寝坊少年の悩みの種

KT

文字の大きさ
上 下
16 / 38
第四章 文化祭と秘めた気持ち

4-1

しおりを挟む
 今日で中間テストも終わりを迎えた。表情の明るいもの、脱力しきったもの、この世の終わりのような顔で魂が抜けてしまっているものなど出来は人それぞれのようだ。
 俺はもちろん普通に勉強していたため普通の点数に落ち着くだろうと予想していた。この時期のテストはまだまだ平均点が高いだろうし、今現在魂の抜けている一部の生徒を除けばそんなに差が出るようなことはないだろう。

 すべてのテストが終わり提出物を全部回収した後、少しの休憩をはさみ以前から予告されていた通りホームルームが始まった。
「皆、ひとまず試験についてはお疲れ様。提出物は大体今日の3時くらいまでなら受け取ってもらえるからまだの奴はせいぜい足搔いてくれ」
 佐々木先生は少しだけ底冷えする類の笑いをのぞかせ一部の生徒を見回している。その視線にビクッと反応してしまった生徒たち、がんばれ。
「それでは本題に入る。本校は例年6月の終わりに文化祭を行っている。これだけ言えばわかるとは思うが、あと丸々一か月お前たちは文化祭の準備に追われるわけだ」
 なんて言い方をするんだ。普通こういう話題に入れば少なからずみんな色めき立つというのに、先生の物言いに恐れをなしたのかまったくもって誰も、一言も発していない。
「というわけで今日のホームルームはクラスでの出し物を決めてもらうわけだが、その前に実行委員に二名ほど生徒を選出してもらうことになっている。誰かやりたいというやつはいるか?」
 シーンとした教室の中。誰も手を挙げようとはしない。あんな言われ方したら絶対大変だって思っちゃうから仕方ないね。俺だってバイトがあるしな……多分それでも大丈夫な感じなんだろうけど遠慮したい。
「ふむ、困ったな。誰も手を挙げないなら少し面倒だが推薦か投票にしてもいいぞ? クラスの代表だからってなにも大変な仕事を任されるわけではないからな。誰がなっても一向にかまわんぞ?」
 その時スッと一人の生徒が手を挙げた。
「あの、誰もやらないというのでしたら私がやりますが」
「おっ、さすが委員長だな橋本。それじゃあ一人目は橋本、っとよし。次、二人目は? バランスとりたいからできれば男子で頼む」
 さすがクソ真面目の委員長である。責任感もあるという非の打ちどころのなさ! 頼もしいぜ。
「誰か手を挙げてくれないと先に進まないんだがなぁ。推薦か投票か……ひとまず一緒に仕事をするであろう橋本に聞いてみるとするか。誰がいいと思う? 信頼できるヤツで頼むよ」
「信頼できる人ですか? そうですね……」
 委員長は教室を見回す。何故だか俺は身の危険を感じたので伏せていることにした。頼む選ばないでくれ、後藤が一緒に仕事したそうにしてるはずだからそっちにしてくれ。
「……佐々木先生、放課後にする仕事って多いですか」
「それは心配しなくてもいい。さすがに一週間前とかになると残る必要が出てくるかもしれんがそうならないように日程が組まれているからな。よっぽど三年生あたりがへまをしない限り放課後拘束されることはないと思うぞ」
 何で委員長がそんなことを聞くのだろう。指名する人が放課後忙しいってことは運動部か何かだろうか。
「そうですか。それじゃあ遠藤君を指名してもいいですか?」
 は?
「ほう? とのことだが遠藤、どうだ?」
「どうだ? じゃないですよ! 橋本、もっと適任はいると思うぞ! 後藤とか後藤とか」
「いや、信頼できる人を指名しろと言われたので、後藤君はちょっと……」
 後藤が一体何をしたってんだ。ああ、後藤の魂が抜け始めている。
「それに遠藤君は根が真面目なので適任かと」
「根が真面目ってなんだよ! 先生、それこそ普段から真面目な人もいるでしょう」
「いやまあみんなで作る文化祭だ。普段から影の薄い遠藤にもチャンスを上げようという橋本からの計らいじゃないのかね?」
 な、なんて失礼な教師だ。みんなクスクス笑っている。こいつら覚えてろよ……。
「クラスの雰囲気的にも決定とみてよさそうだぞ遠藤。よかったな」
 ちっともよくねえよ! とはさすがに言えないので、分かりましたといって席に着く。それにしても委員長は一体何を考えているんだろうか。
「それじゃあ二人は今日の放課後に第一回実行委員会があるから会議室に行ってくれ」
 今日はもうバイトを入れているが、テスト終わりなので時間はたっぷりあるから問題はない。そう、残念なことに問題はない。
「よし、では早速二人ともクラス企画の話し合いを進めてくれ」

 話し合いは委員長が主導してくれたためスムーズに進んでいった。俺はもちろん書記である。
「―――では、他に意見がある方はいますか? なければこのまま多数決に入りたいと思います」
 結果としては第一候補に喫茶店、第二候補にドリンクの委託販売のみと以外にもまともな感じでまとまった。どっちにしろドリンクの販売はするということだ。やりたいことが明確なので企画も通りやすいのではなかろうか。
「企画の責任者も決まりましたし、今日はこれで終わりでいいですよね? 先生」
「ああ、ありがとう。思ったよりスムーズに決まってよかったよ。企画書の締め切りは明後日だから責任者はしっかり書いて二人のどちらかに渡してくれ。細かいことは企画が通ってから詰めていけばいいだろう。それじゃあ時間になるまでゆっくりしててくれ」

 放課後、俺と委員長は会議室に向かっていた。
「それにしても橋本、なんで俺にしたんだ? バイトもあるから面倒なことは嫌だったのに」
「それはごめんなさい、でも他の男子とはまだあんまり仲良くなってないんですよね。だから男子を選べと言われたら自然とあなたが思い浮かびました。それに」
「それに?」
「っなんでもないです」
 まあいいか、決まってしまったことはしょうがない。やるだけやってみよう。

 会議室には結構な生徒が集まっていた。三年は和やかに、対照的に一年生は少し緊張した面持ちでそれぞれホワイトボードに書いてある通りの席順に座っている。二年生は可もなく不可もなくって感じだ。
 見知った顔もある。早織が小さく手を振ってきたので振り返しておく。あいつは確かこういった行事好きだったな。思い出してみると小学校も中学校も応援団をやったり、合唱大会では指揮者をやったりと校内行事には何かと率先して参加していた記憶がある。
 ほどなくして委員会は始まった。適当な自己紹介と役割分担を決めて今日は解散とのことだ。一年生がやることは楽な仕事で助かるなと一瞬思ったが、よくよく考えれば実行委員にならなければやる必要さえない仕事である。おのれ委員長。
 結局のところ当日二日間の体育館でのスポットライトの操作や司会進行などは上の学年の人が率先してくれるので、俺たちがやることといえば備品の貸し出しや各クラスの企画の調整など、前日までで終了するものばかりだった。
「思ったより楽そうだな」
「先生もそんなこと言ってたでしょう」
 俺は備品の貸し出し係、委員長はクラス企画の調整に回ったようだ。貸し出し係はそれこそ準備期間の準備時間にしかすることがない楽な仕事である。
「弘治も備品? よかった、いっしょだね!」
 同じ係になったようで早織が嬉しそうに話しかけてきた。こちらとしても知り合いがいれば嬉しいのだが、以前の件もあるしどうも一年男子の視線が痛い。
「あ、ああ、えっと他には……」
 う、見事に全員女子。確かに楽な仕事だが、大型の備品もあるはずなんだけどな。俺は全てをあきらめて、実行委員では流れに身を任せることに決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...