寝坊少年の悩みの種

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第二章 寝坊少年とバイトの同僚

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 バイトを終えて帰路につく。
 高校に入学してから一か月半が経つ。いろいろとイレギュラーも発生したが、ようやく生活も落ち着いて来たなと思う今日この頃。ふとスマートフォンを覗くとメッセージがポップアップで表示されている。
 つい先ほど連絡先を交換した串田さんからのものだった。歩いている途中なので内容まではチェックせず駅に向かう。
 それにしても、入学してから連絡先を交換したのが二人中二人とも女子というのはいかがなものか。しかも自分から頼んだわけでもなしに。普通ならこんなのは幸運の一言で済ませられるのだが、さすがに男子の連絡先がないと自分のコミュニケーション能力がひどすぎるとしか言いようがない。
 大体、相手からすれば数ある連絡先の一つに過ぎないんだよな。考えただけで涙でそう。
 まあかといって、さすがにまったく親交がないというわけではない。近くの席の男子ぐらいには話をする人もいる。……休み時間に次の時間のことをちょこっと聞いたりするぐらいしか話すことないけどな。確か名前は後藤とか言ったっけ?
 今学校では出席番号順に座席が決まっているのだが、後ろ入り口付近、角の席の俺にはそもそも友達ができにくい状況であると思っている。関係ないって? いや、そんなはずはない。……ないよな?
 状況を整理しながら頭の中で勝手に落ち込んでいるといつの間にやら駅にたどり着いていた。
「あれ? 遠藤じゃん。お前も部活か?」
 急に話しかけられ何事かと振り返ると、噂をすればなんとやら、暫定クラス唯一の男友達、後藤がオッスと言いながら手をひらひらさせていた。どうやら向こうも俺をちゃんとクラスメイトとして認識していたみたいだ。
「いや、俺はバイトだよ」
「へえ、もうバイトやってるのか。俺は昨日部活に入ったばっかりでな。この時間に帰るのは今日が初めてだったんだよな」
 聞いてもいないのに情報をしっかりくれるあたりこいつもコミュニケーション能力が高いのだろう。
 同じ乗り場に向かっていることから帰る方向も同じようだ。向こうも同じだと思ったようで、一緒に帰る流れになった。
 この時間帯の電車は思いの外座れる。俺達は二人で横並びに席に着いた。
 しかし、なかなか話題がないな。男同士でぺちゃくちゃ喋るのもそれはそれで変だが、なんだか気まずい。ほぼほぼ無意識に俺も後藤もスマートフォンを片手に持っていた。
 そういえばさっきメッセージが届いていたなと思いアプリを開く。
『よろしくねー』
 すごくテキトーなメッセージではあるが最初はこんなもんだろう。俺も簡単なあいさつお打ち込んで返信する。
「あれ、遠藤それって。やっぱり! 三組の串田さんじゃん!」
 人のスマホを覗き込むなよ。
「知ってるのか?」
「当り前だろ? 可愛い女子は全クラスチェック済みだ」
 そんなにきりっとした表情で言うことではないだろう後藤よ。
「それにしてもどうしてお前がそんな子の連絡先知ってるんだ」
 後藤はジトッとした目で訝し気に聞いてくる。それに耐えかねたのもあるが、別段隠すこともないのでバイト先が一緒であることを伝えた。
「はあ、なるほどな。まあそうだとは思ったけどな! お前みたいなやつが串田さんと連絡先を交換してるなんてそうじゃないとありえないもんな」
 サラッと失礼なことを言うやつだな。まあ教室での俺の印象からそう思われても仕方がないが。
「俺とも連絡先交換しようぜ。男子のグループもあるからさ」
 一安心した後藤がそう提案した。いい提案だが男子のグループなるものがあるならもっと早く聞いてくれてもよかったんじゃないですかね。交換した後にそう伝えると後藤はバツの悪そうな顔をしながら答える。
「いやー、お前ってなんかこういうの嫌がりそうだったからさ。誘いづらくて」
 結局は日ごろの態度のせいか。落ち度は俺にあったようだ。
「人と話すのが得意じゃなくてな。嫌じゃなかったらこれからもどんどん話しかけてくれると助かる」
「そうか? それならよかったぜ。よろしくな。あっ、おい、返信来てるみたいだぞ」
 言われて確認すると串田さんから返信が来ていた。その場の空気で何となく確認をしてしまったのが運のつきだった。
『今度うちに来ない?』
 よりにもよってなんてタイミングで、しかも何の脈絡もなく。おそらく、父さん関係の事じゃないかとは思うんだが……。
「……短い友情だったな」
 後藤が何故か悲しそうな顔をしながら俺にそう言い放つ。俺、何も悪いことしてないよね?
「まさかお前が青春してたとは、何とも言えない敗北感だ」
「いやいや、これは何かの間違いだって。さっき連絡先交換したばっかりだぜ? 一番上に表示されてたからミスったんじゃないかな」
 謎の敗北感に打ちひしがれている後藤に、我ながらいい線いった言い訳を思いつく。さすがに父さんのことは言いたくないので、ない頭を振り絞ったのだ。
 俺の必死の言い訳もあって、後藤は急に元気を取り戻した
「そうだよな! お前に限ってはなさそうだもんな! うんうん俺の早合点だったよ!」
 はははと豪快に笑いながら肩を叩いてくる。やっぱこいつ失礼な奴だな。ちょっと殴りたくなってきた。
 その後も他愛のないことを話しながら何駅か通り過ぎ、後藤の降車駅についたようだ。
「それじゃあ俺はこの駅で降りるから。じゃあな遠藤」
「おう、また明日」
 ようやくできた男友達に嬉しさを覚えつつ、遠慮しなくてもよさそうなその性格に少し好感を持った。明日からは普通に話しかけることができそうだ。

 その日の晩、授業の復習を終えると思ったよりも時間が経っていた。そこで先ほどの返信をしていなかったことに気づくが、さすがにもう遅い時間なので止めておくことにした。
 起きてたとしてもこれ以上寝るのが遅くなったら、俺の方が朝起きられなくなってしまうしな。そうなると委員長が怖い。
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