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第69話 ヴァンパイア族の陰謀

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 数日後、ヴァンパイアが単身で私の部屋を訪ねてきた。

「……珍しいわね」

 私は率直にそう言っていた。

「お邪魔いたします。お妃様におかれましては今日もご機嫌よろしく……」

 ヴァンパイアはやけに雄弁だった。
 怪しいくらいに。

「何のご用? またユリウスが無茶してる?」

 日中のユリウスは執務に励んでいたが、最近は毎晩、夜を共にしていた。
 そのめくるめく甘美な時間を思い出してしまい、私は赤面するのを慌てて止める。

「いえ、そのー……」

 ヴァンパイアは珍しく歯切れが悪かった。

「……ええと、ですね、俺の妹を覚えておいででしょうか?」

「……もちろん」

 忘れようがない。
 あの対処の難しい少女がどうしたというのだろうか。

「カーミラ嬢がどうしたのかしら」

「…………あいつが、その、お妃様を茶会に招きたいと……」

「……………………」

「……………………」

 私達は沈黙した。
 沈痛と言ってもいいくらい重苦しい雰囲気が溢れた。

「……ええと、私の勘違いだったら申し訳ないのだけど、カーミラ嬢は……ユリウスが好きなのよね?」

「はい、あいつの初恋はユリウスで今恋いまこいもユリウスです」

「……私はじゃあ、政略結婚だと思われてるのかもしれないけど、恋仇よね?」

 後から確かめたところによれば、私が先代魔王の娘だということは、魔王城に出入りするすべての魔族が知っていることだった。
 それだけの人数がよくぞ一ヶ月もの間、隠し通したものである。
 それが成し遂げられたのは多分、ユリウスの人望も大きいのだろう。

 人間なのに魔王になった、私の魔王。

「はい……」

 苦しげにヴァンパイアがうなずく。

「……何をする気なのかしら」

 ヴァンパイアの妹に失礼だとは思うが、私はそう言っていた。

「…………わかりません」

「そう……」

 ヴァンパイアにわからないことが私にわかるはずもない。

「……で、ですね。その……カーミラはともかくとして、ヴァンパイア族もまたカーミラとユリウスがくっつくついて権力に近付くことを諦めていません」

「…………なんか大変そうね」

「俺がユリウスの側近になれば諦めてくれるかと思って執事にまで上り詰めたのですが、全然諦めないんです、あいつら……」

 心底、苦々しげにヴァンパイアはそう言った。

「そう、だったの……」

 なんだかヴァンパイアは見えないところで、だいぶ苦労しているようだった。
 見えるところでも、ユリウスの無茶や怪我に付き合ってだいぶ苦労しているので、本当に苦労人だ。

「で、ですね。カーミラの計画がヴァンパイア族全体を巻き込んだ計画になりつつあって……ああ、だからこそ、俺と親しいものがいち早くこの報を知らせてくれたわけですが」

「怪我の功名というやつね……」

「……恐らくカーミラはお妃様に直接、招待状を出しません。ユリウスに直談判に来ます。そうすればユリウスが喜ぶのも織り込み済みです。あいつはお妃様がなんとか魔族になじめるよう心配しているので……」

 一歩違えば、私もここで生まれ育っていたのかもしれないのだ。
 ユリウスがそれを望むのも無理はない。

「……そしてお妃様が断れば、その、ユリウスは気にするし、カーミラは被害者ぶることができるという、嫌な方向に隙がない計画なワケです」

「……クソみたいな状況ね」

 思わず口調が荒れてしまった。
 しかしまあ、人間界では荒れた生活をしていた私だ。
 このくらいの悪態は実はよくあるとまではいかないが、あり得ないわけでもない。
 ユリウスの前では絶対に口にしたくはないが。

「はい、クソです」

 ヴァンパイアは私の言葉を生き生きと繰り返した。
 多分、クソだと言いたくてたまらなかったのだろう。
『お妃様』の手前、我慢していたのが見て取れる。
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