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第三章 寝坊少年と幼馴染
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あれからというもの、早織からは結構な頻度でメッセージが届くようになった。
早織は俺がもつ連絡先の中でも一気に断トツのトーク履歴を築き上げていた。
内容自体は当り障りのないものだが、なんとなく俺もよく返事をしてしまい夜遅くまで雑談をしている時もあった。
さすがに互いに朝に支障が出るような時間までやり取りすることはなかったが、空白だった時間を埋めていくような感覚に、やはり大事な友達だったんだと痛感する。
ちなみにトーク履歴が二番目に長いのは後藤だ。だらだらと続いている。
今日もなんだかんだで後藤と昼食を食べているしな。こいつ俺以外の友達がいたはずなんだが、最近は俺と良く昼食を共にしている。
後藤曰く、
「お前といると何か出会いがあるような気がしてな」
とのことだが、正直よく意味が分からない。
しかも俺はそんなに喋りながら食べる習慣を持っていないので、必然的に互いの間に妙な沈黙も生まれる。そんなときに沈黙を破るのは決まって後藤だ。
「それにしてもお前も謎が多いよな遠藤」
「謎ってなんだよ」
「なんだよって、決まってるだろ? 串田さんからフレンドリーにお家に誘われて、うちの委員長とは毎朝一緒に来てるじゃねえか。この前はたまたまだって言ってたけどよ、そんなに毎日たまたま出会うのか? 違うだろ! おまけにどっちも可愛いときた。クーッ羨ましいぜ、この色男!」
随分饒舌に語るな……。しかし言われてみれば確かに、どちらも見た目は可愛いよな。委員長はクソ真面目でちょっと皮肉屋、串田はどこか抜けてるけどな。
「なんかまだお前のところに可愛い子が来そうな予感を俺はひしひしと感じているぜ」
「何を根拠にそんなことを」
出会いがあるとか可愛い子が来そうだとか、こいつ見た目はいいのに残念な奴にしか思えなくなってきたな……。
「根拠はある。お前最近スマホ覗く頻度がやけに高いだろ」
言われてみれば確かに、早織からメッセージが来るからな。スマートフォンを見る頻度は上がっているだろう。
噂をすればメッセージが届いている。
『昼休み、そっちの教室行ってみてもいい?』
……後藤、実はエスパーか何かなんじゃないのかな。それとも俺のスマホを見た?
「どうしたんだ遠藤、黙り込んで」
「いや、それが」
言いかけたその瞬間、近くのドアがゆっくりと開いた。早織が中の様子を窺っている。それを見た後藤は少しテンションを上げて話しかけてくる。
「あ、あれは、体育科クラスの早川早織じゃないか? いやー可愛いよな。どっちかというとキレイ系か?」
さすが美女ハンター後藤だ。キレイどころは全部頭に入っていると言っていたな。早織が遠めの視線を近くに引き寄せ俺と遠藤のいる付近を見る。俺がいるのを確認すると彼女はニコっと笑顔になった。
「お、おい! 見ろよ! こっち向いて笑いかけてくれたぞ!」
後藤のテンションがハイパーMAXになったところで早織が俺の名前を呼びながら近づいて来る。
先までのテンションが嘘のように、干からび、この世のすべてに絶望したような顔で後藤は俺の方を見ていた。
「弘治、遊びに来たよー。ところでこの人はどうしたの?」
この人こと後藤は、またもや様子を一変させてキリッとした表情になり、自己紹介を始めた。
「俺は後藤健斗、遠藤の友達です。以後お見知りおきを」
後藤の下の名前を初めて聞いた気がするがなんだその、以後お見知りおきをって。
「そうなんだ! よろしくね、後藤君」
早織のその返事に後藤は感極まったのか天を仰いでいる。
「な、なんだかおもしろい人だね」
若干引き気味の早織の言葉だが、今の後藤にはおそらく褒め言葉に聞こえていることだろう。
「あー、それで早織、何か用があるのか?」
「え、えっと、その、用がないと来ちゃダメ、かな」
おっと早織さん、別に駄目じゃないけどその言葉の選び方は最悪だ。周囲の人々がひそひそと話をし始めるのが聞こえてくる。
「おいおいマジかよ、あいつ串田さんとできてるんじゃなかったのか」
「いやでもよ、今度は下の名前で呼び合ってたぜ?」
「それにしても羨ましい」
「遠藤……一体何者なんだ」
休み時間ということもあって前よりも人数は少ないが、その分波及しやすいようだ。天を仰いでる後藤はともかく、どうするんだこれ。
早織は片手に弁当を持っている。どうやら一緒に昼ご飯を食べようと思っていたみたいだ。せめて最初からそう言ってくれ。
「あー、まあとりあえず後藤と三人で飯でも食うか」
「うん!」
せめて三人で食べるという形をとることでなんとか外野を落ち着かせたい。未だ天を仰いでいる後藤が使い物になるかは甚だ疑問だがこれしか方法を思いつかないのだ。
ある種地獄の昼食会が終わり、授業を乗り越え放課後を迎えたが、以前のように噂になっていないかが非常に心配である。しかし過ぎたことを気にしても仕方ないので、俺はおとなしくバイトに向かうことにした。
道中串田を発見したので声をかける。
「あっ、遠藤君。お疲れさまー」
何がお疲れ様なのだろうかと一瞬考えたが、ただの挨拶かな。
「今日遠藤君が早川さんと名前で呼び合ってたっていうのを、みんな私にどう思うか聞いてくるんだもん。遠藤君も大変だったんじゃない?」
そのままの意味でお疲れ様だったのか。
「マジか……それはご迷惑をおかけしました」
「許す。なんちゃってー。それで、実際のところどうなの」
やっぱり女子ってそういう話題好きなんだよな。
「いわゆる幼馴染ってやつだよ。かなり仲がいい部類だとは思うがそういう感じじゃない。つい最近まで疎遠になってたしな」
「そうなの? 私が聞いてた感じと随分違う気がするけど」
どんな尾ひれがついていたのやら。
「噂なんてそんなもんだろ?」
「ま、それもそっか。そういえば話は変わるけど、試験勉強って進んでる?」
唐突ではあるが、そういえばもう中間テストが近づいていたなと思い出す。
「いや、これといって何もしてないかな。バイトも結構忙しいし」
「あはは、だよねー。私も全然勉強してないもん」
こういう時の全然勉強してないは大体勉強してるやつが言うものなんだが、彼女が言うと何となく本当なんじゃないかと思えてくる。
「全然って、さすがに高校の範囲は思ったより情報量多いから俺は復習はちゃんとやってるぞ?」
「……マジ?」
どうやら言葉通り、全然勉強していないらしい。
「そうだな、例えば古典の最初らへんにやったことってちゃんと覚えてるか?」
「そ、それくらいならさすがに……あれ?」
これは重症のようだ。先ほども言った通り、高校の授業はそんなに一気に進むわけではないが中学までと違って覚えることが意外と多くなっている。塾に通っていたり昔から習慣づけて勉強をしたりしている人なら問題ないだろうが、復習が大事になってくることを気づいてない人も多いみたいだ。入学してからすぐ、先生方は口を酸っぱくして言っていたと思うんだがな。
「もしかしなくても、これはまずいのでは!? え、遠藤君! 私ちょっと明日からはバイトは休みもらうことにする!」
テスト週間に休みをとれるとは店長も言っていた。最近少しシフト増やしてたし、俺も早めに言ってテスト週間中だけでも休みをもらっておくか。
早織は俺がもつ連絡先の中でも一気に断トツのトーク履歴を築き上げていた。
内容自体は当り障りのないものだが、なんとなく俺もよく返事をしてしまい夜遅くまで雑談をしている時もあった。
さすがに互いに朝に支障が出るような時間までやり取りすることはなかったが、空白だった時間を埋めていくような感覚に、やはり大事な友達だったんだと痛感する。
ちなみにトーク履歴が二番目に長いのは後藤だ。だらだらと続いている。
今日もなんだかんだで後藤と昼食を食べているしな。こいつ俺以外の友達がいたはずなんだが、最近は俺と良く昼食を共にしている。
後藤曰く、
「お前といると何か出会いがあるような気がしてな」
とのことだが、正直よく意味が分からない。
しかも俺はそんなに喋りながら食べる習慣を持っていないので、必然的に互いの間に妙な沈黙も生まれる。そんなときに沈黙を破るのは決まって後藤だ。
「それにしてもお前も謎が多いよな遠藤」
「謎ってなんだよ」
「なんだよって、決まってるだろ? 串田さんからフレンドリーにお家に誘われて、うちの委員長とは毎朝一緒に来てるじゃねえか。この前はたまたまだって言ってたけどよ、そんなに毎日たまたま出会うのか? 違うだろ! おまけにどっちも可愛いときた。クーッ羨ましいぜ、この色男!」
随分饒舌に語るな……。しかし言われてみれば確かに、どちらも見た目は可愛いよな。委員長はクソ真面目でちょっと皮肉屋、串田はどこか抜けてるけどな。
「なんかまだお前のところに可愛い子が来そうな予感を俺はひしひしと感じているぜ」
「何を根拠にそんなことを」
出会いがあるとか可愛い子が来そうだとか、こいつ見た目はいいのに残念な奴にしか思えなくなってきたな……。
「根拠はある。お前最近スマホ覗く頻度がやけに高いだろ」
言われてみれば確かに、早織からメッセージが来るからな。スマートフォンを見る頻度は上がっているだろう。
噂をすればメッセージが届いている。
『昼休み、そっちの教室行ってみてもいい?』
……後藤、実はエスパーか何かなんじゃないのかな。それとも俺のスマホを見た?
「どうしたんだ遠藤、黙り込んで」
「いや、それが」
言いかけたその瞬間、近くのドアがゆっくりと開いた。早織が中の様子を窺っている。それを見た後藤は少しテンションを上げて話しかけてくる。
「あ、あれは、体育科クラスの早川早織じゃないか? いやー可愛いよな。どっちかというとキレイ系か?」
さすが美女ハンター後藤だ。キレイどころは全部頭に入っていると言っていたな。早織が遠めの視線を近くに引き寄せ俺と遠藤のいる付近を見る。俺がいるのを確認すると彼女はニコっと笑顔になった。
「お、おい! 見ろよ! こっち向いて笑いかけてくれたぞ!」
後藤のテンションがハイパーMAXになったところで早織が俺の名前を呼びながら近づいて来る。
先までのテンションが嘘のように、干からび、この世のすべてに絶望したような顔で後藤は俺の方を見ていた。
「弘治、遊びに来たよー。ところでこの人はどうしたの?」
この人こと後藤は、またもや様子を一変させてキリッとした表情になり、自己紹介を始めた。
「俺は後藤健斗、遠藤の友達です。以後お見知りおきを」
後藤の下の名前を初めて聞いた気がするがなんだその、以後お見知りおきをって。
「そうなんだ! よろしくね、後藤君」
早織のその返事に後藤は感極まったのか天を仰いでいる。
「な、なんだかおもしろい人だね」
若干引き気味の早織の言葉だが、今の後藤にはおそらく褒め言葉に聞こえていることだろう。
「あー、それで早織、何か用があるのか?」
「え、えっと、その、用がないと来ちゃダメ、かな」
おっと早織さん、別に駄目じゃないけどその言葉の選び方は最悪だ。周囲の人々がひそひそと話をし始めるのが聞こえてくる。
「おいおいマジかよ、あいつ串田さんとできてるんじゃなかったのか」
「いやでもよ、今度は下の名前で呼び合ってたぜ?」
「それにしても羨ましい」
「遠藤……一体何者なんだ」
休み時間ということもあって前よりも人数は少ないが、その分波及しやすいようだ。天を仰いでる後藤はともかく、どうするんだこれ。
早織は片手に弁当を持っている。どうやら一緒に昼ご飯を食べようと思っていたみたいだ。せめて最初からそう言ってくれ。
「あー、まあとりあえず後藤と三人で飯でも食うか」
「うん!」
せめて三人で食べるという形をとることでなんとか外野を落ち着かせたい。未だ天を仰いでいる後藤が使い物になるかは甚だ疑問だがこれしか方法を思いつかないのだ。
ある種地獄の昼食会が終わり、授業を乗り越え放課後を迎えたが、以前のように噂になっていないかが非常に心配である。しかし過ぎたことを気にしても仕方ないので、俺はおとなしくバイトに向かうことにした。
道中串田を発見したので声をかける。
「あっ、遠藤君。お疲れさまー」
何がお疲れ様なのだろうかと一瞬考えたが、ただの挨拶かな。
「今日遠藤君が早川さんと名前で呼び合ってたっていうのを、みんな私にどう思うか聞いてくるんだもん。遠藤君も大変だったんじゃない?」
そのままの意味でお疲れ様だったのか。
「マジか……それはご迷惑をおかけしました」
「許す。なんちゃってー。それで、実際のところどうなの」
やっぱり女子ってそういう話題好きなんだよな。
「いわゆる幼馴染ってやつだよ。かなり仲がいい部類だとは思うがそういう感じじゃない。つい最近まで疎遠になってたしな」
「そうなの? 私が聞いてた感じと随分違う気がするけど」
どんな尾ひれがついていたのやら。
「噂なんてそんなもんだろ?」
「ま、それもそっか。そういえば話は変わるけど、試験勉強って進んでる?」
唐突ではあるが、そういえばもう中間テストが近づいていたなと思い出す。
「いや、これといって何もしてないかな。バイトも結構忙しいし」
「あはは、だよねー。私も全然勉強してないもん」
こういう時の全然勉強してないは大体勉強してるやつが言うものなんだが、彼女が言うと何となく本当なんじゃないかと思えてくる。
「全然って、さすがに高校の範囲は思ったより情報量多いから俺は復習はちゃんとやってるぞ?」
「……マジ?」
どうやら言葉通り、全然勉強していないらしい。
「そうだな、例えば古典の最初らへんにやったことってちゃんと覚えてるか?」
「そ、それくらいならさすがに……あれ?」
これは重症のようだ。先ほども言った通り、高校の授業はそんなに一気に進むわけではないが中学までと違って覚えることが意外と多くなっている。塾に通っていたり昔から習慣づけて勉強をしたりしている人なら問題ないだろうが、復習が大事になってくることを気づいてない人も多いみたいだ。入学してからすぐ、先生方は口を酸っぱくして言っていたと思うんだがな。
「もしかしなくても、これはまずいのでは!? え、遠藤君! 私ちょっと明日からはバイトは休みもらうことにする!」
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