7 / 13
観光が楽しいです
しおりを挟む「アリア嬢、トルーアで行きたい所などありますか?」
昨晩の宣言通り、朝から迎えに来てくださったシャル様が質問をしてくれる。
ちなみに、お父様とお母様は私が起きる前に出発したようで、部屋には私が今日着ていく服を置いて消えていた。
シャル様が来て下さると言ったとはいえ、娘にも告げずに出掛けてしまうのはどうなんだろ。
両親の行動に少しだけ眉にシワがよりそうになるが、せっかく外国へ来たのだから、今は楽しむことだけを考えよう。
「では、トルーアの海の近くにある市場を見てみたいです。確かそこでは取れたての海鮮が食べれる屋台が沢山あると聞きました。それに、木苺のパイも有名だとか」
「よくご存知ですね!まだまだ観光地として市場が他国に浸透していないと思っていたのですが、知っていただけていたなんて光栄です」
まるで、この国を代表するかのように喜ぶシャル様に笑みがこぼれる。
「シャル様はこの国を愛していらっしゃるのですね」
「あはは、そうですね。なので、アリア嬢にも沢山トルーアのいい所を知って欲しいと思っています。では、まずは市場へ行きましょうか」
「はい」
ホテルからそう遠くない市場へ、馬車を使わずにシャル様と並んで歩く。
馬車を使わずに移動するなんて、すごく新鮮な気分だ。それに、歩いている間もシャル様がトルーアのことを教えて下さるから、すごく楽しい。
「見てください。あそこは今建設中なのですが、もうすぐたくさんの屋台が並べれる広場が出来るんです。広場の真ん中には我が国屈指の彫刻師が手がけた噴水が設置される予定なんですよ」
「それは楽しみですね。完成した際には、又トルーアに訪れたいです」
「是非そうしてください。なんなら、こちらからお迎えの馬車も用意しますよ」
冗談っぽく言うシャル様に笑いが漏れる。
シャル様はトルーアの事をよく知っていて、更に気さくな方なので、観光案内をお願いして本当に良かった。
「トルーアは観光地として力を入れているんですね。もしかして、これも王太子様の案ですか?確か、今から行く市場も王太子様が造られたと聞きました」
「そんなことまでご存知なのですか?流石、次期王妃候補であった方ですね」
「あはは、恐縮です」
私にこんな知識があるのは、少しでも知らないことがあれば王妃殿下が「こんな事も知らないで息子の婚約者を名乗るなんて恥ずかしくないの?」とチクチク言ってくるからだ。
なので、この知識はあのババ…ごほん、王妃殿下に嫌味を言われないために必死に勉強した賜物だ。
ちなみに、エーリッヒ様は私に聞いて全て済ませてしまうので、こんなトルーアの市場の事なんて全く知らないだろう。
ホント、扱いの差が酷すぎて嫌になる。
でも、その知識のおかげで観光が更に楽しい物になっているから、無駄ではなかったと今なら思える。
「着きました。ようこそ、こちらがトルーアの海鮮市場です」
「わぁ、凄い…!」
市場と聞いていたので、乱雑に商品が置かれたイメージを勝手に持っていたけど、全然予想と違った。
地面は綺麗にレンガが敷かれ、歩道と車道がきちんと別れている。
そして、商品は綺麗に並べられ、売り場の隣には、直ぐに調理して食べれるようにカウンター席が設けられている。
他にも、食べ歩きができるようにクシに刺さった物や、カップに入れた物が売ってあったり、見ていて飽きない。
「食べ物以外も販売してるんですね!この服なんて、イカの絵を書いて"イカしてるぜ"なんて書いてますよ!」
あまり他では見たことの無い変わった服まで置いていてすごく面白い。
屋台を見ながら、周りの人達に当たらないように進んでいくと、気付けば市場の端から端まで歩き切っていた。
52
お気に入りに追加
639
あなたにおすすめの小説
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
そんなに欲しいのでしたらお譲りします
風見ゆうみ
恋愛
私、ミリエル・レナス侯爵令嬢には昔から大好きだった人がいた。
好きな人の名は公爵家の次男のテイン・ヨウビル。
三歳年上の彼に意を決して告白して、思いが報われた。そう思っていたのに、次の日、わたしの好きな人は、姉の婚約者になった。
「……テイン様はどういう気持ちで、私の告白を受け入れてくれたんですか?」
「一日だけでも、レジーから君に夢を見させてあげくれって頼まれたんだ。君が幸せな気持ちになってくれていたなら嬉しい」
「ねえミリー、許してくれるでしょう? だって、私達の仲じゃない?」
「お姉様は、私のものがほしいだけ。だから、彼を一度、私のものにしたんですね?」
ショックを受けていた私の元に縁談が舞い込んでくる。
条件が良くない男性のため、次こそはお姉様に奪われることはない。そう思っていた私だったけれど、お姉様が私が幸せになることを許すはずがなかった。
※史実とは関係なく、設定もゆるゆるでご都合主義です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良いものとなっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
もふきゅな
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~
弓はあと
恋愛
「センティア、君との婚約は破棄させてもらう。病弱な妹を苛めるような酷い女とは結婚できない」
……病弱な妹?
はて……誰の事でしょう??
今目の前で私に婚約破棄を告げたジラーニ様は、男ふたり兄弟の次男ですし。
私に妹は、元気な義妹がひとりしかいないけれど。
そう、貴方の腕に胸を押しつけるようにして腕を絡ませているアムエッタ、ただひとりです。
※現実世界とは違う異世界のお話です。
※全体的に浮気がテーマの話なので、念のためR15にしています。詳細な性描写はありません。
※設定ゆるめ、ご都合主義です。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる