寝坊少年の悩みの種

KT

文字の大きさ
上 下
9 / 38
第二章 寝坊少年とバイトの同僚

2-6

しおりを挟む
 6限目終了のチャイムが鳴る。特に掃除もない俺はさっさと校門に向かうために席を立った。皆の好奇の視線が痛い……。後藤に至っては魂が抜けている。
 昇降口から校門に向かうと、既に串田が立って待っていた。早すぎではなかろうか? 俺すぐに教室出たはずなんだけど。
「すまん、待たせたか」
「ううん、今来たところだよ」
 そりゃあそうでしょと突っ込みたくなったが、この会話の流れへの既視感とともに飲み込んだ。
「それじゃあいこっか。かなり近いんだけどね」
 それから数分、スーパーとは反対側に向かって歩くとすぐに彼女の家に着いた。一軒家だ。これなら登校も楽々だなーとか考えていると、ドアを開けた串田が早く来いとせかしてきた。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞー」
 案内されるままリビングに入ると、串田母と思しき女性が座ってテレビを見ていた。
「ただいま、お母さん」
「あら、おかえり葵。今日は早かったわねー」
「うん。遠藤君もつれてきたよ」
「あらそう。……ってもう連れてきたの? 何もお出迎えする準備もしてないわよ? ああごめんなさいね弘治君、お話は昨日娘と庄司さんから聞いているわ。ささ、座って座って。すぐにお菓子とお茶を用意するから。といっても何があったかしら」
「ああ、いえ、お構いなく」
 なんか串田が今日って言ってたのに話は通ってなかったみたいなんですけど。すごく居づらい。突然お邪魔して迷惑じゃなかっただろうか。
 それにすごく若い人だ。父さんより年下なのは言うまでもないだろう。顔自体はよく串田に似ているが髪型が少し長めで受ける印象はだいぶ違うな。
 しばらく待っているとお茶とお菓子が運ばれてくる。
「ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ急にお呼びしてごめんなさいね。初めまして、葵の母の由紀と言います。よろしくね」
「初めまして遠藤弘治です。よろしくお願いします由紀さん」
 ちょっとおっとりした喋り方からも、見た目は似ているが串田とは性格が違うのかもしれない。
「こうしてみると庄司さんに似ているわね」
「そうですか? まあ確かに、どちらかといえば父に似ているとは思いますがそんなににてないでしょう?」
「いや、遠藤君は雰囲気がお義父さんに似てると思うよ。目つきとか」
 そこかよ。確かにいらないところが似ちゃったんだよな。
「それにしても、僕に会いたいと仰っていたそうですがそれはまたどうして?」
 今回俺が一番気になっていたことだ。今の夫の昔の女との子供なんて普通会いたいと思うか?
「特に深い意味はないのよ。ただ娘にボーイフレンドができたって聞いて会いたくなっただけだから」
 ちょっと冗談めかしてそういう由紀さん。しかしこちら二人はその手の冗談に今は敏感になってしまっていた。
「お、お母さんそれは」
「あら? 何かまずいこと言った」
「いえ、気にしないでください。といっても気になるでしょうから一応お話ししますね」
 俺は今朝の出来事を大まかに語った。すると由紀さんは途中から腹を抱える勢いで笑い始めたのだった。めちゃめちゃ楽しんでる。
「ふふふ、そ、それは、ふふっ、災難だったわね。あははははは!」
 ちょっと笑いすぎではないか。こちらとしては頭を抱えたくなることなんだが。
「はあー、ごめんなさい。久々に笑ってしまったわ。ごめんなさいねうちの子が迷惑かけちゃって」
「まあ過ぎたことですんで」
「まあさっきのは冗談なんだけど、葵があんまり警戒してない感じだったから会いたかったのは本当よ」
 警戒? 何の事だろうか。
「ちょっとお母さん、そんなことは言わなくていいからっ」
「まあいいじゃない。この子ったら、明るい性格のおかげで中学の頃からモテモテでね」
 由紀さんは突然、自慢話のような感じでどうでもいいことを言い始めた。
「はあ、そうなんですか」
「それで男友達自体は結構多いみたいなんだけど、気を使っちゃうみたいなのよね。まあいろいろと」
 なんとなく言いたいことはわかる。本当にモテモテだとしたら告白されたことも一度や二度ではないだろう。男子どうしで何がおこるか分かったもんじゃないしな。
「でもさっきの話で確信したわ。この子ったら私と似たようなタイプが好きなのかしらね?」
「もーそういうのじゃないってばお母さん。昨日も言った通り、素の遠藤君がお義父さんと似てたから話しやすそうかなって思っただけだよ」
「少なくとも他の男子より自然に話せるってことよね? そのせいで今日も誤解を振りまいたんだし」
 俺はどうやら彼女の中では父さんと同列らしい。男としては見られていないということだ。悲しくなってきた。
「あの、俺帰ってもいいですか」
「なんでちょっと不機嫌になってるの? 遠藤君」
 大体あなたのせいです串田さん。
「あら、そういう所はちゃんと男の子なのね。ふふふ、興味がなさそうだからちょっと心配しちゃったわ」
 この人、おっとりした口調を保っているがだんだん本性を現してきたな……。
「帰るっていうのは冗談ですけど、由紀さんって結構腹黒ですか?」
 一発失礼な質問をぶち当てておく。
「あらあら、何の事かしら?」
 片目をつむってウインクしながらとぼけたようなことを言う由紀さん。父さんはこの小悪魔な感じにやられたのだろうか。俺は不覚にもちょっとかわいいなと思ってしまった。
 そこからしばらくバイトの事や学校のことを話しながら、お茶とお菓子をいただいた。
「あら、もうこんな時間。そろそろ庄司さんが帰ってくるわね」
「じゃあ僕はこれで」
 そうして立ち上がろうとすると。
「あれ、晩御飯食べていかないの?」
 串田がわけのわからないことを言い出した。仮にも父さんの再婚相手の家に、母さんに事前に何も言わずに来たわけだから、それだけで微妙な問題なのに、その家族と一緒にご飯を食べるという選択肢は挙がらないだろう普通。まあこの子の場合、悪気はないんだろうが。
 するとこのタイミングで父さんが帰ってきた。間の悪い奴め。
「やっぱり来てたか弘治」
 何とも言えない顔で部屋に入ってくる父さん。この反応こそが普通だよな。
「お邪魔してます」
「うわ、なんだその言葉遣い。なんか気持ち悪いぞ」
 それが親の言うことなのか。一発ぶん殴ってやりたくなったがさっさと帰ることにする。
「なんだもう帰るのか。送って行こうか?」
「いいよ別に。バイトの時より早い時間だしな」
「そうか、気をつけてな」
「ああ。それじゃあ串田、それと由紀さん。お邪魔しました」
「ええ、またいらっしゃいね」
「遠藤君、また明日ねー」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...