84 / 99
84、散歩…
しおりを挟む「………」
「………」
散歩を初めてどれくらいの時間が経ったんだろう。もしかするとそんなに時間は過ぎていないのかもしれない。
だけど沈黙が気まづくて時間が普段の何倍にも感じられる気がする。
そういえば、こうやって二人で散歩するのも随分久しぶりだな。
確か前回はアレックスさんに、お願いだから皇帝と話をして欲しい!って懇願されたんだっけ。
まぁ、今回も似たような感じか。
まさかリアムに仲良くして欲しい、なんて言われるとは思ってもみなかった。
いや、よく考えば両親が仲良くして欲しいって思うのは不思議な事じゃないよね…。
前世で小学校に通っていた時、友達が『お父さんとお母さんが仲良くなって欲しい』って言っていたのをふと思い出す。結局その子の両親は離婚すること
になって、毎日落ち込んで泣いてたなぁ。
あの子からすれば、お父さんもお母さんも大好きだから仲良くして欲しかったんだろうな。そしてリアムも、その子と同じ様に私達に仲良くしてもらいたいと思ったんだろうな。
そう思うと、リアムには寂しい想いをさせていたのかもしれない。やっぱり、子供からすれば好きだと思う両親には仲良くして欲しいものだよね。
せっかく私の子供になってくれたんだから、今回の散歩をきっかけに、皇帝との距離を友達以上、恋人未満までには持っていってみよう。
「あの…ルビ…おほん、皇后…」
「なんでしょうか?」
あれ?今、名前を呼ぼうとしてくれた?
そういえば、前にも何度か呼ばれた様な気がするけど……あれは気の所為だったのかな。
「先程の料理、美味しかった……です」
「お口にあったようでよかったです」
「………」
あ、もう会話終了しちゃった…。
「…あの、どれが1番お口に合いました?」
「どれも美味しかった……ですが、強いて言うなら、おにぎり……です」
「おにぎりはリアムも一番好きな様で、いつもよく食べてくれるんですよ。やっぱり親子は似るんですね」
「そうなの……でしょうか。自分ではよく、わから……分かりません」
うーん…。
さっきからずっと話しにくそうにしてるのはどうしてだろう。もしかして、リアムに言われたから丁寧な口調を止めようとしてる…?
「あの……陛下が楽な話し方で構いませんよ?」
「え、いや…」
「今の陛下は、どこか無理をしているように思えるので…。好きな様に話してください」
そういえば、少し悩む素振りをされる。
やっぱり無理をして喋ろうとしていたみたいだ。息子に言われたことをすぐに改善しようとするのは素晴らしい事だけど、そこまで無理しなくてもいいんじゃないかな…。
「貴女は…どういう話し方がいいですか?」
「私ですか?」
まさか私の意見を聞かれると思ってなかったので、少し驚いてしまう。だけど、せっかく聞いてくれているんだから、素直に感じていることを言った方がいいよね。
「私は…もっと砕けた話し方の方が嬉しいです…。私だけ丁寧な言葉遣いをされると、なんだか壁を作られているようで、寂しい……と感じるので…」
「そんなことを……感じさせていたんだな…」
私の素直な気持ちに、皇帝は悔いるように呟いた。
「すまなかった。貴女にそんな思いをさせていて」
呟いた後に、さっきまでとは違って、流暢に砕けだ言葉で話かけられる。
さっきまでのたどたどしい話し方はなんだったんだろう…。全く、なんの躊躇いもなく話し方を変えられて、嬉しいけど驚いてしまう。
「いえ…。皇帝陛下も、あの方のせいで勘違いされていたこともあるでしょうから、今までの陛下に不満があるわけではありませんので、謝らないでください」
以前はルビアに対しての皇帝に不満はあったけど、イザベラ様が幼少期から皇帝を自分に依存させ信じ込ませていた事実を知れば、文句なんて言う気になれない。
「いや…だが……」
皇帝は何かを言いかけて言葉を飲み込むように口を閉じる。
イザベラ様の話題を出したからか、皇帝が気まずそうにしている…。私から話題を変えるために何か言った方が良いのかな…。だけど、何か考えてるようにも見えるし、皇帝が話すまで待っていた方がいいのかな…。
「イザベラが……貴女やアイリを襲おうとしたあの夜…」
なにか言おうか言わまいかと考えている間に、皇帝が先に口を開いた。
「イザベラにずっと裏切られていたこと、父や母の死の真相を知って…私は愕然とした」
あんなことを告白されれば、誰だってそうなってしまうのは仕方ない。本当のことを知って、辛かった、なんて言葉では表せないくらい傷付いたに決まっている。
その傷が少しでも癒える様に何か言葉をかけたいけど、幼い頃から両親に溺愛されて、何不自由なく育ってきたルビアが何を言ったとしても、きっと上手く慰めにもならないだろう。だから、ここは静かに皇帝の話に耳を傾けていよう。
「母が亡くなってから、父は私とあまり話さないようになり、母のように慕っていたマーガレットも城を去り、私は1人ぼっちだった…。そんな私を慰め、支えてくれたイザベラが…まさか、私を裏切っていたなんて…想像もしていなかった」
感情を押し殺す様に握り締められた拳が、皇帝の心を表しているようで見ているこちらも心が痛む。
「それに…父までも……私から奪っていたとは…。そうとも知らずに、イザベラの言うことを全て信じていた自分が情けなくなる」
「そんな…陛下は何も…」
「悪くないわけが無い…。もし私が、少しでもイザベラを怪しんでいれば…。そうすれば…貴女に対してもあんな態度はとることがなかったのに…」
ルビアのことに対しても悔いてくれているんだ…。
138
お気に入りに追加
10,183
あなたにおすすめの小説
妹に幸せになって欲しくて結婚相手を譲りました。
しあ
恋愛
「貴女は、真心からこの男子を夫とすることを願いますか」
神父様の問いに、新婦はハッキリと答える。
「いいえ、願いません!私は彼と妹が結婚することを望みます!」
妹と婚約者が恋仲だと気付いたので、妹大好きな姉は婚約者を結婚式で譲ることに!
100%善意の行動だが、妹と婚約者の反応はーーー。
[完結]麗しい婚約者様、私を捨ててくださってありがとう!
青空一夏
恋愛
ギャロウェイ伯爵家の長女、アリッサは、厳格な両親のもとで育ち、幼い頃から立派な貴族夫人になるための英才教育を受けてきました。彼女に求められたのは、家業を支え、利益を最大化するための冷静な判断力と戦略を立てる能力です。家格と爵位が釣り合う跡継ぎとの政略結婚がアリッサの運命とされ、婚約者にはダイヤモンド鉱山を所有するウィルコックス伯爵家のサミーが選ばれました。貿易網を国内外に広げるギャロウェイ家とサミーの家は、利害が一致した理想的な結びつきだったのです。
しかし、アリッサが誕生日を祝われている王都で最も格式高いレストランで、学園時代の友人セリーナが現れたことで、彼女の人生は一変します。予約制のレストランに無断で入り込み、巧みにサミーの心を奪ったセリーナ。その後、アリッサは突然の婚約解消を告げられてしまいます。
家族からは容姿よりも能力だけを評価され、自信を持てなかったアリッサ。サミーの裏切りに心を痛めながらも、真実の愛を探し始めます。しかし、その道のりは平坦ではなく、新たな障害が次々と立ちはだかります。果たしてアリッサは、真実の愛を見つけ、幸福を手にすることができるのでしょうか――。
清楚で美しい容姿の裏に秘めたコンプレックス、そして家と運命に縛られた令嬢が自らの未来を切り開く姿を描いた、心に残る恋愛ファンタジー。ハッピーエンドを迎えるまでの波乱万丈の物語です。
可愛い子ウサギの精霊も出演。残酷すぎないざまぁ(多分)で、楽しい作品となっています。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
七代目は「帝国」最後の皇后
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「帝国」貴族・ホロベシ男爵が流れ弾に当たり死亡。搬送する同行者のナギと大陸横断列車の個室が一緒になった「連合」の財団のぼんぼんシルベスタ・デカダ助教授は彼女に何を見るのか。
「四代目は身代わりの皇后」と同じ世界の二~三代先の時代の話。
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話
七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。
離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる