平和への使者

Daisaku

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神の伝承

163話 松田財閥の力

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日本東京、今年は記録的な暑い夏だったが、9月末になり、かなり涼しくなってきた。

文京区にある東都大学東洋歴史研究所の勝畑教授は以前から取り組んでいる日本古王朝の論文を教授室で黙々とパソコンに向かって作成していた。室内ではエアコンの調子が悪く、真夏に比べ、外はかなり涼しくなったが、まだ、室内では暑く額の汗をハンカチで拭きながら、作業していた。そんな時に

「コンコン」

「入っていいぞ」

研究助手をしている、松川が入ってきた。

「教授、生徒達の論文指導をする時間ですよ。そろそろ、教室のほうへ移動していただけますか?」

「なんだ、もうそんな時間か。最近、演習や講義の時間がだいぶ増えたな。ふ~なかなか、研究論文も集中して取り組む時間がないな」

「教授は有名ですからね。生徒達も教授の話を聞きたくてうずうずしてますからね」

「松川くん、昨日頼んでいた、資料はそろったかね」

「はい、ここに全てそろっています。ですが、こんな昔の神様の伝承の話なんて、ちょっと怪しい本ばかりですけど、一応、教授に指示いただいた通り、5人の神についての内容の箇所にチェック入れてあります」

「そうか、助かる、そこに置いといてくれ、あ、そうだ、講義が終わったら、この神の伝承について、みなの意見を聞きたいから、研究室にスタッフを全員集めてくれないか」

松川は驚いた顔で

「めずらしいですね。教授が皆の意見を聞くなんて」

「ふ~、長いこと研究していると、行き詰ることが多々あるんだよ。そんな時に他の人とコミュニケーションすることで、また、新しい視野で物事を見ることができることもあるからね」

「そういうものですかね」

「さ~て、講義か、またがんばるか」

勝畑教授は他国に比べ、この日本では、かなり昔から王国が存在していたことはわかっているが、それがどこにあったか、どんな人達だったのかがほとんどわかっておらず、
いつも、抽象的な研究結果しか出せないことにかなり苛立ちを感じていた。
松川は勝畑教授に指示されたとおり、約20人近くのスタッフにLINEで2時間後に
研究室に集まるように指示をだした。松川はさきほど調べた日本古来の神について、
生まれ育った家で父が昔、話していたことを思い出した。実家の宗派は仏教でなく、
日本古来からの神道といわれる宗教で葬式など、仏教とは違う形で執り行ったり、結婚式も教会では行わなかったりするので、中学生の時に父に聞いたことがあった。

「お父さん、うちはなんで、お葬式や結婚式は他の家と違うの?」

「うちは、神道という宗教で日本古来から続いている。日本にはさまざまな神様がおられ、私達はその神様から命を授かっている。お前は女の子だから、どこかへ嫁いでしまうから、あまり細かいことまでは教えないが、かつて、この日本を神様がお救いになったことから、急速に日本中に広がったのが神道だ。神の恩を忘れずにいるのが、私達だ。本当の日本人であれば、神道を大切にしなければならない」

「ふ~ん、そんな昔から続いているんだね。仏教やキリスト教と比べてどっちが古いの?」

「もちろん神道だ」

「じゃあ、なんで、日本人は仏教やキリスト教を信じる人が多くなっちゃたの?」

「そうだな、聖徳太子のせいだな」

「あの聖徳太子?」

「そうだ、あの、なんでもかんでも、いいとこどりの考え方、それが聖徳太子だ」

「なにそれ、いいとこどりなの?」

「そう、自分の国を豊かにしたり、平和になるのなら、へんなこだわりを捨て、法律でも宗教でも、自分の生き方を柔軟に変えていこうとする考え方だ。だから日本では初詣は神社、結婚式やクリスマスはキリスト教、お葬式は仏教など、さまざまな状態になっている。この考え方は、日本人に根強くあり、物事を色々な角度から見ることができるようになり、もしかしたら、世界でも経済大国と言われているのはこの柔軟な考え方のおかげかもしれないな」

「すごいね、聖徳太子」

「ある意味ではすごいかもしれないが、そのせいで日本古来の宗教が失われていくのは悲しいことだ。父さんはあまり好きではないな、この男は」

『あの時、父に言われた聖徳太子が気になって、夢中になって本などを読み漁っていたら、日本歴史にたずさわる仕事についてしまったな~』と松川はクスクスと笑ってしまった。

「いけない、研究室に行って準備をしなきゃ」

研究スタッフみんなに勝畑教授が話をしたい内容を事前にメールで送っておかないと、
皆、なにも考えないで来られても、あまり、話が進展しないため、急いで詳細をメールで送るために松川は自分のデスクに小走りで向かった。


フランスでの松田マツ会長とのディナーの日から数日が過ぎ、孫の松田葉子と松田グループの不動産会社の支店長加藤と大平まみは徳島県阿波で現地の確認を行っていた。

「まみさん、この山でいいのよね」

「はい、そうです。ざっと1キロ四方のこの山、全てです」

松田マツ会長から緊急で山を購入しろと指示が出て、わけもわからず、かけつけた、四国方面の不動産会社支店長はこんな価値のない山を見て、会長や葉子が勘違いをしているのではないかとたずねた。

「葉子お嬢様、本当にこんな価値のない山を購入されるのですか?」

葉子は事前に住所とその範囲を大まかにマツの指示で国に連絡をして売買の許可をもらっていた。

「そうです。国からは路線価からも外れているため、今後、きちんと固定資産税を支払ってくれるなら、
破格の安価で売買してくれる許可はいただいているわ」

支店長の加藤は首をかしげながら、

「どのような理由かは知りませんが、わかりました。これから測量技師を呼んでいますので、ここの土地の正確な敷地面積を算出して、国有地から分筆して、登記できるように準備をいたします。そして、土地価格を出して、国と売買契約を結びます」

松田葉子は購入する準備を淡々と説明する加藤支店長を見て、

「それではよろしくお願いします。それと、国からは購入することは許可が出ているので、この山に入ったり、木などを伐採する許可も、もらっていますから、明日から、山の下の方から、作業をしていきますので、測量は今日中でお願いします」

加藤はびっくりした顔で

「まだ、土地購入の契約もしてないのに、国が許可をくれたんですか?」

葉子は笑いながら、

「おばあさまが本気になれば、だいたいのことはできますからね。加藤さんも知っているでしょう」

加藤は松田マツ会長の武勇伝は星の数ほど聞いているので、あの人が動いているなら、気にしてもしょうがないなと思った。

「さあ、まみさん、もう好きにできるわ。明日からの伐採作業はどこからやりますか?」

「はい、できれば、山の頂上付近に王宮がありましたから、そこへ行くため、伐採をして、通路を確保したいですね」

「わかったわ。もうすぐ、伐採を専門とする会社もここにくるから、もう一度、現地で細かく説明してあげて」

まみは驚いた顔で

「葉子さん、もうそこまで手配しているんですか」

「当たり前じゃない、早く、マリさん達の手掛かりを見つけないと、私も落ち着かないのよ。あと、伐採が終わってきたら、おそらく、東都大学の勝畑教授がここにくるはずだから、また、おばあさまに連絡しないといけないわ」

まみはあの日本でも有名な考古学の教授を簡単に呼びつけることができると言っているのが気になり

「葉子さん、あの世界でも有名な勝畑教授を松田会長はお知り合いなんですか?」

葉子は笑いながら、

「フフフ、まみさんは昔の勝畑教授にかなり似てますよ。私もおばあさまに聞いた話なんですけど、もう30年も前、教授が大学生だったころ、自分であちこち調べて、大きな遺跡群があることを見つけたのよ。当時無名だった教授は色々な人に協力を求めたけど、だれもその話を信じてくれなかったの。もちろん、遺跡の発掘にはたくさんの機材や人員がいるから、ものすごいお金がかかるので、困った教授は、当時、日本で一番の資産を持つ、おばあさまのところにみすぼらしい服で唯一の協力者である勝畑教授のお母さんと一緒に来たの。もちろん、そんな聞いたこともない学生とその母親は最初は全く相手にされなかったわ。でも、邸宅の前で使用人が何度も追い返しても、門の外にずっと立っていたの、当時は真冬でとても寒かったのに朝九時に来て、夜になっても2人は帰らず、次の日の朝、おばあさまが日課のジョギングに行こうと邸宅の門を出た時に2人はまだ立っていたの。松田家の使用人は物乞いを扱うように前日、二人を門前払いしていたことがその時におばあさまが知って、その使用人は烈火のごとく怒られ、勝畑親子の前で土下座までさせられたの。おばあさまは勝畑親子が寒い夜も含め、1日近く、門の外で自分の事を待っていたことに心をうたれ、屋敷の一番いい、客間に案内して、勝畑学生に資金提供をすることや、母子家庭で大変苦しい生活だった親子に奨学金を与えたの、それから勝畑親子はおばあさまを世界の誰よりも信頼、尊敬して、この人のためなら、どんなことでもするぐらいの気持ちを常に持つようになったの。その信頼関係は世界で有名になった今でも健在で、おそらく、大学だろうが、執筆活動だろうが、おばあさまがお願いすれば、なにもかも、ほったらかして、すっ飛んで、ここに来るはずよ」

まみは、あの有名な勝畑教授が若い時にそんなことがあったことに驚いた。そして、その考古学に対する熱い気持ちは本当に共感できると思った。
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