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魔獣戦争
44話 診断と手術
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「 一番の問題点は、鼻が曲がって治ってしまうことです。受傷してから1週間以上たってしまうと骨がくっつき始めて、整復が難しくなってしまいます。手術が必要で、全身麻酔下となると二泊三日の入院が必要です。具体的には、鼻の中に器具を挿入してずれを整復します」
医師は診断をもとに、レオに問題点や手術の方法など説明を話した。一通りの説明を終えた後、彼は間を置いて、治療の詳細がレオの頭にしみこむのを待った。
「冒険者をやっているんですけど、手術後は動いたらダメですか?」
「なるべく、安静にしてて下さい。鼻に外傷を受けないようにしないと、また折れてしまいます。三ヶ月ぐらいは包帯をつけますね」
「あ……そうなんですか」
このまま二週間経てば、自分は冒険者カード剥奪になってしまわないか心配になった。重症の怪我を負った場合、ギルドに休止の申請書を出すことで長期の休みを得られるが、レオはどちらかというと整形。
休むには、許可をもらえない可能性が高い。
でも、手術か……。心配というか、怖いというか、異世界は医学的にも前世より劣っているので、安心はできなかった。失敗したら、なんて考えてしまう。
麻酔で昏睡するのが、死の予行演習のような気がした。
「明日から手術を始めますが、このまま入院しますか?」
「はい。先生、よろしくお願いします」
そうして、レオの手術が決まった。命にはそこまで関わらないと思うが、やっぱり心配になってくる。アメリアも心配性だから、妄想に近い恐れを抱いていた。
先生の説明の横から「嘘かもよ。手術で眠っている間に臓器取られるかも。レオが死んじゃやだよう」と悪魔のように連呼してくる。悪魔というのは言い過ぎかもしれないが、何度も疑いの囁きをしてくると、こっちもそうかもって思っちゃうのが少し嫌だ。
まるで、魔の囁きなんて、アメリアには言えんな。ハハハ……。
看護師に病室に案内され、ひとまずここで一晩を過ごし、明日手術を行う。魔獣戦争で疲れているし、訓練は休むことになるから、今日ぐらいはゆっくり体を落ち着かせよう。
冒険者になって、十分に休める日なんてそうそうないからなあ。
「ここですね」
「ありがとうございます」
病室に入ると、中は広めの個室だった。飾りけも何もない板張りの病室に、四つほどのベッドが用意されていると思いきや、部屋の中はトイレもお風呂もついていて、堅苦しいベッドがある以外は、ワンルームマンションのようだ。
病室の中央にある、乾燥したシーツでたっぷりと包まれたベッド。それは大きな白い動物がうずくまったように重そうだった。
ベッドの近くには、小さい窓があってちょうど月が見える。
ただ病院が古いだけで、建物としては上等な方だ。とりあえず、寮から急いで持ってきた服装に着替えて、寝る準備をした。
今日は訓練もあって疲れたな。寝るとするか。
◇◆◇◆◇
窓から差し込んだ朝日が、レオの顔に被って起こした。とろんと眠気の残った声で、「おはよう」とずっと見つめてくるアメリアに言った。霊は寝ないとはいえ、起きた矢先に目が近くで会うと、少しばかり驚いてしまう。
ボサボサの髪を治してから、レオは時計の針を見た。手術が始まるのは十時頃。もうそろそろだなと思いながら、なんだか心がそわそわしてくる。
アメリアも何度も時計を見て、廊下を行ったり来たりしていた。医師に関しては顔は怖いけども、話した感じそこまで悪い人じゃない。アメリアもいるし、大丈夫だろうと思った。
すると、コンコンとノックの音が聞こえる。ドアが開いて、医師と二人の看護師が入ってきた。片手に書類を持ち、ニコッと笑って見せると体調を尋ねてくる。
「元気です。ベッドも気持ちよく、すぐに眠りに入れました」
「それは良かった。これから手術を始めますので、手術室に移動しましょう」
手術室は思っていたよりもずっと素っ気ない小部屋で、壁も天井も床も機材も全部セメント色だ。もちろん、機械類なんてないので、医師の技術そのもので受けることになる。
大量出血とか……ああ、もう考えちゃダメだ。
手術台にて仰向けになって体を寝かした。看護師が失礼しますと言った後、酸素のマスクを顔にあてられた。そして、点滴から麻酔薬を注射器で入れられ、その時に少しじんじんした。
ちょっと痛いなあ……。
すると、画面がぐにゃあっと歪んで見えた。照らされるライトが、視界をぼわぼわさせる。眠気と理解する前に、レオはプツリと意識を失った。
「……さん」
「レ……さん」
「レオさん!」
繰り返し自分の名前を呼ばれ、ハッとして意識を戻した。目を開けたら、口に入っていた管は抜かれている。目の前には看護師がいて、もう手術台には乗っていない。
「え、もう終わったんですか⁉︎」
「はい。無事に終わりました」
全身麻酔っていつ意識なくなるんだろうって思っていたら、その間にいつの間にか終わっているなんて、本当にすごい。自分の考えが杞憂だったと、無事に済んで良かったとホッとした。
頭と鼻と上の歯が痛い。ギブスが付いてるので、常に目元がウズウズして少し気になった。でも、これでくの字に曲がった鼻は治るんだと嬉しかった。
異世界での手術は正直難しいと思っていたし、治癒魔法を使える人は何万人に一人というくらい少ない。最初は諦めていたが、やっていて良かったと思えた。
「本当にありがとうございました」
医師は診断をもとに、レオに問題点や手術の方法など説明を話した。一通りの説明を終えた後、彼は間を置いて、治療の詳細がレオの頭にしみこむのを待った。
「冒険者をやっているんですけど、手術後は動いたらダメですか?」
「なるべく、安静にしてて下さい。鼻に外傷を受けないようにしないと、また折れてしまいます。三ヶ月ぐらいは包帯をつけますね」
「あ……そうなんですか」
このまま二週間経てば、自分は冒険者カード剥奪になってしまわないか心配になった。重症の怪我を負った場合、ギルドに休止の申請書を出すことで長期の休みを得られるが、レオはどちらかというと整形。
休むには、許可をもらえない可能性が高い。
でも、手術か……。心配というか、怖いというか、異世界は医学的にも前世より劣っているので、安心はできなかった。失敗したら、なんて考えてしまう。
麻酔で昏睡するのが、死の予行演習のような気がした。
「明日から手術を始めますが、このまま入院しますか?」
「はい。先生、よろしくお願いします」
そうして、レオの手術が決まった。命にはそこまで関わらないと思うが、やっぱり心配になってくる。アメリアも心配性だから、妄想に近い恐れを抱いていた。
先生の説明の横から「嘘かもよ。手術で眠っている間に臓器取られるかも。レオが死んじゃやだよう」と悪魔のように連呼してくる。悪魔というのは言い過ぎかもしれないが、何度も疑いの囁きをしてくると、こっちもそうかもって思っちゃうのが少し嫌だ。
まるで、魔の囁きなんて、アメリアには言えんな。ハハハ……。
看護師に病室に案内され、ひとまずここで一晩を過ごし、明日手術を行う。魔獣戦争で疲れているし、訓練は休むことになるから、今日ぐらいはゆっくり体を落ち着かせよう。
冒険者になって、十分に休める日なんてそうそうないからなあ。
「ここですね」
「ありがとうございます」
病室に入ると、中は広めの個室だった。飾りけも何もない板張りの病室に、四つほどのベッドが用意されていると思いきや、部屋の中はトイレもお風呂もついていて、堅苦しいベッドがある以外は、ワンルームマンションのようだ。
病室の中央にある、乾燥したシーツでたっぷりと包まれたベッド。それは大きな白い動物がうずくまったように重そうだった。
ベッドの近くには、小さい窓があってちょうど月が見える。
ただ病院が古いだけで、建物としては上等な方だ。とりあえず、寮から急いで持ってきた服装に着替えて、寝る準備をした。
今日は訓練もあって疲れたな。寝るとするか。
◇◆◇◆◇
窓から差し込んだ朝日が、レオの顔に被って起こした。とろんと眠気の残った声で、「おはよう」とずっと見つめてくるアメリアに言った。霊は寝ないとはいえ、起きた矢先に目が近くで会うと、少しばかり驚いてしまう。
ボサボサの髪を治してから、レオは時計の針を見た。手術が始まるのは十時頃。もうそろそろだなと思いながら、なんだか心がそわそわしてくる。
アメリアも何度も時計を見て、廊下を行ったり来たりしていた。医師に関しては顔は怖いけども、話した感じそこまで悪い人じゃない。アメリアもいるし、大丈夫だろうと思った。
すると、コンコンとノックの音が聞こえる。ドアが開いて、医師と二人の看護師が入ってきた。片手に書類を持ち、ニコッと笑って見せると体調を尋ねてくる。
「元気です。ベッドも気持ちよく、すぐに眠りに入れました」
「それは良かった。これから手術を始めますので、手術室に移動しましょう」
手術室は思っていたよりもずっと素っ気ない小部屋で、壁も天井も床も機材も全部セメント色だ。もちろん、機械類なんてないので、医師の技術そのもので受けることになる。
大量出血とか……ああ、もう考えちゃダメだ。
手術台にて仰向けになって体を寝かした。看護師が失礼しますと言った後、酸素のマスクを顔にあてられた。そして、点滴から麻酔薬を注射器で入れられ、その時に少しじんじんした。
ちょっと痛いなあ……。
すると、画面がぐにゃあっと歪んで見えた。照らされるライトが、視界をぼわぼわさせる。眠気と理解する前に、レオはプツリと意識を失った。
「……さん」
「レ……さん」
「レオさん!」
繰り返し自分の名前を呼ばれ、ハッとして意識を戻した。目を開けたら、口に入っていた管は抜かれている。目の前には看護師がいて、もう手術台には乗っていない。
「え、もう終わったんですか⁉︎」
「はい。無事に終わりました」
全身麻酔っていつ意識なくなるんだろうって思っていたら、その間にいつの間にか終わっているなんて、本当にすごい。自分の考えが杞憂だったと、無事に済んで良かったとホッとした。
頭と鼻と上の歯が痛い。ギブスが付いてるので、常に目元がウズウズして少し気になった。でも、これでくの字に曲がった鼻は治るんだと嬉しかった。
異世界での手術は正直難しいと思っていたし、治癒魔法を使える人は何万人に一人というくらい少ない。最初は諦めていたが、やっていて良かったと思えた。
「本当にありがとうございました」
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