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84、散歩…

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「………」
「………」



散歩を初めてどれくらいの時間が経ったんだろう。もしかするとそんなに時間は過ぎていないのかもしれない。


だけど沈黙が気まづくて時間が普段の何倍にも感じられる気がする。


そういえば、こうやって二人で散歩するのも随分久しぶりだな。


確か前回はアレックスさんに、お願いだから皇帝と話をして欲しい!って懇願されたんだっけ。


まぁ、今回も似たような感じか。
まさかリアムに仲良くして欲しい、なんて言われるとは思ってもみなかった。


いや、よく考えば両親が仲良くして欲しいって思うのは不思議な事じゃないよね…。


前世で小学校に通っていた時、友達が『お父さんとお母さんが仲良くなって欲しい』って言っていたのをふと思い出す。結局その子の両親は離婚すること
になって、毎日落ち込んで泣いてたなぁ。


あの子からすれば、お父さんもお母さんも大好きだから仲良くして欲しかったんだろうな。そしてリアムも、その子と同じ様に私達に仲良くしてもらいたいと思ったんだろうな。


そう思うと、リアムには寂しい想いをさせていたのかもしれない。やっぱり、子供からすれば好きだと思う両親には仲良くして欲しいものだよね。


せっかく私の子供になってくれたんだから、今回の散歩をきっかけに、皇帝との距離を友達以上、恋人未満までには持っていってみよう。


「あの…ルビ…おほん、皇后…」
「なんでしょうか?」


あれ?今、名前を呼ぼうとしてくれた?
そういえば、前にも何度か呼ばれた様な気がするけど……あれは気の所為だったのかな。


「先程の料理、美味しかった……です」
「お口にあったようでよかったです」
「………」


あ、もう会話終了しちゃった…。


「…あの、どれが1番お口に合いました?」
「どれも美味しかった……ですが、強いて言うなら、おにぎり……です」
「おにぎりはリアムも一番好きな様で、いつもよく食べてくれるんですよ。やっぱり親子は似るんですね」
「そうなの……でしょうか。自分ではよく、わから……分かりません」


うーん…。
さっきからずっと話しにくそうにしてるのはどうしてだろう。もしかして、リアムに言われたから丁寧な口調を止めようとしてる…?


「あの……陛下が楽な話し方で構いませんよ?」
「え、いや…」
「今の陛下は、どこか無理をしているように思えるので…。好きな様に話してください」


そういえば、少し悩む素振りをされる。
やっぱり無理をして喋ろうとしていたみたいだ。息子に言われたことをすぐに改善しようとするのは素晴らしい事だけど、そこまで無理しなくてもいいんじゃないかな…。


「貴女は…どういう話し方がいいですか?」
「私ですか?」


まさか私の意見を聞かれると思ってなかったので、少し驚いてしまう。だけど、せっかく聞いてくれているんだから、素直に感じていることを言った方がいいよね。


「私は…もっと砕けた話し方の方が嬉しいです…。私だけ丁寧な言葉遣いをされると、なんだか壁を作られているようで、寂しい……と感じるので…」
「そんなことを……感じさせていたんだな…」


私の素直な気持ちに、皇帝は悔いるように呟いた。


「すまなかった。貴女にそんな思いをさせていて」

呟いた後に、さっきまでとは違って、流暢に砕けだ言葉で話かけられる。


さっきまでのたどたどしい話し方はなんだったんだろう…。全く、なんの躊躇いもなく話し方を変えられて、嬉しいけど驚いてしまう。


「いえ…。皇帝陛下も、あの方のせいで勘違いされていたこともあるでしょうから、今までの陛下に不満があるわけではありませんので、謝らないでください」


以前はルビアに対しての皇帝に不満はあったけど、イザベラ様が幼少期から皇帝を自分に依存させ信じ込ませていた事実を知れば、文句なんて言う気になれない。


「いや…だが……」


皇帝は何かを言いかけて言葉を飲み込むように口を閉じる。


イザベラ様の話題を出したからか、皇帝が気まずそうにしている…。私から話題を変えるために何か言った方が良いのかな…。だけど、何か考えてるようにも見えるし、皇帝が話すまで待っていた方がいいのかな…。


「イザベラが……貴女やアイリを襲おうとしたあの夜…」


なにか言おうか言わまいかと考えている間に、皇帝が先に口を開いた。


「イザベラにずっと裏切られていたこと、父や母の死の真相を知って…私は愕然とした」


あんなことを告白されれば、誰だってそうなってしまうのは仕方ない。本当のことを知って、辛かった、なんて言葉では表せないくらい傷付いたに決まっている。


その傷が少しでも癒える様に何か言葉をかけたいけど、幼い頃から両親に溺愛されて、何不自由なく育ってきたルビアが何を言ったとしても、きっと上手く慰めにもならないだろう。だから、ここは静かに皇帝の話に耳を傾けていよう。


「母が亡くなってから、父は私とあまり話さないようになり、母のように慕っていたマーガレットも城を去り、私は1人ぼっちだった…。そんな私を慰め、支えてくれたイザベラが…まさか、私を裏切っていたなんて…想像もしていなかった」


感情を押し殺す様に握り締められた拳が、皇帝の心を表しているようで見ているこちらも心が痛む。


「それに…父までも……私から奪っていたとは…。そうとも知らずに、イザベラの言うことを全て信じていた自分が情けなくなる」
「そんな…陛下は何も…」
「悪くないわけが無い…。もし私が、少しでもイザベラを怪しんでいれば…。そうすれば…貴女に対してもあんな態度はとることがなかったのに…」


ルビアのことに対しても悔いてくれているんだ…。


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