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71、皇城での悲劇

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マーガレットにとって、これから話すことは辛い記憶なのだろう。眉間に皺を寄せ、目をつぶり深呼吸をしてから1度皇帝に話しかけた。


「申し訳ありません、ルミリオ様。ここからは、貴方様にとって、とても辛い出来事を語ることになります」
「………いい、続けてくれ。私も、真実を知りたいからな」


皇帝はこれから語られる事が何なのかが分かっているのか、感情を押し殺すように空いている手を握りしめ、マーガレットに先を促す。


「………あれは、ルミリオ様が7歳になられ、盛大な生誕祭が開かれた時のことでした。縁もたけなわという頃に、リナリー様が急に喉を押え倒れられたのです」


せっかくの誕生日パーティなのに、お母様が倒れただなんて、なんて悲しい出来事なんだろう…。


「すぐにお医者様を呼び、診察されたのですが…リナリー様が目を覚まされる事は二度とありませんでした」


そんな…。


よりにもよって、皇帝の誕生日パーティでそんなことが起きてしまっただなんて…。


その時の皇帝の事を思うと、胸がすごく痛くなる。


「リナリー様の死の原因を突き止めるために、死ぬ間際に持たれていたグラスを確認すると、カーミラ様が使用しようとしてい劇薬が入っている事が分かりました」
「………うそよ…」


マーガレットの言葉に、何かを考えるように大人しく聞いていたイザベラ様が、まるで自分自身に言い聞かせるように呟いた。


けれど、そんな呟きを無視してマーガレットは話を続ける。


「カーミラ様が居るはずが無いのに、何故そんな毒が使われたのか、真相を知るために城内外で犯人探しが深夜になっても行われました」


皇后陛下が毒で亡くなられたのだから、深夜になろうが捜索するのは当然だろうな。


「その夜、私はショックで眠ることが出来なかったルミリオが落ち着かれるように、ココアをお入れしようとキッチンへ向かいました。そして、そこで見知らぬメイドをみつけたのです」


さっきイザベラ様が話していた時に、お母様が皇城へと向かったと言っていた…。という事は、もしかしてそのメイドは…。


「メイドに話しかけると、逃げようとしたのですぐに警備の者を呼び捕らえました。そして、メイドの顔を確認すると……その人物は、そこにいるはずが無い、追放されたはずのカーミラ様でした」


やっぱり…。


「すぐにゼノン様に報告し、地下牢へと閉じ込め翌日に事情を聴き出そうとしました。けれど、カーミラ様に協力者が居たようで、牢に入れる前に逃げられ、再び場内は慌ただしくなりました」


捕まえられても逃げるだなんて、なんて往生際が悪い人なんだ。


「そんな中、私はやっとの事で眠られたルミリオ様が目を覚まされないように、部屋で見守って居たのですが…。突然扉が開き、先程のイザベラ様のようにカーミラ様が部屋に進入してきたのです。私はすぐにルミリオ様を守るために、城内に響き渡るように部屋に設置されたベルを鳴らしました。ですが、それを鳴らしている隙に背後にまわられ、毒の染み込んだ布を口元に当てられてしまったのです」


そんな経験があったから、イザベラ様がジェーンやミリアナを襲っている時に、マーガレットはすぐに皇帝を呼びに行ってくれたのかもしれない…。


「毒を吸い込んでしまい、意識は保ったまま身体全身が痺れて動けなくなった私を放置し、カーミラ様はゆっくりと、寝ているルミリオ様に近付き、服に隠し持っていたフルーツナイフを取り出しました…」


逃げた理由は、リナリー様の息子までも亡き者にしようとしていたって事なのか。イザベラ様を皇女にする為に、ゼノン様とリナリー様の子供が邪魔だと考えたのかもしれない。


「ナイフを振り上げ、ルミリオ様に振り下ろそうとしていた時は、本当に生きた心地がしませんでした。動けず見ていることしか出来なかった己をどれほど責めたことか…。ですが、幸いゼノン様が駆けつけてくださり、切っ先がルミリオ様に触れることはありませんでした」


それは本当に良かった…。
皇帝がここに居るということは、命に別状は無かったのだろうと思ったけど、ゼノン様が駆けつけてくださって本当に良かった。


「ゼノン様の到着に心底安心しましたが、カーミラ様はその事も見越し、ナイフを向ける前にルミリオ様の口に毒を垂らしていたのです。そして、その毒を解毒したければ、私の要求を飲めと主張してきたのです。一刻を争う状況でしたので、ゼノン様はカーミラ様の要求を飲むほかありませんでした。そして、その要求がーー」


イザベラ様を皇城へと連れてこさせること、だったのか。どうしてイザベラ様が皇城へ来れたのかこれで分かった。


息子の命を救う為にカーミラ様と約束を交わしたんだ。


罪人との約束なので反故にも出来たはずだけど、カーミラ様の娘には何の罪もないので、ゼノン様は親を亡くした娘を心配して約束を守ったのだそうだ。



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