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しおりを挟む暖かい手…。
お母様の言葉は、私が息子に言っていたことをそのまま言われているみたいで、少し心が傷む。だけど、この暖かい手のおかげで、心が暖かくなる。
なんて優しい手なのかしら…。
今まで、私はこんなに手で触れられたことなんて1度もなかったわ。
ずっと、この手に触れていたい。
だけど、私にそんな資格はないわ。
人を傷つける事しか出来なかった私は、誰かに優しくしてもらってはいけないのよ。
「ありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですので、お気遣い頂かなくて結構です」
名残惜しく感じてしまうけれど、そっとお爺様の手を離す。そして、頭を下げる。
「母を止めて頂き、感謝致します。ワイズ公爵閣下に来て頂かなければ、今頃母は大罪人となっていたことでしょう。本当にありがとうございました」
これで前と同じ過ちはくり返されず、私も皇城へ行くことも無くなったわ。あとは、この家で私自身の罰を受けましょう。
ただひたすら孤独に、幸せになることなんて無いように。
「その礼のとり方は…カーミラから教えられたのか」
「はい、そうです。なにか、間違っていましたでしょうか?」
この礼のとり方は、お母様ではなく皇城で学んだものなのだけれど、なにか間違いでもあったのかしら。
間違いがあったとしても、これから礼儀作法なんて必要もないだろうし、お爺様とも二度と会うことが無いのだから、そこまで気にしなくてもいいわよね。
「無礼を働いてしまったのでしたら、申し訳ありません」
どうせもう会わないのだから、謝罪だけ伝えておきましょう。
「………お前は、これからどうするんだ」
「今まで通りここで暮らします」
「母親もいないのにか」
「母が居なくとも、家族がいますので」
あまり関わったことも無く、私たち親子を遠巻きに見て聞こえるように陰口を言う大勢の家族が。
「見ていて、ここは人の住む場所とは思えないが?」
お爺様が部屋を見渡しながら言うのも無理はないわね。
私達はこの屋敷を仕切る正妻からことごとく嫌われて居るから、使用人が使うよりも簡素な部屋しか与えられていない。物置だったと言われても納得してしまいそうな狭くてボロい部屋よね。
けれど、今の私にはちょうどいい場所よ。
大罪を侵した人間が過ごすには、ね。
「住めば都と申します。住み慣れればそれ程不便はありません。ですが、公爵閣下が居る場所には相応しくありませんね。このような場所にお呼び立てしてしまい申し訳ありませんでした」
「いや、構わん。おかげで家紋に2度も泥を塗られることを防げたのだからな」
お母様が両陛下と接近禁止命令が出されたのも、今回のように皇后陛下を毒殺しようとしたから。あの時は、お母様を廃嫡し、禁止命令を出すだけで収まったみたいだけど、それでも公爵家にも多少なり良くない噂が流れたはず。
それなのにもう一度同じことを行い、本当に皇后陛下を殺害してしまえば、廃嫡したとはいえ家の印象がさらに悪くなってしまうのは避けられないでしょうね。だから、こんなにも早くお爺様自らが来てくださったのでしょうね。
家紋の為とはいえ、私からすれば命を救ってくれたと同じこと事なので、お爺様に感謝してもしきれないわ。けれど、こんな薄汚い場所に公爵閣下をお引き留めしては失礼ね。
「お忙しい閣下をお引き留めして申し訳ありません。母の為に御足労頂きありがとうございました」
「………」
お爺様が出て行けるように言ったのだけれど、どうして外に行かずに私の事を観察するように見ているのかしら。
「……ここでは、ちゃんと食事を食べているのか」
「はい、十分に頂いております」
本当は、正妻に嫌われ、その取り巻きの側室にも嫌われているから、パンが1つもらえるのがやっとの時だってよくある。そのせいで、皇城に行くまでの私は、酷くやせ細っていた。
だけど、身体は服などで覆われているから、顔以外は肌が一切でていなくて気付かれないはず。
それなのに、お爺様は私を見て考えるような素振りを見せる。
「………少し、お前の父親と話を付けてくる」
「…?かしこまりました。それでは、お気を付けて」
お母様のことで父に話を付けに行くのだろうけど、どうしてそんなことを私に言うのだろう。
きっと、父と話してそのまま帰ってしまわれるのだろうから、お爺様に礼を取ってお見送りをする。
前回の人生では会う機会なんてなかったから、お母様を止める為とはいえ、お爺様に会うことが出来て良かったわ。
もう会うことがないお爺様、どうかこの先もお元気で…。
と、祈っていたのに、お爺様は30分もしない内に再び部屋へと訪れに来た。
「行くぞ」
「行くとはどういう…きゃっ!」
「捕まっていろ」
この状況は一体どういうことかしら。帰ってきたお爺様が突然私を横抱きにして部屋を出ていくのだけど。
「な、なにをなさるのですか!」
「お前にここは相応しくない」
もしかして、父との縁を切ってきたのかしら。
父は曲がりなりにも上位貴族で裕福な生活を家族に送らせているから、きっと犯罪者の娘はここに相応しくないと仰っているのね。
お母様が居なくなってしまったから、私を孤児院にでも預けようと思ってるのかしら。
それならそれで、私は構わないわ。
前回の人生で秘密裏に孤児院を経営していた時、子供達を恐怖で従わせていたから、その償いをしなければいけないものね。
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