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「君は…………ありがとう」


私が急に現れた事に驚いた様だけど、ヒロインにドタキャンされたりする度に私がこうやって何かを差し出すので、今ではすんなりと差し出した物を受け取ってくれる。
そして、ボソッと感謝もしてくれる。


聞こえるか聞こえないかと言う音量で言うところがまた、なんて言うかキュンってくるポイントなんだよね。
ヒロインに恋してから遊び人だった面影がほとんど無くなって、今は少し素直になれない男子生徒って感じで可愛い。


「おいしい…」


それは本当に良かった!
少しでも違う事を考えてもらえるなら買った甲斐があるってもの!


さて、推しの気を紛らわせることに成功したモブはそろそろ消えましょうか。


「ねぇ、せっかくなら一緒に見れば?」


え…私なんかが一緒に見てもいいんですか?
花火イベントって好きな人とか恋人と見たりするものでは…?


いや、その好きな人が居なくなったから仕方ないのは分かるけど、私みたいなモブが一緒に見てもいいものなのだろうか…。


でも、誘ってくれたのは向こうで、そもそも一緒に居たくなければ誘わないだろうし。
傷心の中1人で花火を見るのが辛いから、何故かいつもひょっこり出てきて食べ物を渡して消える私でもいいから一緒に居たい…そういう事?


うーん…。
有り得なくは無いかもしれない。
人は弱っている時に傍に誰かがいる方が安心できることもあるもんね。


ということで、人2人分空けて隣に失礼する。


「なんでそんなに遠いの?」


呆れたように言われるけど、今までは渡したいものを渡して即去る、という事を繰り返していたから、一緒の空間にいる時の距離感がよく分からない。
それに、推しの横に行くなんて烏滸がましいにも程がある!


「こっちの方が良く見えそうだから、もっと近くに来なよ」
「…それでは、失礼します」


と、思ったけど断るのも失礼なので、恐る恐る近付いてみる。


このくらい?
もっと近くに行っていい?
これは流石に近付きすぎ?


「なに遠慮してるのかわかんないけど、人が増えてきたからもっとこっちに来な」
「っわ、」


どこまで近づくか考えていたら、急に手首を掴まれて肩がくっつく程引き寄せられる。


流石にこれは近付きすぎでは!?
少し離れないと私の心臓が持たないぞ!
なんかいい匂いもするし!
くっ付いた肩や腕から温もりが感じられるし!
ちょっとこれはヤバイんじゃないか!?


「あの、少し近付きすぎたようなので…」
「そういえば、あんたの声、初めて聞いたかも」
「え?」


私の声?


そういえば…いつもそっと渡して消えてたから、彼の前で声を発した事はなかったかもしれないな…。


今更だけど、私ってかなり不審者なのでは!?


落ち込んでる時に必ず食べ物を渡しに来て直ぐにいなくなるって、かなりヤバいやつじゃん!!
それなのに、私が渡したものを受け取ってくれるこの人は聖人なのでは…?


はやり推しは神だった!?


「いつもすぐに居なくなるからさ、話しかける事も出来なかったんだよね」


私ごときが推しと同じ空間に居ていいはずがないと思ったので速攻で去ってました。
あと、ヒロインちゃん以外の女子と話すのは苦手そうだから、余計に接触する時間を極力短くできるように頑張ってたってのもあります。


だけど、話しかけようとしてくれていたんだ…。


「急に現れて食べ物渡してくるからさ、あんたの目的が知りたかったんだよね」


ですよね。
急に貢いできたら、なんで?ってなりますよね。
そりゃ、話しかけようというか、問い詰めたくもなる。


「ま、今はそんな事聞く気ないけど。あんたが渡してくる物全部美味かったし」
「…それは良かったです」


街で人気のスイーツとか色々チェックしてて良かった。
そのおかげで少しでも推しに喜んでもらえたのなら恐悦至極です!


「けど、名前とクラスくらい教えてくんない?毎回もらってるのだけでお礼出来ないし」
「お礼なんて…。私が好きでしている事なのでお気になさらないでください」
「だとしても、名前くらい教えてくれない?あんた、多分だけど俺の名前知ってんでしょ?なら、俺だけ知らないの不公平じゃん」


確かに名前は存じ上げておりますが…私の名前を知ったところでなんのメリットも無いと思うんだけどな。


「俺の名前はエリオット = ルバーム」
「え、あ、はい」


知ってますけど、突然どした!?


「俺は名前言ったんだからあんたも教えてよ」


あ、なるほどそういう事か。
相手が名乗れば必ずこちらも名乗るのが貴族のマナーだもんね。
しかも、向こうの方が爵位が上なので名乗らないなんて選択肢あるわけが無いもんね。


私の名前を知ったところで言う機会はないと思うんだけどな。


「私の名前はーー」



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