モニターが殺してくれる

夜乃 凛

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第二章 探偵達と四色の扉

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 応接室にある出入口は五つだ。
 一つは加羅達が入ってきた玄関へと向かう白いドア。
 そして、あと四つ。部屋の左側と右側に二つずつ設置された四色のドア。
 黒、緑、赤、青。各色のドア。
 加羅は想像した。四方木は緑色のドアに入っていった。そこが厨房へ向かうドアなのだろう。黒と赤と青の扉の用途がまだわからない。いずれかは寝室に繋がっているだろうと想像した。それとは別に管制室へのドアもあるはず。
 
 館の構造は思ったより複雑ではなさそうだった。奥の赤い絨毯の階段の先にも何かあるかもしれない。いずれにせよこの天候では本陸には戻れない。ここで夕食を楽しむしかない。

 二時間ほどが経過。
 四方木が緑色のドアから手際よく食事を応接室に次々と運んできた。加羅達が入ってきた時は目立たなかった机であったが、そこで食事を楽しむらしい。
 四方木の運んでくる料理はどれも美味しそうだった。みんなお腹が空いている。加羅から見て、まだ素性の知れない人物がいたが、食事の時に大体わかるだろうと予想した。
 窓の外を見る加羅。雨は止みそうにない。

 料理が一通りテーブルに揃った後、全員席に座るように秋野に促された。加羅達がそれに応じ木の机の周りの椅子に座り始めた。机は縦に長い。片側五人と片側四人、合計九人で座れるようだ。コックの姿は見えない。ここには来ないのかもしれない。

 片側に、加羅、刀利、平川、七雄、白井。
 そしてもう片側に、秋野、四方木、そして名前もわからない男が一人と、女が一人。四方木は立ったり座ったりだった。素性の知れない男は、同じく素性の知れない女と仲が良さそうだった。二人で話をして笑っている。そういえば応接室で先程も話をしていたな、と加羅は思った。

「みなさん、本日は集まりいただきありがとうございます。あいにくの天候ですが、ささやかながら夕食を用意いたしました。是非お召し上がりください」

 秋野が皆を見ながら会食の挨拶をした。
 それを聞いた刀利が、ありがとうございますと言いかけた時。

「ん?」

 刀利が目をパチパチさせている。

「どうした?」

 加羅が聞く。

「今、窓の外、何か通ったような……」

 応接室に入って左側の窓を刀利は見ている。
 外は大雨。雷が鳴り風が強い。

「何かが風で吹き飛ばされたんじゃない?」

 平川が冷静に分析した。

「ああ、そうか。そうですよね。疲れているのかも」

 刀利は自分を疑った。

「何事かと思いました。では、皆さん、食事にしましょう。嵐ですが……出会いに乾杯」

 秋野はノンアルコールのビールを手に挨拶をした。客にも酒を飲んでもらうための秋野なりの配慮だろう。四方木も既に席についている。料理はとりあえず運び終えたようだ。
 各々がドリンクを飲み、料理を楽しみ始めた。

「これは美味しい」

 加羅が口にした。鶏肉の香草焼きだ。
 それを聞いた加羅の目の前の秋野は笑顔になった。

「よかった」

「なんだか、申し訳ない」

「いいのです。この悪天候ですから。それに元々料理会は予定の内です。泊まっていかれるとよろしいと思います。全員分入れるくらいの部屋はあります。泊まってもらうつもりでしたから」

「ありがとうございます。寝室はどちらのドアから向かうのですか?」

「私の寝室ですか?」

「いえ、我々のです」

「わかっています」

 秋野は笑った。ジョークだったようだ。

「あそこです。この応接室の青色の扉がお客様用の寝室に繋がっています」

「なるほど。ところで、コックの方はともかく、管制室で作業をされている方は食事に来ないのですか?」

 加羅は気になっていた。館の入り口の黒い扉。扉を操作していたのは四方木ではない。別の人間が管制室で操作をしたはずだ。その人物も食事を取らなければならないはず。

「大所帯が苦手なようなのです」

 秋野が困ったような表情をした。つまり、一人で食べる。そういうことだろう。

「管制室にはどのような設備があるんです?」

 野菜に手を伸ばしていた刀利が好奇心で尋ねた。野菜を大事に!というポスターを加羅の店に勝手に張って怒られたことのある刀利。

「えっと、扉を開閉するための設備と、監視カメラがあります」

「監視カメラ?」

 平川が食事の手を止めた。

「はい、あ、勿論皆さんを盗撮したりはしません。船着き場と館の入り口にカメラを設置しております」

「船着き場……?私たちが通ってきた所ですよね。なんであそこに監視カメラが必要なんですか?」

 刀利は疑問だった。そこに監視カメラをつけるメリットがあまり思いつかない。

「私にもよくわかりません。しかし、両親は船着き場にカメラを設置していました。不法侵入者などいないと思うのですが……カメラは二十四時間回っています。不審な船が来ればすぐわかるようになっています」

「僕たちが入ってくる姿も見えていたわけですか?」

 平川の食事をする手は止まっている。

「いえ、私は見ていません。しかし管制室に行けば記録が見れると思います」

「北央七瀬を知っていますよね?」

 平川は口に出してしまった。夕食の雰囲気が壊れるかもしれない。

「あ、ええ、アイドルをなされていた……この島で亡くなりました」

「自殺」

 加羅が呟く。

「はい……事故当時、私や四方木はずっと一緒におりました。警察の捜査でも事故死だったと聞いています」

「管制室のカメラに不審な人物は映っていませんでしたか?」

 加羅がポイントを尋ねた。答えはだいたいわかっていたが。

「はい。リッキーはご存じですよね?まともに島に用事がある人しか映っていませんでした」

「もう事件から三週間……この島に北央七瀬が生きて隠れているとは考えづらいですね」

 平川は頷いている。

「島に出入りする方法は船以外にないのですか?」

 加羅がさらに気になっていた点を指摘した。

「え?」

 秋野が口を開けた。

「ヘリは来れない……としても、島の周りに船をつけて中に侵入することは出来ませんか?」

 秋野は加羅の質問に少し考えていた。

「船着き場以外の白良島は、崖の集まりですから……船着き場以外で中に入るのは難しいと思います。勿論、崖をひたすらによじ登るとか、無理に侵入しようとすれば、可能かもしれませんが、船を止めておく場所はありません」

「なるほど。ありがとうございます」

 加羅は質問を終えた。今の天候ではろくに崖も登れないだろうな、と想像した。

「人が死ぬのは悲しいことですね」

 黙っていた白井が口を開いた。医療従事者だからだろう。人の命が尽きるのが悲しいのかもしれない。死を悲しいと感じる人間がいる。当然のことだ。

「四方木」

 唐突に秋野が切り出した。

「はい、お嬢様?」

「管制室のアキラさんに食事は持っていきましたか?」

「いえ、まだです。そろそろかと思っていました。至らず、申し訳ありません」

「謝ることは無いのです。アキラさんに食事を持って行ってあげて下さい」

 四方木はかしこまりましたと言って、席を立ち厨房に向かっていった。管制室のアキラという人物の声を七雄は知っている。七雄とアキラには面識がある。
 四方木は、厨房があると思われる緑のドアから再び応接室に入ってきた。
 そして今度は黒いドアに近づき、開けた。そちらが管制室のようだ。四方木の姿が見えなくなった。

「ところで……何故、管制室のような場所が必要なのですか?入り口の黒い扉も管制室で捜査しているようでしたが……」

 加羅が秋野に尋ねた。ここまでのセキュリティが必要だろうか?

「普段は使っていません。入り口も開いたままになっています」

「ではなぜ、今はロックを?」

「そうですね……私は大丈夫ですが、四方木が、北央七瀬さんの事故の事もあり、今日は設備を使った方がいいだろうと」

 事故。不吉なことが起こらないようにという四方木の配慮だろうと加羅は想像した。北央七瀬の飛び降り自殺。あるいは他殺か。それとも足を滑らせて落ちたのか。
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