平和への使者

Daisaku

文字の大きさ
上 下
24 / 179
進学と出会い

23話 松田松涛館流師範

しおりを挟む
10分ぐらいして、用意ができ、マリが部屋から出てきた。松田葉子はマリの道着を見て、
目を疑うような姿に驚いた。
マリの道着は背中に旭日旗、左肩には星が30個ぐらい入っており、帯は黒色で特に驚いたのが、そこに松田松濤館流師範という文字が金色で帯のもう一方には飛島マリと縫い付けられていた。
葉子は、自分も小さい時から、松田松濤館流を教わってきたが、おばあ様には師範どころか、
黒帯すらもらえず、いつも失望された目で見られていたのを思い出した。
しかし、葉子は警察内での柔道や空手では相手ができる人がいないほど強いというのに、

「マリさん、いつからその道着を着ているのですか」

「あ、これですか。試合の時しか着ないんですけど、たしか、おばあちゃんが
亡くなった年だから、12歳の時かな~」

「12歳!そうですか。フフフ、はあ~なるほど、私が、すぐに一撃をもらい、
眠らされるわけですね」

「さあ、松田さん、武道会館まで、お願いします」

「はい、ご案内します」

この時、松田葉子は初めて、マリに敬意を払い、心からお仕え、警護する気持ちになった。
長い通路を抜けて、大きな扉を開けたときに、そこに松田祥子が立っていた。

「飛島さん、逃げずに来たのね。待っていたわ。今日は正々堂々戦いましょう。
あちらに審判と念のために救急隊員を待機させているわ」

そう言って、少し歩きながら話していたので、松田祥子はマリの帯の色や道着には
あまり目に入らなかったようだ。それだけ、マリを見下しているともいえる。

「それでは試合は15分後でいいかしら、この試合では、柔術や空手でも構わないわ。
ただし、目や急所を狙うのはだめよ」

そう言って、反対側の方に歩いていき、祥子は柔軟体操を始めた。
その時、松田葉子が目を細めて、祥子の方を見て、

「あれ、兄さん、なんで、兄さんがここにいるのかしら」

葉子は試合まで時間もあるので、兄、大介のところに向かっていった。

「兄さん」

「お~葉子か。久しぶりだな」

「お元気でしたか。兄さん」

「元気だぞ」

「自衛隊のお仕事はお休みですか?」

「あ~、ちょっと働きすぎて、しばらく休みを取っていなかったから、上官から1か月は休むように言われてな。お前こそ、こんなところで何してるんだ?警察の仕事は今日は休みか?」

「いいえ、今も仕事中ですけど」

「仕事中?あ~ちょっと息抜きで帰ってきたのか。あんまり長く休んでると上司から怒られないか?」

「ですから、今も仕事中です」

「葉子も最近は冗談も言えるようになったのか。ハハハ・・・」

「冗談は嫌いなの、ご存じですよね。今も政府要人を警護中です」

「政府要人って、そんな人どこにもいないじゃないか。まあ、せっかく家に帰ってきたんだ。祥子の試合を見ていけよ」

相変わらず、人の話を聞かない兄だなと葉子は思った。

「でも兄さんも家に戻ってくるなんてめずらしいこともあるんですね」

「最近はずっとここにいるんだよ。おばあさまの具合も悪いそうだから、少しでもそばにいたくてな。そうしたら、祥子が同じクラスの子と試合するって聞いてな。あの祥子と戦おうなんて、全くとんだ、お調子者だよな、その同級生は」

葉子は兄のその話を聞いて、頭をかかえて、

「兄さん、その言葉は逆ですよ」

「逆?ギャグか葉子。なにが言いたいんだ」

「兄さん、高校でも大学でも空手では、世界でも敵なしと言われた兄さんでもおばあさまから松田松濤館流師範の称号はもらえなかったでしょ」

「なんだよ、またその話かよ。そうだよ。おばあさまは結局、認めてくださらなかった。
それがどうした?」

「祥子がこれから闘う同級生はその師範なんですよ」

「まさか!」

「兄さん、私は立場上、同級生のマリさんがお決めになったことは否定できません。
今回はマリさんに危険も及びませんから。ですが、兄さんが祥子に試合をやめるように
言ってあげてください。レベルが違いすぎます。本気でマリさんが戦かったら、あの子へたしたら死んじゃいますよ」

「お前も、相変わらず、ごちゃ、ごちゃ言うくせが治らないな。まあ、ちょっと時間もあるし、マリさんだっけ、近くで様子を見てくるか」

「ぜひ、そうしてください」

兄、大介は時間つぶしのつもりで、マリの近くまで歩いて行って声をかけた。

「こんにちは、祥子の兄の大介です」

マリは試合前のため、気分が高揚しているせいもあり、ギロリと大介のことをにらんだ。
マリも大介もお互いのことを見て

「何か、ご用ですか」

とマリが話した、その時、大介が軽くマリの顔めがけて突きを入れようとした。
その瞬間、大介はマリの後ろに飛ばされた。大介は自分が何をされたかも気づけず、
広い畳の上で青向けで天井を見上げていた。そして、松田松濤館流師範 飛島マリと書かれた黒い帯が目に入った。
それからだんだん体が震えてきた。そして

「あんた、何者だ。こんなバカなことがあるか、この俺が訳もわからずにすっ飛ばされるなんて」

マリは大介に向かって

「あなたには戦う心構えができていない、いついかなる時も他人をすぐに信じるべからず、
適材適所で応じることが大事のはず、弱い相手にはこれ以上言うだけ無駄」

そう言って、マリはスタスタと試合する場所へ歩いていった。
大介は高校生から試合では無敗記録を更新中でまだ現実を受け入れることができなかった。
葉子はその様子を見て

「兄さん、何をしに行ったの、勝てるわけないと言ってるのに、本当に人の話を聞かないんだから」

「試合を始めます。両者こちらまで来てください」

大きな声が武道会館に響き渡った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

隠れチート!異世界スローライフを謳歌する侯爵令嬢

 (笑)
恋愛
侯爵家の令嬢として異世界に転生したアリシアは、静かなスローライフを夢見ている。しかし、彼女の中には秘められた強大な魔力が眠っており、その力が国の未来に深く関わる存在だと知らされる。彼女は自身の力に戸惑いながらも、平穏な日常を守るためにどう行動すべきかを模索していく。 王家や騎士団、そして謎の襲撃者たちに囲まれる中、アリシアはその力をどのように使うべきか、そして何を守るために戦うのかを選択しなければならない。彼女の静かな願いと、国の命運が交差する中で、アリシアは自分の道を切り開いていく。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

転生した悪役令嬢は異世界でメイドカフェを開きます。あ、勇者様はスポンサーでお願いします!

高井うしお
ファンタジー
リリアンナは冷たい言葉と共に王子に婚約破棄された。しかしそれは彼女の目的の序章に過ぎなかったのだ。 「私、メイドカフェの妖精さん(運営する人)になれるなら鬼になります!」 「え?」  リリアンナは異世界転生したメイドフェチだったのである。  一方、高校生の時に異世界転移し、魔王討伐を終えた勇者ハルトは褒美に領地を与えられ、悠々自適の生活を送る予定だった。  だが、ついでに王からリリアンナを花嫁として押し付けられる。 こいつは、やばい!だが……。 「離婚? やだ、王の名前で鳴り物入りで結婚したのに出来るわけないじゃないですかー」 かくして、ハルトは魔王よりやっかいな嫁とともにメイドカフェを経営することに……? ━━━━━━━━━━━━━━━ お陰様でホットランキングにのれました。 ありがとうございます。 お気に入り登録をぜひお願いします!

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

処理中です...