8 / 13
お知り合いの方のようです。
しおりを挟む「沢山歩いたので、疲れてませんか?」
「そうですね、ここまで歩いたのは初めてかもしれません。でも、楽し過ぎて疲れていることに気付かなかったです」
「はは、そう言ってもらえるとこの市場を開発した甲斐があります。では、こちらで少し座って休憩致しませんか?」
そう言って案内されたのは、行列が出来ているお店だった。
長い行列のせいで、お店の看板すら見えない。
「すごい人ですね…」
「ここは開店してからずっとこんな感じですね。何時間も並ぶと有名な店ですが、僕達はこちらから入りましょう」
「そっちは裏口ですよね?」
尋ねれば、シャル様は笑って頷きながら裏口の方へと歩いていった。そして、勝手知ったると言うようにドアを開けて中へ入った。
「さぁ、どうぞ」
「え、大丈夫なんですか?」
「ええ、大じょう…」
「あら!シャル様じゃないかい!ここのところ全然顔を見せて頂けないから倒れてないか心配してたんだよ!」
シャル様の声を遮って、店にいたご婦人がカラカラと笑いながら話しかけてきた。
なんだか、シャル様とすごく親しそうだ。
「倒れてないから心配しないでよ。最近少し忙しかったんだ」
「そうなのかい?まぁ、無理はしない事だよ。アンタに倒れられでもしたら、ここに居るみんな困っちま…おや?」
「どうも、お邪魔しています」
話の途中でシャル様の後ろに居た私の存在に気付いて、ご婦人が私のことを驚いたように見てくる。
目が合ったのでお辞儀をすると、ご婦人の口角がにんまりと上がった。
「なんだい?なんだい?やっとシャル様にも良い人が出来たのかい?」
「マーサ、別にそういうわけじゃ…」
「いい、いい、言わなくても分かってるよ!いやぁ、良かった!シャル様は見た目も中身も良いのに全然そういう話を聞かないから心配してたけど…なるほどねぇ…かなりの面食いだったのかい」
「マーサ!」
楽しそうに話すご婦人に、シャル様は少し頬を赤らめて抗議するように大きな声を出した。
「彼女は父上の友人の娘さんで、トルーアに滞在されてるから僕が案内をさせてもらってるだけなんだよ!だから変な誤解はしないでくれ!彼女にも迷惑だろ!」
「ほぉ~年中忙しいシャル様がわざわざ案内をね~。そうかい、そうかい!ま、上手くいくと良いね!あ~今からシャル様の子供が楽しみだね」
「マーサ!」
照れたような、怒ったような声を出し抗議するシャル様を意にも介さず、ご婦人は楽しそうに話し続ける。
話し続けるご婦人に、シャル様は諦めたように私の方へ向き直り頭を下げる。
「すいません…。どうも彼女には勝てなくて、私達の仲を勝手に勘違いされてご不快ではありませんか?」
「いえ、そんなことはありません。仲がよろしいのですね」
「まぁ、彼女とは僕が幼い頃からの付き合いですので」
「そうさねぇ、シャル様がおしめをしながらミルクを飲んでた時からの付き合いになるかしらねぇ」
「マーサ!もう余計な事は言わなくていいから!」
まるで母親と息子のやり取りを見ているようで微笑ましくなってしまう。
物腰柔らかで気遣いが素晴らしいシャル様も素敵だけど、こういう素のような姿も年相応に見て良いと思う。
それに比べてエーリッヒ様は…どれをとっても良いとは言えなかったな。いや、今はエーリッヒ様事なんて忘れよう。
「マーサ、それよりも彼女にパイを食べさせたいんだ。いいだろ?」
「ああ、もちろんだとも。シャル様のお願いを断る人間なんて、この市場には居ないよ。すぐ用意するから、いつもの所に座って彼女と待ってな」
意味深なウィンクをシャル様にして、ご婦人は部屋の奥へと入っていった。
「…すいません立たせたままで、こちらです」
少し疲れた様子のシャル様が建物の二階へ案内してくれる。
43
お気に入りに追加
636
あなたにおすすめの小説
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました
Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに!
かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、
男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。
痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。
そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。
「見つけた! 僕の花嫁!」
「僕の運命の人はあなただ!」
──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。
こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。
すっかりアイリーンの生活は一変する。
しかし、運命は複雑。
ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。
ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。
そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手……
本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を───
※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる