モニターが殺してくれる

夜乃 凛

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第四章 静寂の中

Escape from an isolated island

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 滝瀬は平川の手によって拘束された。それに驚いている者もいたし、怯えている者もいた。しかし、拘束は完璧で、滝瀬はもう何も出来ないだろうと思われた。

「全部、終わったんですね」

 喫煙スペースに、刀利と加羅が並んでいた。平川はいない。
 銀の灰皿に、加羅は煙草を押し付けた。

「そうだな。悲しい事件だった」

「だとしても、許されません」

「わかっている」

「人間は罪を償えるのでしょうか?」

「わからない。ただ、償おうとする覚悟は必要だ」

 二人共、表情は元気とは言えなかった。暗くなるのも必然か。

「事件は解決したのですけど、私、どうしても気になることがあるんですよね」

「なんだ?」

「ええと、人影ですよ。私達が食事を摂る時、確かに窓の外に、人影が見えたと思うんです。風で何かが吹き飛ばされたと考えるのが自然ですけど……見間違いかなぁ」

 刀利は首を傾げている。加羅は煙草に火をつけようとしている手を止めた。

「まあ、見間違いですね。みんな館の中にいましたし……あの悪天候の中、島に隠れているのは難しかったでしょうから。事件も、滝瀬さんの自白で終わりましたしね。消去法で、滝瀬さんが犯人なのは証明出来ますし」

 加羅は黙ってそれを聞いていた。そして、煙草に火をつけ、離れたところにいる神楽秋野の方を見つめた。

「加羅さん?」

「いや、なんでもない。終わったことだ……どちらが正解にしても……もう殺人は起こらない」


 天候は良くなり、白良島に警察が到着した。事情を平川を始め、加羅達が説明し、平川と滝瀬は警察に連れて行かれることになった。
 平川が警察に連行される時、刀利はずっと平川の方を見ていた。申し訳ない、ごめんなさい、ごめんね、そんな気持ちで。
 滝瀬はすんなりと逮捕を受け入れ、罪を自白した。

 加羅と刀利達は、警察の護衛の元、白良島から脱出することが出来た。船に揺られ、本陸へと帰ったのだ。その中には、神楽秋野の姿もあった。悲痛そうな表情を浮かべていた彼女。
 リッキーも警察に紛れ、秋野達を迎えに来ていた。彼は事件の事を聞いて、心底驚いたような表情をしたのであった。そして、島にいられなくて申し訳ない、という事を言っていた。

 揺れる船の中で、日差しを浴びながら、加羅と刀利はぼんやりとしていた。事件は終わったのだと。
 その時、ふと加羅は船内にいる秋野の方を見た。
 秋野はパソコンを操作していた。驚くべきは、圧倒的に文字をタイプするスピードが速かったことである。
 彼女はどうやら、プログラミングをしているらしい。
 高速でタイピングを続ける秋野。
 その時だけ、秋野の表情が悪魔のように見えて、加羅は背筋がゾッとした。
 リッキーも船に乗っている。彼は秋野に飲み物を運んでいた。
 その笑顔は曇りなく、秋野はリッキーから笑顔で飲み物を受け取った。

 揺れる海の音と、乾燥したように響くパソコンの音。
 事件は終わったのだ。
 『いかなる形であろうとも』。


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