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第89話 並んで、衣装で
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「お妃様、仕立て部屋からまた呼び出しがかかっています」
その日の朝、私はお付きのシルフから突如としてそう言われた。
「あら、またフィッティングかしら……?」
最近の私は食事にかなり気を遣っている。
太りすぎても痩せすぎてもいけない。
どうやら魔族はなかなか体型が変化しないらしいのだが、まだ人間の部分が大いに残っている私はそうもいかない。
「さあ……?」
シルフは首をかしげた。
「何にせよ、わかりました。向かいます」
私はうなずいて、朝食のベリーをつまんだ。
「ようこそ、お妃様」
ニコニコと笑うエルフの横には、日々の激務にちょっとやつれたユリウスがいた。
仕立て部屋でユリウスと一緒になるのは思えば初めてだった。
「あら、ユリウス」
「やあ」
どこかいたずらっぽくユリウスは笑った。
「今日はお妃様のドレスと陛下の儀礼服の仕上げでございます」
ユリウスの結婚式の衣装は将校さんが着ているようないわゆる軍服にマントだった。
「私達が着て、合わせるということね」
「それもございますが……こちらを」
ユリウスの儀礼服の片袖を取り上げた。
そこの先だけまだ飾りが終わっていない。
「こちらの刺繍をぜひ、お妃様に」
「私に……?」
「……先代陛下が常々悔やんでおられましたのが、番の方と結婚式を挙げられなかったことです」
「……お父さんが」
「その時に聞きましたのが、人間界では結婚式の衣装を新婦が繕う風習があるとか……間違っていますか?」
「合っているわ」
実際には自分のドレスの刺繍をするのが風習だったけれど、私はそれを指摘しなかった。
ここまで心を砕いてくれたエルフに対して、それは無粋であったし、何よりユリウスの衣装に針を通せるのは自分のドレスを繕うよりよっぽど嬉しかった。
「い、いいの? 私がやっても?」
「はい。ぜひに」
エルフが金糸の通った針を手渡してくる。
どこをどう刺せばいいのかは、片方の袖を見ながらエルフの指導を受ける。
針が良いのだろう。堅い布に針はスルリと入っていった。
「……ふー」
私が袖に針を通している間、ユリウスはずっとそれを見守っていた。
「ありがとうございます、お妃様、これにて完成でございます」
「…………う、うまくできてる?」
「ばっちりだ」
ユリウスが即答した。
「それでは着てみましょうか」
私達はあれよあれよという間に、着替えさせられ、化粧までバッチリ施された。
「よくお似合いです」
エルフはニコニコと笑った。
並んで鏡を覗き込む。
黒で統一された私達のウェディング衣装。
「……似合っている、ミラベル」
なんとか絞り出したようにユリウスが言う。
その目には涙が浮かんでいた。
「ユリウス……」
「すまない。感極まった」
「早いわ」
そう笑いながら私はもらい泣きをしていた。シルフが化粧が落ちないように、すばやくハンカチーフで涙を拭いてくれた。
その日の朝、私はお付きのシルフから突如としてそう言われた。
「あら、またフィッティングかしら……?」
最近の私は食事にかなり気を遣っている。
太りすぎても痩せすぎてもいけない。
どうやら魔族はなかなか体型が変化しないらしいのだが、まだ人間の部分が大いに残っている私はそうもいかない。
「さあ……?」
シルフは首をかしげた。
「何にせよ、わかりました。向かいます」
私はうなずいて、朝食のベリーをつまんだ。
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ニコニコと笑うエルフの横には、日々の激務にちょっとやつれたユリウスがいた。
仕立て部屋でユリウスと一緒になるのは思えば初めてだった。
「あら、ユリウス」
「やあ」
どこかいたずらっぽくユリウスは笑った。
「今日はお妃様のドレスと陛下の儀礼服の仕上げでございます」
ユリウスの結婚式の衣装は将校さんが着ているようないわゆる軍服にマントだった。
「私達が着て、合わせるということね」
「それもございますが……こちらを」
ユリウスの儀礼服の片袖を取り上げた。
そこの先だけまだ飾りが終わっていない。
「こちらの刺繍をぜひ、お妃様に」
「私に……?」
「……先代陛下が常々悔やんでおられましたのが、番の方と結婚式を挙げられなかったことです」
「……お父さんが」
「その時に聞きましたのが、人間界では結婚式の衣装を新婦が繕う風習があるとか……間違っていますか?」
「合っているわ」
実際には自分のドレスの刺繍をするのが風習だったけれど、私はそれを指摘しなかった。
ここまで心を砕いてくれたエルフに対して、それは無粋であったし、何よりユリウスの衣装に針を通せるのは自分のドレスを繕うよりよっぽど嬉しかった。
「い、いいの? 私がやっても?」
「はい。ぜひに」
エルフが金糸の通った針を手渡してくる。
どこをどう刺せばいいのかは、片方の袖を見ながらエルフの指導を受ける。
針が良いのだろう。堅い布に針はスルリと入っていった。
「……ふー」
私が袖に針を通している間、ユリウスはずっとそれを見守っていた。
「ありがとうございます、お妃様、これにて完成でございます」
「…………う、うまくできてる?」
「ばっちりだ」
ユリウスが即答した。
「それでは着てみましょうか」
私達はあれよあれよという間に、着替えさせられ、化粧までバッチリ施された。
「よくお似合いです」
エルフはニコニコと笑った。
並んで鏡を覗き込む。
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「……似合っている、ミラベル」
なんとか絞り出したようにユリウスが言う。
その目には涙が浮かんでいた。
「ユリウス……」
「すまない。感極まった」
「早いわ」
そう笑いながら私はもらい泣きをしていた。シルフが化粧が落ちないように、すばやくハンカチーフで涙を拭いてくれた。
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