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第二章 寝坊少年とバイトの同僚
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6限目終了のチャイムが鳴る。特に掃除もない俺はさっさと校門に向かうために席を立った。皆の好奇の視線が痛い……。後藤に至っては魂が抜けている。
昇降口から校門に向かうと、既に串田が立って待っていた。早すぎではなかろうか? 俺すぐに教室出たはずなんだけど。
「すまん、待たせたか」
「ううん、今来たところだよ」
そりゃあそうでしょと突っ込みたくなったが、この会話の流れへの既視感とともに飲み込んだ。
「それじゃあいこっか。かなり近いんだけどね」
それから数分、スーパーとは反対側に向かって歩くとすぐに彼女の家に着いた。一軒家だ。これなら登校も楽々だなーとか考えていると、ドアを開けた串田が早く来いとせかしてきた。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞー」
案内されるままリビングに入ると、串田母と思しき女性が座ってテレビを見ていた。
「ただいま、お母さん」
「あら、おかえり葵。今日は早かったわねー」
「うん。遠藤君もつれてきたよ」
「あらそう。……ってもう連れてきたの? 何もお出迎えする準備もしてないわよ? ああごめんなさいね弘治君、お話は昨日娘と庄司さんから聞いているわ。ささ、座って座って。すぐにお菓子とお茶を用意するから。といっても何があったかしら」
「ああ、いえ、お構いなく」
なんか串田が今日って言ってたのに話は通ってなかったみたいなんですけど。すごく居づらい。突然お邪魔して迷惑じゃなかっただろうか。
それにすごく若い人だ。父さんより年下なのは言うまでもないだろう。顔自体はよく串田に似ているが髪型が少し長めで受ける印象はだいぶ違うな。
しばらく待っているとお茶とお菓子が運ばれてくる。
「ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ急にお呼びしてごめんなさいね。初めまして、葵の母の由紀と言います。よろしくね」
「初めまして遠藤弘治です。よろしくお願いします由紀さん」
ちょっとおっとりした喋り方からも、見た目は似ているが串田とは性格が違うのかもしれない。
「こうしてみると庄司さんに似ているわね」
「そうですか? まあ確かに、どちらかといえば父に似ているとは思いますがそんなににてないでしょう?」
「いや、遠藤君は雰囲気がお義父さんに似てると思うよ。目つきとか」
そこかよ。確かにいらないところが似ちゃったんだよな。
「それにしても、僕に会いたいと仰っていたそうですがそれはまたどうして?」
今回俺が一番気になっていたことだ。今の夫の昔の女との子供なんて普通会いたいと思うか?
「特に深い意味はないのよ。ただ娘にボーイフレンドができたって聞いて会いたくなっただけだから」
ちょっと冗談めかしてそういう由紀さん。しかしこちら二人はその手の冗談に今は敏感になってしまっていた。
「お、お母さんそれは」
「あら? 何かまずいこと言った」
「いえ、気にしないでください。といっても気になるでしょうから一応お話ししますね」
俺は今朝の出来事を大まかに語った。すると由紀さんは途中から腹を抱える勢いで笑い始めたのだった。めちゃめちゃ楽しんでる。
「ふふふ、そ、それは、ふふっ、災難だったわね。あははははは!」
ちょっと笑いすぎではないか。こちらとしては頭を抱えたくなることなんだが。
「はあー、ごめんなさい。久々に笑ってしまったわ。ごめんなさいねうちの子が迷惑かけちゃって」
「まあ過ぎたことですんで」
「まあさっきのは冗談なんだけど、葵があんまり警戒してない感じだったから会いたかったのは本当よ」
警戒? 何の事だろうか。
「ちょっとお母さん、そんなことは言わなくていいからっ」
「まあいいじゃない。この子ったら、明るい性格のおかげで中学の頃からモテモテでね」
由紀さんは突然、自慢話のような感じでどうでもいいことを言い始めた。
「はあ、そうなんですか」
「それで男友達自体は結構多いみたいなんだけど、気を使っちゃうみたいなのよね。まあいろいろと」
なんとなく言いたいことはわかる。本当にモテモテだとしたら告白されたことも一度や二度ではないだろう。男子どうしで何がおこるか分かったもんじゃないしな。
「でもさっきの話で確信したわ。この子ったら私と似たようなタイプが好きなのかしらね?」
「もーそういうのじゃないってばお母さん。昨日も言った通り、素の遠藤君がお義父さんと似てたから話しやすそうかなって思っただけだよ」
「少なくとも他の男子より自然に話せるってことよね? そのせいで今日も誤解を振りまいたんだし」
俺はどうやら彼女の中では父さんと同列らしい。男としては見られていないということだ。悲しくなってきた。
「あの、俺帰ってもいいですか」
「なんでちょっと不機嫌になってるの? 遠藤君」
大体あなたのせいです串田さん。
「あら、そういう所はちゃんと男の子なのね。ふふふ、興味がなさそうだからちょっと心配しちゃったわ」
この人、おっとりした口調を保っているがだんだん本性を現してきたな……。
「帰るっていうのは冗談ですけど、由紀さんって結構腹黒ですか?」
一発失礼な質問をぶち当てておく。
「あらあら、何の事かしら?」
片目をつむってウインクしながらとぼけたようなことを言う由紀さん。父さんはこの小悪魔な感じにやられたのだろうか。俺は不覚にもちょっとかわいいなと思ってしまった。
そこからしばらくバイトの事や学校のことを話しながら、お茶とお菓子をいただいた。
「あら、もうこんな時間。そろそろ庄司さんが帰ってくるわね」
「じゃあ僕はこれで」
そうして立ち上がろうとすると。
「あれ、晩御飯食べていかないの?」
串田がわけのわからないことを言い出した。仮にも父さんの再婚相手の家に、母さんに事前に何も言わずに来たわけだから、それだけで微妙な問題なのに、その家族と一緒にご飯を食べるという選択肢は挙がらないだろう普通。まあこの子の場合、悪気はないんだろうが。
するとこのタイミングで父さんが帰ってきた。間の悪い奴め。
「やっぱり来てたか弘治」
何とも言えない顔で部屋に入ってくる父さん。この反応こそが普通だよな。
「お邪魔してます」
「うわ、なんだその言葉遣い。なんか気持ち悪いぞ」
それが親の言うことなのか。一発ぶん殴ってやりたくなったがさっさと帰ることにする。
「なんだもう帰るのか。送って行こうか?」
「いいよ別に。バイトの時より早い時間だしな」
「そうか、気をつけてな」
「ああ。それじゃあ串田、それと由紀さん。お邪魔しました」
「ええ、またいらっしゃいね」
「遠藤君、また明日ねー」
昇降口から校門に向かうと、既に串田が立って待っていた。早すぎではなかろうか? 俺すぐに教室出たはずなんだけど。
「すまん、待たせたか」
「ううん、今来たところだよ」
そりゃあそうでしょと突っ込みたくなったが、この会話の流れへの既視感とともに飲み込んだ。
「それじゃあいこっか。かなり近いんだけどね」
それから数分、スーパーとは反対側に向かって歩くとすぐに彼女の家に着いた。一軒家だ。これなら登校も楽々だなーとか考えていると、ドアを開けた串田が早く来いとせかしてきた。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞー」
案内されるままリビングに入ると、串田母と思しき女性が座ってテレビを見ていた。
「ただいま、お母さん」
「あら、おかえり葵。今日は早かったわねー」
「うん。遠藤君もつれてきたよ」
「あらそう。……ってもう連れてきたの? 何もお出迎えする準備もしてないわよ? ああごめんなさいね弘治君、お話は昨日娘と庄司さんから聞いているわ。ささ、座って座って。すぐにお菓子とお茶を用意するから。といっても何があったかしら」
「ああ、いえ、お構いなく」
なんか串田が今日って言ってたのに話は通ってなかったみたいなんですけど。すごく居づらい。突然お邪魔して迷惑じゃなかっただろうか。
それにすごく若い人だ。父さんより年下なのは言うまでもないだろう。顔自体はよく串田に似ているが髪型が少し長めで受ける印象はだいぶ違うな。
しばらく待っているとお茶とお菓子が運ばれてくる。
「ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ急にお呼びしてごめんなさいね。初めまして、葵の母の由紀と言います。よろしくね」
「初めまして遠藤弘治です。よろしくお願いします由紀さん」
ちょっとおっとりした喋り方からも、見た目は似ているが串田とは性格が違うのかもしれない。
「こうしてみると庄司さんに似ているわね」
「そうですか? まあ確かに、どちらかといえば父に似ているとは思いますがそんなににてないでしょう?」
「いや、遠藤君は雰囲気がお義父さんに似てると思うよ。目つきとか」
そこかよ。確かにいらないところが似ちゃったんだよな。
「それにしても、僕に会いたいと仰っていたそうですがそれはまたどうして?」
今回俺が一番気になっていたことだ。今の夫の昔の女との子供なんて普通会いたいと思うか?
「特に深い意味はないのよ。ただ娘にボーイフレンドができたって聞いて会いたくなっただけだから」
ちょっと冗談めかしてそういう由紀さん。しかしこちら二人はその手の冗談に今は敏感になってしまっていた。
「お、お母さんそれは」
「あら? 何かまずいこと言った」
「いえ、気にしないでください。といっても気になるでしょうから一応お話ししますね」
俺は今朝の出来事を大まかに語った。すると由紀さんは途中から腹を抱える勢いで笑い始めたのだった。めちゃめちゃ楽しんでる。
「ふふふ、そ、それは、ふふっ、災難だったわね。あははははは!」
ちょっと笑いすぎではないか。こちらとしては頭を抱えたくなることなんだが。
「はあー、ごめんなさい。久々に笑ってしまったわ。ごめんなさいねうちの子が迷惑かけちゃって」
「まあ過ぎたことですんで」
「まあさっきのは冗談なんだけど、葵があんまり警戒してない感じだったから会いたかったのは本当よ」
警戒? 何の事だろうか。
「ちょっとお母さん、そんなことは言わなくていいからっ」
「まあいいじゃない。この子ったら、明るい性格のおかげで中学の頃からモテモテでね」
由紀さんは突然、自慢話のような感じでどうでもいいことを言い始めた。
「はあ、そうなんですか」
「それで男友達自体は結構多いみたいなんだけど、気を使っちゃうみたいなのよね。まあいろいろと」
なんとなく言いたいことはわかる。本当にモテモテだとしたら告白されたことも一度や二度ではないだろう。男子どうしで何がおこるか分かったもんじゃないしな。
「でもさっきの話で確信したわ。この子ったら私と似たようなタイプが好きなのかしらね?」
「もーそういうのじゃないってばお母さん。昨日も言った通り、素の遠藤君がお義父さんと似てたから話しやすそうかなって思っただけだよ」
「少なくとも他の男子より自然に話せるってことよね? そのせいで今日も誤解を振りまいたんだし」
俺はどうやら彼女の中では父さんと同列らしい。男としては見られていないということだ。悲しくなってきた。
「あの、俺帰ってもいいですか」
「なんでちょっと不機嫌になってるの? 遠藤君」
大体あなたのせいです串田さん。
「あら、そういう所はちゃんと男の子なのね。ふふふ、興味がなさそうだからちょっと心配しちゃったわ」
この人、おっとりした口調を保っているがだんだん本性を現してきたな……。
「帰るっていうのは冗談ですけど、由紀さんって結構腹黒ですか?」
一発失礼な質問をぶち当てておく。
「あらあら、何の事かしら?」
片目をつむってウインクしながらとぼけたようなことを言う由紀さん。父さんはこの小悪魔な感じにやられたのだろうか。俺は不覚にもちょっとかわいいなと思ってしまった。
そこからしばらくバイトの事や学校のことを話しながら、お茶とお菓子をいただいた。
「あら、もうこんな時間。そろそろ庄司さんが帰ってくるわね」
「じゃあ僕はこれで」
そうして立ち上がろうとすると。
「あれ、晩御飯食べていかないの?」
串田がわけのわからないことを言い出した。仮にも父さんの再婚相手の家に、母さんに事前に何も言わずに来たわけだから、それだけで微妙な問題なのに、その家族と一緒にご飯を食べるという選択肢は挙がらないだろう普通。まあこの子の場合、悪気はないんだろうが。
するとこのタイミングで父さんが帰ってきた。間の悪い奴め。
「やっぱり来てたか弘治」
何とも言えない顔で部屋に入ってくる父さん。この反応こそが普通だよな。
「お邪魔してます」
「うわ、なんだその言葉遣い。なんか気持ち悪いぞ」
それが親の言うことなのか。一発ぶん殴ってやりたくなったがさっさと帰ることにする。
「なんだもう帰るのか。送って行こうか?」
「いいよ別に。バイトの時より早い時間だしな」
「そうか、気をつけてな」
「ああ。それじゃあ串田、それと由紀さん。お邪魔しました」
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「遠藤君、また明日ねー」
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