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23話 ウルフ

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 レオがギルドに来てニ週間が経ち、訓練場に行くことが日課になってしまった。
 鍛えるには施設が整っているし、近くで頑張っている人を見ると自分もやる気が上がってくるからだ。とくに腰まで水が深くなっている所で、剣の練習をしたのはやりがいが感じれた。
 水中では動きが鈍くなってしまうため、それも考慮した設備があったのだ。波が起こった時は押されて姿勢が崩れたり、動きにくい分どうしたら早く動けるかを考えたり、充実できた練習内容だった。
 また、水からあがったときは、足が軽すぎて驚いた。そして、陸で動くスピードも速くなった。

 そう言う面を何度か感じると、ついつい訓練場に来てしまう。本当は、依頼もやらないといけないのだが……。

 だから、今日はウルフの討伐依頼をしようと思った。受付人のペルさんにも勧められ、ウルフの強さもAランクだったので、今までの成果を実践で確認したかったからだ。
 それに、残り一日で、依頼をしていない日が二週間になり、冒険者カードが剥奪になってしまう。そしたら、寮にも出ないといけない。

 ==========
 討伐レベル:A
 討伐対象:ウルフ一体
 依頼主:ユウリ・ラジカル(農民)
 報酬:銀貨七枚

 詳しい説明:畑の近くの森に住んでいるウルフが、畑の野菜や動物を盗んで損害が大きいです。気性が荒く、追い出したくても凶暴でできません。
 どうか冒険者様のお力で助けてほしいです。
 ==========

 書かれた地図は、ギルドからとても近かった。その森はレオが三年かかって出た森で、そこの近くで農業をしている。森に住むウルフは、一体だけのようで囲まれて攻撃がされる心配はなさそうだ。

「ウルフか、レオは何度か倒して食べてたよね」

「あー、うん。でも、子供じゃなかった?
 大きくなったウルフに会わずにすんだ記憶がある」

「ウルフの子供見た瞬間、近くに親がいる!って猛ダッシュで逃げてたよね。そのくせに、子供は抱えて食べようとしてたから……アハハハハ、あれは面白かった。イヒヒ」

 アメリアは森にいた頃のことを思い出して、腹を抱えて笑っていた。そんなに面白いのか分からないが、笑われると恥ずかしくなってくる。

 数分で依頼書に書かれた森に着いた。レオが森から抜けられたきっかけの川と少し離れたところで、そこにウルフは住んでいる。地図の所は、周りと比べて比較的木が少ない。

 そのまま示されている方向に、草をかき分けて進んだ。カサカサと時々生き物のいる音がし、ウルフじゃないかとすぐに反応してしまう。今回は、ウルフ一体だけなので、簡単に終わればいいのだが、そんな都合よくいかないだろうな。
 種類については、詳しく書かれていなかった。だから、弱点やどういう魔法を使うのか、性別、大きさが分からないのが不安だ。本来なら、きちんとした下調べに状況を把握し、計画を立てて、考えられる失敗の対応まで対策するのが理想的だが、常に完璧も難しい。仕方ないと思いつつも、だからこそ用心しようと思った。

「見つけたよ。レオ、こっち着て!」
 アメリアが宙を飛んで、上から探してくれた。手を上下に振って、来るように促している。レオはそれに反応して、なるべく音をたてないように走った。木の陰に隠れながら、ばれてしまわないように細心の注意をはらった。

「ほら、あっち」
 アメリアが示す方向にウルフはいた。
 口にはラベットを加え、息が荒れている。おそらく、狩りを終えたところなのだろう。レオは、そのままウルフの向かう先を尾行しながら、様子見をした。魔獣を加えたままなので、その場で食べないということは、帰る場所がある。もしかすると、一匹だけじゃないと思った。

 黒味のかかった光沢のある毛皮に、鋭い刃のような形の尻尾、ギラギラと光る黄色い目、一目で闇魔法を使う種類だと分かった。
 口から黒い炎の玉を出す種類で、その炎には毒性があり、触れてしまうだけで皮膚が壊死してしまう。そして、焼け残りの後の煙や灰を少し吸うだけで、肺の機能は即停止するのだ。
 ちなみに、黒い炎の玉にぶつかると、半径二メートル以内で爆発する。

 なんとも恐ろしい必殺技だが、ウルフがこれを使うことは滅多にない。命の危険を感じた時くらいで、魔力の消費も激しく、口から炎を出すのにはニ秒程のロスがかかるからだ。

 そのまま尾行を続けると、ウルフはあるところで止まった。そこは、近くの川と繋がっている小さな滝だ。

 レオは、目を離さず見つめると、自分の腰からゆっくりと剣を抜いた。

「キャンキャン!」
 子犬のような鳴き声が聞こえた。その方向を見ると、ウルフの赤ちゃんがいた。滝の近くで穴が掘られた所におり、親が来たのに反応したようだ。

 メスかオスか判断がつかないが、子供がいるということは、赤子のストレスや心配でより凶暴化しているはずだ。

 レオは、そこら辺にある手のひらサイズの石を持った。
 これ以上観察する必要はない。知りたいことは整理できたし、最悪成人が二匹だ。木に隠れていてもどうしようもないので、レオは剣を構えながら陰から出ると、ウルフに向かった。

 ヴヴーヴォン!

 レオに気づくと、ウルフは全速力で突進してくる。すると、口から黒い炎を吹き出した。そして、それはレオに向かって猛スピードで飛んでくる。

「え! すぐかよっ」

 まさか、最初から必殺技を使うとは思っておらず、彼は動揺したがすぐに持っていた石を投げた。

 ボォフォーン!

 その凄まじい爆発音と威力で空気が揺れた。ウルフの口から出された炎が、見事石に命中し、勢いよく爆発したのだ。
 物にぶつかって半径二メートル以内で爆発するのだから、それに巻き込まれない距離から物をぶつければいい。
 念のために、石を持っていて良かった。

「ふぅ……危ない危ない」

 レオは、もう戦う力も残っていないウルフに近づく。赤ちゃんウルフの前に立って、子供は守ると言わんばかりに、逃げるつもりは一切ないようだ。
 親ウルフにもうなす術はない。おそらく、一人で子育てしてきたのだろう。だから、一匹だけなんだ。

「子供を守るために、焦ったんだろうな」

 レオは、ウルフの首を刎ねた。攻撃される暇もなく、子供に対する躊躇を消した。
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