ついた後、教室を出て隣の教室の中をちらっと覗くと遠藤君が一人で座っていました。
 その様子はどこか思い詰めているようで、先ほどまで喫茶店に早川さんと一緒にいた時の彼とは別人の様でした。
「……何かあったんですか」
 私がそう言うと彼はびくりと反応します。驚かせてしまったでしょうか。
「いえその、なんだかいつもより元気がなさそうでしたので」
 彼は少し苦笑します。
「なんでもないよ」
「ならいいんですが。それよりそろそろ体育館に行きましょう。エンディングが始まりますよ」
「先に行っててくれ。ギリギリで行くから」
 先ほどまでとの違いから原因はやはり早川さんとの間に何かあったと考えるのが自然です。しかし直接的に聞くのもなんだか失礼な気がしたので、もう一度何かあったのか聞いてみました。
「悪いけど、話せることじゃない」
 きっぱりとした口調。今は彼の中でまだ何もまとまっていないといったところでしょうか。何があったかはわかりませんでしたが、ひとまずそっとしておきましょう。
「そう、ですか。分かりました先に行ってます」
「すまん」
 その時の彼の顔は心底申し訳なさそうで、今にも泣きだしそうに見えました。

 家に帰ってからも、私の中で彼のあの顔が消えることはありませんでした。
 早川さんとの間に何かあったとするならば失恋でしょうか。しかし以前私は本人の口から彼女が遠藤君のことを好きであるということを聞いています。その可能性は薄いでしょう。
 しかしこれ以外となると彼があのような顔をする理由がわかりません。
 事情を聴こうにも彼には聞きづらいですし、早川さんの連絡先も持ってはいるのですが、こんな時だけ連絡するのは非情に失礼でしょう。ここは毎朝顔を合わせるのですから少しずつ様子を見てくことにしましょう。

 翌朝、彼の家をいつものように訪れた私ですが、珍しく彼は悠々と朝の時間を過ごしていました。
 よく眠れていなかったというわけでもなさそうで、いつもよりも顔色が少しよく見えます。しかし表情は暗いとまでは言わずとも、いつもに比べれば元気がないということがわかります。
 口数もいつもより少ないように思えました。いつもおしゃべりというわけではありませんが、こちらが何か言うと冗談を交えて返してくることが多かった彼にしてはキレがありません。やはり心配になってきます。
 ただ、昨日話すつもりはないと言っていたので無理に聞くこともできず、そのまま登校しました。

 授業が始まってからも休み時間に様子を見れば、いつも後藤君と変な話をしているのにも関わらず、今日は一方的に後藤君が話しかけてそれに適当に返事をしているように見えます。昼休みも変わらずそんな感じです。
 相当な悩み事なんでしょう。私にでも話してくれれば楽になるかもしれないのにと思います。
「どこみてるの瑞穂ちゃん」
 一緒にお昼を食べていた茜ちゃんが声をかけてきました。どうやらぼーっとしてしまっていたようです。
「いや、なんだか遠藤君が元気ないみたいなのよね」
「いつから?」
「昨日の帰り前くらいからかな」
 原因もわからないことなので隠す必要もないかと普通に答えます。
「えっ、何それ昨日からずっと見てたの? 好きなの?」
 聞いた瞬間お茶を吹きそうになりました。
「な、ななな何でそうなるの! 私はただ彼が心配で」
 私は声を潜めながら言い訳をします。
「そもそも私なんて席が近いのにまったく気づかなかったんだから、瑞穂ちゃんがめっちゃ遠藤君のことを見てるって事実は変わらないんだけど、そこんとこどうよ」
 う、言われてみれば確かに、私は昨日から彼の事しか考えていなかった気がします。で、ですがそれはただ、本当に友達が心配で……。
「はははごめんごめん。ちょっとからかいすぎたかな」
 この子は全く……。人をからかうのが好きなようですがどこか憎めないんですよね。
「こっちは真剣なのに」
「本人には聞いたの?」
「昨日ね。だけど話せることじゃないって言ってた」
「それなら瑞穂ちゃんが悩んでもしょうがないじゃない」
 確かにその通りだ。
「でも、気になるのよね」
 私がそう言うと彼女は先よりもニヤニヤしていた。
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