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第五章 共犯者
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その後、俺はとりあえず自分のクラスの喫茶店に戻ってきていた。
文化祭の終了時間も近づき、体育館でのエンディングに向けて多くの人が移動し始め、残る人は少なくなっていた。
「あら、遠藤君まだいたんですか」
男装姿ではなくいつもの制服の委員長が声をかけてくる。隣の教室で着替えてきたのだろう。
「……何かあったんですか」
唐突にそんなことを聞いてきた委員長に俺は思わずびくりと反応をしてしまった。。
「いえその、なんだかいつもより元気がなさそうでしたので」
なるべく平静を装っていたつもりだがうまくいっていなかったようだ。
「なんでもないよ」
「ならいいんですが。それよりそろそろ体育館に行きましょう。エンディングが始まりますよ」
「先に行っててくれ。ギリギリで行くから」
俺がそう言うと、委員長は訝しげな顔をして再度尋ねてくる。何かあったのかと。これでは誤魔化すのは無理そうだが、このことに関しては委員長に言うつもりもなかった。
「悪いけど、話せることじゃない」
「そう、ですか。分かりました先に行ってます」
「すまん」
その後文化祭の片付けも終わったので俺はさっさと家に帰ることにした。打ち上げの話もあったが、適当な理由をつけて断っている。
家に帰ってからはずっとベッドの中だ。今はただ何も考えたくなかったのだろう。布団にもぐり、そのまま俺は意識を手放した。
早朝、いつもより一時間ほど早く目が覚めた。昨日はあのまま布団で眠ったんだっけとうまく働かない頭で思い出す。そのまま昨日の出来事を思い出し憂鬱な気持ちになる。
「夢じゃ、なかったんだよなぁ」
早織に告白された。そして俺はそれを断った。ただそれだけのことだ。
不誠実なことはしたくなかったし後悔なんてない。ただ、それでもあきらめないといった早織とどう接すればいいのかがわからない。もちろんこのまま早織が何もせず再び疎遠となってしまう可能性もあるだろうが、昨日の彼女の絞り出すような声には得も言われぬ強さがあった。
「今まで通りになんてできるわけないしな」
向こうもこちらも、今まで通りの関係にはもう戻れないことは明白だ。しかし俺は彼女との縁を断ち切りたくはないし、彼女もあきらめないといった以上何かしらのアクションを起こしてくるだろうことは想像に難くない。
そうしていくら考えても何も出てこないまま、早起きの貯金は消えていった。
いつの間にか放課後を迎えていた。今日は授業にも身が入らず、一日中ぼーっとしていたような気がする。心配していたような早織のアクションなどはなかったが、後藤からは多くのちょっかいをかけられていた。それも告白の事なんて知らずに俺が早織と文化祭回っていたことを弄るもんだから質が悪い。しかし後藤にはあまり日があるとも言えないので怒る気のもならず、適当にあしらっているとますます調子に乗るという悪循環。最悪である。
とにかく授業は終わったのだ。さっさとバイト先に行ってしまおう。
「よっす、遠藤君」
今日はバイト先に俺の方が早くついていた。串田が俺より遅いのは大変珍しい。
「今日は早いねー」
「逆だ逆、いつもより遅いから休みかと思ったぞ」
あははーそうだよねーと言いながら、彼女は微妙な笑みを浮かべる。
「実は文化祭の途中からだけど、妙に男子に遊びに誘われるようになっちゃってさ。こっちはそんなつもりで接してないっていうのに。バイトがないと大変だったよ」
そういえば由紀さんも串田がモテるとは言っていたが、そこまでだったのか。
「確かに仲良くなりたいとは思ってたけどさ、求めてるのはああいう感じじゃないんだよね」
心底めんどくさいといったように手を振りながらいやいやとポーズをとる。
「ああいう感じって?」
「そりゃあもう、下心だよ。ちょっと優しくしただけでそういう感じの目で見てくる人って多いんだよね」
後藤も言っていたが、男とは実に単純な生き物である。一瞬串田の自意識過剰ではないかとも思ったが後藤のような人種が多いことは事実だ。俺には正直なところよくわからない部分でもある。
「遠藤君もなんだかいつもより元気ないみたいだけど?」
俺ってそんなにわかりやすいのか? 委員長といい串田といい人の変化に敏感なようだな。
「まあ、いろいろとな。人に言うようなことでもない」
「ふーん。別に相談してもいいんだよ? 私たちは同じ親を持ついわば兄妹じゃない」
なんだか生暖かい目で見られているが、しかし誰かに相談するというのも視野に入れてもいいのかもしれないな。
後藤は論外、母さんと父さんも論外。委員長はこういうことは苦手そうだし、適任といえばやはり人間関係の達人であるらしい串田なのだが。
「まあとりあえず今はバイトだ。そろそろ時間だろ」
「そうだね。じゃあバイト終わりか家に帰ってからでも、話したくなったら言ってねー」
なんだか俺が話すこと前提の言い方なんですけど……。
文化祭の終了時間も近づき、体育館でのエンディングに向けて多くの人が移動し始め、残る人は少なくなっていた。
「あら、遠藤君まだいたんですか」
男装姿ではなくいつもの制服の委員長が声をかけてくる。隣の教室で着替えてきたのだろう。
「……何かあったんですか」
唐突にそんなことを聞いてきた委員長に俺は思わずびくりと反応をしてしまった。。
「いえその、なんだかいつもより元気がなさそうでしたので」
なるべく平静を装っていたつもりだがうまくいっていなかったようだ。
「なんでもないよ」
「ならいいんですが。それよりそろそろ体育館に行きましょう。エンディングが始まりますよ」
「先に行っててくれ。ギリギリで行くから」
俺がそう言うと、委員長は訝しげな顔をして再度尋ねてくる。何かあったのかと。これでは誤魔化すのは無理そうだが、このことに関しては委員長に言うつもりもなかった。
「悪いけど、話せることじゃない」
「そう、ですか。分かりました先に行ってます」
「すまん」
その後文化祭の片付けも終わったので俺はさっさと家に帰ることにした。打ち上げの話もあったが、適当な理由をつけて断っている。
家に帰ってからはずっとベッドの中だ。今はただ何も考えたくなかったのだろう。布団にもぐり、そのまま俺は意識を手放した。
早朝、いつもより一時間ほど早く目が覚めた。昨日はあのまま布団で眠ったんだっけとうまく働かない頭で思い出す。そのまま昨日の出来事を思い出し憂鬱な気持ちになる。
「夢じゃ、なかったんだよなぁ」
早織に告白された。そして俺はそれを断った。ただそれだけのことだ。
不誠実なことはしたくなかったし後悔なんてない。ただ、それでもあきらめないといった早織とどう接すればいいのかがわからない。もちろんこのまま早織が何もせず再び疎遠となってしまう可能性もあるだろうが、昨日の彼女の絞り出すような声には得も言われぬ強さがあった。
「今まで通りになんてできるわけないしな」
向こうもこちらも、今まで通りの関係にはもう戻れないことは明白だ。しかし俺は彼女との縁を断ち切りたくはないし、彼女もあきらめないといった以上何かしらのアクションを起こしてくるだろうことは想像に難くない。
そうしていくら考えても何も出てこないまま、早起きの貯金は消えていった。
いつの間にか放課後を迎えていた。今日は授業にも身が入らず、一日中ぼーっとしていたような気がする。心配していたような早織のアクションなどはなかったが、後藤からは多くのちょっかいをかけられていた。それも告白の事なんて知らずに俺が早織と文化祭回っていたことを弄るもんだから質が悪い。しかし後藤にはあまり日があるとも言えないので怒る気のもならず、適当にあしらっているとますます調子に乗るという悪循環。最悪である。
とにかく授業は終わったのだ。さっさとバイト先に行ってしまおう。
「よっす、遠藤君」
今日はバイト先に俺の方が早くついていた。串田が俺より遅いのは大変珍しい。
「今日は早いねー」
「逆だ逆、いつもより遅いから休みかと思ったぞ」
あははーそうだよねーと言いながら、彼女は微妙な笑みを浮かべる。
「実は文化祭の途中からだけど、妙に男子に遊びに誘われるようになっちゃってさ。こっちはそんなつもりで接してないっていうのに。バイトがないと大変だったよ」
そういえば由紀さんも串田がモテるとは言っていたが、そこまでだったのか。
「確かに仲良くなりたいとは思ってたけどさ、求めてるのはああいう感じじゃないんだよね」
心底めんどくさいといったように手を振りながらいやいやとポーズをとる。
「ああいう感じって?」
「そりゃあもう、下心だよ。ちょっと優しくしただけでそういう感じの目で見てくる人って多いんだよね」
後藤も言っていたが、男とは実に単純な生き物である。一瞬串田の自意識過剰ではないかとも思ったが後藤のような人種が多いことは事実だ。俺には正直なところよくわからない部分でもある。
「遠藤君もなんだかいつもより元気ないみたいだけど?」
俺ってそんなにわかりやすいのか? 委員長といい串田といい人の変化に敏感なようだな。
「まあ、いろいろとな。人に言うようなことでもない」
「ふーん。別に相談してもいいんだよ? 私たちは同じ親を持ついわば兄妹じゃない」
なんだか生暖かい目で見られているが、しかし誰かに相談するというのも視野に入れてもいいのかもしれないな。
後藤は論外、母さんと父さんも論外。委員長はこういうことは苦手そうだし、適任といえばやはり人間関係の達人であるらしい串田なのだが。
「まあとりあえず今はバイトだ。そろそろ時間だろ」
「そうだね。じゃあバイト終わりか家に帰ってからでも、話したくなったら言ってねー」
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