寝坊少年の悩みの種

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第三章 寝坊少年と幼馴染

3-1

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 私の名前は早川早織。濱崎高校1年7組、体育科の生徒だ。
 突然だが、私には想い人がいる。

 あれは小学校五年生の頃だった。曲がったことが嫌いだった私は、よくある女子同士のいざこざに異を唱え、結果、かばった子にも見放されて孤立していた。
 本当に、よくある話だ。私は強がって誰にも相談せずにいたのだ。次第に女子だけじゃなく、クラス全体に事態が波及した頃には心が折れかかっていた。
 でも、そんな私に最後までついてくれる人がいた。その人とは低学年の頃から同じクラスになってばかりの、いわゆる腐れ縁だった。問題が終わるまでその人は私の味方をしてくれたのだ。
 こんなの間違ってるって、まずは男子から説得にかかってくれた。次第に彼の主張が勢いを増していき、最後にはこの問題はうやむやになって消えていった。解決というには程遠かったけど、私はとてもうれしかった。
 本当に、親しかったわけでもないのに、クラス全体の空気にものともせずに立ち向かった彼をかっこいいと思った。
 しかしそんな彼の身にも不幸が訪れた。明るかった彼はある日を境に性格が変わったように暗くなってしまったのだ。
 皆が噂をしていたから原因はすぐにわかった。両親が喧嘩して離婚したらしかった。今に始まったことではなく前々から起きていたことだったのだろうが、実際に離婚してしまうのとでは大違いだったのだろう。
 皆はかわいそうだとか、どう接していいかわからないだとか言って彼を避けていた。
 私にもどうすればいいかわからなかった。だけれど、いてもたってもいられなかった。
 私は彼に救われた。今度は私の番だと思った。だから何度も、何度も話しかけた。
 最初は見向きもしてくれなかった。けれど私はあきらめなかった。
 彼もあきらめずに私を救ってくれたから。理由はそれだけだと思っていた。
 ある日、彼の方から話しかけてくれた。
「どうして俺なんかにずっと話しかけてくれるんだ?」
 ふざけるなと思った。私を救ってくれたのはあなたじゃないかといった。彼は驚いたように、
「そんなつもりはなかった。ほっといてくれ」
といった。
 それでも私はあきらめなかった。懸命に話しかけ続けた。皆にあきらめろと言われたが私は断固としてあきらめなかった。
 そしてある日、彼から話を聞いて欲しいと言われた。
 とてもうれしかった。彼は自分の、両親に対する気持ちを私に少しずつ話してくれた。私は一生懸命になって聞いた。とてもつらい思いをしていることをどうしようもなく理解した。それと同時にやはり理解しきることはできなかったが、ただ彼が話して楽になるならと、そう思いながら懸命に聞き続けた。
 すべてを話し終わった彼はどこか遠くを見つめながらありがとうと言った。以前の彼とは雰囲気も変わっていたが、話を聞いていた私には根が全く変わっていないことがよく分かった。私も、話してくれてありがとうと、彼に伝えた。
 それから私たちは本当に仲良くなった。男勝りだった私は、彼と互いに名前で呼び合い、一緒に遊んで、毎日楽しく遊んだ。夢のような時間だった。
 中学校に入ってからはさすがに毎日一緒に遊ぶようなことはなかったが、それでもよく廊下で会っては話をしていた。休日には一緒に遊ぶことも多々あった。
 しかしそれも、男子と女子の壁に阻まれるようになった。
 皆は私と彼との関係を変な噂話で茶化した。すると、次第に彼も私から離れていった。私が離れたのかもしれない。本当にくだらないことだった。だけど私と彼との間を引き裂くには十分な力を持っていたのだ。
 最初は私も疑問を持ちはしなかった。思春期的な考えで恥ずかしさに負けてしまった。
 だけれど、彼と話さなくなってしまってから月日が経つうちに、心の中に違和感が生まれていくのがわかった。
 そこまでいって、取り返しがつかなくなってから初めて気づいたのだ。
 どうしようもなく、私は弘治のことが好きなんだって。


 少し昔の夢を見た。目覚めは最悪だ。自分で間違えたのに、私はまだ未練たらたららしい。
 気になって気になって仕方がないくせに、あれからはなるべく意識しないように、そういう風に振舞ってきた。
 でも高校は私が推薦でさきに決まったから違う所になると思ってたのに結局同じになっちゃたし、しかも昨日はあんな噂まで立っちゃって、気にするなという方が無理である。
 ああもう頭の中がぐちゃぐちゃだ。
 あれから大分時が経ってるし、自分で確認しに行くというのはどうだろうか。噂は噂だし、違う可能性もあるわけで、もし違うなら今更だけど仲直りできたらいいかなーなんて思っちゃったり。そう、噂にかこつけてよりを戻すのよ! でも、もし本当だったらって考えると……
 ええい! 体育会系が何うじうじしてるのよ! 高校に入ったら正直に生きようって決めたじゃない!
 朝練も休むって言ってあるし、行くしかないのだ。頬を叩いて気合を入れなおす。
 髪型も服装も大丈夫だ。あとは努めて昔と同じように話しかける。それだけだ。私は意を決して家を後にした。

 マンションの前で待ち伏せて、出てきたところで一気に事情を聞く。これしかない。時間的にも弘治ならまだ家を出ていないはず。彼は中学二年あたりから朝に弱い。
 朝練のない生徒が学校に行く時間は大体この時間の電車からギリギリの電車なのだ。彼の事なのでギリギリに出てくるに違いない。
 おそらくまだまだ時間はある。それまでにしっかり心の準備を……!? 誰か出てくる。話し声的に二人の男女。でもこの声はまさか……
「今日の日課ってなんだっけ」
「朝確認したんじゃないんですか? 確か―――」
 弘治と女の子が一緒に出てきた! もしかして噂は本当だったの!? でも確か串田さんって学校の近くに住んでてショートヘアーだって聞いてるから、別人? でもでも一緒に出てきたし見たことない人だし美人だし。もしかしてもう一緒に住んでるの? 同棲ってやつ? そ、そんな馬鹿な……
「? そこで何してるんですか? 同じ学校の生徒みたいですが」
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