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因果の断ち切り方

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石油危機を乗り切り安定成長期に入った1985年。14歳になる大地は、学校を休みがちだ。特にいじめられている訳でもなく、友人関係は良好だ。勉強ができない訳でもない。ただ、登校するのが面倒で、家でぬくぬくとテレビを見て過ごしたいだけのようだ。

大地には、高校生の姉が1人いるが、性格が合わなくて言葉をかわすことは少ない。名前を美久という。成績優秀でクラスの人気者だ。彼女の周りは、いつも人が集まっていて賑やかだ。大地はそんな彼女を、自分の冴えない個性と比べてしまい疎ましく思っていた。

両親も、優秀な姉と比べて、ぱっとしない大地を厄介者のように感じていた。両親は気付かなくても、言葉の端々に不満が出てくるものだ。口を開けば、毎日、小言を言ってしまうのを反省するのだが、本人の将来の為にどうしても繰り返してしまうのだ。

父親は、平凡なサラリーマンで、毎日、同じ時間に出社し、帰りも決まった時間だ。彼は、真面目な性格だけが取柄だ。大地のように嫌なことから逃げる性格は、将来、苦労すると心配している。だが、彼には説得力のあるアドバイスをする能力に欠けている。

母親は、平日はパートをしているが、必ず子供が帰宅するまでには帰り、食事の準備をするようにしている。子供の様子を見守る為だが、大地にはそれがかえって裏目に出ているようだ。彼女は、これからはある程度、本人の自発性に任せようと思って心掛けている。

12月10日の凍りつく朝、大地は少し熱があると言って、学校を休みたいと言い出した。両親は、いつもの大地に対しての小言に疲れており、帰ってから、今後について話し合うという約束で、学校に休む旨の電話をかけて、今日はおとなしく家にいるように大地に言った。

母親が、4時に帰宅した際、家に人の気配がないと不審に感じ、大地の部屋に行った。母親が見たものは、首を吊った大地の変わり果てた姿だった。すぐに警察を読んだ。遺書こそなかったものの、事件性はなく自殺として処理された。

姉の美久が帰った時は、まだ警察が現場検証をしていた。不思議に弟の大地が自殺したことには、特に大きな感慨はなかった。元々、会話もなかったので、これから先も特に変化はないだろうという確信があったが、面倒なことにならないようにと願うばかりだった。

父親も連絡を受け、美久と同じ頃に帰ってきた。家族みんなで、病院の死体安置室で変わり果てた大地と再会した。両親はショック状態で、感情を失っているかのようだった。怒りなのか、悲しみなのか、今の段階で、彼らには想像もつかなかった。

葬儀屋に連絡して、そのまま大地を病院から家に連れて帰った。自殺ということもあり、密葬にすることにした。綺麗に整えられた大地の遺体を前に、両親は、やっと悲しみの感情が沸き起こってくるのを感じていた。なぜ死ぬ必要があったのか、全く想像がつかなかった。

運良く、焼き場が混んでいなかったので、次の日に火葬された。あっという間に、壺の中に焼骨として入れられた。両手で持てるサイズになって、生まれた時と同じだなと感じた。同時に大地が元気に育っていった喜びを思い出し、なんとも言えない悲しみが両親を襲った。

家に帰って、仏壇がないので、TVボードに骨壷と遺影を置いた。警察の捜査でも遺書はなかった。見る限り、あの朝は特に変わった様子はなかった。小言も言わなかった。しかし、大地の心の中は、自殺する位の悲惨な状況だったというのが事実なのである。

大地が死んで、初めて命の尊さが身にしみた。ただ、生きてさえいてくれれば、何でも良かったのだ。なぜ、そんな簡単なことが分からなかったのか。これから、この悲しみを背負って生きていくというのが、どれ程の苦しみか、両親には、恐ろしくて考えることさえできなかった。

残された美久の為にも、しっかりしなければならないと、頭では良く分かっているのだが、気がつけば、大地のことばかり考えている。一時は、厄介者のように考えていたことが嘘のようだ。できの悪い子ほど可愛いということなのだろうか?

美久には、両親が放心状態で悲しみにくれていることが理解できなかった。できの悪い弟がいなくなっても、優秀な私がいるだけで十分じゃないか。私の頑張りを自慢に思ってくれていた。それで両親は満足できないのだろうか?美久は苛立ちを隠すことができなかった。

しかし、美久の優秀さも、もはや両親を喜ばすことは不可能だった。というより、大地のいない喪失感を埋めることは、何をもってしてもできなかった。大地の自殺以来、美久は、自分が透明人間になったのではと、真剣に考えるほど、両親の注意を引くことはできなかった。

両親がいつも想像するのは、もし、過去に戻ることができたら、思いっきり抱きしめて、何も心配する必要はないと言ってあげることと、自殺に追い込んだのは、間違いなく自分達だと、謝ることだ。常に彼らの心は、自責の念に苛まれていた。

美久はうんざりしていた。そして、今回の悲劇の原因が分かった。あの3人は似た者同士だ。私という養うべき子供がいるのに、いつまでも、くよくよとしている弱さは、まさに、大地の弱さそのものだった。彼女は早く自立して、こんな家は出ようと考えていた。

10年後の1995年、美久は取引先の男性と、1年の交際の末、結婚した。いつでも、美久のことを、第1に行動してくれる優しい男性だ。半年後には子供も生まれる。まさに幸せの絶頂だ。もちろん、弟が自殺したことなども、包み隠さず夫に打ち明けている。

美久の両親とは、疎遠になっていた。結婚の挨拶や式は滞りなく終わったが、心から打ち解けることは、今後もないだろうと諦めている。大地の死から、家族の絆はバラバラになったのだ。もしくは、そんなものは元からなかったのかもしれない。

美久に、蓮という名の子供が生まれた。大地にそっくりな男の子だった。仕方がない。そっくりなのは、遺伝子のなせる技だ。美久は、あの3人のような弱い人間にだけは育てないと、心に誓った。子供はすくすく育ち、大地の自殺した年令に達した。

美久は、夫とも相談して、子供の精神面には人1倍気を付けていた。学校の先生と密に連絡をとり、高い費用を払って、有名なカウンセラーに、月1回面談を受けていた。その甲斐もあって、子供に自殺の心配など微塵も感じられなかった。

美久の両親は、75歳になっていたが、いたって健康だ。しかし、美久の子供の蓮が大地と同じ年齢になったことを心配していた。そして頻繁に美久の家に来る様になっていた。美久は、迷惑だったが、この1年程のことと割り切って我慢していた。

今まで、何度夢に見たことか、あの時の大地と生写しの孫が目の前にいる。大地ではないと分かっていながらも、つい涙が溢れそうになる。逢うたびに、何度も悩み事がないか聞いて確かめるが、蓮の答えはいつも同じだ。どうやら取り越し苦労だったようだ。

2010年12月10日、美久は首を吊っている蓮を発見した。大地と同じ年齢の14歳だった。あれだけ気をつけて育てたのに、弱い大地と同じ道を歩むなんて、美久の目の前は真っ暗になり、絶望しかなかった。そして初めて両親の気持ちを理解した。

大地の自殺と同じ12月10日。結局、呪われた家系ということなのだろうか?いや。美久は、まやかしの迷信は、信じるつもりはない。しかし、こんな偶然は考えられない。美久は、原因を徹底的に調べることにした。弱い両親のようにはなりたくなかった。

まず、両親の家で1ヶ月ほど滞在して話を聞くことにした。だが、両親は、老齢と孫の自殺のショックが重なり、放心状態となり、とても話せる状態ではない。仕方がないので家にある古いアルバムなどを見て、何か手がかりになるものを探そうとした。

美久は、不思議なものを発見した。白黒の古い写真に、大地と蓮にそっくりな子供が写っていたのだ。早速、両親に確認したが、何も解らないということだった。写真の古さ、周りの景色からして、両親の祖父に当たる世代の子供時代1870年あたりといったところか。

親戚をしらみつぶしにあたり、何か情報を聞き出そうとしたが、亡くなっている人も多く、何一つ情報を聞き出すことはできなかった。美久の夫は、仕事柄、顔が広いので、何か分かりそうな人を、探してもらうことにした。

美久の夫、直樹は、広告代理店のディレクターをしており、各方面にコネクションがあるが、さすがに、130年前の一般人の写真となると、八方塞がりだった。仕方なく、美久の嫌いな、スピリチュアル系の人物を当たることにした。

同じ血筋を持つ親族で、似ている人が同じ年齢で、若くして亡くなるという事例があるかということだ。数人に聞いたところ、やはり、呪いということでその人物の念の強さによって、何世代も続く可能性があるとのことだ。到底、美久に報告できる内容ではないのは明らかだ。

次におこなったのが、科学的なアプローチだ。数名の遺伝子科学者に聞いた。自殺傾向は遺伝するので、同じ年齢と日付というのは偶然としても、十分にありえる話だとのことだった。案外、地味な回答だが、十分、理論的には納得できるものでもある。

よくドキメンタリーで、生き別れになった一覧双生児が、同じような人生を歩んでいる例があるが、結婚相手や住居、仕事の選択なども遺伝子が大きく関わっている。妻の美久に説明したが、拍子抜けしたようであったが、最終的にはしぶしぶ納得したようだ。

蓮の自殺から、10年が経った。夫婦で話し合って子供は作らないと決めていたが、やはり子供は欲しいと思い直した。年齢的な問題もあり、里親の登録をした。自殺した蓮と似ている背格好と、年齢を希望していたのだが、孤児院から連絡が入った。

夫婦で孤児院に行った。紹介された子供は、蓮に生き写しだった。年齢は自殺の年齢より1年若い13歳。嫌な予感が沸き起こり、どうしようか迷ったが、どうしようもない懐かしさと、愛おしさで、拒絶することはできなかった。名前を水樹と名付けた。

それから夫婦の話題は、1年先をどう乗り切るかということに絞られた。出た結論は、前後一週間は、自由を奪うしかないということだ。手足をしばって、口枷をし、点滴をする。人権に関わることだが、命には替えることはできない。極秘で医療チームが組織された。

しかし、2021年12月10日、美久と直樹と専門医が見守る中、水樹は息を引き取った。原因は特定できず、心不全とされた。美久は半狂乱になり、精神病院に入院させられた。夫の直樹とも意思の疎通ができない上、結婚の記憶も失っていた。

美久の両親は、86歳になっているがまだ元気で自分達だけでどこへでも行けるので、週に3回美久の病院へ面会に行っている。両親は大地の死を受け止められず、美久への愛情が途切れたことを後悔しており、面会はせめてもの償いだと思っている。

このまま、3人の子供の死は、謎に包まれたまま忘れ去られていくのであろうか?今、解決することのできる人物は、美久の夫の直樹だけであろう。彼は、美久の正気を奪った相手を突き止めて、償わせてやると密かに考えていた。

そもそも、事の始まりは大地の自殺だが、美久の実家で発見された、古い白黒写真の大地と蓮と水樹に似た子供がキーパーソンになるのではと直樹は考えた。写真の風景をじっくり調べ上げた結果、滋賀県の山奥にある旧制中学校であることが分かった。

直樹は、現地へ向かった。今は、限界集落になっており、廃屋が数件あるのみだ。しかし、彼は、この土地に何か特別な、怨念のようなものを感じずにはいられなかった。廃屋のうちの一軒から、その異様な空気が出ているのが感じられた。

直樹が家に入って、詮索している時、急にめまいがして気を失ってしまった。直樹が目を覚ますと、活気のある、家庭の一場面が繰り広げられている。彼らに直樹の姿は見えないようだった。

外に出ると、古き良き日本の原風景そのものだ。年齢が様々な10人程の子供が、元気に走り抜けていった。その中の1人に蓮にそっくりな、あの写真の子供がいた。直樹は、はやる気持ちを抑えて、子供たちの後をついていった。

大地に似た子供は、年齢も高くガキ大将のようだった。大きな木のある広場で、「だるまさんが転んだ」が始まった。直樹も子供の頃は遊んだが、これぞ、オリジナルといった、本格的なものだ。少しでも動いた者は、大地に似た子供から容赦ない暴力が加えられた。

昔の日本人の体力は、たいしたものだ。暴力も激しいが、加えられる方も我慢強い。大地に似た子供は、すべての子供から恐れられているようだ。しかし、直樹には、これが怨念の原因になるようなものだとは、とても思えなかった。

その時、また、めまいを感じ直樹は意識を失った。気が付いた時には、あの廃屋で倒れていた。あの時、感じた怨念はもうなくなっていた。それにしても、直樹は今までに、あんなにリアルな夢を見たことがなかった。

それから、集落を歩いていると、「だるまさんが転んだ」の広場を見つけた。あの夢は、何者かが直樹に何かを伝えようよしているのだろうか。この場所に何か秘密があるに違いない。彼は、地元の土建業者に、この広場を掘り起こすように依頼した。

しかし、作業員5人のうち、2人が心不全で亡くなってしまった。他の3人も、体調不良で働けなくなった。この噂が広がり、地元の業者では、仕事の依頼ができなくなった。直樹は諦めて、自分1人で、時間を掛けてでも、この土地を調査することにした。

作業にかかろうという日、美久の両親が亡くなったと親類から連絡が入った。なぜが2人同時に、自宅で老衰により亡くなったそうだ。直樹は美久の外出許可を病院から貰い、葬儀場へ向かった。喪主は美久がこんな状態なので、美久のおじさんが努めた。

通夜の席での、親戚の間での話題は、大地と蓮、養子の水樹のことがほとんどだった。彼ら3人の子供の死の話は、親類の間でも知れ渡っていたのだ。直樹は、滋賀県の山奥にある、旧制中学校のことを知らないか、聞いてみることにした。

美久のおじさんによると、彼の母方の祖父が、滋賀県の山奥の出身だと記憶していた。1870年の滋賀県の写真に写る祖先の子供にそっくりな、1985年の大地と、2010年の蓮、2021年の水樹、3人が14歳で亡くなっている不思議をみんなで話し合った。

美久は正気を失っている為、両親の死も、よく理解できないようだ。しかし、滋賀県の山奥で見た不思議な夢の話になると、興味を持って問いかけてきた。直樹は、病院の外出許可を延長し、美久を滋賀県に連れて行くことにした。

少し不安だったが、美久をあの広場に連れて行った。すると、美久が突然走り出し、地面の1箇所を示して、掘り起こすように言ってきた。直樹が、現地に置いておいたシャベルで、1メートル程、掘ってみると、見たことのないような黒光りする鉄の塊が出てきた。

直樹のコネクションで、物質の鑑定を施設に依頼した。結果は、かなり珍しい隕石で、相当な量の放射能が出ているとのことだ。体調の悪い人であれば、長時間近くにいるだけで体の調子を崩しても不思議はないそうだ。

電話で美久のおじさんに、隕石のことで、何か知っていることがないか聞いてみた。すると、忘れていた記憶が呼び起こされたらしい。おじさんの幼年期に、おじさんのおばあさんから聞かされた話で、おばあさんの幼年期、空から光が降ってきたというのだ。

それから、村人の体調が悪くなり、村の様子も変わったという。村人同士の喧嘩が絶えなくなり、夜中に一家が惨殺される事件が起こったというのだ。おじさんは、ずっと、おばあさんが怖がらせようと作った作り話だと思っていたそうだ。

直樹は、核心に近づいてきている直感があった。美久とあの場所と蓮に似ている4人の子供には、何か強い繋がりがあるように感じた。美久を、もう一度、あの場所へ連れて行くことにした。すこし心配だったが、今回はあの廃屋に連れて行くことにした。

美久は、まるで自分の家のように、さっさと上がり込み、床の板を剥がし壺を出してきた。直樹が壺の中を確認すると、黒光りする隕石が入っていた。隕石はもともと2つあったということだろうか。車の中に積んであった隕石と2つ並べてみた。

すると、遠くの方で、カミナリのように、何かが光ったような気がした。直樹と美久が光った方向をしばらく見ていると、中学生くらいの子供が歩いてくる。それは、紛れもなく、蓮だった。無表情で、まっすぐこちらへ歩いてくる。美久は、思わず走っていき、抱きしめた。

蓮は、素っ裸だった。言葉もしゃべれないようだ。すぐにタオルでくるんで帰宅し、水樹の服を着せた。そもそも、蓮か、大地か、水樹なのかも、分からないのだが、美久は蓮だと、直観で確信しているようだ。そして、直樹が夫である事実も思い出したようだ。

想像を絶する出来事で、見逃していたのだが、自宅にあった蓮の子供部屋が、そのまま残っていたことに気がついた。役所に行って戸籍謄本をとると、蓮が生きていることになっていた。養子の水樹の名前は、どこにもなかった。蓮の年齢は14歳を越えて15歳になっている。

彼らは、隕石の光によって、違う次元の世界に来たのだろうか。しかし、美久はそのことも理解できない。蓮が自殺したことも、水樹を養子にしたことも忘れている。直樹だけが、パラレルワールドに迷い込んだのだろうか。確かめる術はなかった。

30年後、白髪の目立つ年頃になった蓮は、母親の葬儀で挨拶をしている。
「母の口癖は、ただ生きているだけでいい、でした。私が、どんな悪さをしても、笑って許してくれました。5年前に亡くなった父が、代わりに怒ってくれるのですが、いつも仲の良い2人が、その時だけ喧嘩するので、困った記憶が思い出されます。」

蓮は、遺言を手にしていた。6年前に、父親から、自分と母が2人とも亡くなった時までは決して読まないようにと、念を押されていたものだ。あまりにも、真剣に言うので、よほど、大切なことが書かれているのだろうと思っていた。

遺言の封筒には、白黒写真と隕石が2個、原稿用紙には3人の自殺、父親が違う世界から来たかもしれない過去まで、すべてが書かれていた。彼には13歳の聡太という、自分にそっくりな1人息子がいる。14歳の誕生日12月10日まで、残された時間は5ヶ月しかない。

なぜ、両親は、今まで何も言ってくれなかったのか?しばらく考えて、蓮には分かった。前もって分かっていた所で、人間の力ではどうすることもできないのだ。後は、あの隕石を持って、成り行きに任せるしかない。

蓮は、妻の明美と聡太に遺言を見せた。誰にも、誰がどこへ消えるのか何が起こるのか、予想はできない。ただ、覚悟を決めて、その瞬間に臨むしかない。彼らは、仲の良い友人達と連絡を取り身辺整理をしながら、最後の貴重な5ヶ月を過ごした。

2041年12月10日、この5ヶ月で覚悟は決まっていた。晴れ晴れした気分だ。何が起ころうと運命に委ねるしかない。今まで、これほど家族が団結したことはなかった。一体何時に、どんな変化があるか分からないが、家族揃って、ゆったりとリビングで過ごした。

突然、電話がなり、蓮が出た。
「いつも、お世話になっております。2年3組の杉田大地の父親です。少し熱があるようなので、今日1日休ませますので、よろしくお願いいたします。」

蓮は反射的に返答していた。
「それは、困ります。大地君は、休みがちですし、勉強が少し遅れているようです。少し、無理をしてでも、必ず、学校に来るようにしてください。」

「分かりました。」といって、電話が切れた。

この電話は自殺した蓮のおじさん、大地の父親が、75年前の大地が自殺をした日、学校へ電話したものだったのだろうか。間違い電話にしても、杉田大地という名前の一致は偶然でもありえないのではないだろうか?

その後、聡太は無事にその日を過ごした。170年前の隕石によって歪みができ、大地の自殺によって始まった因果を、大地の甥の蓮が、彼の父親の努力と隕石の力で自殺の運命を免れ、56年の時を超えた電話によって因果を断ち切った、ということなのだろうか。

1年後、蓮は、あの2つの隕石を、滋賀県の大きな木の広場と、廃屋があったであろう場所に、それぞれ埋め直した。また、蓮の子孫が困った時や、時空の歪んだ時、たすけてくれるかもしれないという願いを込めて。

その時、昼間にもかかわらず雷鳴が轟いた。永い因果の終結を知らせるしるしだったのか、新しい呪いの幕開けを告げるものだったのか、その時点では、まだ知る由もなかった。
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