71 / 99
71、皇城での悲劇
しおりを挟むマーガレットにとって、これから話すことは辛い記憶なのだろう。眉間に皺を寄せ、目をつぶり深呼吸をしてから1度皇帝に話しかけた。
「申し訳ありません、ルミリオ様。ここからは、貴方様にとって、とても辛い出来事を語ることになります」
「………いい、続けてくれ。私も、真実を知りたいからな」
皇帝はこれから語られる事が何なのかが分かっているのか、感情を押し殺すように空いている手を握りしめ、マーガレットに先を促す。
「………あれは、ルミリオ様が7歳になられ、盛大な生誕祭が開かれた時のことでした。縁もたけなわという頃に、リナリー様が急に喉を押え倒れられたのです」
せっかくの誕生日パーティなのに、お母様が倒れただなんて、なんて悲しい出来事なんだろう…。
「すぐにお医者様を呼び、診察されたのですが…リナリー様が目を覚まされる事は二度とありませんでした」
そんな…。
よりにもよって、皇帝の誕生日パーティでそんなことが起きてしまっただなんて…。
その時の皇帝の事を思うと、胸がすごく痛くなる。
「リナリー様の死の原因を突き止めるために、死ぬ間際に持たれていたグラスを確認すると、カーミラ様が使用しようとしてい劇薬が入っている事が分かりました」
「………うそよ…」
マーガレットの言葉に、何かを考えるように大人しく聞いていたイザベラ様が、まるで自分自身に言い聞かせるように呟いた。
けれど、そんな呟きを無視してマーガレットは話を続ける。
「カーミラ様が居るはずが無いのに、何故そんな毒が使われたのか、真相を知るために城内外で犯人探しが深夜になっても行われました」
皇后陛下が毒で亡くなられたのだから、深夜になろうが捜索するのは当然だろうな。
「その夜、私はショックで眠ることが出来なかったルミリオが落ち着かれるように、ココアをお入れしようとキッチンへ向かいました。そして、そこで見知らぬメイドをみつけたのです」
さっきイザベラ様が話していた時に、お母様が皇城へと向かったと言っていた…。という事は、もしかしてそのメイドは…。
「メイドに話しかけると、逃げようとしたのですぐに警備の者を呼び捕らえました。そして、メイドの顔を確認すると……その人物は、そこにいるはずが無い、追放されたはずのカーミラ様でした」
やっぱり…。
「すぐにゼノン様に報告し、地下牢へと閉じ込め翌日に事情を聴き出そうとしました。けれど、カーミラ様に協力者が居たようで、牢に入れる前に逃げられ、再び場内は慌ただしくなりました」
捕まえられても逃げるだなんて、なんて往生際が悪い人なんだ。
「そんな中、私はやっとの事で眠られたルミリオ様が目を覚まされないように、部屋で見守って居たのですが…。突然扉が開き、先程のイザベラ様のようにカーミラ様が部屋に進入してきたのです。私はすぐにルミリオ様を守るために、城内に響き渡るように部屋に設置されたベルを鳴らしました。ですが、それを鳴らしている隙に背後にまわられ、毒の染み込んだ布を口元に当てられてしまったのです」
そんな経験があったから、イザベラ様がジェーンやミリアナを襲っている時に、マーガレットはすぐに皇帝を呼びに行ってくれたのかもしれない…。
「毒を吸い込んでしまい、意識は保ったまま身体全身が痺れて動けなくなった私を放置し、カーミラ様はゆっくりと、寝ているルミリオ様に近付き、服に隠し持っていたフルーツナイフを取り出しました…」
逃げた理由は、リナリー様の息子までも亡き者にしようとしていたって事なのか。イザベラ様を皇女にする為に、ゼノン様とリナリー様の子供が邪魔だと考えたのかもしれない。
「ナイフを振り上げ、ルミリオ様に振り下ろそうとしていた時は、本当に生きた心地がしませんでした。動けず見ていることしか出来なかった己をどれほど責めたことか…。ですが、幸いゼノン様が駆けつけてくださり、切っ先がルミリオ様に触れることはありませんでした」
それは本当に良かった…。
皇帝がここに居るということは、命に別状は無かったのだろうと思ったけど、ゼノン様が駆けつけてくださって本当に良かった。
「ゼノン様の到着に心底安心しましたが、カーミラ様はその事も見越し、ナイフを向ける前にルミリオ様の口に毒を垂らしていたのです。そして、その毒を解毒したければ、私の要求を飲めと主張してきたのです。一刻を争う状況でしたので、ゼノン様はカーミラ様の要求を飲むほかありませんでした。そして、その要求がーー」
イザベラ様を皇城へと連れてこさせること、だったのか。どうしてイザベラ様が皇城へ来れたのかこれで分かった。
息子の命を救う為にカーミラ様と約束を交わしたんだ。
罪人との約束なので反故にも出来たはずだけど、カーミラ様の娘には何の罪もないので、ゼノン様は親を亡くした娘を心配して約束を守ったのだそうだ。
194
お気に入りに追加
10,327
あなたにおすすめの小説
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた
そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた
しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう
婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ
婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか
この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話
*更新は不定期です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる