寝坊少年の悩みの種

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第四章 文化祭と秘めた気持ち

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 いよいよ本格的な文化祭の準備が始まった。当日のシフトやそれぞれの役割分担もすでに決まっていて、みんな各々のやるべきことをやっている。
 俺はクラスでは特にやることもないため内装の装飾品をダンボール類を使って作っていく係になっていた。これが意外と手間がかかる。たくさんの部品を作って前日に予定されている教室に取り付けるので今は個人的な作業が多い。
 当日に関しては俺は一日目に女装ウェイトレスと校舎内を歩き回っての宣伝を担当することになった。実行委員の仕事が当日に少ないので安心していたのだが自由は少なそうだ。
 二日目は同じ役目を後藤が行う手はずになっている。
 ちなみに俺たちの女装は意外と好評であった。

 準備期間に入っているのでもちろん実行委員の方にも顔を出さなければならない。大型備品は前日のみの貸し出しになっているので、工具やその他のちょっとしたものの管理を行う。貸し出しの備品と本人の名前を書いてもらって返しに来たらそれを消すだけの簡単な仕事だ。
 大型備品の貸し出しは全員であたるから、もしかしたら前日のクラスの準備には参加できないかもしれないな。念のためバイトのシフトは空けてあるが、下校時刻は大体決められている。よっぽどのことがない限りは居残りすることもないだろう。
 備品の貸し出しが途切れてひと段落し、少し様子を見てだらけることにする。隣にいた早織も同じことを思ったのか、苦笑しながら話しかけてきた。
「思ったよりもやることがないからびっくり」
「そうだな。物がなくて探すってことも今のところないし」
 忙しそうに走り回っている先輩方もいるが、俺達はのんびりしたものである。これはクラスの仕事をサボれてラッキーかもしれない。
「そういえば弘治は文化祭、誰と回るかとか決めてる?」
「あー、決めてないな。頼みの綱の後藤も同じ女装枠ってことで日にち分けて仕事が入ってるし」
「そっか、そ、それじゃあ私と一緒に回らない? 二日ともそこそこ暇なんだよね」
 他に一緒に回りそうな人も今のところいないし、ぼっちのリスクを考えれば断る理由などないだろう。
「いいぞ。俺は二日目しか回れないけどそれでいいか」
「うん! やった」
 早織はそんなに嬉しかったのか、こちらをむいてはにかんでいた。

「ふう、つかれたー」
 文化祭前最後のバイトを終えた俺は串田と二人で控え室でぼーっとしていた。
「なんだかんだで通常授業より疲れるよねー」
「確かに、人と接する機会が増えるだけで疲れがどっと増す気がするな」
「それは気の使いすぎなんじゃない? 私もいつもと違って疲れるのは同じだけどさ」
 準備に設けられている時間が終わってからいつも通りにバイトに来ているが、疲労感はいつもの倍はある。
「まあ遠藤君は人付き合いって苦手そうだもんね。最初私と会ったときなんか気合入れまくって敬語にしてたくらいだから」
 むっ、失礼な。
「今でもバイト中は気を付けてるぞ」
「別に変じゃないけど、素を見てからだとえらく滑稽というか、おもしろいのよね。まあそれは別にいいとして、クラスの方の企画はうまくいってる?」
 彼女はクラス責任者だからか、他所のクラスの進行具合が気になっているようだ。
「概ねいい感じかな。飲み物は準備完了しててお菓子については係の人にお任せだけど多分問題ない。内装のほうもほとんど終わってる。そっちはどうなんだ。確か……」
「綿菓子だよ。それはもう機械借りてきて作るだけだから余裕よ余裕。まあ前日に機械運び入れだから特にやることがないってのが正直なところだけどね」
 確かに楽そうだな。まあ一年生なんて普通はそんなものだろう。うちのクラスがやけに気合入っているだけだ。
 実行委員で全クラスの企画をちらっと見たが、一年生はどこも簡単そうなものを選んでいる。ただ体育科だけは確か演劇だったかな? 気合の入り方の次元が違った。

「是非とも遠藤君のクラスは見に行かなきゃね。当日の女装、楽しみにしてるよ。瑞穂の制服はぴったりだったんでしょ」
「おう、不本意ながらももう吹っ切れたからな。楽しみにしてろ。あ、でもその、父さんには言わないでくれよ?」
「もう言ったよ? 瑞穂にスーツ貸してもらうんだから言うに決まってるじゃん」
 マジかよ。父さんには見つからないようにしないとな……。
「お母さんも楽しみにしてるって」
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