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第四章 文化祭と秘めた気持ち
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「それはまた災難だったね」
バイトまでの時間つぶしといってはなんだが、一度家に帰るのは面倒だったので事前に串田とファミレスに行く約束をしていた。
「だろ? ほぼ無理やり実行委員にさせられた挙句、女子ばっかりの係に放り込まれるとは思ってもみなかった」
「まあでも意外と楽しそうじゃない。バイトに影響もないんでしょ? 私もやればよかったかな」
串田は冗談っぽくそうつぶやく。
「そっちはクラス企画の責任者って言ってたじゃないか」
「まあね。この機会にクラスの人たちともっと仲良くなっておこうと思ってさ」
随分立派な心掛けである。自分が情けなくなってくるな。
「それに、責任者って先陣切っていろいろやるイメージがあるけどうまくやれば実際そんなに働かなくて済むんだよね。最初は自分で動かないといけない時もあるけど、ある程度人を集めてしまえば指示を出すだけで働いてる感出るからお得だったり? 最終的に働いた量は他の人たちと完全に逆転してると思うよ」
まさかの計算ずくだったらしい。普段はあんな調子なのに由紀さんの娘である片鱗を覗かせて居る。そういえば由紀さんによるとモテモテでいろんなところで気を使っていたという話だ。人付き合いにおいてはまさしく達人の域に達していたとしても不思議ではないか。
「ちょっと、そんなドン引きしましたみたいな顔しないでよ。みんなと仲良くなりたいのは本当なんだからさ」
顔に出てたか。思わず苦笑が漏れると彼女もまた微妙な笑いで返してきた。
「そういえば串田、テストの方はどうだったんだ」
「それはもうばっちり。瑞穂のおかげね!」
どうやらあの後も三人は一緒に勉強をしていたらしい。仲が良くて大変結構である。
あれから三日、俺達のクラスの規格は第一希望であった喫茶店に決まり、みんなで具体的な案を考えていた。
「喫茶店って言ってもさすがに料理を出すのはちょっと……」
「それじゃあお菓子と飲み物だけでいいかな」
「飲み物は用意の仕方が限られてるけど、お菓子はどうするの? 作るの?」
「準備期間もたっぷりあるし、作る方向で言ってもいいんじゃないかな」
「作るとしたら何を?」
みんないい感じに意見を出していっている。前の企画提案の時も思ったが、このクラス意外と優秀だよな。
結局、飲み物は委託販売ってことで数種類用意し、お菓子は焼き菓子を二種類作って提供するということに決まった。焼き菓子の種類とか詳しいことは知らないのでわかる人に任せよう。休日にでも誰かが実験してくれるだろう。
俺たち男子はもっぱら会場の飾りつけに精を出すことになりそうだ。
「そういえば、接客の人の衣装ってどうするんだ」
突然後藤が発言をしみんなの注目を集める。
「衣装って、制服にエプロンでいいんじゃない」
「おいおい、せっかくの文化祭なんだしもうちょっと何とかならないのかよ」
ああ、後藤の思考が少し読めてきてしまった。
「例えばそう! メイド服とか!」
キリッとした顔で欲望に忠実な意見を言う後藤に、クラスの男子たちからはさすがは後藤だとか、俺達の後藤! 言いにくいことを平然と言ってのける! だとか謎の英雄扱いを受けている。そっち方面の人望はクラス一だ。
「別にコスプレ喫茶じゃないし、予算的にも衣装に回すお金はないかな」
しかし彼らに責任者殿が冷静に冷や水を浴びせる。
「確かに可愛い衣装とか来てみたいって子もいるとは思うけど、そうじゃない人もいるしね」
反論しにくい妥当な意見、後藤よ次はどう出るかとクラスの男子の視線が集まる。
「しかし、客引きのためにも有効な手段なんだ! 頼む、検討してくれ!」
以外にもこちらも正当な理由を持ってきた。若干無理やりな気はあるが間違いでもない。
しかし俺にはこの先の展開が少し読めてしまった。
文化祭、可愛い衣装、客引き、宣伝。これらの記号を組み合わせ得られる答え。それすなわち、
「後藤君が女装してみればいいんじゃない?」
「それよ! 顔はいいし似合うはず!」
そう、女装である。無理やりな結び付けかもしれないが文化祭にはつきものだ。コスプレを誰かが提案した時点で数名の生徒の視野には入っていることであろう。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それはおかしい!」
「いや、いいんじゃないか後藤。俺もちょっと見てみたいわ」
「さすがに一人だとかわいそうだけど」
おいやめろ。これ以上被害者を増やそうとするんじゃない。そんなことを言った場合、ネタ枠として筋肉質な奴か普通に背の低いやつとかが選ばれちゃうだろ!
「そ、そうだろ? こうなったら遠藤! お前もこっち側だ」
「遠藤君か。顔つきはちょっと怖いけど背は低いし似合うかもね」
「化粧したら意外とかわいくなるかもしれないわよ! 腕がなるわ」
少し前までの俺ならこんな提案をされることすらなかったかもしれないが、今の俺は文化祭実行委員である。みんなからは少しくらい体を張らせても大丈夫だろうと思われているのだ。こうなっては前回の二の舞、断ることはできないだろう。
「それじゃあ土日の間に衣装の目星をつけてもらえるかな? 一人二人なら予算から出せそうだし」
有無を言わさず決定した。ああ、気が重い。
バイトまでの時間つぶしといってはなんだが、一度家に帰るのは面倒だったので事前に串田とファミレスに行く約束をしていた。
「だろ? ほぼ無理やり実行委員にさせられた挙句、女子ばっかりの係に放り込まれるとは思ってもみなかった」
「まあでも意外と楽しそうじゃない。バイトに影響もないんでしょ? 私もやればよかったかな」
串田は冗談っぽくそうつぶやく。
「そっちはクラス企画の責任者って言ってたじゃないか」
「まあね。この機会にクラスの人たちともっと仲良くなっておこうと思ってさ」
随分立派な心掛けである。自分が情けなくなってくるな。
「それに、責任者って先陣切っていろいろやるイメージがあるけどうまくやれば実際そんなに働かなくて済むんだよね。最初は自分で動かないといけない時もあるけど、ある程度人を集めてしまえば指示を出すだけで働いてる感出るからお得だったり? 最終的に働いた量は他の人たちと完全に逆転してると思うよ」
まさかの計算ずくだったらしい。普段はあんな調子なのに由紀さんの娘である片鱗を覗かせて居る。そういえば由紀さんによるとモテモテでいろんなところで気を使っていたという話だ。人付き合いにおいてはまさしく達人の域に達していたとしても不思議ではないか。
「ちょっと、そんなドン引きしましたみたいな顔しないでよ。みんなと仲良くなりたいのは本当なんだからさ」
顔に出てたか。思わず苦笑が漏れると彼女もまた微妙な笑いで返してきた。
「そういえば串田、テストの方はどうだったんだ」
「それはもうばっちり。瑞穂のおかげね!」
どうやらあの後も三人は一緒に勉強をしていたらしい。仲が良くて大変結構である。
あれから三日、俺達のクラスの規格は第一希望であった喫茶店に決まり、みんなで具体的な案を考えていた。
「喫茶店って言ってもさすがに料理を出すのはちょっと……」
「それじゃあお菓子と飲み物だけでいいかな」
「飲み物は用意の仕方が限られてるけど、お菓子はどうするの? 作るの?」
「準備期間もたっぷりあるし、作る方向で言ってもいいんじゃないかな」
「作るとしたら何を?」
みんないい感じに意見を出していっている。前の企画提案の時も思ったが、このクラス意外と優秀だよな。
結局、飲み物は委託販売ってことで数種類用意し、お菓子は焼き菓子を二種類作って提供するということに決まった。焼き菓子の種類とか詳しいことは知らないのでわかる人に任せよう。休日にでも誰かが実験してくれるだろう。
俺たち男子はもっぱら会場の飾りつけに精を出すことになりそうだ。
「そういえば、接客の人の衣装ってどうするんだ」
突然後藤が発言をしみんなの注目を集める。
「衣装って、制服にエプロンでいいんじゃない」
「おいおい、せっかくの文化祭なんだしもうちょっと何とかならないのかよ」
ああ、後藤の思考が少し読めてきてしまった。
「例えばそう! メイド服とか!」
キリッとした顔で欲望に忠実な意見を言う後藤に、クラスの男子たちからはさすがは後藤だとか、俺達の後藤! 言いにくいことを平然と言ってのける! だとか謎の英雄扱いを受けている。そっち方面の人望はクラス一だ。
「別にコスプレ喫茶じゃないし、予算的にも衣装に回すお金はないかな」
しかし彼らに責任者殿が冷静に冷や水を浴びせる。
「確かに可愛い衣装とか来てみたいって子もいるとは思うけど、そうじゃない人もいるしね」
反論しにくい妥当な意見、後藤よ次はどう出るかとクラスの男子の視線が集まる。
「しかし、客引きのためにも有効な手段なんだ! 頼む、検討してくれ!」
以外にもこちらも正当な理由を持ってきた。若干無理やりな気はあるが間違いでもない。
しかし俺にはこの先の展開が少し読めてしまった。
文化祭、可愛い衣装、客引き、宣伝。これらの記号を組み合わせ得られる答え。それすなわち、
「後藤君が女装してみればいいんじゃない?」
「それよ! 顔はいいし似合うはず!」
そう、女装である。無理やりな結び付けかもしれないが文化祭にはつきものだ。コスプレを誰かが提案した時点で数名の生徒の視野には入っていることであろう。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それはおかしい!」
「いや、いいんじゃないか後藤。俺もちょっと見てみたいわ」
「さすがに一人だとかわいそうだけど」
おいやめろ。これ以上被害者を増やそうとするんじゃない。そんなことを言った場合、ネタ枠として筋肉質な奴か普通に背の低いやつとかが選ばれちゃうだろ!
「そ、そうだろ? こうなったら遠藤! お前もこっち側だ」
「遠藤君か。顔つきはちょっと怖いけど背は低いし似合うかもね」
「化粧したら意外とかわいくなるかもしれないわよ! 腕がなるわ」
少し前までの俺ならこんな提案をされることすらなかったかもしれないが、今の俺は文化祭実行委員である。みんなからは少しくらい体を張らせても大丈夫だろうと思われているのだ。こうなっては前回の二の舞、断ることはできないだろう。
「それじゃあ土日の間に衣装の目星をつけてもらえるかな? 一人二人なら予算から出せそうだし」
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